統一地方選を前に 地方自治体の現場から

国の防衛政策に、住民や自治体は関われないのか

西之表市議会議員 長野 広美

 昨年秋の臨時国会は10月3日に始まり、12月10日に終えた。岸田政権は何はさておき、戦争をする国をつくろうと邁進している。にもかかわらず、国民の代表である国会の場での議論が全く聞かれないことに強い危機感を抱く。
 この国の憲法は、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意」と前文に明記しているにもかかわらずである。


由らしむべし知らしむべからず

 馬毛島は南西諸島の最北部に位置し、国際海峡である大隅海峡を通過する船舶を監視するには最適と思われる位置にある。
 ところが馬毛島は2011年、それまで東京都の硫黄島で実施されていた米軍艦載機の離発着訓練の移転先として突然報道された。日米安全保障協議委員会(2プラス2)で、日本政府が提案したものだ。その約8年後の19年11月に国はようやく土地の売買契約を取り付ける。だが、その買収経緯は疑問だらけで、いまだにその真相は明らかではない。
 この買収合意以降、基地計画の動きは劇的に変化する。長く断固反対の立場の地元西之表市長および議会も、交付金待望論や国家プロジェクトに対する諦め感が市民の中から出始めているものの、地元が明確な「歓迎」に転じるには、今なお至っていない。
 防衛省からの地元への説明は、不誠実そのものだ。買収直後においては、米軍も年2回程度訓練する自衛隊基地の「候補地」であると繰り返していた。一方で、21年2月に環境アセスメントを開始し、同年12月には3183億円に上る整備予算を閣議決定。さらに22年1月7日には米国と馬毛島基地の建設推進を確認したとして、防衛大臣は「整備地」を宣言するに至った。
 防衛省が常に使う「地元への丁寧な説明」とは事後報告でしかない。地元の不信感は広がる。完成した基地では、米軍戦闘機の昼夜を問わない離発着訓練(年間約5000回)や自衛隊戦闘機の夜間訓練や飛行訓練(年間約2万2000回)、さらに陸海空自衛隊の総合的な訓練が計画されている。これまでよりもいっそうの爆音が指摘されている次期戦闘機F35Bだが、宮崎県新田原基地に配備計画が決定されたことから専用訓練施設として馬毛島に追加された。
 また、当初説明では、米軍訓練と自然災害時の物資等集積拠点としていた施設は、今や武器弾薬の事前集積地ともささやかれている。今後どのような計画変更があるか、予想もできない。

「適正な環境影響評価」は軍事施設には不可能

 このような防衛政策を逐一、地方自治体、もしくは地方議会で議論する余地はない。あくまでも「防衛」は国の専管事項として位置付けられる。しかし、法治国家であるわが国の憲法が定める手続きは、このような国家プロジェクトだからこそ明々白々に進めなければならないのではないか。
 まず環境アセスメントは地方自治体や国民が意見する、正に行政手続きの一つである。環境影響評価法でもって、事業者に、環境保全措置を投じ環境負荷や住民負担を回避・軽減する責任を定めている。特に、自衛隊法が適用される区域には、民間機などを対象にした航空法が適用されなくなるため、環境アセス手続きが肝要になってくる。しかし、ジュゴンが死滅し深刻な軟弱地盤が露呈している辺野古新基地建設でもそうだが、この馬毛島においても、環境アセスメントはあまりに矮小化し形骸化している。そもそもの、現行制度にも深刻な不備があることを強く訴えたい。
 環境影響評価法の問題点は、多くの専門家が厳しく指摘しているが、抜本的改善はほとんど見込めない現状にある。改めて、馬毛島の基地問題で以下の点を指摘しておきたい。
 ①すべての保全対策に具体的な目標値が設定されず事業者の責任が明確ではない。
 ②馬毛島基地(仮称)のアセスメントを防衛省は飛行場2種の区分として進めている。1本の滑走路が規定をわずか50m下回ったことが理由だ。オーバーランを含めればその基準を超えており、そもそも滑走路は2本あり、このような取り扱いは環境影響評価法の目的に照らしても著しく矮小化した法解釈と言える。
 ③馬毛島に整備される新たな施設は、自衛隊の訓練のために使用するほか、島嶼部に対する攻撃への対処のための活動場所であるとする。これは追加的に基地能力を整備強化する計画を指しており、かつ深刻な環境負荷や暮らしへの影響が懸念される。有事の際の軍事行為を想定した環境評価の基準を明確化していない。軍事施設については、一般の公共事業とは別により厳しい基準によるアセスメントを求める。
 ④基地周辺住民による爆音訴訟は昭和40年代から今日まで長い期間を経過し、莫大な損害賠償金を国は支払っているにもかかわらず、地域住民の騒音問題は解消されているとは言い難い。環境基本法ではなく、軍事関係に照らした新たな騒音基準を設定することは必然である。
 ⑤日米地位協定に制約されて地元自治体の基地負担は深刻である。米軍にだけ許す真夜中3時までの離着陸訓練が現実に行われようとしている馬毛島基地計画において、そもそも適正な環境影響評価を実施することは不可能と言わざるを得ない。

