令和の米騒動から2年

農業があることの最大の価値は
「人間の限界を知ること」だ

新潟県上越市 星の谷ファーム農場代表 天明 伸浩

 今年の夏も暑い夏でした。新潟でも35℃近くまで上昇して、熱中症警戒アラートが発出する日がありました。そんな中でも、草刈り機をしょって棚田の畦草を刈っています。ほぼ毎日、午前中はずっと、夕方も4時ごろから日暮れ近くまでは畦と向き合っています。
 お米が作りたくて30年前に東京から新潟の山奥に移り住んだわが家の4ヘクタールの田んぼはすべて棚田です。田んぼよりも大きな畦もありますので、すべての畦を刈るのに1カ月以上かかります。水路や農道も個人で草刈りする場所が長々とあります。米の値段が3万円になろうが、1万円になろうが、同じ仕事量です。米の値段が下がったからと言ってやめるわけにはいかないのです。1年やめれば草ボウボウ、3年やめれば雑木も育ちます!
 米作りは数十年先のことまで考えながらやる仕事です。暴落して赤字になるかもしれない状況では、農村に住んで米作りをするのは難しいですね。

豊かに実る水田を喜ぶ
報道を聞きたい

 「今年の米の値段はどうなるのかね」と米農家が顔を合わせるとそんな会話が繰り返されていました。令和の米騒動後の概算金(農協が生産者に最初に支払う米の値段。農協がお米を販売後に上乗せすることもある)が、昨年はなんとまだ雪の降っていた2月ごろには公表されていました。ですが今年はお盆を過ぎても新潟の概算金は公表されませんでした。昨年は米が不足していて米集荷業者が青田買いで田植え前から動いていた影響で農協に出荷してもらうために早めに公表したのでしょうが、今年は農協も米の概算金を決めるのが難しかったようです。
 そんな状態で、報道されるのは米の在庫の増加、それも200万トンという個人の感覚では理解できない数字です。さらに店頭価格の下落など、米価が下がる要因ばかりが伝えられました。ですから農協の概算金が発表される前から、多くの稲作農民は悄然とした気分でした。今年の米の出来栄えは良く豊かに実る田んぼを喜ぶ報道を聞きたいところですが、そんな報道はあまり見られない寂しいニュースばかりです

昨年比4割減の概算金

 ここに来て早場米地帯から始まって概算金の価格が発表され始めていますが、暴落と言っていい減少幅です。昨年からの下落幅の大きさに暗澹たる気分でいるなかで新潟でも8月19日に概算金が発表されました。1万8500円で、昨年からの下落幅は1万1500円です。ほぼ2年前の米価に逆戻りしました。
 米騒動の前には「この価格だと赤字だ、時給10円だね」と言われていましたが、経費の増加を考えると赤字になるでしょう。米をすべて農協に出荷する農家はほとんどいないといえ、他に売っている米の値段も農協の米価と連動していることが多いので、農家の売り上げは減少し、厳しい経営になります。

経費は2~5割増

 一方、米作りの経費はここ数年で大幅に上昇しています。10a(1反)当たりの肥料代は5年前までは9千円ほどでしたが、この春には1万3千円になっています。田んぼで一般的に使われている初期の除草剤は3千5百円ほどと2割の上昇になっています。肥料、農薬ともに栽培方法で大きく異なり、農家によっていろいろな値段になりますが、おしなべて1・2倍から1・5倍に上昇しています。
 米作りで欠かせない光熱費ですが、トラクターやコンバインを動かす軽油、草刈りや日常の軽トラに使うガソリン、米の乾燥に使う灯油、苗作りや米乾燥に使う電気代、どれも大幅に上昇しています。わが家のように個人にお米を販売している農家にとっては、宅配料の値上げなどもあります。
 毎年買う物ではないですが農機具の値段も上昇です。コンバインで500万円、トラクターで400万円、田植え機で300万円、それ以外にもお米の乾燥機などの秋作業の機械や農機具の格納庫なども。その修繕費も上昇しています。わが家では原価償却が終わった機械を大切に使うことで何とかやりくりしています。

政府の狙いは輸入米増か

 米不足のときには備蓄米を早めに放出して、米の価格高騰を抑え、米がだぶついたときには早めに買い戻す需要と供給の調整機能を発揮していればここまでは乱高下することもなく値段は推移したのでしょうが、政府は在庫量を見誤っていました。食糧という国にとって大切な統計の数字が誤っていたのか、それとも意図的だったのか……。
 今回の米騒動をきっかけに輸入米が入ってくることに多くの国民が違和感をなくしたような気がします。平成の米騒動をきっかけに米輸入が細々と始まり、令和の米騒動で大々的の米の輸入が始まったとすると、米騒動のたびに日本の米作りの基盤が壊れていくことになります。
 本来なら物価の上昇よりも賃金が上がって、お米なども安心して買えれば良いのです。しかし現状では高いお米は消費者には受け入れられないのならば、生産者が継続して営農できるような所得保障の仕組みが必要です。

