東アジアで2度と戦争を起こしてはならない

沖縄県平和地域外交が本格始動!

玉城デニー知事に聞く

地域外交に取り組む思い

 沖縄県では令和5年度を地域外交の準備期間として、地域外交室というセクションを設けました。それまでも地域間外交に取り組んでいたのですが、基本方針がありませんでした。いろいろな分野の方々から意見を伺い、1年かけて基本方針を策定させていただきました。
 それと並行して、コロナ禍で停滞していた経済・文化交流を復活し活性化させることを目的に、私や副知事が韓国、中国、アメリカ、カナダ、ブラジル、スイス、台湾、フィリピン、シンガポールなどを訪問し、海外との国際交流や地域外交を積極的に進めていきたいということを伝えてまいりました。


 例えば昨年7月に中国北京で李強首相と面談させていただき、ビザ申請の手続きの簡素化や直行便の再開が実現いたしました。また9月にはジュネーブの国連人権理事会で国際社会に米軍基地問題や沖縄県民の平和を希求する思いを訴えてまいりました。なぜ沖縄県が平和や人権、民主主義に関して踏み込んで発言するのか。われわれの歴史を語り、戦争の悲惨さを語り、沖縄の心を伝えてまいりました。東アジアで二度と戦争を起こしてはならないというのが沖縄県民の強い願いです。
 今年4月には地域外交室を格上げして平和・地域外交推進課を設置しました。県の各部局が持っている(例えば、経済・文化・観光・スポーツ交流の推進など)地域外交の取り組みを束ねる体制が整い、県庁全体が同じ方向性と理念を持って取り組むことができるようになりました。県民の皆さんをはじめ国民の皆さんにもわかっていただけるように、折あるごとにそういう姿勢を積極的に見せてまいりたいと思います。

沖縄のソフトパワーが
最大の魅力

 地域外交は多様な方々が主体になります。自治体や企業、NGOなどが地域外交に主体的にかかわることによって、沖縄県が考える地域外交がより多くの方々の活動につながっていけると、非常に期待しています。沖縄県は東南アジアに近いという地理的な優位性や独自の自然、歴史、文化、伝統芸能などのソフトパワーが最大の魅力です。また島しょ地域として生活の中で培ってきた知見や技術、さまざまな分野における国際ネットワークなどが既にあります。それを生かして、各国・地域との交流や協力などの多様な活動を積極的に展開できます。
 私も中国、台湾を訪問し、現地には大学生のエイサーチームがいくつもあってエイサー大会も開催されていることを聞き、沖縄のポテンシャルはしっかりと認められているという感触を得ました。沖縄のソフトパワーをしっかりとつなぎ、人と人とが触れ合ってお互いを理解し、その多様性や包摂性についてお互いを知り、文化を知り、歴史を知って学び合うことによって、それが具体的に経済や物流等の交流に広がっていくことが重要だと思います。
 商工労働部は、ResorTech(リゾテック) EXPOという情報通信産業の国際IT見本市を開催しています。リゾテックとはリゾートとテクノロジーを掛け合わせた造語ですが、これには県外、海外の企業も大いに出展意欲を示しています。東アジア各国・地域の強みとする部分を沖縄県で披露していただき、そこで企業とマッチングしていくようなチャンスをもっとつくっていきたいと思います。

地域外交で沖縄と日本の良さを発信

 沖縄県の地域外交基本方針を策定するためのパブリックコメントには県内外から116件の意見が寄せられ、関心の高さを実感いたしました。そこでは沖縄県が地域外交を取り組むことに前向きなご意見が多くありましたけれども、中には県が地域外交という言葉を用いることに否定的な意見もありました。
 よく安全保障と外交は国の専権事項と申しますけれども、日頃から多くの外国の方々が日本を訪れて、日本の文化を堪能し、食に驚き、高い技術力に魅力を感じて、リピーターにもなっていただいています。ですから、沖縄県は積極的に自ら地域外交で発信して、沖縄の良さも日本の良さも感じていただき、平和の中で安心して過ごせる時間を提供できる、そういう魅力的な島でありたいと思っています。こうした普遍的な価値観に沿った地域外交は、同時に国の外交を補完するという大きな意義があると思います。外務省も地域が海外と行う交流は国の外交を補完するということで積極的に推進しております。
 われわれの考える地域外交は、地域が平和で信頼関係がしっかり構築されているという中での交流です。だからこそ平和・地域外交推進課の名称に平和という言葉を入れました。平和がいちばん大事です。誰も戦争したいとは思っていない。平和を維持していくための取り組みと、この地域外交を等しく一緒に考えながらやっていきましょうということです。私が中国を訪問したときも、台湾を訪問したときも、非常に理解を示していただきました。

