コロナ禍におけるJAM運動の推進

労働運動で未来を変えられると信じて

ものづくり産業労働組合JAM会長 安河内 賢弘

 時代の要請にそぐわないのは十分に承知しているが、コロナ禍において働く人々の困難や不安に寄り添うためには会って話すことが重要であり、会社と交渉して一定の譲歩を引き出すためにはWEB会議システムでは不十分である。一方で会社側のコロナ対策は過敏だと思えるほど厳格である。
 これほど労働組合が必要とされている時代に、組合員と私たち執行部の間にソーシャルディスタンスという壁ができてしまっている。それでも、私たちは運動を前に進めていかなければならない。これまで以上に発信力を高め、求心力につなげていかなければならない。これまで消極的な選択肢でしかなかったWEB会議システムも、より積極的に使う必要がある。現状では難しいが、うまく使えばこれまで直接会話をすることができなかった職場の組合員の方とも対話できるようになる。
 JAMとしても今年から、SNSに明るい人材の採用を予定しており、これまでとは異なる発信方法にも挑戦をしていきたい。JAMがその方針を一方的に押し付けるのではなく、JAMという自由に語り合う広場を提供し、そのなかから新しい運動が生まれる仕組みづくりに着手していきたいと考えている。

2021春季生活闘争に向けて

 JAMは年に2回、3月と9月に景況調査を行っている。

 経常利益の見通しを見てみると、19年3月より景気後退局面に陥っていたことが分かる。今回のパンデミックによる危機的状況は20年3月の調査では大きなインパクトを残しているが、20年9月には回復傾向にあり、全体で見れば19年9月の消費税導入前の方が先行き不透明感は大きかった。さらに、300名未満の中小では17年9月の調査でようやくわずかにプラスに転じており、〝アベノミクスの成果〟とやらは中小製造業にはほとんど届いていない。
 ひと時の安らぎも米中新冷戦と消費税増税によってわずか1年足らずでマイナスに転じている。その最大の要因が製品価格の下落見通しである。特に100~299名の中小企業の経常利益の見通しと製品価格の見通しが悲しいほどに連動している。18年3月にようやくプラスに転じた製品価格の見通しが、消費税増税による景気後退によってマイナスに転じている。
 また、今回のコロナ禍において最も心配したのが製品価格の大幅な下落による経営危機であった。JAMとしてはかなり早い段階で警鐘を鳴らし、連合や金属労協など労働界はもちろん、経団連や中小企業庁もさまざまな発言をしていただいているが、残念ながら十分な効果はなかったようである。
 中小企業庁が指摘しているように、リーマン・ショック以降、中小企業の価格転嫁力は大きく毀損し、その後も回復していない。コロナ禍においてさらなる価格転嫁力の低下が起これば、中小企業の経営は成り立たなくなる。
 多くの中小企業経営者が、従業員に退職金が払えるうちに廃業を選択しているが、優良な中小企業が大企業の買いたたきを遠因として市場から撤退をしているマイナスの影響は計り知れない。

 今回の危機は、これまでのバブルの形成とその崩壊による金融システムのクラッシュによって引き起こされた危機とは異なり、パンデミックによって経済の最も基本的な活動、すなわち人と人とが出会い、商品やサービスを交換するという活動が強制的に制限されたことによる危機である。各国政府の手厚い保護政策によって、今のところ金融システムは毀損していない。したがって雇用が守られるのは当然として、これまでの賃上げの流れを止めることがなければ、経済は自律的に回復する。
 リーマン・ショックの際には、日本だけが賃下げで危機を乗り切った。東日本大震災があったとはいえ、その結果、日本経済の回復は他の先進国に大きく後れを取ることになった。同じ轍を踏んではならない。

