沖縄をハブとする東アジアの平和ネットワークをめざす国際シンポジウム ■鳩山 友紀夫

相互尊重・相互理解・相互扶助 東アジアの共同体を 相違乗り越えるのが外交の本筋

鳩山 友紀夫

 お集まりの皆さん、こんにちは。鳩山友紀夫でございます。今回はお招きを賜りまして、ありがとうございました。先ほど主催者の山本さんからご提案がありましたが、全面的に賛成申し上げます。
 私が着ているこの「かりゆし」は、先月私が訪沖の際に自分で染め上げた藍染めで、とても気に入っています。
 さて現在の世界を見れば、残念ながらさまざまな危機に瀕しております。気候変動やコロナの蔓延も、そして、平和という視点、安全保障の面から見ても、世界的な危機が目の前に横たわっているという話から申し上げます。そして、その解決のために私が従来申し上げている東アジア共同体という構想とその実現に向けて努力をすることがとても意義のあることではないかということを、私なりに申し上げたいと思っております。


世界が直面する
7つの危機

 この世界が直面する、平和を脅かす7つの危機をまず申し上げます。

 1つ目は、今盛んに言われている「トゥキディデスの罠」です。急速に台頭する新興大国に対して既存の支配的な大国が焦りを感じ、その地位を守るために現状維持を望み、その立場を巡って摩擦が起こり、お互いに望まない直接的な抗争に発展する様子を指し、歴史的にもそのような事実が多々あります。今、アメリカと中国との間がまさにそんな状況であります。価値観が違うとかいろいろなことを言われておりますが、価値観がそんなに違わなかった日本が台頭するときに、アメリカがどんな行動をしてきたかを考えれば、お分かりになろうかと思います。
 私はアメリカが、ウクライナ紛争を経て、「この次は台湾だ」と、そんな気持ちになっていないかと大変心配しています。その一つが、先般のペロシ・アメリカ下院議長の台湾訪問です。韓国の尹大統領はある意味で賢明な判断をされ、面談を避けられました。日本の岸田首相は直接お会いになり、笑顔で固い握手を交わされました。この違い、この状況をどのように判断するか、これが一つです。
 2つ目は、アメリカはロシアがさまざまな不安感、不信感を長年にわたり重ねていたということをあまりに看過し過ぎてきたのではないかということです。核大国ロシアとの関係は、安定に細心の注意を持つことが絶対的に重要だったのではなかったかと。NATOの東方拡大がロシアを直接的に脅かす、たいへんな脅威であるということを知っていながら、アメリカはそのことをないがしろにしてきたと思わざるを得ないわけです。
 3つ目は、軍拡が世界的に進んで、そして核戦争さえ起きかねない危機的な状況に陥っていることです。ウクライナ戦争でこのことが加速されて、世界中どの国も軍備拡張という議論になってきています。2兆ドルもの予算が軍事費に投入されているという状況があります。
 4つ目は、「価値観の対立」の強調です。民主主義対権威主義、あるいは専制主義というような対立をことさらに強く言う。だから西側諸国は協力して専制主義、権威主義の国と戦っていかなければならない、それがまさに正義だというように振る舞っているわけです。これではロシアや中国という大国との対立が強まるばかりだということです。
 5つ目ですが、内政が外交に対してたいへんな影響をもつ時代になっています。日本を含めて、新自由主義の中で貧富の格差が広がる中で、ポピュリズムがはびこるわけです。どこかに外敵をわざわざつくって、その敵に対して「われわれは戦うぞ!」ということで支持を集めるという傾向があるのです。特に日本の中では顕著ではないかと思います。
 さらに6つ目として、国境と民族がしばしば一致しておらず、一国の中にいくつかの民族が存在する場合もあれば、国を超えて民族が存在するということもあります。そういうときの「民族の自決権」という問題が深刻化してきています。ウクライナ東部にはロシア語しか話さないロシア系の方々がたくさん住んでいて、その人たちに対してゼレンスキー大統領をはじめウクライナ政権はかなり抑圧的に制裁を加えてきたという事実も存在します。
 また台湾と中国との関係にもたいへん複雑な部分もあるわけです。さらには沖縄の中にも、今のような状況では、琉球民族としての自立を求める、自決権を行使するという声も起きてしかるべきではないかと思うわけです。
 最後に7つ目の危機として、このような状況の中で経済がブロック化してしまうということです。ロシアに制裁を加えようとする西側諸国と、ロシアに「まぁまぁ」というような人たちのグループとの間の相克がある。中国とアメリカとの間の対立もある中で、世界が2つとか3つ、あるいはそれ以上に分裂し、分断化の危機があることを申し上げなければなりません。すでに中国のHUAWEIに対するアメリカの行動があるわけで、日本もそれに従属しています。中国はそれに対して、「双循環」という考え方で対抗する状況が生まれているのも事実だと思います。

