主張 ■ 高市自維連立政権は「ポスト戦後政治」への過渡

自主・平和・国民繁栄の新しい日本をめざす国民的合意が急がれる

『日本の進路』編集部

 高市早苗新政権となった。
 自民・維新の連立であるが、多党化時代の少数与党であり、政権基盤はきわめて脆弱である。それでも自民党は自民党、しかも維新との連立合意書に加速されて悪政はさらに続く。
 何よりも参院選にも示された国民の不満と怒りは何一つ解決していない。
 実質賃金・所得の減少、食料品を中心に日常生活必需品の物価高騰で国民生活の危機は変わらず、社会保障削減、労働規制緩和など国民負担はいちだんと厳しさを増す。大軍拡と排外主義的な外国人政策、国民の権利の制限など民主主義破壊も連立合意で謳われる。
 「台湾有事」を引き寄せるような日米の戦争挑発も南西諸島中心に進む。沖縄の負担はいっそう苛酷となる。
 国民は参院選でも政治が変わること、新しい日本を求めた。その願いはますます遠のいたかのようだ。
 過渡期を迎えた戦後自民党政治に代わる新しい日本へ国民的政権をめざす時である。そのための国民合意と実現へ勢力形成が急がれる。

1、「解決策を模索する時」

 石破茂氏は「私などが首相になるようなことがあるなら、それは自民党や日本国が大きく行き詰まった時だ」と指摘していた。そしてそのとおり首相となり、辞任に追い込まれた。高市新政権成立は、「戦後日本の行き詰まり」そのものを象徴する。
 政治学者の御厨貴さんは次のように述べている。「戦後80年、これまで当たり前だと思ってきた戦後政治のシステムが溶解している。自民と公明の連立が終わることは大きな変化」。しかし、それだけではない。「戦後政治の終わりとポスト戦後政治と呼ぶべき、まだ名もなき時代が始まるという大きな分水嶺に直面している。解決策を模索する時。それは国会議員や政治家だけでなく、国民全体の課題」――と。まったく同感である。

2、「戦後最悪の反動政権」か

 ある野党党首が「私は32年間、国会でさまざまな政権と対峙してきた」と前置きして、高市政権について「戦後最悪の反動政権」と論断していた。
 高市氏の思想や政治行動履歴が、保守強硬派であり反動的できわめて危険だとの評価は間違いではない。だが、対極に位置した石破氏にしてもそうだったが、首相になればその思い通りにできるわけではない。
 高市氏も石破氏と同じ自民党の基盤の上にあり、しかも国会では少数与党、国家運営の実権を握った政府官僚たちの振り付けを払うのは容易ではない。高市氏が何を考え望んでいるかということだけから、現実の政治闘争を展望することはできない。
 そもそも32年間も「政権と対峙」してきたという野党党首は、「最悪の反動政権」を許したことへの反省が必要であろう。
 戦後世界を単独支配した米国の時代は終わり、中国を先頭にグローバルサウス諸国が国際政治の前面に登場し平等互恵を求めている。ドイツ、フランスなど西欧諸国は対米自立を加速し、世界は「多極化」の時代である。世界は以前の世界ではない。
 わが国財界も「自立」を掲げる。支配層主流は、衰退する米国に代わってアジアで中国に対峙し包囲する戦略的対応を進めている。それが安倍政権以来の「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」戦略である。
 高市首相は、国会での所信表明を済ませるとマレーシアに飛び、ASEAN首脳との会議に出席した。帰国してすぐに日米首脳会談、防衛相会談である。
 高市首相はそこで日米同盟を「新しい黄金時代」に導くと誓った。先立って国家安全保障戦略など安保3文書改定の前倒しと防衛費GDP2%超へ今年度補正予算での実現を表明するなど、準備を整えて日米首脳会談に臨んだ。
 それにしても高市首相はあまりにも卑屈だ! 米原子力空母ジョージ・ワシントン艦上ではしゃぐ姿は一国の首相とは思えない。ワーキングランチのメニューでは米国産のコメと牛肉を選んだという。これが「保守強硬派」の所業か。
 石破前首相がめざして進められなかった「日米地位協定」改定どころではない。

3、軍事大国化を
加速する高市政権

 米国にとっては対中国が最優先の戦略課題である。だが、進めるのは自らではない。日本の軍事費急拡大はトランプへの最大の贈り物だった。続く日米防衛相会談で小泉大臣は、「日米同盟」を「これまでにないスピード感で強化していく」と強調。最優先事項に、南西地域での日米の存在感の拡大、実践的な共同訓練の拡充を挙げた。文字通り対中戦争準備の最前線に立つとの決意表明である。
 来年末までと期限を切った安保3文書改定だが、そこまで高市政権が続いているとは到底思えない。だが、対中国大軍拡の加速だけは間違いない。すでに2022年改定で「反撃能力(敵基地攻撃能力)」を明記し、日本の防衛政策を「受動的防衛」から「積極的抑止」へと発展させ、専守防衛の「抑止力」を超えた。今日、原子力潜水艦保有も打ち出されている。
 わが国支配層は米国の「対日防衛約束」をすでに信じていない。この現実を踏まえ、日本はさらに踏み込んで軍事大国化を進めている。しかし、強国となった隣国中国を敵視する限り、米国の「核抑止力」に依存する対米従属は避けられない。

