日米会談 日米同盟は時代錯誤の対中国「戦争同盟」に

中国・アジアと共に平和的に発展する道へ

編集部

 岸田首相とバイデン米大統領による日米首脳会談が4月10日に行われ、共同声明も発表された。翌11日に岸田首相は、米連邦議会上下院合同会合で演説した。
 また、11日には、フィリピンのマルコス大統領を加えた初の日米比3カ国首脳会談が開かれた。直前の7日には「海上協同活動(MCA)」と称し、南シナ海で自衛隊と米、比、オーストラリア海軍による共同訓練も実施された。
 日米共同声明は中国を「脅威」と決めつけ、岸田首相は演説で中国について「国際社会全体の、これまでにない最大の戦略的な挑戦」と攻撃した。さらに首相は日米同盟を、「控えめな同盟」から「外の世界に目を向け強く関わる同盟」へと変質させると表明した。


 なかでも焦点は「台湾有事」である。岸田首相はまたも、「ウクライナは明日の東アジア」と危機をあおり、「台湾海峡の平和と安定を維持」などと中国の内政に乱暴に干渉した。
 だが「台湾有事」の危機をあおり、東アジア一帯に政治・軍事・経済の格子状の中国包囲態勢を進める米国と、追随し肩代わりする日本こそが、アジアの緊張と「脅威」の元凶である。
 名指しされた中国は当然にも激しく抗議した。
 中国をはじめとする東アジア各国国民と連携し、平和と発展の闘いを前進させよう。

3年前の変質

 日米両首脳は、幅広い分野での「協働」で合意した。
 共同声明は、「過去3年間を経て、日米同盟は前例のない高みに到達した」と始まる。「我々がそれぞれ、そして共に、わずか数年前には不可能と思われたような方法で、我々の共同での能力を強化するために勇気ある措置を講じた」と。
 そうだ。3年前の4月16日、菅義偉前首相がバイデン米大統領と会談、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と明記した共同声明を発表した。この時、自公政権によって、1972年の国交正常化時の「台湾は中国の一部、台湾は中国の内政問題」とのわが国の立場は公然と投げ捨てられた。侵略戦争の歴史を踏まえたわが国の対中国原則は変質した。
 その後、岸田首相は、安保3文書改定、軍事費倍増、敵基地攻撃能力獲得、武器輸出解禁等々、反中国の軍拡を矢継ぎ早に進めてきた。
 そして今回、安保面では、自衛隊と米軍の「指揮・統制」の枠組み見直しで合意、自衛隊の統合作戦司令部新設と結び付けて指揮・統制の一体化が進められる。米艦船の日本での補修、武器の共同開発・生産なども確認された。「安保3文書」でも明記された日米軍事一体化はさらに進み、米軍の核での「拡大抑止」とともに日米同盟は対中国「戦争同盟」となった。
 同時に、反中国同盟は面的にも格子状に拡大された。核同盟であるAUKUS(米英豪)への日本の協力参加も約束され、日米豪印(QUAD)、ASEAN、日米比、日米韓、等々の同盟関係の礎として日米同盟を位置づけ、「格子状の反中国同盟」態勢構築が確認された。
 さらに、「AI、量子技術、先端半導体、バイオテクノロジー等の次世代の重要・新興技術の開発及び保護におけるグローバルなリーダーとしての共通の役割を強化する」こと、汎用半導体などのサプライチェーン構築、核融合開発や環境技術での協力など、中国との経済・科学技術分野での指導権争い対策でも幅広く合意、この方面でも「中国抑え込み」が確認されたことも今回の特徴である。
 国の経済発展、その基礎をなす科学技術方面でも、「対中国」を口実にわが国は米国との一体化を進めて抑え込まれ、自主的に繁栄する可能性をますます奪われる。
 ウクライナ、パレスチナについて全世界は即時停戦、平和を求めているが、日米首脳は会談でも「イスラエルの権利を確認」などとジェノサイドを支持する始末である。

衰退の米国を選ぶ亡国

 バイデン大統領は再選が危うく、国内対立も激しい。岸田首相も「死に体」化、自民党内の政治力学と野党分裂に救われているに過ぎない。首脳会談と一連の政治ショーは、両首脳が助け合った互助会みたいなもので、両国政治支配者の「弱さ」の表れに他ならない。
 だからこそ、中国を抑え込んで世界支配、覇権維持を画策する米国支配層は、「史上最も強固」(バイデン大統領)な「日米同盟」を政府間の公式な合意として「担保」したかったのであろう。一方、日本は米国に、ウクライナのように捨てられないための担保を求めたかった。
 だが、岸田首相もバイデン大統領も時代錯誤だ。
 世界は、かつての世界ではない。何よりも中国が強大化、強国化している。米国は覇権国としては衰退し、単独では世界に対応不可能だ。
 岸田本人も米上下院の演説で次のように語った。「世界が歴史の転換点を迎え」「私たちは今、人類史の次の時代を決定づける分かれ目にいる」。とくに、「経済力のバランスは変化し」「グローバルサウスは、課題と機会の双方に対処する上で一層重要な役割を果たし、より大きな発言力を求めて」いると。経済力のバランスの変化、その中心は言うまでもなく中国である。グローバルサウスの中心も中国であろう。
 そうだ、世界は歴史的転換期である。世界資本主義経済の危機も深まっている。
 岸田首相はさらに言う。「米国は、経済力、外交力、軍事力、技術力を通じて、戦後の国際秩序を形づくった」、だが今、「米国が何世代にもわたり築いてきた国際秩序は、新たな挑戦に直面している」と言い切った。
 中国や10カ国に拡大したBRICSはじめグローバルサウスの、北の大国に支配され蹂躙されてきた国々が発展し、覇権に反対し対等な世界を求めている。
 しかし米国は支配の巻き返しを狙う悪あがきを演じる。
 首脳会談での合意は、わが国を米戦略に縛り付けるもので、世界の趨勢に真っ向から反する、時代錯誤である。岸田首相は歴史に背を向け、「米国とともに」と文字通り亡国の選択をした。

