日本に足りないものは「反撃力」ではなく、
戦争回避の戦略
国際地政学研究所理事長(元内閣官房副長官補) 柳澤 協二

「敵基地攻撃で抑止」という不可解
ロシアのウクライナ侵攻を受けて、日本では、反撃力(敵基地攻撃能力)をはじめとする防衛力の抜本的強化と、日米同盟強化の議論が盛んである。これらはいずれも、抑止力・対処力の強化として語られている。それだけの力を持てば戦争を抑止すると同時に、戦争になっても負けない、という論理である。
国際地政学研究所理事長(元内閣官房副長官補) 柳澤 協二

ロシアのウクライナ侵攻を受けて、日本では、反撃力(敵基地攻撃能力)をはじめとする防衛力の抜本的強化と、日米同盟強化の議論が盛んである。これらはいずれも、抑止力・対処力の強化として語られている。それだけの力を持てば戦争を抑止すると同時に、戦争になっても負けない、という論理である。
『日本の進路』編集部
第2次岸田改造内閣が8月10日、発足した。首相は記者会見で、「防衛力の抜本的強化が最重要課題」と述べた。
感染症の爆発的蔓延、急激な物価高、低迷する経済。命と暮らし、経済を守ることが最重要課題だ。防衛力強化では平和は守れない。近隣国を「敵」にしない外交も喫緊の課題。
新内閣も、「旧統一教会」との関係が次々露呈。ましてや、「安倍路線の継承」はあってはならない。
「アジアの平和と国民の命を守る」国民的闘いが急がれる。

沖縄だけでなく、九州各県をはじめ全国の自衛隊で、米軍で、対中国の戦争準備態勢強化が急である。
鹿児島県から関東まで、各地からレポートしてもらった。築城基地強化では、防衛省は「武力攻撃を受け、沖縄の基地が使用不能になった場合」と言う。その時、沖縄はどうなっているのか? ゾッとする動きである。(編集部)
◇ 進む軍事強化――「本土」の「沖縄化」(各地レポート)
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1 進む軍事強化――「本土」の「沖縄化」
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鹿児島での軍事基地化の動き 強引に進む馬毛島基地計画 鹿児島県議会議員 上山 貞茂 |
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2 進む軍事強化――「本土」の「沖縄化」
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自衛隊新田原基地(宮崎県) F35Bを20機配備、米軍用弾薬庫も 宮崎市議会議員 中川 義行 |
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3 進む軍事強化――「本土」の「沖縄化」
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自衛隊水陸機動団強化(佐世保市) 訓練に反対し漁民や住民が声を上げる 広範な国民連合・長崎 代表世話人 中村 住代 |
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4 進む軍事強化――「本土」の「沖縄化」
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自衛隊築城基地(福岡県) 「沖縄の基地が武力攻撃で使用不能になった場合」にと急ピッチで進む米軍基地化 平和といのちをみつめる会代表 渡辺 ひろ子 |
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5 進む軍事強化――「本土」の「沖縄化」
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極東最大の岩国基地(山口県) 連日の訓練、機能強化が進む 岩国市議会議員 姫野 敦子 |
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6 進む軍事強化――「本土」の「沖縄化」
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米軍Xバンドレーダー基地(京丹後市) |
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7 進む軍事強化――「本土」の「沖縄化」
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横須賀と厚木――大きく変わる基地の使い方 |
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8 進む軍事強化――「本土」の「沖縄化」
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米軍横田基地 進む実戦訓練基地化 横田・基地被害をなくす会 代表 大澤 豊 |
アフガン戦争などで『紛争処理』に関わった 伊勢崎 賢治 教授に聞く

