家族農業など多様な経営体の共存・共生
北海道農民連盟書記長 中原 浩一
北海道農民連盟の昨1年間の運動の柱は、「基本農政対策」、「米・水田農業対策」、「畑作・野菜対策」、「酪農・畜産対策」、「税制対策」等であった。一昨年からの継続課題を整理しつつ、新たな方針のもと活動してきた。
すでに発効しているTPP11、日欧EPA協定等の農業への影響の検証と対策も重要な課題であった。昨年1月1日より発効した日米貿易協定、その発効から4カ月以内に「第2段階の交渉」を開始するとの懸念に備える課題もあった。さらに昨年2月14日付での米国からの加工馬鈴薯輸入期間撤廃に引き続き、畑作農業にとって脅威となる米国産生馬鈴薯の解禁要請も3月以来浮上してきている。
昨秋の臨時国会へと先送りとなっていた種苗法改正では、生産者が登録品種の自家増殖を行う際に許諾制導入による煩雑な事務手続きや使用料など新たな負担が危惧される。コロナ禍で学校休校に伴う牛乳需要減退での加工原料向けへの対応、牛肉や野菜などの消費低迷・需要対策、米の需給緩和を巡る対策など、緊急要請や議会対策などを含め幾度となく行ってきた。
また、昨年3月に閣議決定された新たな「食料・農業・農村基本計画」では、「産業政策」とともに、農業・農村の有する多面的機能の維持・発揮を促進する「地域政策」を車の両輪としての推進がうたわれた。また、「家族農業の重要性」も盛り込まれた。これらは実効性ある政策を求めてきた経過もあり、具体的施策で推進を求めていくことは今後の課題である。
コロナが突き付けた食料安全保障
コロナ禍による国内外での人や物の移動制限は「労働力不足」を招いた。また、輸出入制限による食料やマスクなどのほか工業製品・部品の不足も危惧された。
改めて、「自国の食料は自国で賄う」という食料安全保障について考えさせられた。
また、世界で起きている異常気象による自然災害は世界各地の農地を奪い、特に発展途上国では食料不足を招いている。さらに、地球温暖化は生態系や自然環境にさまざまな影響を与えており、気温の上昇は植物や森林の生態系に変化をもたらし、農畜産物生産にも大きな影響を与えている。
国の食料安全保障、食料政策を新たな視点から見直すことが重要となっている。
環境重視の循環型農業経営へ
農業・農村の多面的機能は、水を育み、酸素を生み出し、火災を防ぎ、生物をすまわせ、文化を伝え、美しい景観を保つなどの役割を果たしている。一方では農業も温室効果ガス排出に大きく関わり、トラクターなどは二酸化炭素、水田・牛のゲップなどはメタンガス、窒素肥料を利用することで亜酸化窒素が発生する。
低排出型社会実現のため、排出削減の取り組みを経済や社会の発展に向けた取り組みとセットで、循環型の環境に配慮した農業経営を考えることが求められる。そのことでは、国連で決められた国際社会共通のSDGs(持続可能な開発目標)を農業分野にいかに組み込んでいくかがカギとなる。
家族農重視の時代に逆行する安倍・菅官邸農政
さて、農政を大きく左右するのは政権の動向である。昨年9月に菅内閣が発足した。安倍政権下では、強い農業、攻めの農業などを掲げ、農業改革や農協改革を次々と断行してきた。「産業政策」ということで、大規模農家がより大きいメガ農場として経営拡大の道を歩んできた。
一方では、新たな「食料・農業・農村基本計画」で、家族農業や中小規模農業者が再生産可能な経営体として生き残る施策をとの意見を踏まえ、地域での多様な農業の担い手が共存・共生できる農村社会実現のため「地域政策」の位置づけが打ち出されてきている。
疲弊している地方の活性化対策として、農業の役割・位置づけを、「産業政策」だけでなく「車の両輪」という位置づけで、「地域政策」を盛り込んだ。期待するところだが、安倍政権下から常設化している規制改革推進会議の企業優先とした農政改革の基本は変わっていない。
当面は「農協改革の着実な推進」、「農産物検査規格の見直し」などが挙げられており、菅政権発足後初の会議においては農地所有適格法人における決議権について農業者以外を2分の1未満に制限していることを問題視している。要件緩和が進めば、本来の農地としての役割以外での農地取得につながる危険性があるのではないか。
他方、農業を犠牲とした大型貿易協定を、ここ3~4年において次々と発効させてきた。競争力と市場原理主義を推し進めてきた安倍農政を、菅首相が継承するとして、新自由主義路線を貫くとした。
菅首相の施政方針では、農産品輸出額を2030年までに5兆円へと掲げて「世界に誇る牛肉やイチゴをはじめ27の重点品目を選定し、国別に目標金額を定めて、産地を支援していく。農業に対する資金供給の仕組みも変えていく」と具体的に踏み込んでいる。安倍農政から継続して、生産現場が意図しない「農地改革」や「農協改革」などを断行することが危惧される。
もっと、現場や農業者に寄り添った農政になるよう引き続き組織力を生かし、運動を展開していく。