主張 ■「平和・アジア共生」の安保外交路線へ

新しい時代の「国家ビジョン」が必要だ

『日本の進路』編集部

 日本の外交、安全保障政策はこのままで良いのか。岸田首相は米国連邦議会で4月、「日本はすでに米国と肩を組んで共に立ち上がっている。米国は独りではない」と大見えを切った。これについて外務省は、「同盟とは、必要なら銃を取ってでも、命を懸けてでも守ることである」との公式見解を日本記者クラブ発言で示したと、「毎日新聞」専門編集委員は伝えた(4月20日付)。

 それから1カ月、真剣な厳しい議論は国会では行われていない。政府からも説明はないし、野党も論陣を張らない。マスコミも追及しない。柳澤協二・元安全保障政策担当内閣官房副長官補が言うように、「『米国の発想はわが発想』という一体化は、もはや永田町と霞が関の常識」になっている。
 日本はこれで良いのか。わが国自身の自主的で平和・アジア共生の「国家ビジョン」が求められている。その要は対中国政策であり、「一つの中国」原則の堅持である。

現実世界を直視すべき

 岸田首相は米議会で、「日本は米国と共にある」と述べて満場の拍手に満悦だった。首相は危機に瀕する米国覇権の国際秩序立て直しに「同盟国、同志国と連携し、毅然として(中国に)対処していく」と強調。バイデン大統領は「同盟発足以来、最も重要な刷新だ」と首相を持ち上げた。
 だが、これは時代錯誤というものだ。世界の趨勢はこの十数年、すっかり変わった。米国の一極支配の世界はすでに終わっているからである。
 日本国民も全世界も、戦争に反対し、ウクライナとパレスチナでの即時の停戦を求めている。その力は各国政府をも動かしている。パレスチナの国連加盟決議案は193加盟国中143カ国の賛成で採択された。パレスチナ国連加盟に米国と共に反対してきた日本政府だったが、この決議案には賛成せざるを得なかった。
 昨年2月にはウクライナからのロシア軍の即時撤退決議を141カ国の賛成多数で採択した国連総会だったが、今年は決議案の提出もままならなかった。日米欧とウクライナは代わりに共同の非難声明を発表したが、参加国数は50カ国超にとどまり、全加盟国の4分の1に過ぎなかった。
 世界は、米欧日など大国から長い間侵略・支配・収奪・抑圧されてきた国々、とりわけ中国を先頭にグローバルサウスに重心が移行している。世界経済で見ても、購買力で示すGDPで米日などG7の合計が世界の約30%にまで縮み、他方、G7以外の中国やインドなど上位7カ国の合計は約38%を占める。中国のGDPは米国を25%上回る。これが世界の趨勢の基礎である。
 岸田首相は米国を激励したかのようだが、その日本の一人当たりのGDPは世界の38番目に過ぎない(近隣では台湾13位、香港16位、韓国31位)。身の程知らずとはこのことだろう。
 もはや一握りの大国が支配する世界ではない。日本は米国を支える「大国」などと幻想をもってはならない。

新しい時代が始まっている

 間もなくイタリアでG7サミットがある。岸田首相は昨年5月、G7広島サミットを開催し、「力による現状変更」を許さず「法の支配」に基づく国際秩序の再構築を言い立て、「歴史的なサミット」と自画自賛した。
 だが、1年たって結果はどうか。ウクライナのゼレンスキー大統領を招いて力を入れたウクライナ支援だったが惨憺たる状況だ。ウクライナの国内分裂は激しく政権と軍との亀裂も公然化、ロシアとの戦闘では旗色悪く、欧米支援国は「支援疲れ」で足並みが乱れる。イスラエルに足を取られてバイデン政権はウクライナどころでない。G7がロシアに対抗、ウクライナを支援する状況ではすでにない。
 対中国では、足並みの乱れはもっと著しい。ドイツのショルツ首相は経済界の大規模な団を引き連れ4月訪中、5月にフランスのマクロン大統領は習近平国家主席の訪問を大歓迎、関係強化を確認した(前号の「5月マクロン訪中」の記述は誤りで訂正します)。米国でさえ昨年11月、バイデン大統領と習近平国家主席との首脳会談後、4月にはイエレン財務長官、ブリンケン国務長官が相次いで訪中、協議を重ねた。
 時代は変わった。G7大国による「米国中心の国際秩序」の再構築は不可能である。米国の顔色をうかがえばやっていけた時代はとうに過ぎた。わが国がいくら米国を支えると息巻いてもどうにもかなわぬ新しい時代である。