米中対立、日本は
自立した対応を

 この7つの世界の危機に対して、どう振る舞うべきかを考えていきたいと思っています。
 「トゥキディデスの罠」に関して言えば、対立を緩和するような方向で米中自身が協力できないかということです。例えば感染症対策や、気候変動に対してお互いに協力して答えを出していくというようなことはあり得ないのか。また、なかなか協力しにくい分野、たとえば通信技術の標準化のようなときには、日本、ドイツ、また韓国などが協力して、米中の背中を押さないとうまくいかないという問題もあるわけですから、こういうときに日本の役割というのは大きいのではないかとも思います。
 米中の対立が激化していく中では、日本の立ち位置が非常に重要であって、常にいわゆる対米従属的な立場ではなくて、基本は親米でも、より独立、自立した対応を行わないと、世界の中で孤児になってしまうのではないか、と真面目に思います。
 またアメリカは、ロシアの安全保障上の不安感に配慮しなかったということを先ほど申しましたが、まず言わなければならないのは、今回の戦争はアメリカがカギを握っているということです。アメリカが「撃ち方やめろ」と言えばこの二国間の戦争はなくなると信じています。昨年12月にロシアはアメリカに対して、ウクライナのNATO入りはやめてほしい、あるいは東部の自治権の問題などで協定を結ぼうと提案しました。しかしこの提案は一顧だにされなかったわけです。でも、そのことをもう一度考えて答えを見いだすことが、私はできるのではないかと思います。

軍拡を見過ごしては
ならない

 また、3つ目で申した軍拡ですが、核戦争さえ起きないとは限らないという状況です。これは皆さんの沖縄がターゲットになる可能性があります。南西諸島において自衛隊によるミサイルの基地化がどんどん進んでおります。この状況を見過ごしてよいのか。ミサイル基地化を止めることが本来必要なのではないか、ということです。
 同時に、INF条約(中距離核戦力全廃条約)がなくなり、アメリカは中距離弾道ミサイルをこれからどんどん生産する。その仮想の相手は中国だという話になるわけですから、それを使うところはどこかといえば南西諸島。そこに待ったをかける必要があるのではないかということです。
 防衛費をGDPの2%にまで上げることに国民の多くが賛成しているように言われますが、そんな予算があれば本来ならば社会保障とか教育の充実に使うべきであって、防衛費をどんどん増額することに賛成をするべきではありません。
 抑止力のパラドックスで、抑止力を高めれば相手も抑止力を高めてしまうわけです。むしろ日本はそれを抑えるような役割を率先して果たすべきではないでしょうか。昨日が広島の原爆投下から77周年でした。あの悲惨な原爆投下から77年もたちながら、日本は核禁止条約に賛成すらできないという、情けない話であるわけです。せめて、核保有国の核先制使用はさせないとか、非核国には核を使わせないとか、そういうことを率先して主張することが必要ではないかと申し上げておきたいと思います。

「一つの中国」という
大原則

 価値観の対立の強調に対しては、価値観が違っていたからと喧嘩するのでは、外交はないわけです。価値観の相違をいかに乗り越えていくかということが外交の本筋でなければならない。私はそこに友愛精神が必要だと思っているわけです。
 日中国交正常化50周年の今年、日本がいちばん考えなければならないのは、50年前のほうが日中の間ではもっと国力や価値観の違いがあったわけであります。それを乗り越えてこようとした、その原点を忘れてはならないわけです。価値観の違いを乗り越える民間の努力とか外交の努力が今ほど求められているということを認識するべきではないかと思っております。
 また内政が外交に影響を及ぼすわけでありますが、それに対しては内政を整えていくということ。日本が経済的に30年も停滞している状況からいかに脱していくか、脱せないとしても経済以外の、精神的なものを含め新たな価値を求めていくことが大事ではないでしょうか。自信回復のための策を講じるべきだと思っております。
 非常に難しいのは国境と民族の自決権ですが、ウクライナ東部に関してはロシア系住民の人権を尊重することが極めて重要だと思っております。台湾についていえば、日米両国は中国が考えていることを理解するということで認めているわけで、「一つの中国」という大原則を再確認することが何より重要ではないかと思っています。
 また経済のブロック化に対しては、これはロシアとか中国も望むならば入れるような、あるいは中国もロシアもそしてアメリカも含まれるような大きな共同体というものを構築するということが一つの方法としてあるのではないかと思います。RCEP(東アジア地域包括的経済連携)がうまく機能すればいいとも思いますし、またCPTTP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)に対して中国あるいは台湾が入りたいということであれば、条件さえ満たせれば認めるということも大事ではないかと申し上げておきたい。

