泊原発が残したこと、これから始まること
泊原発立地4町村住民連絡協議会 代表 佐藤 英行(岩内町議会議員)
積丹半島の海岸には99の袋澗がある。ニシン漁の最盛期に、海が暴風雨で大荒れになる時化のときがある。そのような場合、すでに漁獲され詰められた大きな網袋のニシンを海中に放棄しなければならなくなる。それを避けるため、ニシンを大きな網袋ではなく小さな袋網に入れる。舟も時化を避けるために小さな船着き場を建設して、そこの入り江の海中に袋網のニシンを一時貯蔵しておく施設が袋澗である。
泊村には39カ所、隣の神恵内村には42カ所あったと記録されている。泊村にある4カ所の袋澗を埋め立てて建設されたのが、北海道電力株式会社(北電)泊原子力発電所である。住所は泊村大字堀株村ヘロカロウスである。ヘロカロウスとはアイヌの言葉で「鰊がよく獲れる場所」の意味である。
基幹産業の衰退と泊原発
泊原発は加圧水型軽水炉で、1号機は57・9万kWで1989年6月、2号機は57・9万kWで91年4月、そして3号機91・2万kWが2009年12月営業運転開始である。立地自治体の泊村、近隣の共和町、岩内町、神恵内村を合わせて泊原発地元4町村(岩宇地域)である。共和町の基幹産業は農業だが他は漁業であり、その中で比較的大きな岩内町は水産加工業、商業も盛んである(あった)。
泊村、岩内町、神恵内村の漁業協同組合の組合員の合計は、1985年883人、95年525人、2010年239人、20年144人と、原発ができる前と比べ実に約5分の1まで減少しているのである。特に岩内町は404人から52人へと漁業が基幹産業でなくなったことを示している。
一方、原発からの経済的波及は、福島第一原発事故前の2010年の「泊発電所における地元活用」(北電による)は原発で働いている1319人中、地元4町村出身は通常運転時は北電と協力会社合わせて540人であった。1号機の定期検査時681人、2号機の定期検査時750人である。地場産業等の活用状況は、外注費12・5億円、材料費1・6億円、日用雑貨等3・3億円、地元雇用費21・2億円、民宿等利用費3・3億円、計41・9億円(通常運転時35・2億円。1号機の定検時3・4億円、2号機時は3・3億円)となっている。
11年3月の福島第一原発事故後最も多かった「地元活用」は、定期点検はなく1663人中4町村出身572人、外注費26・9億円、材料費12・3億円、日用雑貨等4・9億円、地元雇用費25・9億円、民宿等利用費3・2億円、計73・3億円となっている。3・11以後の安全対策に関する費用が増大したためであろう。人口は4町村計で10年2万6452人、16年2万2040人で16・7%の減となっている(24年12月現在1万8553人)。このことから全体的に人口減が進み、そのため原発マネーによる地元活用の比率が高まっていることが言える。
「原発に頼らないマチづくり」目指し学習会やシンポジウム
原発マネーは地場産業を衰退させ原発に依存せざるを得ない地域経済を作り出している。これが現実だが、これら3機の原発は遅かれ早かれいずれ廃炉の時が来る。関係自治体はどのような判断をするのであろうか。
新たな原発マネーを呼び込むため新規の原発を呼び込むことを考えるだろう。原発マネーが麻薬と言われるゆえんである。
現実に原発に依存している。「原発をなくせと言っても、じゃあどうやって生活していくのだ」との思いは多くの住民の意識であろう。だが、いずれ原発は廃炉になる。そのことを見据えて小田清北海学園大学名誉教授を座長に、地元住民10人ほどで「原発マネーに頼らないマチづくりとは」と題し学習会を続けてきた。
また17年から「どうする原発に頼らないマチづくり」と題し公開シンポジウムを開催してきた。自治体問題研究所理事長、岩内郡漁協副組合長、共和町農業者、自然エネルギー専門家、元農協常務、元岩内町役場助役、美術振興協会理事長、郷土館館長、ペンション経営者、新聞記者など多士済々なメンバーで開催されてきた。
これらのことを踏まえ、「原発・核ゴミマネーに依存しない地域づくりを考えてみませんか」と題し23年、24年と調査し、小冊子を作成した。
地域資源を生かした発展を目指す
23年は副題を「岩宇・寿都地域資源を生かした発展を目指して」として原発マネーがすでに広がっている岩宇地域と、高レベル放射性廃棄物最終処分場へ文献調査の核ゴミマネーの攻撃に遭っている寿都町を意識して記述している。
1、泊原発の計画段階では「バラ色の夢」が語られました。現実はどうだったのでしょうか
2、岩宇地域に投下された「原発マネー」はどれだけでしょうか。それで地域は豊かになったのでしょうか?
3、泊原発地域では産業が発達し、過疎からの脱出が実現したのでしょうか?
4、泊原発再稼働と「核ゴミ地層処分」の問題点を考える
5、私たちが考える地域づくり~「漏れバケツ」の穴をふさぐ
6、豊富な地域資源の活用から地域づくりを考える――である。
この中の項目6では23年8月に寿都町全戸を対象に郵便局のタウンメールで「文献調査・交付金に頼らない地域づくり」についてアンケート調査を実施している。
「脱原発・脱炭素」の地域づくり
24年の副題は、「『脱原発・脱炭素の地域づくり』岩宇・寿都地域のエネルギー問題」であった。泊原発やNUMO(高レベル放射性廃棄物の処理を手がける原子力発電環境整備機構)文献調査の問題点と、エネルギー問題と岩宇・寿都地域における「省エネ・再エネ」の試算などを通して、原発・核ゴミマネーに依存しなくとも実現可能な地域づくりを考えてみた。
1、北海道における原発・核のゴミ問題の経緯
2、日本の原発~核燃料サイクルの破綻
3、文献調査報告書の地学的問題(地質・活断層・火山)
4、原発事故で住民は被曝しないで避難できるのか
5、北海道におけるエネルギー問題
6、脱原発・脱炭素の地域づくり~岩宇地域のエネルギー問題(試算)
7、私たちが考える地域づくり~「漏れバケツの穴」を小さくする――となっている。
民力を殺ぐ原子力マネーに抗して
「それでなくとも少子高齢化が進み、人口の減少が急速に進んでおり、泊原発がなければいよいよ働く場はなくなり、地域経済が衰退していく」との声が多く聞かれる。だが、実態は地域産業を衰退させてきたのは原子力マネーであり、さらには、自分たちの地域を創造していく力や思いまでも殺いできたのが原子力マネーである。
泊原発3号機を原子力規制委員会は適合性審査で合格させ、「安全を保障したものではない」と言いながら、再稼働を実質容認した。北電は全道30カ所での説明会を計画し、北海道と地元4町村の同意を取り付けようとしている。
福島事故を忘れたごとく、未来に責任を押し付けていく泊原発3号機の再稼働は絶対に許されるものではない。全ての原発を廃炉にして地域がよみがえるための行動が問われている。