都市との落差に愕然

 地方、中でも農村さらに山村での人口減少は深刻です。日本全体でも人口は少なくなっていて至る所に弊害が出始めていますが、農村部では地域での生活に支障が出ています。
 私が住んでいる地区では、郵便局の廃局の話が出されて地区挙げて反対しています。また近くにあったヤマト運輸の集荷店も廃店のチラシがこの夏、配られました。私が移り住んでから30年ですが、これまでも銀行の支店がなくなったり、商店が廃業したりと、次第に寂れてきていましたが、いよいよ生活のインフラまで撤退が始まっています。私が移り住む頃までは便利になり発展するのが当たり前だったのですが、地方はどこも衰退を隠せない状況になっています。
 その一方で東京のある首都圏も、さらに新潟県でも県庁のある新潟市はまだまだ大きなビルが建ったりと、その輝きを増しています。地方に住んでいるとその発展している都市との落差に愕然とします。

農村がなくて
都市は成り立つか

 今回の米価の乱高下によって日本の農村の崩壊の引き金を引くことになりそうです。
 効率化することを最優先している現代の経済ではコストのかかる部分を切り捨てるのは、賞賛されることなのかもしれません。しかし、コストのかかる部分にこそとても大切な部分があります。
 農村などの地方がなくなったときに都市で生活できる環境が維持できるとは、私にはとうてい思えません。が、現在の政策を続けていけば確実に地方は崩壊し、その後に都会も成り立たないことになるでしょう。
 崩壊の先頭を歩んでいるのが米農家ということになるでしょう。日本の多くの地域で稲作農業を中心として地域のつながりができあがってきました。その稲作がなくなれば地域で暮らす基盤がなくなります。
 農村がなくなることによって人間が自然と向き合う場面が少なくなることによって、社会の継続性が失われていくことになるでしょう。農業があることの最大の価値は、「人間の限界を知ること」だと思っています。田んぼから収穫できる米は年1回で、その年の天候に左右されます。稲作が始まった弥生時代からゆっくりと収穫量は増えていますが、工業のような倍々というような生産量の向上はありません。
 しかし、そのことは人間が地球上で暮らしていく上ではとても大切な教えのような気がします。現代のように工業分野の生産性上昇が続けば地球が持たないことは明らかです。
 できるだけ多くの人が農業や自然と向き合える地方で暮らすことが今こそ必要な気がしてなりません。

 (タイトルを含めて見出しはすべて編集部)

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百姓一揆inにいがた実行委員会 緊急声明(要望事項のみ)

1.政府備蓄米を早急に買い入れ、適正水準まで回復すること
 米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針が定める「100万トン程度」の適正備蓄水準を早急に確保するため、2026年産米を含む政府備蓄米の買い入れを機動的に実施すること。
2.過剰となっている民間在庫米を市場から隔離すること
 政府備蓄米の買い入れを直ちに実施できない場合には、空いている政府備蓄米倉庫を活用し、民間在庫米を移送・保管すること。26年7月に改正された食糧法によって創設された「民間備蓄米」制度を今すぐ始動し、市場からの隔離、倉敷料等の費用を政府負担とすること。
3.米価暴落による農家の経営悪化を防ぐこと
 米価の急激な下落によって農家が赤字経営に陥ることを防ぐため、所得補償等の措置を講じること。現行の担い手経営安定法や多面的機能促進法に基づく補助事業を充実させ、必要な予算を確保すること。
4.過剰時・価格暴落時にも対応できるよう食糧法もしくは担い手経営安定法を改訂すること
 現在の食糧法に不足時だけでなく、過剰時・価格暴落時の政府の対応を明確に位置づけること。米価を一定の範囲に安定させる仕組み、あるいは価格低下を補う所得補償制度を充実化すること。

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私は息子に農家だけは止めておけと言わざるを得ません

山形市で750人の農家、決起集会(8/19)

 山形県内のJAグループが18日、山形市で集会を開きコメ価格の安定に対し国が対策をとるよう要請した。およそ750人が参加。
 集会ではJA山形中央会の若林英毅会長が、去年のコメの価格高騰から一転今年は供給過剰による米価下落が懸念されていると指摘。今年産のコメから備蓄米を59万トン買い戻すよう求めた。
 JA庄内たがわ生産組合長会の池田宏志会長は「あまりに大きなコメ価格の振れ幅に農家の経営は到底ついていけない。今年の米価が下がっていくようであれば、私は息子に農家だけは止めておけと言わざるを得ません。親として農家としてそれだけは言いたくありません。目の前に迫る令和8年度産のコメに対して国として責任ある対応をとっていただきたい。それが生産現場の切実な願いです」と主張。切実な声が相次いだ。