均等法40年とものづくり産業における女性参画
―労働組合の立場から捉えた現状と課題―
ものづくり産業労働組合JAM中央女性協議会 事務局長 加藤 美樹

1、ものづくり産業に残る課題
2026年は、男女雇用機会均等法の施行から40年という節目の年である。1986年に施行された均等法は、採用や配置、昇進などにおける男女差別の是正を目的に制定され、日本の雇用慣行に大きな転換をもたらしてきた。その後のたび重なる改正を経て、制度としての整備は着実に進み、女性が働き続けること自体は特別なことではなくなっている。
一方で、均等法施行から40年が経過した現在、「男女平等が実現した」と言い切れる状況には至っていない。JAMでは、男女平等参画の取り組みの一環として、女性組合員や女性役員が参画する中央女性協議会(通称:With)を組織してきた。その活動を通じて、職場や労働組合の活動にはなお多くの課題が残されていることが、現場の声として確認されてきた。
JAMは機械・金属関連産業を中心とする産業別労働組合であり、加盟組合の多くは製造業、とりわけ中小企業の現場である。製造業は歴史的に男性比率が高く、女性組合員の割合は決して高いとはいえない。26年2月に「With」が開催した全国女性活動担当者会議では、女性用トイレの不足や配置の不十分さを課題として挙げる声が、複数の職場から共通して寄せられた。これらは個別の要望というよりも、男性従業員が多数を占めることを前提に設計・運用されてきた職場環境が、現在の働き手の多様化に十分対応できていないことを具体的に示している。
均等法施行から40年という節目は、単なる制度の積み重ねではなく、働く女性たちが現場で声を上げ続けてきた歴史でもある。その到達点に立つ今こそ、制度と実態のずれを直視し、現場の構造を見つめ直すことが求められている。
とりわけ、ものづくり産業は人手不足が深刻化する中で、多様な人材が継続的に働き続けられる環境づくりが喫緊の課題となっている。女性が安心して働き続けられる職場環境を整えることは、男女平等の観点にとどまらず、産業全体の持続可能性という点からも重要であり、均等法40年の節目は、これからの働き方をどう設計していくのかを問い直す機会でもある。
2、前進した制度と現場のギャップ
もっとも、この40年間で何も変わらなかったわけではない。ものづくり産業においても、女性の就業を取り巻く環境は着実に前進してきた。近年では、女性技能職や女性技術職の採用が進み、これまで男性が担うことが前提とされてきた職域にも女性が配置されるようになってきている。製造現場において、女性が例外的な存在ではなくなりつつあることは大きな変化である。
また、育児休業制度や短時間勤務制度など、仕事と生活の両立を支える仕組みも整備され、制度上は男女を問わず利用できる枠組みが広がってきた。こうした変化は、男女雇用機会均等法をはじめとする法制度の整備と、現場における労使双方の継続的な取り組みの積み重ねによる成果である。
一方で、制度の前進がすべての職場において同様に機能しているわけではない。特に中小企業が多い製造業の現場では、制度は存在していても運用面での制約が生じやすく、実際の利用に結びつきにくい状況が見られる。この点については、前述の全国女性活動担当者会議においても、制度が整備されているにもかかわらず、現場では実態との間にギャップがあるという指摘が共通して見られた。育児休業や短時間勤務制度があっても、代替要員の確保や業務分担の見直しが十分に行われない場合、利用に心理的な負担が生じるとの声が寄せられている。
さらに24年5月に実施した女性リーダーセミナーでは、日常の困りごとから政策課題を掘り起こす取り組みが行われ、トイレの設置基準、生理休暇制度のあり方、育児や介護との両立支援など、多岐にわたる提言がまとめられた。ここで示されたのは、現行の制度や基準が、働く現場の実態に十分対応できていないという課題である。
3、制度と実態のずれを生み出す構造
では、なぜ制度と実態との間の差は解消されにくいのか。その背景には、職場や産業に根差した構造的な課題が存在している。
第一に、働き方の構造である。製造業の現場では、長時間労働や突発的な対応に応じられることが評価につながりやすい働き方が評価や昇進の前提として機能している。こうした働き方は現場対応の特性に根差した側面もあるが、労働時間の長さを評価や昇進の主要な基準とすることとは区別して考える必要がある。
長時間労働が高い評価につながり、それが昇進に結びつく仕組みのもとでは、時間的制約を抱える労働者が不利になりやすい。出産や育児によって一時的に労働時間が制約される場合、その影響は単なる一時的な収入減にとどまらない。評価や昇進を通じて昇進の遅れとして長期的に残り、その差が累積的に拡大していく構造を持っている。
