沖縄は歴史的に、そして今も植民地的支配を受けている
沖縄の新聞人 新垣 毅

沖縄で今、何が起きて
いるのか
日本の国土面積の0・6%しかない沖縄に、全国の米軍専用施設の7割が集中している。このため、米軍絡みの事件・事故や騒音、自然環境破壊などが後を絶たず、沖縄の基地負担は過重だと長年言われてきた。しかし、負担は軽減されるどころか、中国を意識した自衛隊の南西シフトと呼ばれる軍事強化が進み、昨今は「台湾有事」がまことしやかに叫ばれ、さらなる強化が進められている。沖縄の人々は、住民の4人に1人が犠牲となった、1945年の沖縄戦のように、再び戦場になるのではないかと不安を強めている。
2023年8月、当時の岸田政権ナンバー2だった麻生太郎自民党副総裁は台湾で講演し、中国を念頭に台湾海峡の平和と安定には強い抑止力を機能させる必要があり、そのために日本と米国、台湾には「戦う覚悟」が求められると主張した。麻生氏は21年にも、中国の台湾侵攻は安保法制の「存立危機事態に関係する」「日米で台湾を防衛しなければならない」とし、「(台湾の)次は沖縄」とも言及していた。昨年11月には、高市早苗首相が衆院予算委員会で、台湾有事が集団的自衛権の行使を認める「存立危機事態」に該当し得ると述べた。これまでの内閣の見解を踏み越えるもので中国は強く反発している。沖縄では「台湾有事」が目の前に迫っているかのように、自衛隊が次々に配備され、日米の合同演習が激化している。まるで戦前の様相だ。
防衛省は防衛力の「南西シフト」として、16年に与那国駐屯地、19年に宮古島と奄美大島、23年には石垣にも駐屯地を開設。24年には、うるま市の陸上自衛隊勝連分屯地で第7地対艦ミサイル連隊、与那国駐屯地で電子戦部隊を発足させた。陸自は、那覇を拠点とする15旅団を26年にも師団化する。与那国や石垣にはミサイル部隊を置く計画だ。
さらに政府は安全保障上、必要性が高い空港や港湾など民間インフラ施設を「特定利用空港・港湾(特定重要拠点)」に指定し、自衛隊や海上保安庁などのニーズに基づく整備事業を開始。対象施設の候補地は全国32カ所のうち沖縄は12カ所と最も多い。このように民間施設の軍事利用も進め、実際に民間港や公道で日米の軍事演習が繰り広げられている。

オスプレイが並ぶ米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)
「台湾有事」とは
では、想定される台湾有事とは、どのような戦争か。防衛省のシンクタンクで安全保障や戦史などを研究する防衛研究所は、現状で中国の戦力が優位にあり「中国のミサイル攻撃そのものを阻止するのは難しい」とした上で、攻撃を受けながらも対艦攻撃などによって海上で足止めし、台湾や尖閣への上陸を防ぐことで日米側の「現状維持」という目的を達成するという。半年~1年「時間を稼ぐ」ことができれば海外にも展開している米軍が駆け付け、中国の行動を阻止できるとの算段だ。攻撃を受ける地域の一つとして南西諸島を想定し、まず戦うのは自衛隊で、米軍の援護を期待する内容だ。
しかし、沖縄県選出の参院議員で、米国の軍事戦略に詳しい伊波洋一氏は、日本が中国から攻撃されても、米国が中・ロ・北朝鮮3国を攻撃することはないと断言する。安保3文書が基礎に置いているのは、米国中心の国際秩序を守るために日本国土を戦場にする米国の戦争戦略であり、安保3文書の「極めて現実的なシミュレーション」は、侵攻されても、自衛隊施設に準備している弾薬や誘導弾を使って戦闘を継続し、米軍など同盟国の戦力集中を待つ内容で、防衛研究所の戦略構想と一致すると指摘している(伊波氏『日本の進路』2023年9月号)。伊波氏は以下のように述べる。
「同盟国の援軍は期待できないと言うべきです。日本に来ればミサイルの標的になるからです。また、ウクライナでの戦争と同様に、同盟国の米軍や同志国が敵国を攻撃することもありません。この戦争計画の土台は『オフショア・コントロール戦略』と呼ばれる第1列島線を守る米軍戦略なのです。核戦争へのエスカレーションを理由に、アメリカは中国と直接には戦わず、周囲の同盟国に制限戦争を戦わせて、中国が『敵に教訓を与えた』と宣言して戦争を終わらせる戦略なのですが、日本が『安保3文書』で長距離射程ミサイルによる敵基地攻撃を行うことにしたので、『教訓』だけでは済まなくなっています。日本だけで、中国・北朝鮮・ロシアと戦争することを覚悟しなければならなくなっています。そのために、全国の自衛隊駐屯地・施設で戦争の準備がされるのです。」(前掲)
第1列島線とはフィリピンから南西諸島を結ぶ地域。すなわち、日米は合作で沖縄を「捨て石」にする作戦を構想しており、その具現化が自衛隊強化だとの指摘だ。麻生氏は日米や台湾に「戦う覚悟」を求めたが、麻生氏にとって失言などではなく、まさしく米国の戦略に沿った、今の日本の立ち位置を的確に言い表した言葉だったのだ。