大きな塊をつくる

 2017年9月26日深夜、連合の相原康伸事務局長より電話が入った。民進党と希望の党の合流である。その後のドタバタ劇はご案内の通りであり、結果的に民進党が立憲民主党と国民民主党と無所属に分裂してしまった。
 選挙制度とその国の政治体制は密接に連動している。小選挙区制に比重を置けば二大政党か、もしくは一党独占に収斂していき、比例代表制に比重を置けば多数政党に収斂していく。アングロサクソン系の政治体制とヨーロッパ大陸系の政治体制の違いは、そもそもの政治理念からくる選挙制度の違いによって生じる。
 日本は小選挙区の比重が大きいため二大政党制を目指していかなければ、巨大与党の独占を許してしまう。20年はマックス・ウェーバーの没後100年にあたり、再評価がされている。ウェーバーが嘆いた「完全に無力化した議会」と「政治教育のひとかけらも受けていない国民」によってナチスの台頭を許した時代に今は似ているかもしれない。何としても政権交代可能な緊張感のある政治体制をつくり上げなければならない。
 JAMは本年1月19日に行われる中央委員会で「立憲民主党を基軸とし連合が支援する政党」を支持、支援するという政治方針を立てる。しかし、あえて言わせてもらえば、私は新立憲民主党にも新国民民主党にも興味はない。私が興味があるのは政権交代可能な「大きな塊」だけである。今まさに民主主義の危機にあると感じている。この危機を救うのが政権交代にほかならない。
 善しあしは別にして、二大政党制を目指すのであれば、同じ政党内においても政策面での不一致には寛容であるべきである。JAMの政治理念では、憲法に関しては平和主義を普遍の原理とした上で、時代に合わせて議論を重ねるとしている。私個人は護憲派を公言しており、憲法は1文字も変えるべきではないと考えているが、JAMは私を寛容に迎えてくれている。新国民民主党の軽薄な憲法改正議論には嫌悪感しかないが、しかし、立憲民主党と国民民主党がすべての国民が平等に自由で寛容で公正な社会を目指している限りにおいて、支持・支援を変えるつもりは毛頭なく、今後も応援団の一人であり続けるつもりである。
 今は民主主義の崩壊に対する強い危機感が必要であり、JAMは「大きな塊」に向けてさらに強力に運動を進めていく。

変革・再生・創造

 「変革・再生・創造~対話と行動で組織を強化しよう!」
 これがJAMのスローガンである。1999年9月9日にJAMが結成されて20年を過ぎた。当時、50万組織を目指したJAMであったが、現在の組織人員は38万人であり、10万人を超える組合員を20年間で失った。組合員の数は今でも微減が続いていている。JAMに加盟している単組の約6割は100名未満の中小企業の労働組合であり、中小製造業労働者の代弁者を自認しているが、100名未満の中小企業労働者の組織率は1%に満たない。この数値を反転させなければならない。
 今、JAMはドイツの産業別労働組合IGメタルの協力の下で、変革プログラムを実施している。これはJAM組織内の意識改革を目指したものであり、いわば内科的処置である。同時に外科的処置として連合東京より古山修氏と今野衛氏を招き、JAMゼネラルユニオンを創設した。さらに、新たな挑戦として在日ブータン人による労働組合を立ち上げ支援を続けている。また、長く在日ミャンマー人の労働組合を率いてきたミンスイ氏をJAMの書記局員として迎え体制を強化した。正直に内情を申し上げれば、これらの活動はいずれも内部の反発が強く思うようには進んでいない。とはいえ病院嫌いの私からしても反発は当然だと考えており、粘り強く続けるしかない。
 古山氏を見ていると、組織拡大に必要なのは確固たる信念であると改めて気づかされる。組織化の成功のカギを握るのは、結局オルガナイザーの人間性なのだ。人間を磨くことが重要だということを若手のオルガナイザーにしっかりと伝えていかなければならない。
 人類は今、歴史の転換点に立っている。今、私たちが直面している危機は、一企業の危機でも、一産業の危機でも、一国の危機でもなく、人類全体の危機である。非正規労働者を雇い止めし、一時的に経営改善を図っても、人類の危機は克服できない。むしろパンデミックの克服を困難にし、社会の分断を助長し、経済を破綻させ、会社を倒産の危機に追いやることになるだろう。今、経営者に求められているのは利益優先の企業エゴではなく、少しばかり生産性を損なっても雇用を守り、生活を守る寛容さである。ユヴァル・ノア・ハラリは次のように指摘する。
 「私たちが直面している最大の危険はウイルスではなく、人類が内に抱えた魔物たち、すなわち、憎悪と強欲と無知だ」
 パンデミックを克服するためには、国際的な協力が不可欠である。今は5Gの覇権争いをしているような時ではない。このままでは、米中の覇権争いは中国が例えば政治的混乱から大きく失速するか、米国が2番でいることを甘んじて受け入れるまで続く。両国の間で日本の果たす役割は極めて大きい。日本は両大国のモノ言う友人としての役割を果たし、大国に挟まれた島国としてしたたかな生き残りを図っていかなければならない。そのための人づくりが重要であり、労働運動からの活発な議論と行動が求められているのではないだろうか。
 労働運動で未来を変えることができると信じて、ともにがんばりましょう!

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