このような構造のもとでは、本人の能力や意欲とは関係なく、一定期間の時間的制約がその後の評価や配置に影響を及ぼすことになる。その後に時間的制約がなくなったとしても、経験や実績の蓄積に差が生じたままになりやすい。その結果、キャリアの途中で生じた差が是正されにくく、長期的な格差として固定化されていく。
これは個人の選択の問題ではなく、評価や昇進の仕組みがどのような働き方を前提として設計されているかという、制度と運用の問題である。
また、こうした働き方は業務配分や経験機会のあり方にも影響を及ぼす。重要な業務は時間的制約を受けにくい人に配分されやすく、結果として経験機会に偏りが生じる。製造業では男性従業員の比率が高いため、こうした配分が結果的に男性に偏りやすくなる側面もある。重要なのは構成比そのものではなく、その違いがどのように経験や意見反映の機会に結びついているのかという点である。
第二に、職場文化や意思決定のあり方である。「負担が大きいから任せにくい」といった配慮が、意図せず経験や関与の機会を制限し、役割分担の固定化につながることもある。こうした無意識の前提や慣行は制度では是正しにくいが、実態として労働組合への参画機会に大きな影響を与えている。

4、労働組合活動への参加と参画の壁
こうした構造は、職場における経験や評価のあり方に影響を与えるだけでなく、労働組合活動に関与する「参加」機会や意思決定への「参画」機会にも影響を及ぼしている。さらに言えば、現状では、意思決定への参画以前に、組合活動そのものへの参加が、必ずしも誰にとっても平等に保障されている状況にはない。
参加や参画の差を生んでいる要因の一つが、組合活動に関わる時間の位置づけである。女性役員の多くは、業務を担いながら組合活動に関わることになり、平日の会議や意思決定の場へ継続的に関与することが難しい状況が生じやすい。一方で、意思決定に関わる会議は、平日に開催される場合も多い。この状況は、活動量だけでなく、意思決定への関与のあり方にも影響を及ぼしている。
こうした状況のもとで、女性役員の中には、平日に開催される会議に参加するため、有給休暇を取得しながら組合活動に関わっている人もいる。その結果、付与された有給休暇の多くを組合活動への参加に充てながら活動している女性役員もいる。「With」の活動は土曜日に開催されることは参加しやすい側面がある一方で、それが常態化することで、組合活動への参加や参画が、個人の時間的調整や負担に依存する形になっていないかという課題も浮かび上がっている。
さらに、組合活動のための職場離席について十分な理解が得られていないことが、参加や参画の障壁となっている場合もある。平日の活動に参加するために職場を離れることに心理的な負担を感じているとの声もあり、職場の理解を得られないことが大きな負担となっている実態がある。
本来、組合活動は労働条件の形成や職場改善に資する重要な役割を担うものであり、個人の私的活動として扱われるべきものではない。このように、組合活動は、意思決定への参画だけでなく、その前提となる参加の段階から、制度や仕組みではなく、個人の時間的・心理的負担に依存している実態がある。
現在のように、参加や参画が個人の努力や調整に大きく依存している状況では、担い手が限られ、活動の継続性にも影響が及びかねない。実際に、負担の大きさから役員を引き受けることをためらう声や、次の担い手が見つからないという課題も聞かれる。参画を広げていくためには、特定の人の献身に支えられる形から脱し、誰もが無理なく関われる仕組みへと転換していく必要がある。
5、次の40年に向けた参画の条件
均等法施行から40年を迎え、制度としての枠組みは確実に整備されてきた。しかし、本稿で見てきたように、制度の前進だけでは実態としての平等参画は十分に実現されていない。問われているのは、制度が「あるかどうか」ではなく、それが現場の実態に即して機能しているかどうかである。
JAMの女性組織「With」は、現場の一人ひとりの声を集め、共感を重ねながら、それを大きな声として、組織としての問題提起へとつなげてきた。声を上げる場があることは重要であり、そこから生まれた課題を意思決定につなげていく回路をどうつくるかが、次の段階の課題である。
参画を広げるためには、組合活動を個人の負担や善意に委ねるのではなく、組織が主体的に支え、職場や社会の理解のもとで行える環境を整える必要がある。均等法40年の先に求められているのは、女性だけのための施策ではない。多様な人が無理なく参画できる条件を整えることは、ものづくり産業の持続可能性を高め、労働組合の役割を次の時代へとつなげることにもつながる。そのための議論を、今こそ一歩先へ進めていきたい。

