沖縄をハブとする東アジアの平和ネットワークをめざす国際シンポジウム ■楊 伯江

日米同盟と中国との対立の最前線になるか、
アジアの平和と協力のハブになるか

中国社会科学院日本研究所所長 楊 伯江教授

 今日のテーマは、「沖縄は平和協力のハブになるか大陸対抗のフロントになるか」です。
 中国では沖縄と聞くと琉球を思い起こします。万国津梁の地とされて中国と緊密な関係を築いていました。北には九州と朝鮮半島、南西には中国の福建省、南には東南アジア諸国。貿易の中継地として東アジアの海上貿易において重要な役割を果たしていました。その時代は、琉球王国の大航海時代とも呼ばれています。琉球と中国の関係は、相互依存であり、切っても切り離せない関係です。この時代は、沖縄の歴史において重要なページであるだけではなく東アジア貿易システム、地域の平和と協力の歴史においても重要な部分でもあります。


 残念なことに、この100年あまりの間に沖縄は、波瀾万丈な運命をたどりました。1872年からの日本植民地時代、1945年からの米軍占領時代。そして1972年から日本の施政下に置かれています。歴史上、琉球・沖縄は栄えた時代もあれば、苦しんでいた時代もありました。

沖縄は米中対立の中で選択の十字路に

 今沖縄は米中対立が激化している中で、平和・協力のハブになるか、軍事・対立の最前線になるかの十字路に立たされています。
 2010年、防衛計画の大綱で防衛力を南西諸島地域にシフトすると言及してから、日本は徐々にこの地域に自衛隊と武器を配備し、南西諸島の軍事要塞化が強化されました。今のメディアや戦略関係者の間では、沖縄への自衛隊の前方展開や増強などの表現が頻繁に使われ、南西諸島や沖縄が軍事対立の最前線になる危険性が日増しに高まっています。
 日本が、南西諸島で軍事配備を強化する背景には、米国の冷戦思考と世界戦略に沿って多国籍の枠組みで中国封じ込めを強化する軍事戦略が存在します。特に民主党のバイデン政権が発足してから、日本、韓国、オーストラリアなどの同盟関係を強化すると同時に、いくつかの排他的枠組みを提起し立ち上げました。例えば、日米豪印のQuad(クアッド)、米英豪の安全保障・軍事協力AUKUS、それにバイデン大統領が提唱したインド太平洋経済枠組み(IPEF)などがあります。今現在、AUKUSにはアジアの国はまだ参加していませんが、地域情勢に与えるマイナスの影響は明らかです。
 IPEFは、中国を排除し孤立させることを目的とした経済枠組みです。戦後の世界秩序を形成し主導した米国は、今、戦略目標を達成するために経済手段を使うことが増えています。これは米国の目的の不当性を示しただけでなく、戦略的自信の低下を物語っています。今米国は同盟国の合意を得ることが難しくなっています。
 米国が、同盟国と共に中国を封じ込め抑制する行動は間違いであり、地域の分断、軍事的対立、戦争勃発につながるものです。
 ですから米国は、平和を望む地域のすべての人々の共通の敵です。
 南西諸島に軍備増強を進める背景には、日本の安全保障戦略があります 。
 日本は、今年中に国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画などを見直し、「専守防衛」の原則を完全に放棄します。軍事費を今後5年間で倍増し、GDPの2%に引き上げます。これについて7月に行われた参議院選挙でも、憲法改正勢力が3分の2以上の議席を占め、憲法改正の要件はすでに整っていました。
 憲法を変えれば、日本はより攻撃的・戦略的な軍備力整備が可能となります。

日本は攻撃的・戦略的な軍備強化を進めるのか

 戦略的価値観を背景に、日本は米国の下に立つだけではなく、中国封じ込めの第一線に立っています。日中国交正常化の時など日中間の4つの基本文書で日本は、台湾問題についての中国政府の立場を完全に理解し尊重すると約束したにもかかわらず、今、日米同盟を通じて台湾問題への介入を進めています。
 米中対立が激化しているなかで日本は、米中間で建設的な役割を果たそうとしていません。むしろ例えば、安倍元首相は日本がインド太平洋地域で米中対立の最前線になってきたとの認識と覚悟の重要さを説き、外交安全保障に取り組む必要がある、「台湾有事は日本有事」と主張しました。
 ここ最近、台湾問題への関与を強め、台湾関係の発言も目立つようになりました。台湾独立勢力に間違ったシグナルを送りました。これらの発言には議員らの発言も含まれています。
 日米の間違った政策による地域の緊張は対中戦略の最前線と思われる沖縄に集中しています。今年1月、日米の外交防衛閣僚協議(2+2)が開催され、その時に発表した共同文書では米軍と日本自衛隊が南西諸島の軍事施設の共同使用を増加させるとしています。これは米軍がそこで陸上中距離ミサイルを配備し常駐することを意味します。そうなれば南西諸島の対中最前線としての役割がさらに強化され、地域の軍拡競争が激化することになります。
 1200㎞にわたり島々が連なる南西諸島は、中国の東部海岸線に沿って展開されています。そこの軍事要塞化が強化されると間違いなく中国にとって深刻な脅威になります。しかもそれによって日本自身も、中国との対決・対抗の最前線に追い込み、南西諸島の住民を対立・戦争のリスクの火中に巻き込むことになります。

沖縄は自分の運命を自分で決めることができる

 日米同盟と中国との対立の最前線になるか、アジアの平和と協力のハブになるか、沖縄は今、行方を決める選択を迫られています。沖縄がもつ自然的位置と歴史、文化環境からも、後者を選ぶべきでしょう。21世紀海上シルクロードの東の起点には沖縄・琉球が含まれるべきであり、アジア運命共同体、人類運命共同体の主張に基づく、東アジア平和経済協力のかけがえのない重要な役割を沖縄は果たすべきです。歴史的視点と未来思考で考えると沖縄はいつまでも基地の島にとどまるわけにはいきません。
 逆に、かつて万国津梁の地であった沖縄は、そのユニークな歴史的地位、経済産物、自然環境的位置、文化観光資源を持っているため対外協力交流拡大の余地は大きく、有利な条件を備えています。
 沖縄のアイデンティティーを中心に戦後の沖縄では、社会文化運動が起きていました。1972年以後も、この伝統は消えることなく、現在日米同盟と米軍基地の重圧の中で、伝統と文化への追憶と復興を深めています。
 軍事大国化の最前線になるか、アジアの平和協力のハブになるか。この運命を決める重要な課題は、日本の政治指導者の英知と良心が試されているだけではなく、沖縄人一人ひとりの決心と決意も試されていることになります。
 沖縄は、自分の運命も自分で決めるべきであり、特に若い世代は歴史的責任を担っているに違いありません。
 ありがとうございました。