朝鮮半島の平和に日本は
歴史的責任を果たさなくてはならない
『日本の進路』編集部
金正恩国務委員長とトランプ大統領は、6月12日、シンガポールで初の米朝首脳会談を行った。両首脳は、「両国間に数十年間続いてきた緊張状態と敵対関係の解消」をめざすことなどを確認し、合意文書に調印した。トランプ大統領は対話中の米韓合同軍事演習の中止も表明し、18日、正式に8月演習が中止された。
朝鮮半島での半年前までの息詰まるような軍事的緊張の緩和が確認された。
アメリカによる核戦争挑発の大軍事演習などで緊張は一触即発の極限状況にあった。朝鮮は、日本にある米軍基地も報復攻撃の対象にすると宣言し、文字通り日本国民の生命すらも核戦争の危険にさらされていた。そうした脅威はひとまず遠のいた。
前途は、これからの両国をはじめ関係政府、各国国民の闘いにかかっているにしても、この合意、緊張緩和を世界各国国民は歓迎している。さらに前進させなくてはならない。
安倍晋三政権は、この半年間の緩和へと向かう情勢進展にも対応できず「蚊帳の外」だった。関わったというのであれば、妨害の役割だった。今、安倍首相は、慌てて日朝関係打開に動きだしたと伝えられている。
しかし、対米従属の朝鮮敵視政策だけでなく戦前の植民地支配と今日に続く蔑視・差別の歴史への反省なしに交渉しても良い結果は得らない。むしろ日朝間の断絶を大きくするだけで、「拉致問題」の「解決」も不可能である。
日本は本来、朝鮮半島の緊張緩和と平和・統一へ大きな役割を果たさなくてはならない立場にある。それは歴史的な責任である。
朝鮮民族の緊張緩和・統一への努力を支持するとともに、アメリカとわが国対米従属政権の敵視政策に反対し、即時の日朝国交正常化のために奮闘しなくてはならない。
大国の覇権争奪に翻弄されてきた朝鮮半島
植民地支配の日本には分断に大きな責任が
「北朝鮮の核」だけが日本ではクローズアップされているが、「朝鮮問題」とは何なのか。問題の根源には、当時の日本帝国主義の「朝鮮併合」、植民地支配の歴史があることを忘れてはならない。
明治150年などと言われる。その明治維新政権は成立間もなくから中国清朝政権や南下する帝政ロシアとの争いを経て、朝鮮半島への支配権を確立する。1910年には韓国を併合し「朝鮮総督府」を置いて植民地支配した。
45年8月15日、敗戦の日本はポツダム宣言を受諾して一切の植民地を放棄した。しかし、「朝鮮総督府」は、独立した統一国家をつくろうとする朝鮮民族の意思を徹底して無視した。アメリカ占領軍のソウル到着まで朝鮮人を含む旧日本軍を維持し、植民地統治機構をそっくり引き渡した。
こうして38度線以南を軍事占領したアメリカは、民族の国家をつくるさまざまな努力を妨害し、済州島をはじめとする人民蜂起を強引に抑え込み、48年8月15日、大韓民国政権を樹立した。マッカーサーの専用機に乗って帰国した李承晩が大統領となった。
一方、北部を占領したソ連軍は政治支配を朝鮮民族に任せた。あくまで統一民族国家を望む保守勢力を含む朝鮮人民は、朝鮮民主主義人民共和国政権を翌9月9日に平壌で樹立した。
ここに、ともに「唯一正統」を主張する敵対する二つの政権が成立し、民族分断の悲劇が始まった。
こうした経過からも明らかなように、民族分断の主たる原因は米占領軍にある。だが、旧宗主国たる日本にも決定的な責任があることは明白である。
分断を固定化した朝鮮戦争、深刻な対立、相互不信
38度線付近では軍事衝突が頻発する中で1950年6月25日、全面的な衝突、同一民族間の朝鮮戦争が勃発した。本来なら「内戦」である。しかし、アメリカの介入により深刻な対立、分断、相互不信を生み出し、今日も続いている。
戦争が勃発するとアメリカは待っていたかのように即日、国連安保理事会で朝鮮非難決議をあげた。ソ連が、安保理の正規メンバーが台湾であることに抗議して欠席したなかでだった。二日後には国連軍派遣決定に持ち込んだ。かくして国連軍という名の米軍が朝鮮内戦に全面介入することになった。