東アジア全体を
不戦共同体に

 こういう中で東アジア共同体を構築する、あるいは構築に向けて努力することがたいへん大きな意義をもっているということを申し上げたいのであります。なぜならば「脅威というのは能力×意図である」ということがよく言われます。脅威というものは、相手に意図がなければ脅威にはなり得ないということであります。相手の意図をいかにして減殺させてゼロに近づけるかということが外交の役割ではないかということです。その意味で、東アジア共同体を実現することによって、東アジア全体を不戦共同体に向けていくということができていけば、この地域に戦争が起きるようなことにはならないわけです。
 私は東アジア共同体の話を習近平主席に何度か申し上げたことがあります。そのときにも習近平主席は、「人類運命共同体」ということに通底する話だと理解されたと思っております。私は、友愛というのは孔子の論語の中にある「仁」と「恕」ではないか、この精神で「一帯一路」を進めていただきたいと申し上げました。習近平主席は「鳩山の言うとおりである。私は恕の精神、己の欲せざるところ人に施すなかれの精神で一帯一路を行っていく」ということを申されたのです。その意味では、友愛精神を理解されている習近平主席だと私は認識したわけです。
 友愛思想というものを根底にもって、相互尊重、相互理解、相互扶助の精神で価値観の違いを乗り越えて、お互いに平和な国家に仕立て上げていくことは必ずできる、私は、そのように思っています。理想ではありますが、東アジア共同体をつくり、そのために沖縄に常設の議会のようなものをつくって、その中で経済、金融、貿易、教育、文化、環境、エネルギー、防災、防疫、安全保障などあらゆるテーマを議論することが、たいへんに意義のあることだと思っております。
 大国間ではしばしば例えばG8がG7になったりするわけでございます。この国がおかしいなと思ったら排除することが行われています。そうではなくて、この国が何かおかしいなと思えば思うほど、その国も中に入れて議論をし、その中で妥協点を見いだしていくという努力がたいへん大事なのではないかと思っております。そういうような機構を東アジアにつくりたい。そして沖縄にその拠点をつくって沖縄をハブにして共同体構想を進めていく。それが沖縄から平和を発信させる最大のツールになるのではないかと私は考えているわけです。
 Quad(日米豪印)、FOIP(自由で開かれたインド太平洋)、IPEF(インド太平洋経済枠組み)など中国を排除するようなさまざまな仕組みがつくられていますが、東アジア共同体といっても東アジアにとどまらず、アメリカやロシアも排除しないというぐらいの大きな心で、共同体構想を進めていただくということが大事ではないかと申し上げたいのでございます。
 最後に申し上げたいのは、そのようなことを行っていけば、少なくとも先ほど申し上げたような脅威が東アジアにはなくなる。そうなればこの地域全体が平和に導かれることになると思っております。軍産複合体のアメリカなどの「武器を売るために、軍事力を使うための脅威や抑止力を敢えて生み出す」ような発想に対して、「いや待ってくれ。そんな必要はないぞ」という状況をこちら側でつくり出していく。挑発には決して乗らない東アジアになってほしい。
 台湾有事は日本有事だと申された安倍総理、あのような事件で凶弾に倒れたのは残念ですが、台湾有事が日本有事になってはいけない。絶対に台湾有事は起こしてはならない。最も基本的なところに戻って、日本がそのために何をなすべきか、平和を維持していくためになすべき大きな役割があるのではないかということを申し上げて、駆け足になりましたが、私からのあいさつと問題提起にさせていただきます。
 ご清聴いただいたことに心から感謝申し上げます。
 ありがとうございました。