主張 ■ 歴史の反省を踏まえなくてはならない(上)

アジア太平洋侵略戦争「敗戦」79年
「新たな戦前」にしてはならない

『日本の進路』編集部

 間もなく「敗戦79年」の日を迎える。日本の進路を見直す時にしなくてはならない。
 国内で窮地に立つ岸田首相だが、4月に訪米、米国が進める世界的な政治軍事経済の全面にわたる中国包囲網の先頭に立つことを約束し、米国指導層から大歓迎を受けた。その後わが国では、台湾独立を進める新「総統」就任やワシントンNATO首脳会議など対外政治面でも、食料有事立法や国の指令権を明記する地方自治法改正など国内法整備でも、南西諸島軍事強化と大規模演習など軍事面でも、驚くべきテンポで戦争遂行態勢準備が進められている。歴史を知る人びとからは「新たな戦前」との指摘も相次ぐ。
 来年は戦後80年だ。侵略と戦争の歴史に「責任を痛感し、深く反省」(1972年日中共同声明)し、平和・アジアの共生へ、自主外交を実現し国の進路を切り替えるため奮闘しよう。

日本を戦争に誘うシナリオ

 自衛隊は7月1日、創設から70年を迎えた。「矛」と「盾」といわれた日米「同盟」の役割分担、日本が守りに徹する「専守防衛」原則は今日すっかり投げ捨てられた。航空自衛隊トップの幕僚長は「身が引き締まる思いだ。ここまで米国に期待されている、それに応えなくてはいけない」と取材に答えた。また、「従来より高いレベルで日米連携できるまで航空自衛隊の能力は高まっている」と強調したという。
 なぜか「NATOサミット」に岸田首相は3回連続で参加した。その宣言は、中国を名指しして批判攻撃し「インド太平洋地域は米欧の安全保障に影響する」とし、日本や韓国との協力強化を盛り込んだ。フランス人は「米国が欧州を中国の敵に誘導している」と批判した。
 その前日、日本はフィリピンとの間で、中国に対抗する目的で自衛隊とフィリピン軍の共同訓練などを進める「円滑化協定」に署名。今後は「安全保障での準同盟国」の関係となると言われる。7月後半にはドイツ、フランス、スペインの各軍がインド太平洋に空軍機を派遣し、航空自衛隊と共同訓練。表を見ていただきたい。これは海上自衛隊だが、文字通り毎日のように米国はじめ各国と共同軍事訓練を行っている。
 米国は崩壊寸前の「世界支配」を維持するために、唯一優位性を誇る戦略核軍事力を背景にウクライナや中東で戦争を長引かせ、さらにアジアで中国を抑え込むために「日本を戦争に誘い込むシナリオ」を進めている。
 しかし、国会でもほとんど問題にならない。国民には知らされない。

中国念頭に「具体的な想定」

 米インド太平洋軍が6月に実施した大規模実動演習「バリアント・シールド」についてNHKテレビは6月13日、次のような内容を報道した。
 「バリアント・シールド」は、米陸海空軍や海兵隊などが参加する2年に一度の演習で、今回で10回目。これまでは対中国「防衛線」の第2列島線上のグアムを中心に米軍が単独で実施してきたが、初めて日本本土や第1列島線にも範囲を広げ、自衛隊なども参加した。
 中国を念頭により具体的な想定に基づいて行われているとみられる。
 海上自衛隊八戸航空基地(青森県)と航空自衛隊松島基地(宮城県)では、在日米軍基地が攻撃を受けて使えなくなった場合に備えて米戦闘機が展開する訓練などが行われた。また、第1列島線上にある鹿児島県奄美大島では、地上から海上の艦艇を攻撃する陸上自衛隊の地対艦ミサイルの部隊が展開して米軍とともに艦艇に対応する訓練を行った。さらに第2列島線上にある小笠原諸島の硫黄島では、滑走路が攻撃を受けたことを想定して、自衛隊と米軍が共同で復旧する訓練を行った。米原子力空母「ロナルド・レーガン」は、第1列島線と第2列島線の間の太平洋に展開、初日には九州南部の沖合で艦載機の発着艦訓練をメディアに公開した。
 さらに専門家が、「中国を念頭に大規模な有事が起こった場合の即応訓練だ。今回、日本国内では九州から北海道までの広範な地域で行われていて、もし本格的な有事が起こった場合には、日本全体が米国との協力態勢に入っていくことを示している」「有事になった場合、自衛隊の基地は基本的に米軍との共同使用が前提になり、民間の空港や港湾が使用される可能性も極めて高くなる」「(共同使用の場所は)相手の国から見たら攻撃対象になり得る」などとぞっとする内容を話した。
 文字通り驚くほど具体的な戦争計画が進行し、日本全土どこでも戦場となる事態が進行している。