日本は出撃拠点となった。国連軍司令部は在日米軍基地に置かれ、国連軍には米軍だけでなくイギリスなど22カ国が参加した。50年8月10日、マッカーサーの指令で警察予備隊(自衛隊の前身)がつくられた。
日本も参戦している。占領軍は海上保安庁に特別掃海隊の組織化を命令し、50年10月から約8000人、46隻の掃海艇等により、永興、元山、仁川などで機雷掃海を行った。犠牲者は、開戦半年で56人、11月にも死者が出ていることまではわかっているが、参戦自体、98年まで公式になっていなかった。
これに対して李承晩は「最近国連軍の中に、日本軍兵が入っているとの噂があるが、その真否はどうであれ、万一、今後日本がわれわれを助けるという理由で、韓国に出兵するとしたら、われわれは共産軍と戦っている銃身を回して、日本軍と戦うことになる」と51年に倭館駐屯部隊で演説したという。
朝鮮戦争最初の1年間に集中した犠牲者は、いまだ正確にはわからないが、米軍兵士は4万5千人、韓国軍6万5千人、その他3千人、中国の人民解放軍は50万人、北朝鮮軍は29万人といわれている。戦場が激しく移動したために、一般市民が大量に巻き込まれ、北側250万人、南側133万人の死者という状況であった。
日本国内は「特需」に沸いた。
マッカーサーは北進を狙って原爆使用も画策した。
53年7月27日、38度線の板門店で朝鮮、アメリカ、中国の3国が休戦協定を結び、戦闘は一時終結した。李承晩は、「北進」を主張し休戦に反対して協定に参加しなかった。したがって、現在でも北と南は戦争中と言え、さまざまな軍事衝突事件がこの間起こった。朝鮮側は繰り返し平和協定の締結を求めたがアメリカは拒否し続け、分断は固定化された。
こうして米軍による朝鮮への核恫喝、包囲・圧殺策動が今日まで続くことになった。
アメリカの戦略の下で日本は、65年「日韓基本条約」を締結し、植民地支配を認めず反省することなく賠償は拒否し「経済協力」の形で韓国に経済支援を行った。他方、朝鮮との経済交流はさまざまな理由で妨害された。
90年代に入って、ソ連崩壊による「ソ朝友好協力相互援助条約」の破棄・失効で、朝鮮はソ連軍との同盟関係を失った。以後、自力で、核武装した米軍との対抗を迫られた。朝鮮は、93年3月、NPT(核拡散防止条約)から離脱を表明した。
その後何度か、朝鮮半島の非核化と安定をめざして朝鮮とアメリカ、あるいは多国間で合意がなされた。しかし、アメリカは、94年(「米朝枠組み合意」)にも、2005年(「6者会合に関する合意」)でも難癖を付けて約束措置を履行しなかった。
朝鮮が求めていたのは、朝鮮戦争以来の核包囲による圧殺策動の中止であり、国の安全と民族の尊厳であった。何度もの平和合意を無視された朝鮮が、アメリカに届く核ミサイルの獲得をめざしたのは根拠があった。
核をめぐる緊張の原因も朝鮮側ではなくアメリカにあることは明白である。こうした経過の中で今回、金正恩委員長が「朝鮮半島の完全な非核化」を確認した意義は重大である。
ところが今回の米朝合意についてわが国マスコミはほぼ、朝鮮の核放棄が不透明だと騒ぎ立てている。多くの野党もそれに同調している。
もちろんアメリカによる広島、長崎の悲劇を経験したわが国が、核兵器廃絶めざすことは民族的悲願で、国是といってよい。だが、わが国政府が核廃絶に熱心でないことは周知のことである。
日本が本当に核廃絶をめざすのであれば国連で採択された核兵器禁止条約を批准し参加しなくてはならない。そして米朝両国や韓国と共に「朝鮮半島の非核化」からさらに進んで全世界から核兵器を廃絶する闘いを進めるべきである。
米朝合意―朝鮮側の狙い、背景
数十年間の緊張と敵対関係の解消
