多文化共生

 全国知事会が「排外主義」を批判

多文化共生社会を目指し未来拓く

 7月23~24日、青森市で開かれた全国知事会議は「青森宣言」を全会一致で採択した。23日には、「外国人の受入と多文化共生社会実現に向けた提言」も発表した。そこでは「排他主義、排外主義を否定し、多文化共生社会を目指す我々47人の知事がこの場に集い、対話の中で日本の未来を拓くに相応しい舞台となった」と、排外主義を否定し多文化共生社会をめざす方向を鮮明にした。さらに、「誰一人として置き去りにしない」「平和的で協調的な社会」「真の地方創生の実現」を唱えた。
「日本人ファースト」などと唱える政党すら登場し、参院選でも一定の支持を集めるほど、日本社会は行き詰まって、打開が求められている。ある知事は「参院選結果を受けた全国知事会の思い」だと述べている。「日本を変える! 政治を変える!」うえで、この全国知事会会議の宣言や提言は支持でき、大いに広げたい動きである。(編集部)

外国人も
「生活者」「地域住民」

 「外国人の受入と多文化共生社会実現に向けた提言」の冒頭で、次のように提起する。
 「我が国に在留する外国人は近年大きく増加しており、在留外国人数は約377万人(令和6年12月末時点)、外国人労働者数は約230万人(令和6年10月末時点)と、いずれも過去最高となっている。
 平成元年の出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)改正以降、東海地方を中心に在留資格『定住者』等の外国人が急増する中、日本語教育や生活支援、子どもの教育等の課題は外国人が集住する特定地域の問題とされ、その対応は受入れ自治体任せとなってきた。
 国は外国人を『労働者』と見ているが、地方自治体から見れば日本人と同じ『生活者』であり『地域住民』である」
 提言は、「対応は受入れ自治体任せ」と政府の対応を厳しく批判し、「地方における外国人労働者確保につながる制度運用、外国人材の受入れ・共生のための予算確保、多文化共生施策実施の根幹となる基本法制定、省庁横断的ワーキンググループ設置」などを求めた。

「参院選結果受けた知事会の思い」だ

 杉本達治福井県知事はX(旧ツイッター)に「『排他主義、排外主義を否定』『国政が、その場しのぎの対症療法的な議論にとどまらず』『人口減少問題を我が国を揺るがす最大の課題と位置づけ』など、参院選結果を受けて知事会としての思いを書きました」とポストした(JAcom農業協同組合新聞による)。

* * *

全国知事会議青森宣言(全文)

未来を切り拓く挑戦を続ける

 1万年以上の長きにわたり、平和で協調的な社会を築き、縄文の独特な文化を今に伝える世界文化遺産の地あおもり。争いよりも対話、異なる意見を尊重し、困難な時にこそ温かい心で誰一人として置き去りにしない。地域の持つ、日本の原点ともいうべき普遍的な価値や豊かさを実現してきたのが、北のまほろばとも言われるこの青森の地。
 排他主義、排外主義を否定し、多文化共生社会を目指す我々47人の知事がこの場に集い、対話の中で日本の未来を拓くに相応しい舞台となった。
 いま、混沌とした国内外の情勢の中、参議院選挙で示された民意を国はしっかり受け止めるべきである。
 国民は物価高に対する不満のみならず、国政が将来に向けての長期ビジョンを求め、その場しのぎで対症療法でない真の政策論議を望んでいる。我々知事は、地方に責任を持つものとして、今こそこの国をリードして国民一人一人の幸福実現と我が国発展に向けて声を上げなければならない。今年、戦後80年という節目を迎える中、ここ青森から地域の活力を生み出す真の地方創生の実現に向け、希望あふれる未来へ、以下の提言について、決意する。

〇若者の将来に対する不安を直視し、代替財源なき減税など将来世代につけを回すような施策ではなく、地方公共団体の声を十分に反映し、若者が未来を自由に描き実現できる国づくりを、政党や党派を超えて目指すことを求める。また、民主政治を脅かす不確かで根拠のない情報から国民を守り、国民が正しい情報に基づいて政治に参画できるシステムの構築を求めていく。

〇時代や政治体制に関わらず、人口減少問題を我が国を揺るがす最大の課題と位置づけ、希望ある未来の創造に向け、とりわけ若者・女性の意見に耳を傾け、積極的に取り入れながら、国と地方が一体となって一貫した取組を推進していく。併せて、国に対し、官民連携し、各界各層が一丸となった国民的運動の迅速なスタートを求めていく。

〇6月に基本構想が示された地方創生2・0については、国に対し、実現に向けた取組を迅速、かつ、着実に推進することを求めるとともに、目指す地方の姿や、国と地方の役割分担、地方としての財源確保対策の強化について、今一度地方目線で議論し、今後、自らの評価・検証を出発点とした新たな提言を行い我々は実践していく。

〇高齢者人口のピークを迎えると見込まれる2040年を見据え、地方自身も責任を持ち、国と連携しながら全世代型社会保障の構築に向け取り組んでいく。将来にわたり地域で必要となる医療・介護・福祉等のサービス提供体制を確保していくため、社会経済情勢を反映した報酬等の改定に加え、現場で働く方々の確実な賃上げと経営の安定化に向けた適時適切な取組を国に求めていく。

〇インフラ施設の老朽化が急速に進む中、適切な維持管理や予防保全型インフラメンテナンスへの本格転換に向けて老朽化対策が急務となっている。対策の更なる加速化・深化を図るため、国に対し、十分な予算を確保するとともに財政支援や地方財政措置の充実・強化を図ることを求めていく。また、最新のデジタル技術なども活用しながら、国とともに老朽化対策を強力に推進していく。

〇米国関税などの国際情勢の変化や米をはじめとする物価の高騰など、将来の予測が困難な現代において、私たちは、住民や企業・事業者の方々の安全・安心を最優先に考え、あらゆるステークホルダーと連携しながら、成長と分配の好循環が実現される持続可能な経済を目指していく。

〇全ての国民や事業者がデジタル化の恩恵を享受するために、デジタル行財政改革やデジタルの力を活用した地方創生2・0の加速化・深化を図り、生成AIをはじめとするAIの社会実装の進展など、新たな課題に適切に対応し、多様な幸せを実現できる社会の実現を目指していく。

 青森が誇る「青森りんご」は150年前に、わずか3本の苗木から始まった。先人たちが多くの困難を乗り越え、今では日本一の生産量を誇り、世界で高い評価を受けるに至った。この青森での議論もまた、苗木となり、数多の花を咲かせ、豊かな実りをもたらすことを確信し、全国知事会として、日本の未来を切り拓く挑戦を続けることをここに宣言する。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする