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主張 ■ 北から南へ 世界の構造は変わった

米国の巻き返し「地域戦争」策動に最大の警戒を

『日本の進路』編集部

 1月1日、BRICSはサウジアラビア、イランなど5カ国を新メンバーに迎え10カ国となった。他方、米国に支えられたイスラエルのジェノサイド攻撃に対するパレスチナやイエメンなど中東・アラブ人民の闘争は発展する。
 新年早々、世界構造が激変したことが印象づけられた。もはや米国を頂点とする「先進」資本主義大国・帝国主義が支配する世界は過去のものである。


 中国をはじめとする新興国・途上国、グローバルサウスと言われる国々、長い間帝国主義に蹂躙されてきたアジア・アフリカ・ラテンアメリカの諸国が国際政治の前面に登場している。50年前、中国の鄧小平副総理は国連総会で、途上国・非同盟諸国の「第3世界」が国際政治に登場したとの「三つの世界論」を演説した。ベトナムからの米軍の惨めな敗退、サイゴン陥落は翌1975年だった。
 以来半世紀、世界は文字通り変わった。
 新しい国際秩序へ、再編の闘争が進んでいる。国連でのパレスチナ戦争への対応の決議でも米国の決定的な孤立は明白だ。だが、再編の決着には時間がかかるであろう。
 帝国主義はおとなしく歴史の舞台から退場することはない。激しい闘争が避けられない。米国が覇権維持に画策する戦争を世界は結束して阻止しなくてはならない。
 この時代は「アジアの時代」でもある。アジアの国々、人びとが、アジアの、自らの運命を決める。
 日本はどうするか、選択の時である。またも、「脱亜入欧」の誤りを繰り返すのか、自主の日本としてアジアで共に繁栄するか。
 戦争の道を拒否し、平和と繁栄を選択しようではないか。

「米国」の敵は「米国」

 米国の国際政治分析家イアン・ブレマー(ユーラシア・グループ代表)の今年の「10大リスク」のNo.1は、「米国の敵は米国」である。
 「3つの戦争が世界情勢を左右する。ロシア対ウクライナは3年目、イスラエル対ハマスは3カ月目に入った。そして米国対米国の争いは、今にも勃発しそうだ」という。米国内の対立はすでに米国が米国を敵とする「戦争」の域に達しつつあり、それが世界情勢を決定的に左右するという予測である。
 南北戦争以来の「内戦」状態と見ている。「共和党州と民主党州は、政策面だけでなく、居住、ビジネス、投資の誘致先という点でも、ますます分極化が進む」。米国は分化し、文字通り「米国の敵は米国」となる。「米国はすでに世界の先進工業民主主義国家で最も分裂し、機能不全に陥っている。2024年の選挙は、誰が勝ってもこの問題を悪化させるだろう」
 かくして20世紀以来、とりわけ第2次世界大戦後の世界を、帝国主義国のトップに立って牛耳り支配した米国は支配力を失った。
 しかし、ブレマーも間違えた。「米国の軍事力と経済力は極めて強力なままだ」と。やはり米国人なのか。

ロシアに勝てない経済力

 確かに米国の「軍事力」は、「極めて強力」かもしれない。ただし、通常戦力はからきしダメだ。兵器・弾薬は、先日のオスプレイ墜落事故が露呈したように「張り子の虎」だ。ウクライナだけで足りなくなって日本からパトリオットミサイルを輸入する。兵士の戦闘力は、アフガニスタン敗走に見られる通りだ。唯一強力なのは「核戦力」、それも戦略核分野だけだ。だが、対抗する戦略核を保有する国は増えて、自国を犠牲にしない限り使えない武器だ。しかも、その危険がないとは言えない恐ろしい世界となっている。
 経済力は「極めて強力」どころか、ロシアにも勝てない。世界GDPに占める米国の割合はおよそ4分の1、24%強だが、フランス人のエマニュエル・トッドが指摘する(「文藝春秋」23年12月号)。「ロシアとベラシールのGDPは合わせても西側陣営のわずか3・3%にしかならない」。「ではなぜこの微々たるGDPで、ロシアはミサイルを生産し続けられるのか。問題は(米国経済の)金融化、サービス産業化が進むなかで、GDPがもはや『生産力=真の経済力』を測る尺度として効力を失っている」からだと喝破する。