つい最近まで、アメリカは核攻撃用の戦略爆撃機を朝鮮半島上空に飛ばして核威嚇し、「斬首作戦」と称して最高指導者の暗殺実行部隊を含む軍事訓練を強行していた。朝鮮が、こうしたアメリカを警戒し核威嚇に強硬に対応するのは当然であろう。努力の末に朝鮮は、昨年までに核爆弾の実戦配備、さらにアメリカ本土全域をカバーするミサイル開発に成功した。
アメリカはこの事態への対処が迫られた。米朝首脳会談に応じ、一定の緊張緩和も進んだ。
朝鮮側の狙い通りであったに違いない。朝鮮は「緩和」を利用して経済建設に全力を挙げ、国民生活の向上を実現する方針をすでに決めている。わが国はそれを全力で支援すべきである。
安倍政権は、「制裁強化が効果」と制裁を正当化している。確かに、最大の貿易相手国だった中国を含む国連経済制裁が朝鮮の経済と国民生活に影響を与えなかったはずはない。
しかし、かつて中国も1960年代に、ソ連の妨害にもかかわらず「ズボンをはかなくとも」と歯を食いしばって奮闘し核保有に成功し、今日を実現した。朝鮮国民も、そうした試練を乗り越えつつある。民族の尊厳をめざす彼らを誰も非難する権利はない。
文在寅韓国政権の成立と闘い
もう一つの重要な要因は、韓国で進んだ劇的変化である。
一昨年、ろうそく革命と呼ばれた国民の闘いが発展し、朴槿恵大統領を辞任に追い込み、昨年5月、文在寅新政権が実現した。文在寅新大統領は、1年以内に南北関係を変える方針を掲げた。
金正恩委員長は、今年元旦の「新年の辞」で行動を呼びかけ、文在寅大統領はこれに応えた。4月27日には、歴史的な第3回南北首脳会談で、「民族の運命は民族自身が決める」という精神の「板門店」宣言が発せられた。南北共同してアメリカに対話も呼びかけた。
アメリカには、もはやこの流れを押しとどめる手だてはなかった。
朝鮮が核とミサイルで武装したこと、それに国民の闘いに支えられた韓国政府の決断と南北の共同歩調、この二つが米朝合意を導いた朝鮮側の主な要因であろう。
アメリカの事情、狙い
窮地のアメリカ、台頭する中国
第2次世界大戦を通じて戦後世界の支配者となったアメリカは、アジアでは朝鮮半島を分断し韓国を支配下に置くとともに朝鮮を圧迫し、絶えず戦争の緊張をつくり出し、それを最大限に利用して日本とアジア全体を支配した。
しかし、そのアメリカもついに朝鮮との直接の交渉に乗り出さざるを得なかった。
その内部的背景は、アメリカ自身の力の衰えである。経済的にも財政的にも衰え、ドルの威信も揺らぎ、国内の社会的対立も激化している。トランプ大統領は会談後、「費用がもったいないから米韓合同軍事演習をやめる」とまでつぶやいた。核もミサイルも空母も山ほど持っているが、動かす燃料代にも軍人の人件費にも事欠いているのか。
衰退するアメリカにとって「世界支配」はもはやあまりにも力不足である。しかし、だからより危険になったとも言える。
経済が厳しいだけに何にせよ需要を必要としている。すでにふれた朝鮮戦争も、「大砲もバターも」と言ったジョンソン大統領のベトナム戦争も、アメリカは繰り返し戦争をやって経済をとりあえず回すが、その負担でいっそう深刻な経済状況に陥る、そんな歴史だった。苦境に陥ったから戦争をしないわけではない。むしろ逆である。
今、対中国戦略を進めなければ完全に手遅れに
外部環境的には、これが戦略的に決定的だが、中国が大国として台頭し、昨年秋の共産党大会で今世紀半ばまでに強国化を成し遂げる方向を公然化させたことだった。中国の台頭を抑え込むこと、そのための包囲網形成が最大、喫緊の課題になっている。
第4次産業革命といわれるなかでのハイテク技術覇権争奪戦争に勝ち抜くことは、アメリカの覇権を維持できるかどうかの核心的問題で待ったなしとなった。今、中国を抑え込み、基軸通貨ドルを守り経済を再建し、金融支配を中心に世界支配を守り抜くことに全力を挙げている。