どちらがリアリズムか
そもそも日本は憲法9条で戦争はできない国のはずだが、いったん憲法論議は横に置き、麻生氏の「戦う覚悟」に付き合い、日本の「戦力」を徹底したリアリズムで考えてみよう。ネットでは、中国脅威論や武装論を主張する人々は、武器を減らしていくことを目指す護憲・平和思考の人々に「頭がお花畑」と揶揄するが、果たして、どちらが「お花畑」だろうか。
ウクライナ戦争は世界の軍事戦略や、最新技術を用いた兵器の使用に大きな変革をもたらした。ドローンやサイバー攻撃、宇宙技術への世界的関心が高まり、中でも局地的戦闘で重視されるのが、最新鋭のドローンだ。北朝鮮の軍事技術に詳しい情報筋によると、高度化した新たな軍事技術は中国、ロシア、北朝鮮によって共有化が進んでいる。日本は北朝鮮によるドローンやミサイル攻撃への有効な対応力は備えていないとの見方だ。日本列島に多く存在する原発が攻撃されれば、被害は甚大だ。
大量のドローンが押し寄せたらどうやって迎撃できるのかと思い、この情報筋に日本の原発をドローンで攻撃する作戦を北朝鮮は持っているかと質問すると、ドローンよりもハッキングが有効だと答えた。北朝鮮のハッカーの能力は極めて高く、10歳から育成する施設もあるという。原発や電力などのインフラを含む日本全体の主要施設をブラックアウト(電源喪失)させる時間はわずか5分だと断言した。日本の4・5倍のGDPを誇る中国は軍事予算を増やし続け、中距離弾道弾など核兵器も保有している。
一方の日本政府は、例えば沖縄で辺野古新基地建設を進めている。肉弾戦を主とする米海兵隊の基地だ。軍事技術・戦略から見て中国や北朝鮮などと比べれば時代遅れも甚だしい。完成は12年後という。世界的に見ても難関の軟弱地盤改良工事をしており、完成までもっと長引く見通しだ。完成時には軍事戦略上、ほとんど役に立たない可能性は高いだろう。米国から爆買いする予定のトマホークも中古品だ。米国は日本に大量の中古品を売りつけて貿易赤字を減らしたい思惑もありそうだ。
印象に残っているインタビューがある。米軍普天間飛行場の移設問題に深く携わった久間章生元防衛相の言葉だ。久間氏は2018年に私の取材に対し、軍事技術が向上しており、ミサイル防衛態勢の強化や無人攻撃機など防衛装備品の進歩を挙げ「辺野古でも普天間でもそういう所に基地はいるのか。いらないのか。そういう議論をしなくても安保は昔と違ってきている。あんな広い飛行場もいらない」と述べた。実際の軍事技術は、まさにその通りになっている。
食料もエネルギーも自給不可。戦争できない国
食料安全保障の面からみても日本は戦える状況ではない。終戦直後の1946年、日本の食料自給率は88%だったが、2024年は38%。ちなみに沖縄は34%。サトウキビを除くと5%程度という。専門家によると全国の数字もカロリー計算であることを考慮すると実質5%。また三大肥料の一つであるリン酸は中国に依存している。昨今の米価高騰の背景には農家の深刻な担い手不足がある。中国と戦争になれば、ミサイルを打ち合わなくても、経済制裁で日本はすぐに飢えに陥る貿易立国である。防衛研究所が示した半年~1年待たねばならない援軍など既に時遅しだ。日本はそもそも戦争ができない国なのである。それがリアルな姿だ。
まるで「捨て石」
国のずさんな住民避難計画をみても、戦争になればあまりにも犠牲が大きいことが容易に予測できる。政府が特定利用として指定する空港や港湾が、訓練など日頃から軍事活動に使われれば、当然、攻撃の標的となる。空港や港湾が攻撃されれば、住民はどうやって避難するのか。有事には、制空・制海権を確保するために管理下に置かれるだろう。住民避難の際に軍事と民間はどこで線引きするのか。いざ軍事衝突が起きれば、軍事優先になることは目に見えている。
政府の計画では、先島諸島5市町村の住民ら約12万人を6日程度で九州・山口の8県に避難させるという。避難先の山口には米軍岩国基地がある上、九州各県には自衛隊が多く存在し、鹿児島の川内駐屯地や熊本の健軍駐屯地、長崎の相浦駐屯地、竹松駐屯地も、防衛力強化による部隊増強の対象だ。つまり南西諸島の住民の避難先は、敵から攻撃を受ける可能性が高い基地が多くある、いわば戦場である。だがなぜか南西諸島だけで有事想定の避難の計画や訓練が先行している。南西諸島に限定した戦争を描いているのなら、「捨て石」にした沖縄戦時と同様だ。ちなみに米軍基地を多く抱える沖縄本島は避難計画に含まれない。本島住民はどこに逃げればいいのか。また民間施設の軍事利用の推進と、国民保護は鋭く矛盾する。軍隊が利用する施設は敵から見れば軍事基地と同様であり、当然、標的になる。空港や港が攻撃されれば、住民はどこから島外に逃げれば良いのか。避難に使う航空機や船舶を、誰がどのように準備するのか。航空や船舶の民間会社に、住民移送の義務はない。では自衛隊が住民を守るのか。自衛隊の主な任務は「武力攻撃排除」であり、そのために空港や港湾の民間施設を占有する。防衛省・自衛隊は住民避難より優先し、その任務を遂行するはずだ。
