組織綱領に発足した全農林労働組合
全農林労働組合 副中央執行委員長 柴山 好憲
全農林労働組合(以下「全農林」)は、終戦後間もない1945年12月、中央省庁で最も早く組織された公務労働組合で、以降、封建的であった官庁の民主化や組合員の雇用・労働条件の改善には、国民・社会からの理解と支持が必要として反戦・平和などの大衆運動にも取り組み、72年を迎えようとしています。特に、公務関係労働者の雇用や賃金・労働諸条件の維持・改善に向けては、その先頭となって行動し、人事院勧告制度の機能化や休暇制度・勤務環境の整備を図ってきました。また、48年の国家公務員法改正により剝奪された公務員労働者の労働基本権奪還を組織の最重要課題に据え、今なおILO対策等に取り組んでいます。
しかしながら、財政健全化を錦の御旗とした歳出削減の中で、公務関係労働者に対する風当たりは依然として強いことから、安心・安全・安定の行政サービスを提供しつつ、国民視点に立った運動の再構築と労働組合としての社会的役割の発揮が重要となっています。
今回は、全農林の重要課題である農業問題と平和と民主主義の確立について主張してみます。
食糧危機突破の運動から労農提携と農林水産業再建へ
全農林の前身である農林省職員会は、終戦年(45年)が42年ぶりに米の不作となったことから、国家権力で米を集める「強制拠出」に反対するため、供給量が安定した50年代初頭まで「必要な食糧の確保」を求め農民組合と連携し危機突破運動に取り組みました。以降、工業優先により農業・農村の弱体化を招くとして農業基本法制定反対運動や、消費者米価引き上げ反対・食糧管理制度を守る運動を進めてきました。
また、80年代以降の農畜産物貿易の国際競争によるGATTやWTO農業交渉における米の市場開放反対と日本農業を守る闘い、近年では、TPPやEPA・FTA交渉等から、日本の農林水産業はもとより農山漁村を守ること、「食」の安心・安全の確保に向けて多くの関係団体と連携し取り組みを進めています。
併せて、「労農提携」運動も時の社会・農業情勢に応じ進めてきました。特に、61年の農業基本法制定以降、農村社会から農民が労働者となって都会へ流出することから農村を守り活性化するため、各都道府県での労農市民会議結成を通じて取り組んできました。また、飢餓に苦しむアジア・アフリカ諸国への支援活動として、支援米の作付け・発送や支援金にも取り組み、今なお多くの地域で継続、地域住民はもとより小学校や幼稚園と連携し地域運動に発展しています。さらに、それらの活動が「食とみどり、水を守る運動」として発展し、昨年の北海道札幌市に引き続き、本年は被災地支援を兼ねて熊本県熊本市で「食とみどり、水を守る49回全国集会」が開催されます。
農業改革法案の成立による持続可能な農業と地域社会への懸念
先の193通常国会では、規制改革推進会議が策定した「農業競争力強化プログラム」に基づき、多くの農業改革関連法案が成立しました。具体的には、農業資材の供給または農産物流通等を合理化するなど、農業生産関連事業の再編等を促進するための「農業競争力強化支援法」。さらには、加工原料乳の生産者に補給金等を交付する制度を導入するなどの「畜産経営の安定に関する法律の一部改正法案」など、今後の日本の農畜産業に大きな影響を及ぼす8法案で、3月以降、衆参農林水産委員会における与野党による厳しい審議や参考人質疑なども行われましたが、結果として、会期末ギリギリに全ての関連法案が成立しました。
なお、国会審議では、民進党など野党から、農業生産現場への規制緩和と企業参入が加速すること、国や地方自治体の役割低下や地域政策の担い手であるJA全農改革の進行などにより、地域社会の疲弊や農業者の生産意欲の低下に拍車がかかる懸念など、厳しい指摘が行われました。特に、主要農産物種子法の廃止には、地方交付金など政府予算の根拠法がなくなることから、研究開発予算確保への懸念や種子の安定供給に対する影響など、食料安全保障の根幹が揺らぐとして多くの反対意見が出されました。
これらの問題意識は、私たちも同様の思いであり、今後の農政展開に対し不安と懸念を残すこととなりました。このように、現政権は、農業の体質強化と「稼ぐことのできる農業」への転換を加速させています。私たちは、これら農業改革の具体化に対して、引き続き、持続可能な農林水産業の確立と地域政策の充実を追求する運動を多くの仲間と連携し積極的に取り組むこととしています。
共謀罪法と全農林警職法事件
全農林では、「日本やアジア諸国などにおける多くの人命と多大な被害をもたらした戦争を抑制・抑止できなかったという反省の上に立ち、労働者と労働組合こそが平和運動を積極的に取り組まなければならず、職場を基礎に組織を舞台にたたかう」とした先輩諸氏の思いを引き継ぎ、発足以降、反戦・平和運動に積極的に取り組んできました。その一例は、50年代の米軍基地増強反対と砂川基地反対運動、朝鮮半島における南北分断の固定化につながる日韓条約批准の阻止運動、日米安保条約の廃棄や日米地位協定の見直し運動などです。
そのなかでも、58年、治安維持の名の下に人権侵害や各種集会への弾圧など警察官の職務権限を拡大し、戦前の治安維持法の復活と称された「警察官職務執行法の一部改正法案」(警職法改正案)の成立阻止でした。この闘いでは、国民的運動に官公労働組合の先頭に立って参加するなか、「国家公務員法違反」(争議行為の禁止)として、中央執行委員長をはじめ21名が逮捕者されたほか、全国で多くの役員・組合員が処分を受けました。これを受け、全農林は、これらの逮捕や処分は不当であるとして訴訟を起こし、以降、14年に及ぶ裁判闘争を行うこととなり、これが、「全農林警職法事件」です。この事件は、73年4月に最高裁判決で敗訴しましたが、「人事院は公務員の労働基本権の代償機関であること」を明確にし、公務労働者の労働問題における理論的支柱と受け継がれています。しかしこの闘いは、そもそもは平和と基本的人権の確立を求めた平和運動なのです。
先の通常国会では、安倍政権の非民主的で議会運営を全く顧みない強権的な手法により、テロ対策を隠れみのとした「共謀罪法」が成立しました。しかし、全農林警職法事件を経験した全農林であるからこそ、この間、戦争を可能とし国民主権をないがしろにする各種法案の廃棄に向けた取り組みの強化が必要と受け止めています。