憲法の上に日米地位協定があり、
国会の上に日米合同委員会がある(翁長雄志沖縄県知事)
6月8日、「日米地位協定とは何か?を学ぶ講演学習会」が、フリージャーナリストの布施祐仁さんを講師に、横浜市の戸塚区役所多目的スペースで開催された。県内各界からなる実行委員会主催で、会場140人、ウェブ30人の参加で盛り上がり、世論形成への一助となった。
第2の基地県神奈川で
最初に司会の日下景子さん(広範な国民連合・神奈川世話人、前神奈川県議会議員)からあいさつと経過報告があった。
日米地位協定は、あまりにも不平等で米軍の治外法権がまかり通っていると指摘、日米地位協定の問題を今一度学習して抜本改定を求める世論の形成につなげていきたいとの思いから、政党や組織も違うさまざまな思想をもった方々と連帯し、実行委員会を結成した。
神奈川県は沖縄に次ぐ第2の基地県、そして神奈川県の黒岩知事は渉外知事会の会長である。私たちは、これまで何度も日米地位協定の抜本改定を求める知事要請を行ってきたが、黒岩知事が率先して地位協定の改定を求めていくとはなかなかならないのが現状だ。メディア・TVでもあまり取り上げられないということで、この国の進路、世界の平和が脅かされるのではないかと危惧している。今日は、今一度学習し、日本がいかに間違っているか、正しい政治の方向性を皆で築き上げたいと思うと語った。
米軍占領時代の続き
続いて布施祐仁さんの講演に移った。
日米安保条約で米軍が日本の施設および区域を使用することを認め、日米地位協定では、日本の施設および区域の使用内容や米軍の地位について定めている。さらに細かい具体的なことは合意議事録に書かれており、運用については2週間に1回開催される日米合同委員会の協議で決めている。しかし、その合同委員会の協議内容が非公開、国会への報告義務がないなどの問題があることなどをまず指摘した。
さらに、PFAS(有機フッ素化合物)汚染の問題、厚木基地の爆音問題、さまざまな米軍関連の事件・事故の訴訟に日本の権限が及ばないことなども挙げた。
「横田空域」(横田ラプコン)という首都圏から栃木、群馬、新潟、長野、山梨、静岡に及ぶ広大な空域を米軍に管制業務を行わせている。外務省の地位協定の解説書には、「わが国の国内法上の根拠が問題になるが、この点は日米合同委員会の合意しかなく法的根拠はない」と書かれ、さらに2013年に当時の安倍首相が国会答弁で「横田空域は、わが国が戦争に負けて米軍の占領を受けていた、これは名残と言ってもいいんだろうと思う」と言ったことを紹介。
これは、つまり日本の国内法よりも合同委員会の合意というのが上に来ているということで、日本は本当の意味での独立国家、法治国家になり得ていないことを象徴するのが横田空域で、亡くなった翁長雄志沖縄県知事は「憲法の上に日米地位協定があり、国会の上に日米合同委員会がある」という名言を残されていると語った。
日本政府とのいかなる相談もなしにわが軍を使うことができる
これはどこから出発しているのか? 旧安保条約が結ばれたのが1951年、日本がまだ連合国によって占領されているさなかに、日本政府と米政府が交渉して、日米安保条約と地位協定をつくった。米国側が、形式的にしろ「占領をやめて日本に主権を回復させる」と決断をしたのは50年。米国側の対日政策のトップだったマッカーサーは、50年6月の対日講和後、日本に主権を戻した後の「安全保障上の覚書」(米国に文章が残っている)には次の文脈がある。「日本の全領域が米国の軍事作戦のための潜在的な基地とみなされなければならず、米軍には無制限の自由が認められなければならない」。マッカーサーはこれをサンフランシスコ講和条約の条件にした。
この条件を日本がのまない限り、日本に主権は戻しませんよ、占領は終わらせませんよ、というのが米国の方針だった。
この直後に朝鮮戦争が勃発、まだ日本は占領下だったから、米国は日本全体を基地として、港からあらゆる場所を自由に使えた、そして無制限の自由があった。
日本に主権を戻して日本を自由に使えなくなったら米国は朝鮮戦争が戦えない。まだ戦争中の交渉だったから、米国は条件をのむように強く求めた。だから日本はこの条件をのまざるを得なかった。つまり、形式的には主権は回復するものの、占領下で米軍がもっていた権限を無制限に保障する形でサンフランシスコ講和条約となった。
それを裏付けるものに、57年東京の駐日米国大使館が作成した「在日米軍に関する秘密報告書」がある。その中には日米地位協定の特徴ということがはっきり書かれている。
「日本での米軍の軍事活動の規模の大きさに加えて、際立ったもう一つの特徴は、米国に与えられた基地権の寛大さにある。安保条約第3条に基づいて定められた行政協定(今の地位協定)は、米軍が占領中にもっていた軍事活動の遂行、大幅な自律的行動の権限と独立した活動の権利を米国のために保護している。安保条約のもとでは、日本政府とのいかなる相談なしに極東における平和と安全に寄与するためにわが軍を使うことができる」というものである。
改定は国民世論の力で
では地位協定を変えるためにどうするか。
国民世論しかない、米国側の対応も変わり始めている。米国は自ら、地位協定交渉で譲歩する能力を高めるべきだと言っている。つまり米軍にいてほしいと思っている国とは交渉して米軍基地を置くことが容易だが、受け入れ国の国民世論や主権侵害の懸念が強い国は、基地交渉が困難なので譲歩することも必要だと言っている。
日本人は、米国に守ってもらっているというイメージが何となくある。だから米国に強く言えないなとか、漠然とそう思っている。その意識はもうやめることだ。自分も一人のジャーナリストとしてやれることをやる。今はインターネット等を使っていろんな形で市民一人ひとりも情報発信のメディアになれる時代だから、世論を作るために発信してほしい。
沖縄県は言い続けてきている。動かすのは本土の世論だ。その世論に火を付け盛り上げるのは、米軍基地が目の前にあるところの県民、青森、東京、そして神奈川などの県民の役割だ。今日を機に神奈川県でも日米地位協定改定を求める県民世論と運動が大きく盛り上がることを願っている、と布施さんは講演を結んだ。
最後に、実行委員の水野もと子参議院議員から、委員会などで日米合同員会の構造がおかしいことを訴えているとの報告があった。日本側は外務省の官僚で米国側は主に軍人となっている。日本が外務省なら米国側は国務省であるべきだが、そうなっていない、他の交渉機関でこのような委員構成はない。合同委員会で話し合われ決定した内容が国会承認も経ず、運用されているなどと指摘した。
山崎誠衆議院議員や県議会や各市議会議員の参加もあった。日米地位協定の抜本改定に向けて県民世論をいっそう盛り上げていくことを確認できた。
(広範な国民連合・神奈川事務局)