しかし、間もなく中国はGDPでもアメリカを上回るという。その前に抑え込むことができるか、アメリカはあらゆる手だてを講じて中国の台頭を阻止しようとしている。アメリカにとってここ数年が正念場である。東アジアでは、世界を地獄に陥れかねない緊張が走ることになる。
トランプ大統領は貿易戦争を仕掛けたが、米朝会談直前のG7サミットではG6+1と言われるほどの孤立だった。直後の米朝会談ではトランプ大統領には成功以外に道はなかった。
トランプ大統領自身は、秋に迫った中間選挙を乗り切れるかどうかが差し迫った最大課題である。
トランプ大統領とアメリカの朝鮮政策での変身はこの対中戦略の中での戦術問題である。あわよくば、対中国包囲の戦線を広げられないかと考えているのかもしれない。
中国もそうした対米関係もにらんで、朝鮮との歴史的関係を復活させているのであろう。この帰趨は東アジアの平和と安定にとって大きな意味をもつことになる。
この間の合意と同じように、アメリカ、とくに軍、軍産複合体、レイシストなどを中心とした勢力の反対の動きにより米朝合意が実行される保証は全くない。だが、金正恩委員長の朝鮮政府も文在寅政権の韓国政府も、分断と対立、相互不信の歴史を清算し、民族の独立、平和統一を成し遂げようとしている。そうした歴史的局面が一歩進んだことは間違いない。
誰もこの流れに抗するのは容易でない。東アジアの情勢は新しい歴史局面に入ったのである。
展望
1945年8月15日、わが国の植民地支配からの解放から間もなく73年。朝鮮戦争停戦から68年。この間ずっと朝鮮民族は南北に分断され敵対関係を強いられ、朝鮮は米軍の核包囲下で極度の緊張状態に置かれてきた。
その歴史的な関係の解消を米朝合意は謳っている。韓国政府も支持している。
アメリカがこの合意をどうするか、朝鮮政府の対応にもよるだろうが、米中関係の推移にも大きく依存する。
それは長いプロセスとなろうし紆余曲折が避けられない。
資本主義経済の危機はかつてなく深く、国際関係は主要各国の深刻な国内対立に規定され予測も困難である。各国国民の闘いにかかっている。
マスコミ報道によるとイラン政府高官は12日の合意直後に、「トランプ氏がシンガポールから帰国するまでの間に合意した内容を取り消さないという保証はない」と皮肉ったという。核合意を一方的に破棄され、経済制裁に直面したイランならではの当然の批判である。
だがはっきりしていることは、トランプ大統領が突然平和の使徒に変身したわけではないということである。アメリカは第2次大戦後、いつも世界中のどこかで戦争をやってきた戦争国家である。この瞬間も、シリア問題でも、イランでも、パレスチナ問題でも、南シナ海でも、世界中で緊張をあおっている。2002年にブッシュ大統領はイラク、イラン、朝鮮を「悪の枢軸」と名指しし、翌03年にイラクを一方的に攻撃してフセイン政権を打倒した。朝鮮側が、こうした歴史に深く学んでいるのは間違いない。
アメリカを警戒し、各国が主権を貫き、平和を実現できるよう闘いをいっそう発展させなくてはならない。
アジアのことはアジア人が決めなくてはならない。域外の大国であるアメリカがアジアに介入しないよう、諸国がこぞって地域的な平和体制構築へと努力すべきである。また、対等平等の経済的連携もますます重要となる。
今年は、反覇権が明記された「日中平和友好条約」締結40周年である。この精神に沿って東アジアの平和構築をめざさなくてはならない。日本の責任は極めて大きい。
わが国は、過去の植民地支配を認め反省、謝罪、償い、そのうえで板門店宣言を支持し、朝鮮が進めようとしている経済発展を支援し、南北の融和促進・統一を支持して、日朝関係を安定強化することが、最も重要な平和措置である。
まず第一にすべきは、無条件に国交を正常化することである。拉致問題を含む諸懸案はその中で初めて解決可能となる。河野洋平元衆院議長も最近語ったように、この問題の解決は、「国と国の関係を正すという手順を踏まざるを得ない」という考え方が正常である。