4、自公の崩壊は自民党政治の終焉

 1999年から26年間の自公連立が崩壊した。これは戦後政治史にとってきわめて重要な出来事である。55年体制といわれた自民党中心の議会政治が一変する。
 自民党は89年7月の参院選挙で大敗、さらに93年衆院総選挙で過半数を失った。この時、自民党への国民の支持は基本的に失われていた。しかし自民党はしたたかである。単独で政権が維持できなくなって以後、細川政権や鳩山政権などで「野党」時代もあったが、他党を連立に引き込む「策略」で乗り切ってきた。
 とくに99年以後は、野党時代も含めて公明党と連携し、政権を維持した。公明党は国政と地方の選挙で自民党を支えた。
 だが、公明党の今回の決断でその時代は終わった。これは自民党中心の政権の国会内基盤が弱体化したということにとどまらない。選挙の支持基盤としての公明党・創価学会も離反するからだ。この結果、たとえば衆院1小選挙区当たり少なくも1~2万の票が失われ、相当数の自民党議員の当選がおぼつかない。国政選挙があれば自民党に激変をもたらす。

5、期待される公明党の原点回帰

 自民と維新との連立はこの問題の解決にならない。痩せ細った自民党支持基盤の強化には維新は何のプラスにもならないからだ。
 それだけではない。公明党は立党の原点に戻るという。事実、政権離脱から日を追うごとに野党色を強めている。
 公明党の立党の原点は「大衆と共に」であり、「福祉」の党だった。また、1968年にはその学生たちが原子力空母エンタープライズ寄港阻止を掲げ佐世保市内での街頭デモなどもやったほどの「平和の党」だった。一時は「日米安保破棄」を唱え1960年代から70年代、「革新政権」へ共同歩調を追求したこともあった。
 こうした歴史をもつ公明党が「立党の原点」に戻るという。率直に期待したい。
 とくに72年の日中国交正常化では非常に大きな役割を果たし、その後も両国関係を維持し発展させる上で重要な役割を果たしてきた。今、その真価発揮が問われる。

6、脆弱な高市政権

 高市首相らの主張する保守強硬派の政策は、これまでの自民党政治とは相当に異なる。参院選などで参政党や国民民主党に流れた支持を取り戻すとの狙いもあったと言われる。
 だが首相を辞めた石破氏は「自民党政治がいわゆる保守の路線へさらに傾くことにすごく違和感がある」と語る。与党自民党は内部に大きな矛盾を抱えた。
 それは石破氏のようなリベラル派だけではない。例えば、裏金問題で批判を浴びている萩生田光一幹事長代行だが、維新との連立の一丁目一番地と言われる議員定数削減を「乱暴」と疑義を呈す。自民党内の不満はことあるごとに噴出するだろう。
 与党となった維新だが、高市政権の支持率が下落すればいつでも政権を離脱し、選挙の時だけ「野党」になる可能性を残した。大阪組とそれ以外の対立など、いつ党内矛盾が爆発するか。
 いずれにしても高市与党体制は内部に深刻な矛盾を抱えきわめて不安定だ。
 だから高市政権は一般には短命と見られている。さまざまな組み合わせの短命連立政権が続く局面となる可能性も高い。
 しかし保守強硬派がこの政治局面を巧みに操って、参政党や保守党、あるいは国民民主などの右派勢力を引きつけ政党再編の可能性もある。「日本人ファースト」的な超反動的対米従属政権となる可能性も否定できない。「反中国」である限り対米従属を脱却できない。

7、対米従属の終焉が
迫られる

 55年体制の自民党政治のいちばんの特徴は「対米従属」だった。
 国の主権を売り渡し、沖縄を差し出して米軍の思うがままに支配させた。代わりに米国市場を確保し、国民の税金を惜しみなくつぎ込んで製造業大企業の対米輸出依存で「経済繁栄」を実現した。農村農民も犠牲に差し出され、ドル支配の下で、繊維産業に始まり中小製造業も、さらに郵政民営化などに始まり金融も、徹底的に搾り取られた。
 しかし、その米国は衰退著しく限界に来た。
 第2次トランプ政権は、わが国産業の中心である自動車産業まで狙い撃ちだ。関税攻撃で世界中を敵に回している。中国はそれを敢然と撥ね返し、トランプを追い詰めている。
 安全保障は基本的に西半球、南北アメリカ大陸だけに絞るという見方が多い。米国の最大の世界戦略である中国抑え込みは日本や韓国に任せ、軍事挑発だけはやるが日本を守らない。
 今や自民党支配の終焉にとどまらず、「対米従属の日本」それ自身も成り立たない時期となった。
 戦後の日本を根本的に総括した、独立・自主の国づくりが迫られている。

8、「もう一つの日本」をめざす時

 われわれがめざすべきはもう一つの道である。対米自立を実現し中国とも平和に共生して共栄し、国民が豊かで民主的な日本をつくる道である。
 経済だけを見ても他に道はない。今日わが国経済は中国・アジア近隣諸国との関係で成り立っている。総貿易(輸出入合計)の20%が中国で、東アジア全体では50%。米国は15%に過ぎない。東アジアの経済一体化はめざましく、「台湾有事」などで貿易が止まれば国民生活は成り立たない。
 対米自立・アジア共生で国民が豊かな日本をめざす国民的合意形成が急がれる。われわれはそのため奮闘する。
 この政変劇でぱっとしなかった野党陣営だが、公明党が加わった。どの党にしろ野党らしく、そして野党連携を重視して、自民党内の自主リベラル勢力とも連携して、対米自立の「もう一つの日本」をつくる道を進めることを期待したい。
 そのためにも沖縄県民の闘い、全国に広がる「令和の百姓一揆」をはじめ、生活と平和のための国民的運動を支持し発展させなくてはならない。