主張 ■ 戦後80年総理談話を求める

70年安倍談話の国民的検証が必要である

『日本の進路』編集長 山本正治

 今年は、日本のアジア侵略戦争と対米戦争の敗戦から80年である。この節目の年に、しっかりと過去を見つめ直し、必要な反省と謝罪をもって次の世代に引き継ぐことは、今を生きる者の未来への責任である。
 石破首相は1月の国会で「なぜあの戦争を始めたのか。検証するのに80年の今年は極めて大事だ」と強調した。しかし今、石破首相は「談話」を諦め、首相の私的諮問機関で検証した国民向けのメッセージを出すと言う。日本が再び侵略戦争の過ちを繰り返さぬために、国民的な歴史の検証、反省が最も大事である。そのためにも「80年石破総理談話」を強く求めたい。

「安倍談話」にみる
歴史の改竄

 「80年談話」は、10年前の「安倍談話」を検証するものでなければならない。
 安倍談話を準備した「21世紀構想懇談会」のメンバーだった川島真東大教授は、「安倍談話の最も大きな特徴は1931年の満州事変前後を歴史の転換点にしたことである。村山談話や小泉談話は、戦前全体を否定しているように読めなくもない。満州事変を歴史転換の一つの目安にすると、それ以前の日本の対外侵略、たとえば植民地主義を肯定するようにも読める」と語っている。これが「安倍談話」の核心的歴史観である。
 満州事変は決して「歴史の転換点」ではない。そもそも130年前の日清戦争で、わが国は清国から台湾と澎湖諸島を奪い取り、巨額の賠償金で軍事大国化の手がかりを得た。ここからアジア侵略、植民地支配の歴史が始まり、それから10年の日露戦争でわが国は朝鮮半島の支配権と満州(中国東北部)の権益を手に入れ、さらに1910年に韓国を併合して植民地とした。
 日露戦争が朝鮮半島・中国北東部をめぐる帝政ロシアとの植民地争奪戦争だったことは定着した評価である。ところが「安倍談話」は「日露戦争は植民地支配のもとにあった多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけた」と塗り替え、朝鮮半島の植民地支配にはいっさい触れていない。
 明治以来の侵略と植民地主義の歴史があったからこそ、旧満州で「関東軍」が大手を振って謀略の軍事衝突を実行できたのだ。そして、1937年盧溝橋事件を機に本格化した日中戦争で、日本陸軍の「三光作戦」(焼き尽くし、殺し尽くし、奪い尽くす)と数限りない戦争犯罪が中国大陸で繰り広げられ、犠牲者は数千万人に上ると推察されている。
 安倍談話には従軍慰安婦という言葉もなく、朝鮮半島、中国からの組織的な強制連行についてもいっさい触れられない。
 安倍談話の歴史観改竄を、敗戦80年に際しきっぱりと質さなくてはならない。しかも談話は、「先の世代の子どもたちに謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない」と強調した。この歴史のしっかりとした反省と贖罪なしにわが国は未来を切り開くことはできない。

敗戦による諸課題は
未解決

 戦後80年たったが、わが国にはかつての植民地支配と侵略戦争、そして敗戦が生み出した諸課題の解決が残されている。
 日本の敗戦は1945年8月15日だが、正確には米国など連合国諸国とは51年のサンフランシスコ平和条約で戦争状態、占領の終結が確認された。しかし、日本の国家主権はその平和条約および日米安保条約で大幅に制限された。首都圏など全国に配置された米軍は今もわが物顔で、その特権は日米地位協定で法的にも保障されている。
 日本「敗戦」の真の戦後処理はなされていないのである。
 しかも平和条約では沖縄(72年復帰)、奄美諸島(53年復帰)、小笠原諸島(68年復帰)は引き続きアメリカの管理下に置かれた。とくに戦争中、天皇制国家・軍によって「本土防衛」の捨て石にされた沖縄は敗戦後もアメリカに差し出され、日本復帰後もあまり変わらない軍事植民地状況に置かれている。女性への性暴力、PFAS流出など人権が蹂躙される現状は放置できない。
 ソ連とは56年に国交が回復したが、平和条約は未締結で、わが国は歯舞・色丹など4島の主権を主張しているが、いまだに国境の画定ができていない。
 韓国とは65年、日韓基本条約で国交を実現したが、過去の植民地支配について「もはや無効」とごまかした。98年の日韓共同声明で小渕首相は「植民地支配に痛切な反省と心からのお詫び」を表明し、韓国の怒りの沈静化を狙った。これすらも当時衆議院議員だった安倍晋三は公然と反対した。
 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)とはいまだ国交がない。ようやく2002年にわが国政府は日朝ピョンヤン宣言で「過去の植民地支配に痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明」した。しかし、このとき官房副長官として同席した安倍晋三は宣言に反対した。この宣言すら日本の経済制裁で形骸化して白紙状態である。
 中国とは1972年に国交正常化し、78年の日中平和友好条約で両国関係を法的に固めた。わが国はかつて植民地支配していた台湾が、ポツダム宣言に基づく敗戦受け入れで中国に返還されたことを確認し、それを堅持することを約束した。台湾問題はあくまで中国の内政課題である。旧宗主国だった負の歴史と重大な責任を有する日本が、口出しなどすべきではない。敗戦80年に際して、植民地支配の反省を込めて、わが国は改めて台湾問題で態度を鮮明にすべきである。「独立」支持など論外だ。

敗戦80年にめざすべき道

 「安倍談話」は、1931年からの戦争は「欧米諸国のブロック化で日本経済は大きな打撃を受け、力の行使によって解決しようと試みた」として、欧米諸国に追い詰められた結果だと、責任を転嫁する。
 この問題をきちんとしておくことは、再び30年代の到来かと言われる今日の情勢下で重要である。トランプ政権の安全保障問題やブロック化のような関税を含む攻撃の中で、「もはやアメリカには頼れない。核を含む軍事力強化を」といった傾向が支配層・保守勢力の一部に生まれているからである。
 また、今年は被爆80年でもある。米軍の無差別都市爆撃、とりわけ広島・長崎への原爆投下の責任を追及することも重要な課題である。戦時下の戦争犯罪は日本軍だけではないのである。
 再び被爆者を生み出さないための闘いが大きな課題である。核抑止に頼らず「非核の日本」を安全保障の政策として、非核三原則堅持・核禁条約参加を政府に求める。

世界はすっかり変わった

 今日の世界は戦前とも戦後の80年間ともまったく違う。かつて侵略と植民地支配の対象だった国々が急速に発展している。
 とくに中国の発展はめざましく、実質的経済力(購買力平価GDP)ではすでにアメリカを大きく上回る。韓国も1人当たりGDPで日本を上回っている。他方、アメリカや「先進国」は衰退。だからトランプ再登場でしゃにむに製造業を中心に経済再建に突進しているが、国内混乱を深めるだけである。
 日本は敗戦80年、被爆80年。侵略と植民地支配、戦争の歴史と戦後の主権喪失の歴史をしっかりと反省し、平和に生きる道で繁栄をめざす時である。名実ともに独立国になり、かつて侵略し植民地支配したアジアの国々とも反省を基礎にしっかりとした平和友好関係を結ぶことこそ、敗戦80年に際してめざすべきである。