地方自治法「改正」

緊急事態条項改憲の先取りを止めよう

―金沢からの闘いの報告―

金沢市議会議員 森 一敏

問題意識

 私は、石川県憲法を守る会の運動、憲法改悪NO!市民アクション・いしかわの共闘運動の中で、両院の憲法審査会において、緊急事態条項改憲の突破口として国会議員の任期延長改憲の発議を、憲法論を度外視して強行しようとする改憲5党派の動きに危機感を強めていました。ですから、地方自治法に国の指示権を創設する法改正、すなわち非常事態を理由として、国家権限を強化する自治法「改正」は、改憲無き実質改憲、狙われている緊急事態条項改憲の先取りになりかねないと危機感を強めました。
 地方自治体での議論や国会へ意見を申すには、3月の議会(金沢市議会では「定例月議会」)しかないと判断し、金沢市議会としての意見書採択と代表質問を通して全国市長会としてのアクションを求めることを方針としました。

地方団体の姿勢に疑問

 ところが、全国市長会、全国市議会議長会など地方六団体からは、全国知事会の声明しか発出されておらず、全国知事会の声明も法改正の必要性を理解することを前提に、地方自治の本旨に反し安易に運用されないことの明確化を求めるものにとどまっていました。地方制度調査会の議論の中で、国と地方の対等性確保を求める地方側からの意見はある程度盛り込まれているとの判断が働いているようです。3月の代表質問で市長の問題認識を問いましたが、楽観的な答弁でありました。
 しかし、果たしてそうだろうか。地方自治体の主体を前提に補完性の原則にのっとり、財源や人的保障、技術的支援などを行う国の責務が果たされてきたか。これは国の指示権の立法事実に関わる問題です。また事態の判断は内閣が行うことから、恣意的な濫用を防ぐことができるのか。これは独裁化に関わる問題です。「迅速な対応」を理由に、地方自治の独立性を担保するために必要な法定主義や限定性が曖昧に扱われています。これでは白紙委任となります。

「改正」案の廃案を求めて

 こうした問題意識に立って、金沢市議会3月定例月議会では、所属会派みらい金沢が提出した意見書案をもとに、過半数を占める自民党、公明党をも含めた会派間調整の後に全会一致で「地方自治法改正案の閣議決定を受け、重大事象発生時の運用の明確化と慎重な審議を求める意見書」を採択しました。
 また、改憲問題法律家6団体主催の院内集会へのオンライン報告、衆議院総務委員会審議の傍聴、ローカルイニシアティブネットワークほかの呼びかける院内集会への参加などを経て、衆議院本会議採決が行われた5月30日に、共闘団体である憲法改悪NO!市民アクション・いしかわの緊急声明を記者会見で発表しました。

 しかし、政府は7月20日、参議院本会議で採択、この悪法を成立させてしまいました。この暴挙に強く抗議するとともに、「戦争に協力する自治体づくり」を拒否し、地方自治の強化をめざして頑張ります。
 以下、金沢市議会の意見書と5月30日の緊急声明を抜粋して本報告を締めくくります。

(2024年6月5日、記)

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地方自治法の一部改正案の廃案を求める緊急声明

2024年5月30日
憲法改悪NO!市民アクション・いしかわ

 (前略)そもそも2000年に施行された地方分権一括法では、地方自治体の独立性、国と地方は対等・協力の関係であることを規定しました。それを担保するため、国の指示は、法定受託事務において違法な不履行に対し是正の指示を行える以外は規定せず、自治事務においては個別法の制定を前提に、緊急を要することを条件に国の関与を必要最小限に制約したのです。
 ところが、総務委員会で再三指摘されたように、「個別法の規定では想定されていない事態のため個別法の指示が行使できず、国民の生命等の保護のために特に必要な場合」とはいかなる事態なのか、政府は明確にしませんでした。国が、立法事実の根幹をなす事態を曖昧にしたまま、閣議決定で対象となる事態を認定し、補充的指示権を行使できるなら、まさに内閣への白紙委任を地方自治の一般法により強いることになりかねません。(中略)
 とくに本会が問題視するのは、「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」が「発生し、又は発生するおそれ」として、武力攻撃(戦争)や内乱・テロも除外していない点にあります。しかも安全に影響が出ていなくても「おそれ」があれば指示権の発動は可能とされています。「安全に重大な影響」の定義そのものが抽象的であり、「おそれ」は国の恣意的な判断で際限なく広がる可能性をもっています。これらは閣議決定だけで国会の承認は不要で、自治体の意見聴取は努力義務にとどまっています。有事法制における国の自治体への指示には総合調整と自治体の意見聴取が義務となっており、今改定案は「戦争法」である有事法制の要件よりはるかに緩く、大臣の判断には何の縛りにもなりません。(中略)
 いま「台湾有事」をめぐる事態は危険な兆候を見せています。岸田首相が目指す軍事大国化の流れの中でこのような改定案が成立すれば、有事に際して、国は自治体を全面的に戦争に巻き込む法的根拠を得ることになります。
 5月27日の衆議院総務委員会において、改定案は国会への事後報告を義務付ける修正のうえ自民、公明、維新、国民などの賛成多数で可決されました。しかし、私たちはこれで審議を終わらせ、数の力で法案成立を強行することは許しません。断固反対し廃案を求めるものです。

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