「食料安全保障、農業と農民を守る」北口 雄幸

水田活用直接支払交付金見直しの影響

北海道議会議員 北口 雄幸

 昨年12月1日の日本農業新聞に、『水田交付金見直し決定 今後5年水張りなければ対象外 政府・自民』とのタイトルが躍った。水田を畑に転作し、今後5年間コメを作付けしなければ、「水田活用の直接支払交付金」の対象から除外するというものだ。

転作は50年以上続く政策

 戦後、食糧難からコメの生産体制が強化される一方、アメリカの戦略的な小麦によるパン食の普及もあり、昭和40年代からコメが過剰となった。その結果、昭和45(1970)年から減反政策が始まり、コメを作付けしたくてもできない時代になった。以降、減反政策は名称や制度の内容を少しずつ変えながら、現在まで50年以上続く政策となっている。
 私の住む士別市は、うるち米(主食米)の作付けの北限に位置し、現在では7割を超える水田が畑などに転作して活用されている。

厳格化と言うが中身は改悪

 水田でも米を作らず畑として活用し、食料自給率の向上に寄与しようというものである。
 この制度でいう水田とは、①湛水設備を有し(畦畔等で、作物の生産性向上のために一時的に畦畔を撤去したものも含む)、②用水を供給しうる設備(用水路等)を有しているものを水田と定義している。したがって農家は、この基準に沿って水田を畑として活用し、交付金を受けてきたのである。
 それが今回の見直しでは、今後5年間一度も水田としてコメを作らなければこの制度から除外するというものである。
 現行制度では、水田に麦や大豆などを作付けした場合、10a当たり3万5千円が交付金として支給されるが、今回の直しでは、今後5年間一度も米を作付けしない場合は交付されなくなるのである。
 「一度水田として水を入れると、土地が乾かず畑として使うことが難しくなる!」など、生産現場を知らない官僚が考えそうな発想であり、農家の皆さんからは強い怒りが寄せられている。

国の目指すべき姿が見えない
 

 そもそも何らかの見直しをする場合は、その見直しによってどのような成果や効果が得られるかを明らかにし、その結果が国民の利益につながらなければならない。改革や見直しにはビジョンや目指すべき姿が必要なのである。
 しかし、見直しでは、「財務省からの財政的な圧力や会計検査からの指摘」などが要因といわれ、農水省が主体的な役割を果たしておらず、見直しにあたっての目指すべき国の姿が見えないのである。
 日本人のコメ離れやコロナによる影響などで、コメの消費が減り続けている。そのことからも水田に麦や大豆などの作物を作ることは自給率向上にも寄与するのだ。だから転作制度は今日まで50年以上にわたって脈々と続いてきたのである。それが、いきなりの見直しでは当事者である農家はたまったものではない。

多岐にわたる影響

 今回の見直しでは、大規模な農業経営をしている農家ほどその影響は大きい。しかも、転作率が全国平均よりも高い北海道はなおさらである。
 私の住む士別市は、転作が始まる前年には「コメ出荷日本一」になったほどの農業を基幹産業とするマチである。減反政策が始まった1970年には、2000ヘクタールを超える水田を休耕し、国の政策に協力してきたのである。当然、今回の突然の見直しとも言える改悪に対しては、農家から強い怒りが出されているのだ。
 士別市、剣淵町、和寒町の1市2町の農家で構成する北ひびき農協は、今回の見直しで36億4千万円の影響額が出ると試算した。対象農家戸数は1041戸であり、単純平均で1戸当たり350万円の影響を受けるという計算になり、大規模な農家ほどその影響額は大きい。北海道全体では、数百億円に及ぶとみられている。
 さらに、畑地になれば水利権が必要でなくなり、土地改良区への賦課金を納付しないことも予想される。そうなると、みんなで維持してきた用水路などの水利施設の維持ができなくなるのである。
 このように、今回の改悪は多岐にわたり影響を及ぼす。単に水田を所有している農家だけではなく、地域全体を崩壊に導きかねないくらい甚大な影響を与えるのである。農林水産省は、そのことを理解して今回の改悪案を出してきたのか、甚だ疑問でもある。

営農計画が立てられない

 昨年の12月、突然に改悪案を示された農家は戸惑いを隠せない。現に、今は2022年作の営農計画を立てなければならない時期であるが、その見通しが立たないと嘆く。
 北海道農民連盟は、今回の見直しに関し加盟する盟友にアンケートを実施した。
 「今後5年間に転作している水田で稲作が可能か」との問いに対しては、44%が不可能と答えている。また、「今回の見直しが経営に影響するか」では、「大いに影響する」が65%、「影響する」は26%と、実に91%の農家が何らかの影響を受けると答えており甚大な影響は必至なのだ。
 制度の見直しには断固反対との意見が多数を占め、現制度が維持できないのであれば新たな環境保全など、これからの持続可能な社会(SDGs)の視点も入れた支援を求めていかなければならない。

食料確保は国の最重要な任務

 生前、俳優の菅原文太さんは、2014年11月の翁長雄志氏を応援した沖縄県知事選挙で、次のように語った。「政治の役割は二つあります。一つは国民を飢えさせないこと、安全な食べ物を食べさせること。もう一つは……、これは最も大事です。絶対に戦争をしないこと!」と……。
 私たちは、食を守り戦争をさせない国づくりをしていかなければならないと強く感じているところだ。