東アジアの諸問題は侵略の傷跡

 こうした自衛隊増強と日米同盟強化は、中国の「力による一方的な現状変更」を抑止するためだと政府もマスコミも煽る。台湾問題、南シナ海問題、それに尖閣問題が取り上げられる。
 これらの問題では歴史を踏まえることが大事だ。
 台湾と東・南シナ海地域において「力による現状変更」を最初に強行したのは、わが国、明治時代以来の日本帝国主義であった。そして79年前、中国などアジア諸国・人民の闘いに敗北した。その歴史を踏まえると「力による現状変更」は、力をつけた中国などが正当な権利を主張し、回復のため行動しているだけだとも言える。日本は、歴史に謙虚になるべきだ。
 まず、台湾問題。
 周知のように1895年、日本は下関条約で台湾を当時の清国から奪って植民地支配した。この「力による現状変更」にこそ、台湾問題の起点がある。
 そして中国がまだ国共内戦中にわが国は敗戦、ポツダム宣言を受諾し台湾を放棄し、逃げ帰った。台湾は中国に返還されることになった。
 ところが中国人民によって大陸から駆逐された蔣介石一味が「中華民国」を名乗り台湾現地人を大弾圧し軍事支配した。新しい「力による現状変更」だった。この蔣介石を「反共」のために米国が利用した。
 米軍直接支配、その後形式的独立を遂げたわが国だが、米国は蔣介石たち中華民国との関係を迫った。当時の、吉田政権は台湾との関係確立を余儀なくされた。
 わが国はようやく1972年、戦争と植民地支配を反省、謝罪し、「台湾は中国の不可分の領土である」との原則を踏まえて中華人民共和国と国交正常化を実現した。
 台湾の統一は中国の歴史的課題である。平和的解決が望ましいが、あくまでも中国の内政問題である。
 ましてやわが国は歴史経過からして責任を痛感することはあっても、あれこれ言う立場にない。ところが今も、甘い汁を吸った植民地支配時代を忘れられないわが国の一部反動派は「台湾」支援を続ける。許されざることだ。
 南シナ海、南沙諸島の領有権問題。
 この問題も基本的に同様である。台湾を植民地支配した日本帝国主義は1939年、南沙諸島を「新南群島」と名付け領有を宣言、植民地台湾の高雄市に編入した。
 日本が敗戦で台湾を放棄した後、中華民国国民政府が1946年、領有を宣言した。この時、どこからも異論は出なかった。
 今日、中国も、台湾も、フィリピンも、さらにベトナム、マレーシア、ブルネイの6カ国・地域が全域または一部について領有を主張している。
 島の領有をめぐる争いは客観的事実だが、それを「中国の力による現状変更」の企てというのは事実に反する。ましてや台湾植民地支配から島々の領有を行った歴史を踏まえるとわが国はあれこれ言う立場にはない。
 尖閣諸島問題。
 これはもう少し複雑である。日本は1895年、尖閣諸島はどの国の領土でもない「無主地」だとして領土に組み入れた。当時は、欧米列強が世界を分割植民地支配し、小さな島々すらも領有を宣言し、強いものが「力で現状変更」する帝国主義の時代だった。いわば早い者勝ちで力による領有が「合法」と見られた時代であった。
 そうした経過のある島であった尖閣諸島の領有問題を、日中国交正常化に際して両国の賢明な指導者たちは、「棚上げ」した。1978年の平和友好条約の時にも、再び棚上げされた。
 それだけでなく2000年発効の日中漁業協定ではこの「棚上げ」精神で経済水域での漁業問題の解決を定めた。双方が、相手国の漁船などの侵入を「拿捕」するのではなく「退域」を求めること、それでも解決しなければ、相手国側が「処分」する形を定めた。「不法侵入」は度々あったが、この協定によって大事にせず対処した。これこそ平和、共存への知恵である。
 それを一方的に覆したのは2010年、菅政権の時である。日本の国内法である漁業法を適用して中国漁船を拿捕し、日中間の対立をわざわざ生み出してしまった。以来、「尖閣」は日中間に刺さったトゲとなっている。
 それでも漁業協定での問題処理精神は現場では今も基本的に続いている。尖閣諸島を管轄する第11管区海上保安本部長は昨23年3月離任前に開いた定例会見で、在任期間中の尖閣諸島周辺の情勢について「現場の肌感覚としてエスカレートしていると感じる現象はなかった」と述べている。これが現実だ。
 尖閣諸島問題がとりわけ日本のアキレス腱だ。米国に弱みを握られている。日本政府は日米会談のたびに、日米安保の尖閣諸島地域への適用を米側に懇願し確認してもらうという哀れぶざまな姿をさらす。米側の思うつぼだ。
 中国を敵視して、米国なしにはやっていけない国に自らを落とし込めている。

歴史は受け継がなくてはならない

 8月15日の敗戦記念日に思い起こすべきだ。少なくとも310万人以上と言われる日本の戦争犠牲死者。アジアでは2000万人とも、3000万人とも、それ以上とも。
 日清戦争以来の日本の朝鮮半島、そして中国大陸、東南アジアへの侵略と植民地支配の歴史を反省し受け継がなくてはならない。
 中国とは国交正常化で侵略戦争の歴史問題を解決したことになっている。その原点を忘れてはならない。
 だが、朝鮮植民地支配の問題は、十分ではなく、少なくとも半島北部についてはまだ手つかずだ。朝鮮民主主義人民共和国との間ではまったく未処理だ。2002年のピョンヤン(平壌)宣言すら実行されず国交正常化もまだである。しかもわが国政府は、北朝鮮を敵視する米国に唯々諾々と従っている。北朝鮮が、わが国を「敵視」するのも当然と言わなくてはならない。
 東アジアの平和確保、わが国の安全と発展のためには、なすべき歴史的債務がまだ多く残されている。
 戦後80年をこのまま迎えるのか。「新たな戦前」の政治を許してはならない。