歴史を踏まえ未来を語ろう

 日本としては国民や特に将来世代に対して、これまでの歴史をどのように振り返って、そこから何を学び、何を反省し、それをこれからの改善につなげる、ということが言えるような方針を持つことが、非常に重要だと思います。
 中国との歴史的な関係、朝鮮半島における関係もそうです。かつての戦争がどうであったか、その前の歴史がどうであったか、沖縄に対してはどうであったか、アジアに対してはどうであったか、厳しい時代や戦争のときにどのようにしてその時代の色が塗られていったのか。国家の責任として正しかったこと、間違っていたことを常に検証して確認して実証する作業を欠かしてはいけないと思います。日本はその歴史を踏まえて「未来をこういうふうにしたい」ということを政治の中でしっかりと語る必要があります。
 もはや2000年代の途中から日本の輸入・輸出は中国、台湾、上海、香港その一帯の中華圏がアメリカを逆転しています。日本経済の半数が中国を中心とするアジア圏をパートナーとしているわけです。
 この良好な関係をこれからも維持しようと考えるのであれば、相手をどう見るかということが、相手の受け止め方にも映るわけですから、双方が丁寧に対話をして「改善すべきことは改善し、協力することは協力していきましょう」という信頼関係を構築するよう、私どもも常に政府にお願いしていますけれども、多くの国民の皆さんにもお願いしたい。例えば外見や振る舞いを日本の価値観で見てしまうことは、そこに何らかの誤解が生まれ、色眼鏡で見てしまいかねないという危ないところもあるのではないかと思います。
 アジアの国と地域のみんなが幸せになること、戦争がないこと、お互いのことを十分理解し、自分たちの国が発展し成長していけること、そういうことがわれわれの共通した理解であり方向性だということを確かめ合うことが重要だと思っています。それは一方的に押し付けてもできるものではありませんし、一方的に押し付けられるものでもありません。
 対話による信頼を基にした確認作業があれば、「ここはちょっと問題があるので先送りしましょう。これはかなり複雑なのでいったん棚上げしましょう」という、そういう判断も必要で可能になると思います。そういう判断の中に「これは一緒にやりましょう」ということが、経済、観光や物流であれ、人流であれ、交流であれできる。それが確認できるということはウインウインの互恵関係をつくる大きな方向性を見つけることになります。

平和外交こそ
軍事に勝る抑止力

 私たち沖縄は70%の米軍専用施設面積の負担軽減のために米軍基地施設を県外国外に移してほしいということを言います。「なぜ県外? 同じ日本なのに。国外でいいのでは?」と言う方もいますが、もし基地が皆さんのところに来た場合にどうしますか? このことを自分事として考えてください、とお話ししています。
 本来であればアメリカの軍隊はアメリカの領域にセットバックさせることが軍の論理にもかなっています。そのときに「周辺国に抑止力が低下したと思わせてはいけない」とことさらに言う人がいます。抑止力を低下させているわけではないことを理解させるためには、普段の平和外交が重要です。平和外交が足りていないから、軍事の抑止力に頼らざるを得ない、というような表現を前面に立ててしまう。それは正しいことなのかどうか、国民の皆さんに考えていただきたい。国民の力こそ政治を変える大きな力であり、政治を推進する大きな後ろ盾になるわけですから。
 そのために沖縄県も正しい情報を伝えていく努力を積み重ねたいと思います。沖縄県はトークキャラバンといって、沖縄のこれまでの経緯と現状、未来をどう望んでいるのかを伝えるために、私が年に4、5回ぐらい日本各地を回っています。「沖縄が求めているのは日本全体の平和でありアジア全体の平和です。だから米軍基地を担わされ続けている沖縄の県知事はそのために声を上げ行動しなければいけないという責任があるのです」という話をすると、皆さまに理解していただけます。

地方自治・自己決定権は原点

 いま国会に地方自治法改定案が提出されていますが、地方自治の自己決定権は住民にいちばん近い責任者が行うべきであるということが、地方自治の原点だと考えております。ですから沖縄県も地方自治の本旨、そして自由・平等・基本的人権の尊重という法理に照らして判断を行っているわけです。また地方自治を預かる者が県民や県の将来にとって望ましいのは何かを決定できるようにすることが重要です。国が進めようとしていることであっても、地域住民にとって非常に問題が多いことは政府ときちんと対話する環境が重要です。
 国が地方自治体に対応指示できる補充的な指示ですが、想定外の事態に万全を期す観点からその必要性は一定の理解はするものの、コロナ禍では沖縄県の感染状況に対応するため、数々の独自の手立てを講じざるを得ませんでした。最初は国も腰が重かったのですが、われわれが責任を持ってやりたいということを言い続けて、厚生労働省、政府も徐々にその方向性を認めてくれました。
 こうした地域の実情を踏まえた独自の取り組みを阻害することがないよう、憲法で保障された地方自治の本旨をないがしろにすることがないように、地方分権改革によって実現した国と地方の対等平等な関係はこれからも維持されるべきであると思っています。
 全国知事会が求めているのは、国が補完的な指示を行使する場合は、運用の明確化をしてくださいということです。国が決めたからやりなさいというと、辺野古の代執行の二の舞いにならないとも限らないわけですから、地方自治体としっかりと協議することを明確にしていただきたいと考えています。
 沖縄県は沖縄における自己決定権も当然ですが、普遍的な民主主義や人権尊重という理念を理解していただけるように、平和地域外交の基本方針に沿って積極的に国内外に発信していきたいと考えています。

(見出しとも文責編集部)