玉城沖縄県知事訪中

多面的な交流へ確かな手応え
新時代の日中関係 アジアの持続的な平和と繁栄めざす

『日本の進路』編集部

 日中平和友好条約45周年の夏、展望ある新たな動きが始まった。玉城デニー沖縄県知事が中国を訪問、中国側は歓迎し李強首相など政府要人らと会談した。一連の交流で玉城知事は、「日中友好関係の強化、さらにはアジアの持続的な平和と繁栄に貢献したい」と強調し、また、運休していた直行便の再開・拡大、訪中時のビザ取得緩和などを要望した。7日、沖縄に戻った知事は、「沖縄と中国の多面的な交流の活性化に向けて確かな手応えを感じた」と成果を確認した。新時代の日中関係へ、沖縄は突破口を切り開いた。沖縄が交流を継続・強化し、全国も続いて、この道を確かなものとしたい。

長い交流の積み重ねと指導者の決断

 玉城知事は7月3日から日本国際貿易促進協会(略称・国貿促、会長は河野洋平元衆議院議長)の訪中団の一員として北京を訪問した。その後、県が友好関係を結んでいる福建省の福州市を訪れ省市の幹部などと交流した。
 知事が国貿促の訪中団に加わるのは翁長雄志知事以来5回目。しかし、辺野古新基地建設を受け入れた仲井真弘多知事時代の副知事も団に加わるなど、国貿促の団による県と中国の交流は深い歴史を持つ。また、復帰後初代の屋良朝苗知事は復帰直後の1974年、友好訪中団団長として訪中し、その後の大田昌秀知事時代には沖縄県と福建省の友好県省関係を締結した。県省関係は26年を経過し昨年11月、25周年の式典を開催している。こうした努力を受け継ぎ発展させた玉城知事訪中であった。
 中国側も、李首相が会談したのをはじめ「異例」と評価されるほど歓迎した。知事訪中の1カ月前には、6月4日付の共産党機関紙「人民日報」が1面で、習近平国家主席が国家史料館を視察し、「(福建省)福州市で働いた際、琉球との交流の根源が深いと知った」などとの発言を掲載した。最高指導者の下で政府挙げての周到な準備が始まっていたのであろう。
 知事が北京に到着した当日には、「人民日報」の海外記事を扱う「環球時報」が1ページを使って玉城氏のインタビュー記事と北京の琉球人墓地のことを掲載した。会談で李首相は「中日両国は必ず友好的に共存し、支持し合い、協力の中でウィンウィンを実現することが重要」と強調した。知事の要請事項に対しても「関係部門に指示を出し、検討したい」と即答、前向きな姿勢を示した。
 この中国政府の対応を北京滞在中の沖縄の若手研究者大城尚子さんが、「今年3月、米国務省が、訪問した玉城知事を裏口から入退館させた対応と180度異なる中国の歓迎ムードをうれしく思った」と、「琉球新報」に投稿し、「知事が琉球人墓地を訪れた翌日、たくさんの中国人が墓地を訪れたそうだ。知事の訪問は善隣友好を目指す沖縄的平和外交になった」とも報告していた。

中国「包囲網形成」か「持続的交流と発展」か

 周知のように日本と中国の関係は、過去の侵略戦争を「責任を痛感し、深く反省」(共同声明)して成立した1972年国交正常化から51年、多方面で深まり、とりわけ経済関係は密接不可分となっている。
 ところが安倍、菅、岸田の歴代政権は、「台湾は中国の不可分の一部」との両国の合意を反故にして、「ウクライナは明日の東アジア」と台湾有事の危機を煽る。その上で中国との「安定的、建設的な対話」を望むなどと言っても、衣の下の鎧である。昨年暮れの安保3文書閣議決定で中国を「最大の戦略的挑戦」と敵視して以後、広島でのG7サミット、最近はNATO首脳会議にまで出向きNATO東京事務所開設を画策するなど中国包囲網形成に余念がない。
 日中平和友好条約45周年の今年、岸田政権のような「反中国」包囲網の軍拡策動ではこの国の未来はない。
 玉城知事の訪中成功は、沖縄を再び戦場とさせないことを望む県民のひとつの勝利である。私たちには新時代の日中関係を確かなものとして発展させる努力が求められる。
 知事は、6月23日の沖縄全戦没者追悼式の平和宣言で、安保3文書について「沖縄における防衛力強化に関連する記述が多数見られることなど、苛烈な地上戦の記憶と相まって、県民の間に大きな不安を生じさせて」いることを指摘し、「対話による平和外交が求められて」いると提起した。さらに地域外交について「沖縄県が築いてきたネットワークを最大限に活用した独自の地域外交を展開し、同地域における平和構築に貢献できるよう努め」ると提起した。
 県は、地域外交室を設置し、3月の知事訪米、6月の照屋義実副知事の韓国済州島訪問など地域外交を進めてきた。そして知事訪中であった。知事は、中国脅威・敵視論に反対し、日本と中国の交流の発展をめざしている。

誰が「台湾有事」を煽っているか

 6月末の沖縄県議会本会議で複数の自民党県議が「尖閣諸島について何も言及しないと容認していると誤解される」などと知事を攻撃した。「産経新聞」などは訪中後も社説などで中国の「沖縄分断策動」などと攻撃する。沖縄県民の声を聞かず、沖縄を分断してるのはわが国政府ではないか。
 しかも、知事が北京へ発った4日、台湾に臨む沖縄・与那国島に、台湾の游錫堃「立法院長」なる人物が約80人を引き連れて船で訪れた。游氏は「この地を踏んで、安倍元総理が言っていた『台湾有事は日本有事』を肌で実感した」などと述べたという。「日華議員懇談会」の古屋圭司会長らが呼び寄せたもので、古屋氏は「共通の価値観を持つ国々が連携して(中国を)牽制していくことが、極めて重要」と述べた。
 誰が緊張を煽っているか明らかである。その後も、与野党含めて国会議員などの台湾訪問が続く。何を狙っているのだろうか。

世界の重心の変化

 世界は歴史の転換点を経過中である。
 中国と東アジアが世界経済発展の中心となった。その東アジアの地理的中心に位置する沖縄がこのチャンスを生かし、万国の津梁となって「大交易時代」のような平和と繁栄をめざすのは当然である。
 英国の代表紙「フィナンシャル・タイムス」のマーティン・ウルフは次のように言っている。
 〈1820年当時、アジアは世界GDPの61%を生み出していたのに対し、西欧はわずか25%だった。1950年にはアジアの比率は20%に下がり、西欧は26%に達した。だが2018年には、西欧は15%に下がり、アジアは48%に回復した。重要なのは東アジアがけん引役となってそれを回復させた点だ。その過程で世界全体の重心も再び大きく変わった。こうした各国が協力、統合する動きは、中国が必ず中心になるという事実も浮き彫りにする。
 この世界の重心が変化しつつあるという点について最も重要な点は、これは自然な流れだということだ。欧州と米国が享受してきたすさまじいまでの勢力は衰退しつつある。大災害や大惨事が起きない限り、こうした状況は続くだろう。〉(「日経新聞」23/06/09掲載)
 そう、自然の流れだ。衰退するアメリカは、ウルフ氏が言う「大惨事」を引き起こしてこの自然な流れを押しとどめようと画策している。
 そそのかされて中国との軍事衝突・敵対の道を進むか、それとも日中関係を発展させ持続的な平和と発展のアジアの一員として繁栄するか。日本は岐路にある。
 沖縄県民と玉城知事が切り開いた道を前に進まなくてはならない。