「非G7」が優位に

 世界の工業生産力、トッド風に言うと「真の経済力」の4分の1は中国にある。GDPで見てもG7「先進資本主義国」は世界の半分に満たない、43%程度だ。実態に近い購買力平価GDPでは「G7諸国」は、すでに「非G7のトップ7諸国」に負けている。
 経済力にも規定されて、一握りの大国、米国を頂点にG7「帝国主義国」が世界を支配する時代は過去のものとなっている。
 拡大BRICSや東南アジアのインドネシア、ベトナム、タイなどをはじめ世界の新興国・途上国はますます急速に発展するだろう。世界の比重はさらに北から南へと移動する。
 しかもG7大国は、新「南北戦争」かの様相を呈する米国、移民・外国人を排斥する極右政党やポピュリスト政党への支持が急増する欧州各国、経済は衰退し政治も歴史的な危機に直面する自民党政権の日本などだ。「北」の国々の内政が再編期の世界を最終的に決定づけることになる。

危険な米「帝国戦略」

 しかし、衰退した米国は黙って「世界支配」から撤退しない。
 米中間の焦点となっている「台湾」で「総統選挙」が行われ、民進党の頼清徳が勝利した。現在の蔡英文以上に「独立派」と目される頼「総統」は米国にとっても利用しやすい。だが、同時に行われた立法院議員選挙では野党国民党が第一党となり、民進党は少数となった。「予算」など頼「総統」には大きな制約だ。本誌で元外務省情報局長孫崎氏は、「台湾総統選挙で台湾有事は少し遠のいたことは、日本にとって幸いである」と見る。そうだろう。
 だが、「台湾有事は少し遠のいた」以上ではない。
 衰退が決定的な米国は、中国を追い落とし覇権国の特権を維持しようと画策を強める。中国が「核心的利益中の核心」とする台湾の「独立」画策は、米国の反中国包囲策動の「核心」をなすものだ。
 米国はおとなしく「覇権国」から引き下がることは決してない。
 米国が、英国を追いやって世界覇権を手に入れたのも、戦後世界支配に成功したのも、「勢力均衡策」によってであった。影のCIAと言われたジョージ・フリードマンに言わせると、「世界や諸地域で可能なかぎり勢力均衡を図ることで、それぞれの勢力を疲弊させ、米国から脅威をそらす」「同盟関係を利用して、対決や紛争の負担を主に他国に担わせる」(『激動予測』)。これが帝国戦略だ。
 アジアでは、日本と中国を争わせる。ヨーロッパでウクライナを焚きつけロシアを戦争に引きずり込み、ドイツを対立させたように。これが米国の「勢力均衡」の策略だ。

危険を買って出る麻生の愚

 そうしたなかで驚いた。麻生太郎自民党副総裁が、「我々は、台湾海峡で戦う。潜水艦で、軍艦を使って、というようなことになる。台湾の有事は間違い無く、日本の存立危機事態にもなります」と講演したという。報道によると麻生氏はその後、ワシントンを訪問、4月にも予定される岸田首相訪米の環境整備などを進めたという。
 大統領選挙もある米国に代わって日本が台湾で「独立勢力」を激励し、両岸関係の緊張を激化させる危険な役割を買って出ている。首相訪米と台湾海峡の緊張激化は、岸田政権の延命と南西諸島軍事強化の世論形成に好都合と煽っている。だが、危険きわまりない戦争挑発外交だ。
 世界の趨勢を見据えて、米国の策動する日中対立策動を打ち破り、東アジアの平和と発展のための闘いを強化しよう。