ある自衛隊制服組幹部は「自衛隊に住民を避難させる余力はないだろう。自治体にやってもらうしかない」と発言している。1945年の沖縄戦の最大の教訓は「軍隊は住民を守らない」「軍隊と行動を共にすれば標的にされる」である。沖縄戦の直前に実施された県外疎開は制海権と制空権を失った中で船舶26隻が米軍に撃沈され、4579人が犠牲になった。制空権を奪われ海上を封鎖されると航空機や船舶による避難は困難だ。シェルターで住民を守れないことも、壕をたくさん造っても、多くの犠牲を出した沖縄戦で証明されている。
いざ戦闘が始まれば、政府の国民保護計画は、まさしく絵に描いた餅である。
中国の認識
果たして日本はこれでいいのだろうか。ウクライナ問題と台湾問題の決定的な違いは、「力による現状変更」を巡る世界の国々の見方だ。日米ともに、中国が唯一の合法的政府であること、すなわち「一つの中国」を外交上認めている。それは1971年に国連でも米国も含めて決議している。このため台湾有事の際に、日米が参戦すると国際社会から「不正義」と受け止められる可能性が高い。日米が主張する「民主主義の価値」は国際合意を破る理由にならない。むしろ国際合意を破ること自体が、対話で合意を築いていくという国際的な民主主義のルールを否定することになる。日中は、日中共同声明、日中平和友好条約などで「一つの中国」を確認してきた経緯もある。日中平和友好条約は「相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する」としている。中国のある外務官僚は私の取材に「日本が米国との同盟を重視するのは自由だ。ただ、わが国との平和友好条約を順守してほしい」と話していた。
沖縄は中国との歴史的関係が深いだけにカギを握る地域だ。
沖縄県議会は2023年3月、日本政府に対し、対話と外交による平和構築への一層の取り組みにより、決して沖縄を再び戦場にしないよう強く求める意見書を賛成多数で可決した。意見書は、日中はこれまで「日中共同声明」をはじめ、「日中平和友好条約」、「日中共同宣言」、「戦略的互恵関係の包括的推進に関する日中共同声明」「日中関係の改善に向けた話合い」などに基づき、平和共存の道を歩んできたと強調。中国は日本にとって最大の経済パートナーで、互いに必要不可欠な関係が既に構築されていることから、日中両国は緊張緩和と信頼醸成を図り、平和構築への最大限の努力を払うべきだと主張し、以下を求めた。
1、南西地域へのミサイル配備など軍事力による抑止ではなく、外交と対話による平和の構築に積極的な役割を果たすこと。
2、日中両国において確認された諸原則を順守し、両国間の友好関係を発展させ、平和的に問題を解決すること。
このような姿勢や考え方こそが、今の日本に必要だ。
解決避けられない
「沖縄の問題」
日本はこれからずっと、アメリカに運命を預けるような外交・安全保障政策を続けるのだろうか。トランプ米大統領は「偉大なアメリカを再び」と連呼し、国際法を無視したふるまいをしているが、国力の低下は否めない。高市早苗首相がトランプ大統領との初会談でハグしたように、日本はずっとアメリカに抱きつくのか。
むしろアメリカから自立し、憲法9条を生かした自主外交で、紛争・戦争の火種を対話によって回避することが大事ではないか。今、日本に最も求められているのは、麻生氏の言う「戦う覚悟」ではなく、〝戦わない覚悟〟だ。グローバルサウスと言われる諸国と全方位外交で仲良くして、貿易・交流を活発化することが、貿易立国日本の国益に最もかなう。
日本の国益を、アメリカの国益に従属させて考える対米従属思考をやめるべきだ。その思考に基づく行為がもたらしている最たる犠牲が沖縄に集中している。そこから目をそらすべきではない。
沖縄は日本のグローバルサウスだ。グローバルサウスの国々のほとんどが、植民地支配の経験がある。沖縄はまさに歴史的に、そして今も植民地的支配を受けている。
だからこそ、日本政府や日本国民が沖縄の自己決定権を尊重し、沖縄の問題を真摯な対話でもって解決するなど、沖縄の人々から信頼を得ることなくして、世界のグローバルサウスの国々との信頼構築はできない。沖縄の問題の解決を避けていては日本の未来はないと確信している。
