地域を変え、地域から国を変える

足下・地域からの「公共の再生」と共同の実践を

北海学園大学経済学部教授 川村 雅則

 先の衆院選の結果をどうみるか(本誌前号の「主張」も参照)。政権にとって圧倒的に有利な状況で選挙が闘われたということはまず確認する必要がある。本来の任期を1年8カ月も残して行われた「解散権の濫用」に加え、有権者に考える余裕を与えない史上最短の選挙戦。低調な選挙報道で必要な情報が届かぬ中で、与党による巨額の宣伝費の投入も明らかになっている。氾濫するSNS情報は民主主義を深める装置として機能せず、投票率も上昇したとはいえ6割に満たない。そして何より、今回も小選挙区制の弊害が浮き彫りとなった。
 与党の「歴史的大勝利」の背景にあるこうした構造を冷静に見極めた上で、左派・リベラル政党が支持を得られなかった事実への厳しい検証と、強い危機感を持った今後の取り組みが不可欠である。
 来年の統一地方選を視野に入れた取り組みが各地で始まっていると思う。本稿で提起したいのは、この国のかたちをどう描くかという問いを、具体的な課題が山積する私たちの「足下」から考え、実践していくことだ。スローガンで言えば、「地域を変え、地域から国を変える」試みである。地道に足腰を鍛え直す必要がある。そして、その歩みは可能な限り多くの人たちとともに進めるべきだ。既存の枠組みを脱し、仲間を増やすことを意識したい。本稿では、北海道での拙い実践を紹介しながら、こうした展望を論じていく。なお、詳細は筆者が管理・運営するウェブサイト「北海道労働情報NAVI(https://roudou-navi.org/)」でご確認いただきたい。

公務非正規問題における自治体の「加害者」的側面

 筆者自身は一介の労働問題研究者に過ぎないが、地方自治体の非正規公務員問題や公共工事・公共サービスで働く建設・委託労働者の問題(以上を総称して、公務非正規問題)に深く関わるようになってからは、労働組合だけでなく、自治体議員との交流が日常的になった。同時に、問題の解決を、国だけでなく自治体でも追求するようになってきた。というのも、自治体は、非正規公務員の任命権者であり、公共民間労働者にとっては発注者そのものであるからだ(自治体が生み出す貧困問題については、本誌2025年10月号の拙稿を参照)。
 自治体の仕事を担うのは、正規の公務員だけではない。その「お隣」で働く非正規公務員(編著を参照)の人数は、全国で100万人を超え、市町村では職員の4割に達する。また公共民間労働者についてはその全貌の把握すら困難な状況にあるが、彼らは入札等で常に雇用不安や労働条件悪化の危機にさらされている。公務・公共部門の労働条件が民間の模範となるべきことを考えても、ここでの問題解決に取り組むインパクトは大きい。ではそれはどう進めればよいか。低賃金・不安定雇用を特徴とする公務非正規問題は、もともと少ない公務員の定数削減に「公共サービスの産業化」が展開される中で生じている。労働分野における規制が脆弱であることや、民間部門の非正規雇用制度に劣る非正規公務員制度が、問題に拍車をかけている──したがって、国の政策転換が不可欠なのは言うまでもない。しかし同時に、自治体は公共の崩壊に立ち向かってきたかも問われる必要がある。国からの改革圧力や兵糧攻めに抗しきれない側面はみる必要があるが、国と「共犯関係」にある自治体は少なくない。中には率先して「改革」の率先者となっている自治体もある。

公務非正規問題に取り組む──公務非正規問題自治体議員ネットを例に

 自治体の責任を問う際、首長・行政と議員・議会の責任は分けて考える必要がある。非正規公務員の任用条件や発注条件について、首長に一義的な責任があるのはもちろんだが、議会もまた責任を免れない。議会による点検と改善が可能な領域は決して少なくないのである。言い換えれば、いま私たちの眼前に広がる公務非正規問題とは、この課題を見過ごしてきた議会の機能不全を示しているとも言えないだろうか。
 もちろん、市民生活に関わるあらゆる分野への対応を求められる議員が、複雑な非正規公務員制度や入札・契約制度についてひとりで向き合うのは容易ではない。しかし幸いなことに、すでにこの問題に精力的に取り組む議員は各地に存在する。全国3万人を超える自治体議員のうち、わずか数パーセントでもこの問題に関心を寄せる議員がネットワーク化されれば大きな変革の力となるはずだ。北海道では、24年8月に、志を同じくする議員の皆さんと「公務非正規問題自治体議員ネット」(代表世話人:石狩市議会議員・神代知花子氏)を発足させた。その後は、議会質問に直結する質問づくりやお互いの経験交流などを中心とした実践的な学習会を展開している。ぜひその輪に加わってほしい。
 残念ながら、地方議会が報道で大きく取り上げられるのは、政務活動費の不正支出や不適切な言動など、市民の期待を裏切るときが多い。「公共の再生」を私たちが掲げるならば、行政のみならず議会を含めた自治機構そのものの再生を意識する必要がある。一方で、志を持って活動する議員を孤立させることなく積極的に支援していくこと──それも私たち市民に課せられた重要な役割である。

