労働組合と政策実現活動

労働者の生活と権利、東アジアの平和を目指して

JAM(ものづくり産業労働組合)会長 安河内 賢弘

1、はじめに

 政治の状況は、まさに混沌としている。
 連合あるいはJAMとしても、そして個人的にも悲願であった衆参両院での自公過半数割れが実現したにもかかわらず、その高揚感はほとんど感じられない。政権交代可能な二大政党的体制を目指し、緊張感のある熟議の国会を夢見てきたが、今目の前に現れた政治体制は熟議とは程遠く、日本のみならず世界各国で権威主義的な政治、あるいは民主主義を崩壊へと導きかねない衆愚政治が台頭してきた。
 日本初の女性総理が誕生した事実は喜ぶべきことだとは思うが、高市総理の発言は一部の声に偏ったもののように思えてならない。時にデータが示す現実とは異なる発言や、歴史や慣例を無視した答弁が目立ち、その危うさが際立っている。
 しかし、決して民主主義を諦めることはできない。そのためにも私たちは学び続けなければならない。歴史の教訓に学び、先人たちの知恵と経験に学び、学識者やジャーナリストなど外部の良識に学び、現場の声に学ぶ。人間は学び続けることで初めて前進することができる。
 民主主義最大の危機を眼前に見据え、改めて学ぶことの意味を考えなければならない。

2、労働時間規制緩和に断固反対

 厚生労働大臣への指示書の4項目の末尾に唐突に追加された「また、関係大臣と協力して、心身の健康維持と従業員の選択を前提にした労働時間規制の緩和の検討を行う」という一文によって、労働界に激震が走った。
 前文には「より少ない労働時間でより多くの賃金を得ることができる『稼げる日本』への変革を進める」と記載されているのに加え、5項目には「働き方改革を推進するとともに、多様な働き方を踏まえたルール整備を図ることで、安心して働くことができる環境を整備する」と記載されている。したがって、労働時間規制緩和に言及した一文は強く異臭を放っており、付け足しのような印象を与える文章となっている。
 そもそも日本人の労働時間は、行き過ぎた働き方改革によって短くなっているわけではない。JAMのデータを見てみると、1000人以上の大手労組は2011年東日本大震災以降、労働時間が15年に2049・9時間まで増加したものの、その後は19年まで徐々に減少している。一方で、300人未満の中小労組では、11年でも2040・6時間と一貫して2000時間を上回っている。その後、コロナ禍で労働時間が大幅に減少し、22年以降いったん上昇に転じるが、その後再び減少している。
 働き方改革関連法案は19年施行(中小企業は20年)であるが、直後にコロナ禍となっているため、その効果は十分に検証できず、行き過ぎたと評価するのは時期尚早である。
 その上で、もう一度グラフを見てみると、コロナ後の労働時間も減少しているが、25年の労働時間は法定労働時間を下回っているので、働き方改革関連法案の効果というよりは、コロナ禍を経て労働者の意識が変わってきたのではないかと考えられる。
 国際的に見て、日本の正社員の労働時間はまだまだ長過ぎる。18年と比較すれば、300人未満の中小労組では108・3時間短くなっているが、300人未満の平均年間所定休日日数は120・1日なので、単純に計算すれば1日当たり26・5分短くなっているに過ぎない。この程度の時短で「行き過ぎた働き方改革」や「労働時間が短くなったために供給力が低下し日本経済が減速の危機にある」などと言えるはずがない。
 

   日本の労働生産性低下の最大の課題は非正規雇用労働者の急増であり、このことに決して目を背けてはならない。有期雇用という働き方を法律によって規制し、短時間正社員という働き方を普及すべきである。夢物語に聞こえるかもしれないが、ドイツでは期限があらかじめ決まっているようなプロジェクト以外は有期雇用という働き方は法律で禁止されている。日本のように、仕事はずっとあるけれど、いつでも解雇できるように3カ月契約で雇うなどという有期雇用は違法である。
 人手不足の中で外国人労働者まで導入して非正規雇用による生産調整を維持しようとしてきたが、それも限界に達してきたというのが現実である。働き方改革をやり過ぎてしまったなどという戯言は到底信じられない。むしろ、男性の労働時間はさらに減らして、代わりに外国人労働者も含めて正社員化を進めるべきである。とりわけ年収の壁を引き上げるのではなく撤廃して、優秀な労働者である女性労働者の活躍をさらに推し進めなければならない。

3、今こそ労働組合
による日中親善交流

 高市総理が国会で「台湾有事は日本が集団的自衛権を行使できる存立危機事態になり得る」と発言した。安倍元総理でさえ言及しなかった従来の政府方針である「総合判断による事態認定」を踏み越え、台湾情勢に対する日本の軍事的関与を具体的に示唆するものである。
 当然の帰結として、中国は強く反発している。直ちに撤回しなければならない。撤回は日本の法的枠組み、外交的安定、民主的統制を守るために不可欠である。政府は「今後は明言を慎む」と述べたが、曖昧な修正では不十分であり、明確な撤回こそが国益に資する。
 25年11月3日、連合の芳野会長は連合・中華全国総工会定期協議を7年ぶりに再開させた。芳野会長は11月18日三役会議の冒頭で、「日中関係がかつてないほど緊張している今こそ、労働界における日中の友好外交を進めなければならない」と述べ、今後も継続していく意志を示した。
 戦前の労働組合は産業報国運動に取り込まれる過程において、消極的であったとはいえ、戦争に協力した。それは右派と言われた全日本労働組合総同盟(全総)のみならず、合法左派と呼ばれた日本労働組合全国評議会(全評)も同様である。産業報国運動の目的は、労働争議の防止と軍需生産への協力であり、労働組合の自主性を否定し、企業内に「産業報国会」を設置して労働者を統制する仕組みを整えた。従業員は「陛下の赤子」として国家奉仕を強調され、待遇改善などの協議機能を形骸化させていった。結果として、労働運動は産業報国運動に協力する形で戦争遂行に組み込まれたのである。
 今、労働基準法の改正にあたり、従業員代表制の議論が進められている。従業員代表制の整備によって労働組合の存在価値が毀損されることがないよう、鋭く論陣を張っていかなければならない。戦前と同じ轍を踏むことは許されない。
 東アジアの平和と発展のために、共に頑張りましょう。