日中共同声明堅持は
歴史的な責務

 「台湾は独立主権国家」を唱える「台湾新『総統』就任式」が5月20日に行われた。日本からは国会開会中にもかかわらず過去最大規模となる30人以上の与野党国会議員が「祝賀」に訪れた。林官房長官は「台湾はわが国にとって極めて重要なパートナーであり、大切な友人」「日台間の協力と交流のさらなる深化を図っていく」などと祝意を示した。
 米国はアーミテージ元国務副長官などの代表団を送った。ブリンケン国務長官は、新「総統」就任に際し、「台湾海峡の平和と安定を維持していく」と祝う談話を発表した。頼「総統」は就任演説で、「中国は世界の脅威」「台湾独立」を唱え、中国を挑発した。当然にも中国政府は厳しい抗議声明を発した。
 日本でも台湾を「独立主権国家」とするような論調があふれている。例えば、20日朝のNHKはわざわざ「『台湾は自国の一部だ』と主張する中国は……」と報道した。NHKは日中両国間の合意を認めていないかのようだ。
 本来、台湾についての日本の立場は明瞭で一貫していたはずだ。「一つの中国」の原則的態度である。わが国は裏表なく、ここに立ち返るべきだ。昨年11月の日中首脳会談でも、「日中間の4つの基本文書の諸原則と共通認識を堅持」を両首脳は確認した(日本外務省発表)ではないか。
 「4つの基本文書」はいずれも重要だが、中でも一番の基礎は国交正常化時の共同声明である。その核心は、「一つの中国」の原則だ。1972年国交正常化時の日中共同声明では次のように両国は確認した。
 「日本側は、過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する。日本国政府は、この(台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であるとの)中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」(ポツダム宣言第8項の立場とは「台湾など清国から奪った領土を中国に返還」との連合国の表明)。
 ここで日清戦争と台湾略奪に始まる侵略の全歴史に、わが国の責任を自覚し、反省を確認したことを忘れてはならない。戦後についても、わが国自身が米国占領支配下だったとはいえ、中華人民共和国に追われて台湾に逃げ延び「政権」を名乗った一勢力と「日華条約」なるものを結んで中国に敵対した歴史も反省し、総括したはずだ。それを堅持することは末代までのわが国の歴史的な責務である。

日米基軸外交の転換が必要

 しかし同時にこの解決で、「台湾」について曖昧さが残ったことも間違いない。当時、わが国政府は粘り中国周恩来総理は譲歩し、国交正常化が実現した。それでも帰国した田中角栄総理は自民党両院議員総会で土下座しなくてはならなかった。
 1972年当時も日本は形式上独立したとはいえ、日米安保条約によって米国に縛られていた。そこでは台湾については「極東条項」の適用範囲として日米間で確認されていた。すなわち、台湾はわが国政府も認めた米軍の作戦行動範囲だった。その法的関係は今日も変わらない。むしろ対象範囲は「グローバル」になっている。
 だから、「台湾有事は日本有事」なる論理は対米一辺倒、日米安保条約を金科玉条にあがめる麻生太郎に代表されるような売国勢力からすると当然でもあるのだ。「台湾有事」が起こったら、わが国基地からの米軍出動を容認するか、それとも拒否し平和を維持し日米安保を崩壊させるか、いずれかしかない関係にわが国は条約上置かれている。
 米国がたくらむ「台湾有事」に日本が巻き込まれず、東アジア情勢の平和と安定を実現するには、本質上は、自主的な日本の実現、すなわち日米安保条約の破棄が必要なのだ。広範な国民連合はそれを主張し実現をめざしている。
 わが国外交の基軸を米国一辺倒、中国抑止・敵視政策から転換すべきである。「(中国は)わが国と国際社会の深刻な懸念事項。これまでにない最大の戦略的な挑戦」などとの、一昨年12月の安保3文書、なかでも「国家安全保障戦略」での中国を事実上敵とする戦略判断を見直すべきである。国民的議論が急がれる。
 「国会は国権の最高機関」というのであれば、国会は全力を挙げてわが国の直面する国際環境についての正確な認識を共有し、新しい国家戦略を議論すべきだ。平和で安全・発展のしっかりとした国の進路を定めなくてはならない。

「一つの中国」堅持が
平和を守る

 この50年間「台湾有事」は起こらなかった。日中関係は波風はあっても安定し強化されて、日米安保条約はあっても両国の発展を促す最も重要な二国間関係となっていた。これも事実である。
 それを保障したのは、「一つの中国」の原則を日本が堅持し、米国もそれなりに守ったからである。すなわち「台湾の問題」はあくまでも中国の内政問題だという原則である。もちろん何事も、平和的に人びとの自由意思が最大限尊重されるのが望ましいのは間違いない。それでも原則は原則である。米国とそれに呼応する勢力が台湾で独立に具体的に動かない限り、中国が平和的に統一を進めるのは間違いない。
 ところが米国の政策が「中国抑え込み」から敵対に大きく転換し、日本もそれに呼応している。中国の軍事介入を挑発している。
 こうした時、わが国平和勢力の中にさえもある「台湾海峡の平和と安定は地域と世界の平和と安定の重要事」とか、「台湾住民の自由に表明された民意で解決する」とかの論調は、百害あって一利なしである。むしろ米国と日本の一部好戦勢力の危険なたくらみを広げる政治主張であることに無自覚であってはならない。
 原則を堅持するためにも、あるいは原則を踏まえて、日中両国間で政府間でも、民間でも、企業・経済界でも自治体間でも、文化やスポーツなど広範な国民的交流のいっそうの強化、平和友好協力の発展が重要である。戦後の困難な時期に国交正常化を促したのも、その後50年間の波風もあった日中関係を下支えしたのも、活発な民間交流だった。
 5月末にソウルで開かれる「日中韓首脳会談」は絶好の機会である。中国は「東アジア地域の経済一体化を推し進め、地域や世界の平和、安定、繁栄を促進することを望む」姿勢という。こうした方向で3国関係が進むことを期待したい。
 日中関係について「民をもって官を促す。経済を重視し政治を動かす。地方を動かして中央政治を変える」(意訳)と、元駐日中国大使の程永華さんが先日の「九州自治体議員の会」訪中団に語っていた。「尖閣問題」で最悪期にあった安倍政権時代初期の日中関係を好転させた駐日大使としての経験であろうが、今日に生きる貴重な総括である。
 今こそ、民をもって官を制す。日中不再戦へ、今の中国を知り、友人となり、日中不再戦の国民世論を促そう!