「戦争反対」や「反戦」というスローガンは非常にミスリードされやすいものになっている。「ロシアによる侵略に反対」に僕も異論はないが、それはウクライナに大量の武器供与をしている米国・NATOの陣営と、「ウクライナのようにならないために抑止力が必要」と日本の軍備を倍増し日米同盟を強化したい陣営に、巧妙に取り込まれる。
日本の護憲派も「反戦」を叫ぶが、それはウクライナに「もっと戦え」と言っているのと同じだと気がつかない。そして、「プーチンは独裁者」には僕も異論はないが、紛争当事者の片一方だけを「悪魔化」し、第一次、第二次世界大戦のように、相手が滅ぶまで完全勝利を目指す戦争に参戦していることに気がつかない。
横田・基地被害をなくす会 代表 大澤 豊
横田基地では最近、次々と新たな課題が増えている。5月に「Beverly Morning22-01」という名前の訓練が行われ、米軍三沢基地の戦闘機F16が12機飛来。迅速機敏戦闘展開(ACE)と重大事故即応演習(MARE)が行われた。早朝から夜間という時間帯に複数機で同時に離発着し、基地周辺だけではなく遠隔地にまでも轟音が鳴り響き、基地から離れて生活している私自身も驚いた。訓練のために三沢基地所属のパイロットや整備士など150人が参加し、期間中は横田基地に滞在した。また訓練名に22-01という番号が振り付けられていて、次の22-02もあるかもしれないと思わされた。
木元 茂夫(神奈川県を中心に反戦・反基地運動に参加)
米の原子力空母リンカーン(全長333m、満載排水量10万3637トン)の入港について、外務省北米局日米地位協定室長が横須賀市に説明に来たのは5月18日。しかし、その内容たるや「具体的な入港日時、滞在期間については、米軍の運用に関わるため現時点では承知していない。原子力艦船が我が国に寄港する際、寄港の24時間前に米側から通報を受けることになっている。今回の寄港も同様である」という極めて不親切な、最小限の情報提供であった。
京丹後市議会議員・米軍基地建設を憂う宇川有志の会 永井 友昭
京都府京丹後市にある米軍Xバンドレーダー基地(在日米陸軍経ヶ岬通信所)は、丹後半島経ヶ岬の西の海岸に突出した崖の上に建設されています。このところ盛んに日本海へ発射される北朝鮮のミサイルを早期に捉えて米本国の防衛を果たすというのがその目的です。
岩国市議会議員 姫野 敦子
極東最大の米軍基地になった岩国基地には、空中給油機、空母艦載機やF35Bなどに加えて、このたびステルス機能の戦闘機F35Aがカナダから、またF22も飛来。このF22はステルス性能に加えて多様な任務にも対応できる性能を持ち、猛禽類を意味するラプターと言われる。数日前には無人偵察機の「トライトン」も飛来している。
議会中も昼休みの12時40分ごろには連日次々と爆音を轟かせて離陸していく。騒音の苦情もいつにも増して多いと聞く。
訓練の狙いは即応能力の向上。背景には中国や北朝鮮の存在があり、外来機の飛来は力の空白を生じないようにとの配慮などで仕方ないと言われている。
空も心配だが、基地に付設の軍港には2021年度には17隻、本年度もこの2カ月で4隻が寄港と、これまでの15年間に5隻とは比べものにならない数の艦船が接岸、戦略上の拠点化が進んでいる。
平和といのちをみつめる会代表 渡辺 ひろ子
築城基地は、太平洋戦争中は海軍の航空隊の基地であり、戦後の一時期は米軍が駐留、その後、航空自衛隊基地になりました。戦時中は米軍の激しい攻撃で多大な被害を受け、戦後の米軍駐留時には米兵による犯罪の犠牲に泣いた人々も多くいます。
しかし、そういう体験をもつ人たちも高齢化し、「米軍は絶対にダメだ!」と語る老人もいなくなりました。
1988年に始まった築城基地での日米共同訓練はその後、「在日米軍再編に伴う訓練移転」という名に変わり、「沖縄の負担軽減のため」という大義名分を得て実施されています。
広範な国民連合・長崎 代表世話人 中村 住代
西海市の崎戸町で陸上自衛隊水陸機動団の訓練計画についての住民説明会が開催されたのは、昨年2021年10月18日だった。
訓練は町内すなわち島の全域で、しかも毎月7日未満で年間70日未満の訓練期間で恒常的に実施されるという。ヘリコプターの騒音による生活環境の悪化や漁業被害が危惧され、到底受け入れることはできない。急きょ「崎戸町生活環境を考える会」(代表・上野久美子さん)が結成された。11月24日、市長に訓練計画中止を求める文書を提出し、さらに12月22日に、市長に「住民の合意が得られていないことを踏まえ、陸上自衛隊水陸機動団の訓練計画中止を求める要望書」を直接手渡し、意見交換した。
宮崎市議会議員 中川 義行

防衛省は新田原基地に新たにF35Bを2024年度に6機、25年度に2機配備し、将来的に約20機配備することを明らかにした。防衛省は新たな自衛隊基地整備が計画されている馬毛島(鹿児島県西之表市)に近いところから新田原基地が最適と説明。F35Bはレーダーに感知されにくいステルス性能を備え、短距離離陸、垂直着陸ができるのが特徴。F35Bを20機も配置する目的は何だろうか。
鹿児島県議会議員 上山 貞茂

西之表市矢板市長は2月3日、岸信夫防衛相と馬毛島自衛隊基地計画の件で会談をした際、地元の意向を反映させるため、計画を前提に国と市による協議の場の設置を要請、基地整備に伴う米軍再編交付金や自衛隊員の住居について「特段の配慮」を求める要望書を提出した。これまで「計画に同意できない」と反対の立場を堅持していただけに、馬毛島への米軍施設に反対する市民・団体連絡会などに衝撃が走った。基地の賛否で島民の分断を避けたいと思いを語っていた市長だが、昨年末に総額3千億円超の基地整備費を計上した2022年度政府予算案が閣議決定され、1月には馬毛島が基地の「候補地」と日米間で確認、賛成派市民から「反対していたら交付金がもらえない」との声に押された形である。
国との協議がなされないまま地元無視の強引な手続きに対し、市長は「現実的な対応で市民の不安を解消する必要がある」としているが、賛否が拮抗している問題であるからこそ拙速な行動は慎むべきだった。会談には、鹿児島4区選出の森山裕衆議院議員も同席、圧力が働いたのではないかと推察されるが、計画を受け止めることが前提でなければ協議の場を設けないとする国の姿勢は民主国家と言えるだろうか(市長は賛否を表明していない)。
広範な国民連合・東京はさる4月25日、第18回総会を開催した。4つの都政報告で年間方針の提案を補足し、新役員の選出を行った。
記念講演として、新外交イニシアティブ代表の猿田佐世さんを講師に、「台湾有事を避けるために」と題してウクライナ情勢と緊迫の度を増している東アジア情勢について話していただいた(概要)。
新外交イニシアティブ(ND)代表・弁護士 猿田 佐世

2月24日にロシアがウクライナに侵攻し、世界は騒然としました。凄惨な被害を受け続けるウクライナの情勢を見て、元来9条護憲を掲げていた方々の中には、これまでの信念が揺らぎ、軍事力拡大が必要なのではないか、と考えを変えた方がいるとも耳にしています。私も、攻撃開始後1週間ほど、今後の自分の考えをどのように伝えるべきか、大きく影響を受けた日本社会の中で悩みました。
大国が戦争を決意したら「抑止力」とかなんとか言っていても戦争になるんだ、そういう決意をさせない環境づくりが大事なのだと改めて実感しました。戦争が始まってしまったら取り返しはつかず、戦争を始めさせないことが重要です。