中小が主役の25年春季生活闘争
ものづくり産業労働組合JAM会長 安河内 賢弘
いよいよ2025年春季生活闘争に向けた職場討議が始まります。25春闘は中小春闘をど真ん中に据えて、中小労働者が主役の春闘にしていかなければならないと決意を新たにしています。
連合は定期昇給込みで5%以上、中小は格差是正を加えて1万8000円以上、6%以上の要求を機関決定しました。これは、定期昇給2%、物価上昇分2%、マクロの生産性向上分・生活改善1%の要求です。連合が中長期的に2%の物価上昇と3%のベースアップにコミットし、「物価も賃金も上がるはずがない」というノルム(社会的規範意識)を変える、社会を変革しようとしていることは重要な意味があると思います。
JAMは連合方針を受けて、ベースアップ1万5000円以上を基本的な考え方として、30歳29万9000円、35歳33万9000円の個別賃金要求を掲げました。12月1日から2日間にわたって開催された中央討論集会では活発な討論が展開されましたが1万5000円が高過ぎるという声は聞かれず、「会社と交渉する上でのさらなる武器を示してくれ」という声が多く聞かれ、すでに会社との戦闘モードに入っていると感じられました。
なぜ賃金を上げなければならないのか
私たちの生活は確実に厳しくなっています。消費者物価指数(CPI)は過年度で3・0、3・2、足元2・3%で推移しており、3年間で8・5%の上昇となっています。特に頻繁に購入する品目で言えば、3年間で15%を超える上昇となっており、生活実感としてはCPIよりもこの数字の方が近いのではないでしょうか。その結果、日本のエンゲル係数は約30%に達しています。
昭和に小学校時代を過ごした私としては、エンゲル係数は日本が貧困から脱して豊かになっていった象徴として教えられました。それが2015年以降上がり続け、ついに30%です。近隣諸国で言えばマレーシアと同等の水準です。
物価上昇によって、ゆとり、豊かさが損なわれている現状があります。また、この国のものづくりの最大の課題は、人手不足ですが、残念ながら、人手不足は悪化することはあっても、当面改善することはないと思います。
私は第2次ベビーブーマーですが、私が18歳の時、同級生は200万人いて、そのうち70万人が高校を出て就職していました。今、18歳人口はおよそ100万人しかおらず、高校を出て就職を目指している高校生はわずか9万人しかいません。さらに言えば、今年生まれた赤ちゃんはわずか60万に過ぎません。
その結果、高校生の求人倍率は約4倍に急騰しており、工業高校に限れば、実に20倍という歴史的な水準で上がり続けています。工業高校卒の若者はまさに金の卵です。中途採用も含めて、若者の採用は非常に困難となっています。賃金、労働条件を上げるしかありません。
賃金、労働条件を上げることができなければ、今日、明日を乗り切ることはできても、10年後の会社を残すことは不可能だと認識しなければなりません。高校を出て、積極的に地元の中小企業、ものづくり産業を選んでもらえるような他産業に負けない賃金労働条件を確立しなければなりません。
生産性の違い?
付加価値の違い?
さらに、賃金の内外格差も看過できない水準まで広がってしまいました。生産性が上がらなければ、賃金は上げられないと言いますが、本当にそうでしょうか? 米国のトラックドライバーの賃金は未熟練工で10万ドル、およそ1500万円です。大手企業のベテランドライバーであれば2500万円が相場だそうです。では、米国のトラックドライバーがF1ドライバー並みのテクニックで、日本のドライバーの何倍も生産性が高いのか? そんなはずはありません。
また、付加価値が上がらなければ、賃金は上げられないという話もあります。私がドイツに行ったとき、ペプシコーラは800円でした。ホテルで買ったので、少し高かったのかもしれませんが、それでも800円は高い。では、ドイツのペプシコーラが日本のペプシコーラよりも何倍もおいしくて付加価値が高いのか? そんなはずはありません、ペプシはペプシです。なぜ、ドイツのペプシコーラが高いのか? それはペプシを作っている人の賃金が高く、運んでいる人の賃金が高く、売っている人の賃金が高く、何よりもペプシを買う人の賃金が高いからです。
ドイツの製造業の賃金は日本のちょうど倍ですが、これほどの差がつくということは、ドイツの普通の人が購入している商品を、日本人は買えなくなるということです。
私たちは2年間で、大幅な賃上げを実現してきました。まさに、ステージを変える結果を勝ち取ってきました。しかし、この2年間で規模間格差はさらに大きく広がってしまいました。JAMの全数調査によれば、2年前の大手と中小の賃金格差は、実に4万6000円もの大きな格差がありました。しかし、それがこの2年間で5万6000円に拡大しました。1万円以上の格差がわずか2年間で広がったことになります。