国民の声聞かぬ国、闘いは国民の義務だ

環境省ヒアリング 12月5日参議院会館

 馬毛島への米軍施設に反対する市民・団体連絡会は、参議院議員会館において12月1日防衛省ヒアリングを、また12月5日環境省ヒアリングを、沖縄等米軍問題議員懇談会が主催する形で実施した。防衛省には、馬毛島基地計画の撤回を求めた。また、環境省ヒアリングにおいては、現行制度上の問題点を訴えた上で、生活環境が著しく損なわれるおそれがあるため、それらを最小限とするための課題の指摘や具体的な提言を事業者(防衛省)に提出することを要望した。
 ところが環境大臣からの意見書は同日のヒアリングを終了したわずか2時間後には公表され、馬毛島のアセス手続きは22年中に終了することとなった。環境大臣からの意見書の主な意見は、継続的な環境影響に対する対策やその後の事後調査等の可視化、透明性の確保を事業者に求めた点である。環境影響法が定める「現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に資する」目的に照らせば、不十分で曖昧な努力目標しか示せていない内容にはまったく落胆させられる。
 それでもこの意見書は、馬毛島の自然環境保全や住民生活への基地負担の在り方を、しっかり見定め、国に提言し続けることが、また一方で私たち国民の義務であることを自覚させるものである。制度改正を諦めないこともまた、国民の義務である。

迷走の市長、市民と議会を軽視・無視

 住民の生活を守るために、行政機関がどう国と対峙するかが、今回馬毛島問題でも全国的に注目されている点である。防衛省はいわゆる基地を受け入れるメリットを謳っているが、これまで軍事施設を有しない自治体にとって、基地負担のデメリットの方がはるかに大きいのは明らかである。西之表市長もこれまで「失われるものの方が大きい」と繰り返し発言してきた。しかし、22年に入り巨大な国家権力の前で地方自治体としての立場が足元から崩れ、大きく迷走している。
 3年前の2期目就任時に西之表市長は、基地建設に同意できないと不同意声明を出していた。にもかかわらず22年1月の防衛大臣の「整備地決定」宣告には、地元への配慮は一切なかった。このころから出始めた市長の不確かな言動は、防衛省に対する対等交渉ではなく、もはや要請交渉でしかない。
 22年2月、地元市民には不安もあるが期待もあることから「特段の配慮」を防衛大臣に求め、防衛省との直接協議をスタートさせた。3月には馬毛島にある唯一の漁港の浚渫工事を、巨大な建設工事に不可欠とする防衛省に同意した。さらに7月に騒音や環境問題、米軍など全般的な確認事項を21項目にまとめ防衛省に提出したものの、負担軽減のための具体的な要求ではなく、防衛大臣には「要請文」として一蹴された。
 その後、9月議会がスタートした。冒頭に市長は所信表明で、賛否を明らかにする段階にないとしながらも、行政手続きには応じると発言。馬毛島にある旧小中学校舎の歴史遺産や市有地については、2週間前の市民説明会で売却を否定したにもかかわらず、防衛省からの払い下げ申請書に対し、わずか3日間の庁内手続きを経て追加議案として市有地売却案を上程した。今後の防衛省交渉で最大の切り札である馬毛島の市有地を、これほど形骸化した手続きで決定したこと、さらに議会への事前調整も提案理由に「行政手続き」であるとの不可解な説明など、まさに迷走そのもの。
 十分な説明や対話が不足したことで市民に混乱を招き、二元代表制の一翼を担う議会を著しく軽視した行動であると、西之表市長に対する問責決議案を提案するに至った。賛否同数の市議会では、反対派議長のため推進派の1票差で問責決議案を除く全ての議案可決は避けられなかった。
 その後も、米軍再編交付金の交付決定を受け、西之表市長は早速に給食費の完全無償化を決めている。その際、「基地の是非を判断する時ではない」、「交付金受け入れは法的事務手続き」と説明する市長に対し、一部市民有志がリコール運動を12月1日にスタートさせ、もはや選挙公約違反が明らかだと厳しく追及した。

首長はどこまでも住民意思に忠実でなくてはならない

 迷走する西之表市長問題は、昨年夏の国葬問題と同じである。子々孫々まで基地負担を強いる今回の馬毛島問題について、国との交渉を「事務手続き」論で通せば、今後も市民の意思は完全に封じ込まれる。住民の代表たる地方自治体の首長として失格である。
 「賛成とだけ、言わなければ良いから」「今のままで良い。反対と言わなければ」とは、推進派市民の中から、西之表市長は防衛省にそう言われたと聞こえてくる。「賛成してくれとは言わない。態度を一度保留してほしい」(『日米地位協定の現場を行く』144ページ)と自衛隊築城基地の現場からの報告に書かれてある。防衛省の常套手段である。交付金をメリットと説明し、交付された自治体の多くはひたすら防衛省参りに陥り依存から脱却できていない。
 馬毛島での基地建設は、新しい土地に軍事基地をつくる、戦後初めてのこととなる。まさに、憲法が保障する地方自治権が試されている。根拠のない努力目標を国家機関が大きく掲げて、地方自治体の長は事務手続きと称して説明責任を持たず、また選択に対する責任もあいまいなまま、この馬毛島に今や巨大な軍事施設建設が、いよいよ始まろうとしている。憲法が定めるこの国の健全な運営は、大きな岐路にある。
 真の意味で国民の関与が肝要であり、今後一層地元からの発信を続けたい。

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