東アジアに3つのメガFTA
IPEFの台頭で紛争のリスク
韓国ポリテク大学教授 朴 相鉄
私は今スウェーデンにおります。戦争が行われているウクライナまで1500キロしかありません。ここにはウクライナから避難してきた難民の方々がたくさんいます。戦争はどのような形態であれ、人間性を抹殺します。ですから私たちはいかなる戦争もやってはいけない、反対しなくてはいけないということです。
そういった側面から、沖縄において現在推進しようとしている「平和のハブ」は、非常に素晴らしいことだと思います。先に発表なさった皆さまのお話のように、東アジアにおいてもいかなる戦争も起きてはいけない。沖縄の平和がこれからも続くことを祈ります。
併せて、このシンポジウムに招待してくださいました関係者の皆さまに心より感謝申し上げます。
不透明なグローバル経済
メガFTA(自由貿易協定)が東アジアの政治経済にどのような影響を与えるのかについて、お話ししたいと思います。グローバル貿易が経済成長の革新的な役割を果たしていることは皆さんご存じの通りです。問題は2008年のリーマン・ショック以降、貿易の規模が縮小し、米英を中心に保護貿易主義が拡散されたことです。現在もまだコロナ以前の世界の貿易状況に戻っていません。さらに予想外にも今年2月ウクライナで戦争が起きてしまいました。グローバル経済がこの先どうなっていくか、誰も想像できない不透明な形になっております。そういった中で東アジアの経済協力のためのメガFTAの重要性というものが再び強調されているわけです。
こうしたメガFTAにおいて主な競争相手である中国、日本、韓国の役割というものが、その重要性がいつにも増して高まっているということができます。それは政治経済的な影響力が強いということ、そしてアメリカと中国の間で発生している貿易紛争に対する相対的な影響力を行使しやすいからです。
東アジアの協力体制に対する示唆として申し上げますと、地域経済を統合する点にも私たちが非常に大きく寄与できるのではないかと思います。さらに新規のグローバル・サプライチェーン(供給・調達網)を構築することもできるわけです。
RCEPは世界最大の
自由貿易協定
東アジアにおいて、2018年には日本が主導したCPTTP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)が発効しました。アメリカの不参加にもかかわらず11カ国が参加し、19年を基準として世界で3番目に大きな自由貿易協定となりました。CPTTPで日本の経済力は強化されましたが、中国と競争する上では限界があります。こうした中で、昨年から中国と韓国、台湾が加入を申請しております。
20年には中国を中心としたRCEP(東アジア地域包括的経済連携)が締結され、効率的な分業の構造、サプライチェーンを強化することになったわけです。20年を基準として23億の人口、26兆ドル以上の域内総生産、そして10兆4000億ドルの貿易規模を誇る世界最大の自由貿易協定ということができます。
こうした中で今年5月、アメリカ主導のIPEF(インド太平洋経済枠組み)ができました。現在IPEFには13カ国が参加し、21年の世界のGDPの40%を占めています。電気産業部門の新たなグローバル・サプライチェーン、半導体、リチウムバッテリーなどにおいて中国を排除するという動きもあり、韓国、日本、台湾、アメリカの技術同盟を構築することを主な目的としています。
RCEPとIPEFの
競争の構図
次に、2大メガFTAとIPEFが東アジアの主要国である韓国、中国、日本に及ぼす政治および経済的な影響について申し上げたいと思います。
まず政治的な影響ですが、2大メガ自由貿易協定間の競争そして協力が発生する可能性があります。特に技術、製造業、農業および地下資源部門の強力な連携強化が期待できます。特に中国はRCEPと「一帯一路」を連携させることによって、政治経済的な影響力を拡大することができます。さらに域内のエネルギー、通信といったものを基盤として、域内における市場が強化されます。貿易紛争を仲裁する機能が存在しており、自由貿易を強化できる要素があります。
一方、IPEFによってRCEPとの競争の構図が形成される可能性があります。これが外交・軍事・経済・技術部門に拡大し、域内における紛争のリスク、安全保障上のリスクとなる可能性があります。台湾問題をお考えになれば理解しやすいかと思います。
それ以外にもアメリカと中国の武力紛争が拡大するのではないか。これは強大国における貿易紛争だけではなく、先端技術開発でも主導権を争っているわけです。新たな国家安全保障の問題が生まれております。
アメリカは東アジアの同盟国とアメリカ主導の新たなグローバル・サプライチェーンを構築しようとしています。そのため中国主導のRCEPは中国と貿易関係が最も緊密な韓国、日本、シンガポールにとっては諸刃の剣となるリスクもあります。なぜならば韓国と日本はレアメタルなどで中国への貿易依存度がアメリカよりもはるかに高いからです。なのでハイリスクだということです。チャンスとリスクが同時に存在しているということができます。
参加国それぞれの戦略
RCEPとCPTTPへの参加は、参加国がそれぞれの経済利益を念頭に置いて判断します。マレーシアやベトナムはCPTTPに参加しましたが、フィリピンやタイはRCEPにのみ参加しています。RCEPに参加したことによって最大の貿易増加の恩恵を受けたのが中国、日本、韓国です。CPTTPによって貿易が減少した国は中国、韓国そしてASEANの少数の参加国です。
IPEFでは主要6カ国のオーストラリア、日本、韓国、ニュージーランド、シンガポールそしてアメリカが相対的に利益を創出すると予想されます。その延長線上で主要6カ国の緊密な経済安保同盟がつくられると予想されます。インドとASEANの7つの参加国は自国の経済的な利益を最大化するために、基本的な軸の中でそれを選択的に選ぶという戦略をとる可能性があります。
アメリカは2013年から15年まで、世界最大の貿易赤字を記録しました。今も状況はそれほど変わりません。アメリカの貿易赤字の約80%は東アジアとの貿易です。ですからアメリカはこれ以上東アジアに自国の市場を開放する余力がありません。自国の市場を開放した結果、民主党の選挙敗北につながったので、民主党であれ共和党であれ、これ以上、特に東アジアの国と自由貿易協定を締結する可能性は低いといえます。
中国の膨張阻止狙う
アメリカ
結論を申し上げますと、経済成長において貿易および海外直接投資(FDI)が最も重要な要素になるということです。現在、保護貿易主義が台頭し、グローバルな貿易環境も大きく変わっています。RCEPとCPTTPは反保護貿易主義の役割を期待されていますが、残念ながらIPEFという新たな形態の自由貿易協定が域内に台頭しているため、非常に深刻な競争関係に陥るのではないかと憂慮されます。
そしてアメリカ主導の新たなグローバル・サプライチェーンの再編によって、中国リスクが同時に増加しています。韓国と日本もその危険度が非常に高まっていますが、日本の最大の経済的な恩恵はRCEPに参加したことにあるわけです。IPEFの台頭によってRCEPとの競争が激化しつつあります。IPEFは東アジアにおける中国の膨張を阻止するために、アメリカが推進しているということです。
以上です。ありがとうございました。