合意実行は容易でない

 戦争同盟と化した日米同盟を礎に両首脳は、格子状の同盟で中国を抑え込むと合意した。しかし、それには環境が悪すぎる。
 まず「日米韓」の同盟だが、あまりにも運が悪い。同じ10日、韓国総選挙で尹錫悦大統領の政権与党は惨敗、野党が圧倒的優位の議会構成となった。難題だった徴用工問題を「解決」し日韓関係を進めた前外相や韓日議連会長などが枕を並べて落選。米日韓同盟強化は宙に浮いた。
 南シナ海の安定化ではASEANとの「協働の決意」が謳われた。だが、この地域各国のリーダーたちの認識はすでに違う。シンガポールのシンクタンクが4月2日、ASEAN加盟10カ国の政官財メディアなど各界のリーダーたちの意識調査結果を発表した。そこでは、ASEANが中国か米国のいずれかと同盟を結ぶことを余儀なくされた場合、「中国を選ぶべきだ」が50・5%、前回調査(23年公表)では「中国」は38・9%だった。ここでも時代は変わっている。
 さらにNATOとの連携も謳われた。だが、ドイツのショルツ首相は14日から習近平主席の招きで中国を訪問、首脳会談に臨んだ。5月に訪中するフランスのマクロン大統領は「同盟は家臣ではない」と対中国とりわけ台湾政策では米国と一線を画している。
 台湾からは国民党のリーダーである馬英九「前総統」が10日に北京を訪問、習近平主席と会談した。「中台双方の市民は賢明であり、さまざまな問題」の平和的解決を話し合ったという。台湾住民が望んでいるのは「現状維持」ということだ。
 米国の策動に最高の警戒が必要だが、その破綻も避け難い趨勢である。

どこまで米国に
追随できるか

 日米合意の実行は、わが国各界にも深刻な矛盾を引き起こすことになる。
 「日米軍事一体化」は戦争の危険を高め、平和を望む国民の不満と怒りを高める。とくに「台湾有事は日本有事」といって戦場とされかねない沖縄の危機感は高まっている。
 政府は11日、沖縄県うるま市での陸自訓練場整備計画を白紙撤回に追い込まれた。
 とくに今回の日米合意では自衛隊の指揮権が問われる。自衛隊の将兵を含めて民族主権の確保に関心の高い保守層にも動揺を広げるは必定だ。
 平和を願う保守層を含む広範な勢力の連携が進む条件は広がる。
 経済や産業、先端技術などで中国敵視・排除の日米合意は、わが国財界内の矛盾も拡大せざるを得ない。
 何といっても中国は、経済規模で日本の5倍、世界最大の市場である。日本の最大の貿易相手国でもある。日米会談を踏まえて「日経新聞」(13日)は、「産業界には商機への期待と中国との距離感への不安が入り交じる」、「半導体製造装置業界にとって中国は3割弱を買う世界最大市場。国内大手メーカー首脳は『米国だけを見ていては有力市場を失う』と案じる。複雑に絡み合う世界経済の中、日本は同じアジアの中国市場も重視しなければいけない難しさがある」と報じた。
 グラフのように投資収益率は中国がダントツであり、米国とは2倍以上と格段の差がある。日本貿易振興機構(ジェトロ)の「世界貿易投資報告2023年版」(グラフも同)によると、中国における収益率は21年16・4%、22年18・4%と2年連続で過去最高を更新した。22年を業種別にみると、製造業では輸送機器が27・8%と最も高く、化学・医薬が18・4%で続く。製造業全体では17・6%。非製造業では卸売・小売業が31・8%、運輸業20・4%などで非製造業全体では19・9%と過去最高を更新する。
 日本企業はこの有利な投資市場を放棄できるのか。
 ドイツ首相の訪中には、自動車大手ではBMWとメルセデス・ベンツグループの社長が、鉄鋼・機械大手ティッセン・クルップの最高経営責任者(CEO)が、医薬・化学品大手ではバイエルとメルクのCEOらが同行した。ショルツ首相は会談で、「EUと中国の関係が良好に発展するよう積極的に役割を果たしたい」と語り、両首脳は経済関係を重視し発展させることを確認した。

主要投資先別の対外直接投資収益率

 日本財界は経団連などがこの1月に訪中したが、今、複雑な心境であろう。事物の論理はあらゆる論理に打ち勝つという。日本財界に対中関係正常化の要求の高まりは避けられない。
 日米共同声明ではお義理のように「可能な場合に中国と協力する意思を表明」と、中国との外交関係が語られた。米国でさえも4月初めにイエレン財務長官、末にはブリンケン国務長官を中国に派遣した。
 岸田首相は習近平主席と昨年11月、「戦略的互恵関係」の包括的推進を確認したが、その後はさっぱりだ。そして今回、日米同盟だけが「かつてない高み」に押し上げられた。
 わが国にも世界にも、中国なしの世界は別に準備されていない。
 中国との長期の平和友好関係だけが展望である。自主・平和、アジア共生をめざす、幅広い国民運動を発展させるときである。