「TPP水準堅持」のごまかしは通用しない日米交渉

 

東京大学 鈴木 宣弘

飛んで火に入る夏の虫

 4月末、米国での日米首脳会談は完全にトランプ米大統領のペースで、安倍晋三首相は「飛んで火に入る夏の虫」だった。TPP11(米国抜きのTPP=環太平洋連携協定)と日欧EPA(経済連携協定)の発効後の想定以上の畜産物輸入急増で米国のシェアが落ちる中、米国内で日米FTA(自由貿易協定)での日本への圧力強化の要請が強まっていた。
 日欧EPA発効の今年2月には、前年同月比で豚肉が6割、ワインが4割、チーズが3割も増加。一方、米国からの輸入が減少した。TPP11が発効の1月に牛肉は前月比4割増で、2年目の関税が適用の4月にも大幅な輸入増が生じた。
 この大幅な増加は、関税削減の開始時点に輸入をずらした一時的な効果もあるので、今後の推移を見極める必要がある。案の定、「5月来日時の交渉妥結」まで迫られ、トランプ大統領ペースで、自動車と為替条項で脅かされ、農業などを際限なく差し出すだけの「得るものはなく失うだけの交渉」が加速されることを明確にしに行ったようなものだ。
 「TPP超え」は不可避な中、参院選前だけ「TPP水準堅持」と言っておく思惑だったのだろうが、それも破綻しそうな厳しい局面となってきた。

自動車のために永続的に譲歩し、自動車も守れないことに

 自動車を「人質」にとられて、国民の命を守るための食料が格好の「生け贄」にされようとしている。
 しかも、本当は、農や食を差し出しても、それが自動車への配慮につながることはない。米国の自動車業界にとっては日本の牛肉関税が大幅に削減されても、自動車業界の利益とは関係ないからである。本当は効果がないのに譲歩だけが永続し、すべてを失いかねない「失うだけの交渉」になってしまう。
 選挙前だけ「TPP水準堅持」では許されないが、米国の圧力強化で、そのごまかしも難しくなりつつある。そもそも、TPP水準が大問題であったことも忘れてはならない。