空も海も川も土地も、命の源である水までも奪われた沖縄闘いの継続の先にこそ真実の勝利がある
北谷町議会議員 玉那覇 淑子
沖縄県で有機フッ素化合物(PFAS)問題が明るみに出たのは、2016年1月、北谷浄水場から高濃度のPFASが検出されたという県企業局の発表であった。北谷浄水場は極東最大のアメリカ空軍嘉手納基地を目の前にする北谷町にあり、その水源はダム水や比謝川、比謝川に合流する嘉手納基地から流出の大工廻川、そして基地内にある井戸群である。
取水池となっている比謝川取水口ではPFOS・PFAS合計値最大580ng/L、比謝川に合流する嘉手納基地から流出の大工廻川では1124ng/Lが検出(18年県企業局調査)、国指針のなんと30倍、全国ワースト。この汚染水を7市町村(北谷町、宜野湾市全域、沖縄市、北中城村、中城村、浦添市、那覇市の一部地域)45万人は飲まされている。
戦後77年、本土復帰50年、日本国土面積のわずか0・33%しかないこの沖縄に、在日米軍基地の70%がいまだ集中。島の15%が米軍基地に占領されており、基地から派生する事件・事故は絶え間がない。飲酒運転絡みの交通死亡事故、窃盗や女性暴行殺害事件、戦闘機等の爆音による健康被害、県民は日常的に危険にさらされている。
04年8月、沖国大に米軍ヘリが墜落、16年12月、大浦湾にオスプレイが墜落。17年10月に高江にヘリが墜落、同年12月に今度は普天間第二小学校に米軍機のヘリから窓枠が落下。同年12月7日には保育園の庭園に部品が落下(既に5年、「コドソラ」母親たちの会は保育園、学校上空を飛行するなと訴え続けて政府に要請行動を行っている)。県民は日常的に危険にさらされている。このような中、PFAS汚染問題は浮上した。
調査報道ジャーナリスト、ジョン・ミッチェル氏の入手情報によると、米軍は1960年代に燃料火災を迅速に消す泡消火剤を開発。PFASが人間の健康と環境に有害である疑いをもちつつもその情報を隠し、長年PFASを含む泡消火剤を使用し続けた。2013年12月、嘉手納基地格納庫から2270リットルの泡消火剤が屋外に流出、さらに18年から21年にかけて基地から泡消火剤の流出事故は9件もあったにもかかわらず、米軍は事故を日本当局に報告していない。
19年5月にストックホルム条約で残留性有機フッ素化合物の製造・販売・使用禁止が定められた。米軍基地内では50年以上も泡消火剤は使用され、ルールが定められた今なお泡消火剤は基地内格納庫に貯蔵され、基地外流出事件・事故が相次いでいる。米軍の欺瞞に県民は怒り心頭である。
ストックホルム条約の19年12月、県民は結束、「有機フッ素化合物(PFAS)から市民の命を守る連絡会」を立ち上げた。伊波義安・桜井国俊両共同代表を中心に学習会、講演会、フィールドワークを重ねた。
ほとんどのPFAS汚染は長年の米軍の消火訓練による泡消火剤が原因であると推測できた。防衛局に対し、汚染源を確定するため、基地内立ち入り調査、健康調査の要請を繰り返してきた。しかし、米軍は16年のPFAS汚染発覚から基地内立ち入り調査を要請し続けている県企業局の調査さえ許可していない。連絡会の要望ものれんに腕押しである。自国の憲法より日米地位協定が上位にある、主権を持たないこの国にほとほと絶望し、落胆の連続であった。
全国で初の大規模なPFAS血中濃度調査
しかし、それでも私たちは次の世代への責任として、健康と命をつなぐ環境を守るための活動をやめるわけにはいかない。負けてはいられない。新型コロナウイルス感染予防対策の影響で延び延びになっていた県民集会を連絡会発足から3年目の22年4月10日、「重点措置」が解除され約400人の参加で開催できた。映画「ダーク・ウォーターズ」の実存のモデル、ロブ・ビロット弁護士のビデオレターなど海外からも連帯のメッセージが寄せられた。特に、大企業を相手にPFAS汚染の追及に10年の歳月をかけて集団訴訟で勝訴したロブ・ビロット弁護士のメッセージに大いに励まされ、継続の先にこそ真実の勝利があることを確信。集会では、基地内立ち入り調査、血中濃度調査、土壌汚染調査、海産物・農産物の環境調査、汚染が確認された場合は当事者の責任で除去を行うことなどが盛り込まれた集会決議が満場一致で採択された。決議書は、在日アメリカ大使、内閣総理大臣などに送付されたが、これまでの政府の対応から早期回答は望めないことは瞭然。政府を頼らず市民の力で早急に血中濃度測定を実現していこうと固い意志が示された。
「捨てる神あれば拾う神あり」、京都大学原田浩二准教授が強力な助け人となって、6月25日の北谷町を皮切りに7月23日大宜味村まで、全国で初の大規模な血中濃度調査が実施されることになった。実施市町村は北谷浄水場から給水を受けている北谷町、宜野湾市の2区、沖縄市、他の水源で新たな汚染が発覚した金武町、過去のデータの対比として地下水を農業用水にしていた嘉手納町、基地被害がないと推定される地域の比較対照として大宜味村が選ばれ、6市町村7カ所の会場でそれぞれ約60人、総計387人の採血を医師、看護師、保健師等医療従事者ならびに地域ボランティアの皆さんの協力で無事に終えた。関わってくださった全ての方に感謝です。
10月15日、県庁記者クラブで採血結果を公表。
結果から見えてきたことは、米軍基地が汚染源である可能性が限りなく高いということだ。60歳以上高年齢ほど数値が高く、性別では女性より男性が、浄水器使用の人よりそのまま水道水を飲んでいる人の値が高く、また、PFAS汚染がないであろうと比較対照に選んだ大宜味村でも全国より高い値で、6市町村7カ所の全ての会場で全国平均の3倍から14倍を上回り、沖縄のPFAS血中濃度は放置できないほど高いことが明らかになった。
今回、市民独自で行った血中濃度調査は、他団体にも大きな後押しとなり、本土基地周辺の地域でも独自調査に踏み切るなど大きな反響があった。沖縄県宜野湾市普天間第二小学校父母会と美ら水の会は、児童生徒が安心して学校生活が送れることを願い校庭の土壌汚染の実態を独自調査した。調査の結果は米基準の29倍のPFAS汚染であった。
国は責任の所在をはっきりさせ汚染者に速やかな解決を迫るべきだ。沖縄は空も、海も、川も、土地も、命の源である水までも奪われ、社会の保護の中で守られるべき子どもの人権や人として生きる生存権さえ奪われている。二度と捨て石はご免被る。
政府や県に要請行動
11月24日、県知事へ「有機フッ素化合物(PFAS)汚染から健康と命を守るため」要望書を手交(照屋副知事対応)。
11月25日、参議院会館院内集会ヒアリング。厚生労働大臣、環境大臣、防衛大臣へ要請書を手交。外国特派員協会で「命の水」上映と検査結果報告公表。
「有機フッ素化合物(PFAS)汚染から健康と命を守るため」要請書
1.米国要請環境局(EPA)等の指針を参考にして、PFAS規制を立法化すること
2.国民の健康と生命を守るために、国の責任で疫学調査、環境調査を実施すること
3.汚染源が疑われる米軍基地の立ち入り調査を、政府が主権国家として実施すること
4.米国の環境汚染につき情報公開させ、それに基づいて汚染を浄化させること
沖縄の闘いは限りなく続く。