これは中小労働運動を看板に掲げるJAMにとって痛恨の極みです。JAMはあらゆる格差を許さず、社会的公正労働基準の確立をその理念に掲げ、運動を進めています。決して諦めることなく、ブレずに格差是正に取り組んでいかなければなりません。
価値を認め合う社会へ
このように、賃金を上げなければならない理由は、枚挙にいとまがないわけですが、賃金を上げられない最大の理由の一つが価格転嫁です。価格転嫁の取り組みは大きな一歩を踏み出したとは言えますが、いまだ道半ばです。
ある大手企業は「取引先の企業が赤字なら原材料価格上昇の半分は認めるが、黒字なら一切認めない」という謎のルールを作っているそうです。いまだにこんなとんでもない事例が報告されています。こうした事例を一つずつ世の中にさらしながら、さらに強力に世の中を動かしていかなければなりません。
とりわけ労務費の価格転嫁については、JAMの調査でも「ほぼ全額認められた」と答えた単組は21・7%に過ぎません。昨今の物価上昇、人件費上昇の負担が中小企業に集中し、中小が割を食っている実態があります。さらに、昨今の物価高によって当面の価格転嫁に大きな注目が集まっていますが、そもそも、物価上昇がなくても赤字で取引しなければならないなど、不公正な取引が横行していました。
赤字で取引しなければならないということは、自由で健全な市場経済が成り立っていないということです。私たちは当面の価格転嫁にとどまらず、企業規模にかかわらず健全な取引が可能な社会を目指し、ブレずに価値を認め合う社会を目指してまいります。いずれにしても無い袖は振れないというのであれば、労働運動で無い袖をつけるこれまでの取り組みを強化してまいります。
政権交代への
ラストワンマイル
政治も大きな変革期を迎えています。多くの政治家や厚生労働省や経済産業省、公正取引委員会などが、JAMの動向を注視しており、近年になく政治的な発言力が増すと同時に、大きな責任が問われてくると考えています。今、JAMが、あるいは連合が何を発言し、行動するのか、世の中の注目が集まっています。今こそ団結し、社会を変える原動力となっていかなければなりません。
秋の衆議院選挙の比例票を見ると、自民党は大きく票を減らしていますが、立憲民主党はわずかに7万票増やしたに過ぎません。今回の衆議院選挙は自民党が負けた選挙であり、立憲民主党が勝ったわけではないと思っています。また、国民民主党は躍進しましたが、比例票は立憲民主党の半分に過ぎません。
したがって両党には、決しておごることなく謙虚にひたむきに国会論戦に臨んでもらいたいと思っています。とりわけ立憲民主党には有権者に対して政権担当能力が十分にあることを示さなければなりませんし、その力は十分に備わっていると思います。両党とも飛躍したからこそ危機感を強く持ち、政権交代へのラストワンマイルの戦略を練っていただきたいと考えています。
SNSの影響も驚愕の結果を出し続けています。労働組合の役員は常に職場集会やオルグ活動の中で多くの意見を戦わせながら労組方針に意見を集約させる実践を重ねています。この経験はSNSの言論空間でも十分通用すると考えています。労組役員がSNSを通じて発言を重ねれば、SNSの言論空間も多少は落ち着きを取り戻すのでないかと思っており、労働運動のリーダーのSNSへの参戦を強く望んでいます。
戦後80年に向けて
昨年11月11日、5年ぶりに金属労協日中定期協議が再開されました。中国側からは、秦少相中国国防郵電工会主席、関明中国機械冶金建材工会副主席、邱麗珍中華全国総工会国際部アジア太平洋処処長、鄭又豪中国国防郵電工会郵政工作部部長、李康中国機械冶金建材工会弁公室副主任、伍徳道中華全国総工会研究室総合処副処長の6人が参加し、両国の産業状況や金属産業を支える人材の確保・育成などについて意見を交わしました。印象的だったのはトランプ政権誕生について、「前回は突然の出来事だったが、今回は事前に予測できているので、中国企業は十分に対応可能だ」と断言されたことでした。中国経済の先行きは不透明だとは思いますが、中国企業はしたたかに乗り越えようとしている印象を持ちました。いずれにしても、日本の平和と発展は日中関係を含めたアジア全体の平和と発展なくしてはあり得ないことを改めて確認をし、成功裏に協議を終えることができました。
今年は戦後80年に当たります。昨年は日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)がノーベル平和賞を受賞しました。ずいぶんと減りましたが被爆者の方がまだご存命のうちにノーベル平和賞を受賞できたことは喜ばしいことです。しかし裏を返せば、それだけ核兵器の使用に対する危機感が高まっているということでもあり、いまだに、ウクライナやガザ、そしてJAMが支援を続けているミャンマーでも残酷な殺戮が繰り返されています。
一本の鉛筆があれば、戦争は嫌だと書き、核兵器の廃絶と書き続ける、そんな地道な活動を続けながら、恒久平和の実現に向けて連帯をさらに強化していかなければなりません。
春闘勝利に向けて、共にがんばりましょう!