地域から反貧困の取り組みを──反貧困ネット北海道の取り組み

 私たちの足下にある課題は、公務非正規問題にとどまらない。「反貧困ネット北海道」(09年発足)では、男女雇用機会均等法の制定から40年を迎えるにあたり、ジェンダーの視点を軸とした計7回の連続学習会を25年度に実施した。貧困が女性に偏って現れる構造、いわゆる貧困の女性化を意識してのことである。この問題は、日本の政治・経済・社会のあり方を根本から問う大きな争点である。しかし、運動の界隈においても、この問題への取り組みは必ずしも十分とは言えないのではないか。ジェンダー・ギャップ指数118位(25年)という不名誉な現状を打破するためには、自戒を込めて言うが、私たち自身の身の回りから変革を積み上げていく必要がある。連続学習会の講演タイトルは次のとおりだ。
 ①「ジェンダー問題の現在地──「ガラスの天井」と「ベタつく床」、②「どうなる?どうする?介護保険──STOP介護崩壊、抜本的な改革をめざして」、③「知っていますか?日本語教育・教師のこと」、④「ひとり親家庭の支援の現場から──現状と課題」、⑤「生活困窮者支援の現場で今起きていること」、⑥「生活保護基準引き下げ訴訟のゆくえ」、⑦「貧困研究ハンドブック・ブックガイドの発刊に寄せて」
 公務非正規問題と同様に、あらゆる問題は私たちの足下で起きている。それらを丹念にすくい上げ、可視化していく作業が不可欠だ。例えば介護現場の窮状(②)は、介護崩壊と呼ぶべき事態にある。「保険あって介護なし」という国家的詐欺にも等しい状況は、介護報酬・社会保障費を抑制してきた結果である。とくに訪問介護では、倒産・廃業が相次ぎ、介護事業者の空白地域さえ生まれているという。
 また母子世帯(④)の多くが就労しながらも高い貧困率にあるのは周知の事実だ。コロナ禍以降、食料支援が命綱となるほどの過酷な現実に彼らは直面している。しかし、当事者団体による働きかけは政治を動かし、各種の制度を作り出してきた。ここで強調したいのは、その中には、自治体が手を挙げなければ使えない制度が少なくないことと、議員がそのことをキャッチして議会で実行を迫れば状況は変えられるということだ。
 さらに、急浮上した「外国人政策」(③)も看過できない。日本では、とくに非専門的な労働力の受け入れを正面から認めてこなかったために、共生・統合のための基盤整備が著しく遅れている。生活に不可欠なインフラである言語教育についても、その担い手の8割は、非正規雇用者かボランティアであり、その多くを女性が占めているという(文化庁「日本語教育実態調査」)。技能実習生に象徴される、過酷な労働を強いられる外国人労働者やその家族を、不安定な雇用や無償労働が支えるという歪んだ構造がある。ここも本来は公共が責任を持って支えるべき領域である。

メッセージをどう伝えるか

 脇道にそれるが、こうした問題を授業で扱った際の学生の反応について補足したい。今後の私たちの運動にも示唆することがあるからだ。
 例えば、外国人政策(③)に関連して「日本人ファースト」という排外的な主張が支持される背景には、支持者自身の暮らしの困窮や将来不安などが深く関わっているのではないか。それは学生たちの場合も同様で、彼らもまた高額の学費の支払いやアルバイトで苦労をしている(彼らの親は就職氷河期世代にあたる)。貸与型奨学金は将来の借金だ。彼ら学生たちの日々の生活や思いに寄り添い、問題解決にともに取り組む姿勢が不可欠だ。もちろん、排外主義をあおる政治には厳しく対峙し、外国人労働者の就労や暮らしの実態を丁寧に彼らに伝えていくことの必要性は言うまでもない。
 もう一つ留意したいのは、反貧困運動と中間層へのメッセージである。生活保護制度(⑥)に象徴されるように、政治家によるバッシングで生活保護制度や受給者に対する攻撃が繰り返されてきた。しかし生活保護基準は、最低賃金制度や住民税の非課税ライン、授業料の減免ラインなどさまざまな制度に連動している。生活保護制度が揺らげば、利用者のみならず中間層を含む多くの市民にマイナスの影響が及ぶ。政治家による扇動で中間層と社会的弱者が分断され、後者の切り捨てに支持がみられる危うい状況の中で、人権とか国の責任というものを柔らかな言葉で伝え、そして、反貧困の取り組みを中間層にも「届く」ものに強化、再構築していく必要がある。

運動を繫げ、私たちの目指す社会を提示していく

 本稿で取り上げた以外にも足下では様々な問題が噴出している。しかし、根底にある構造が共通している以上、個別の問題を共有し、解決への取り組みを横に繫げていくことが必要ではないか。大軍拡や社会保障削減が進められようとしている今こそ、公共の再生とはどのような社会を目指すことなのか、そのビジョンを可能な限りパッケージで提示して、自治体の中で作り出す努力が必要ではないか。それは私たちの目指す国のかたちでもあるからだ。同時に、特定のテーマで地域をこえて繫がる、シングルイシューでの全国ネットワーク化も必要かつ有益であると思う。
 自治体は、国の暴走を食い止める防波堤にもなるし、国を創り替える拠点にもなりうる。トライアンドエラーを繰り返しながら、歩みを進めていこう。
 本文で言及した公務非正規問題自治体議員ネットや反貧困ネット北海道による学習会の記録もNAVIで配信している。ぜひご参照ください。

(参考文献)
川村雅則(2025)『雇用・労働はいまどうなっているか──ディーセント・ワークを実現するために』日本経済評論社
川村雅則編著(2025)『お隣の非正規公務員──地域を変える、北海道から変える』北海道新聞社