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主張 ■ 岸田首相は米国に何をしに行くのか

アジアの共生で持続可能な日本へ

『日本の進路』編集部

 岸田首相は4月に訪米する。何をしに行くのか。
 国内にやらなければならない課題は山積だ。能登半島地震から3カ月、地域主体の復旧・復興が急がれる。首都圏直下型や南海トラフなどの大地震・大津波に備えて超過密都市の住民の命と暮らしを守る対策は喫緊の課題だ。気候危機も人口減少対策も待ったなし。
 その前に自民党の裏金問題はますます疑惑が深まり、そもそも自民党は和歌山での問題などを見ると文字通り末期だ。
 最も肝心な国民の深刻な生活危機への対策はきわめて不十分。何よりも国民大多数の切実な願いに応えるべきだ。
 もちろん外交は重要だ。緊張高まる世界で、平和と発展の進路は最大の課題だ。
 必要なのは自主外交だ。いま行くべきは宗主国ヅラの米国ではない。近隣諸国、東アジアとの関係強化こそ重要だ。
 何よりも中国との関係打開である。日中関係の冷え込みに、ましてや中国脅威・台湾有事を煽る政府与党やマスコミに多くの国民は不安を抱いている。


 岸田首相も昨年11月、習近平主席と会談で「日中戦略的互恵関係」の包括的推進を確認した。問題は、それをどう進めるのかだが、戦略的互恵の外交はまったく見えない。日中関係を打開・発展させ東アジアの緊張を緩和させるために日本は努力すべきだ。ウクライナやパレスチナ戦争を終わらせる役割も重要だ。

主権国家とは言えない

 米軍は3月8日、オスプレイの飛行停止措置解除を発表。海兵隊第1海兵航空団はさっそく14日、普天間基地のMV22オスプレイの飛行を再開した。玉城デニー知事をはじめ沖縄県民は、普天間飛行場が所在する宜野湾市の自公推薦の市長も含めて、わが物顔に振る舞う米軍と属国根性丸出しで県民の命と安全を守ろうとしない日本政府への怒りを改めて高めている。
 ところが岸田首相はこの問題に対してまるで人ごとで、主権国家の政府として国民の命と安全を守ろうという態度がまったく窺えない。
 飛行停止措置が決まった昨年11月末のオスプレイ墜落死亡事故の際も、わが国政府は「属国根性」丸出しだった(本誌1月号参照)。今回も米軍側の説明を聞いてその判断を追認した。
 「主体的な判断」との文言を繰り返していた木原稔防衛大臣だったが、米軍決定に唯々諾々と従った。「沖縄タイムス」紙によるとその辺の事情を、ある防衛省幹部は「米側に拒否権を発動できない」と本音を漏らし、別の幹部は木原大臣が「主体的に判断」と語ったのは、「日本国内向けに示しがつかないからだ」とあけすけだ。
 片や米国でさえこうだ。下院の監視・説明責任委員会のコマー委員長は「重大な懸念は残ったまま」「国を守る米兵を守るため、厳しい調査を継続していく」と決定を厳しく批判、議会独自での調査を継続する姿勢を表明した。
 岸田首相には米下院委員長すらほども「国民を守る、自衛隊員を守る」気概と国家主権を貫こうとする姿勢が見えない。

衰退する米国の画策

 米国は大統領選のさなかだが、狙いははっきりしている。力の衰えた帝国主義・覇権国として世界支配維持のために「属国」として日本を最大限使うことだ。要するに中国包囲網強化だ。この点では民主も共和も基本的に違いがない。
 米国は、世界経済と国際政治で躍進著しいグローバルサウス・途上国の中心に立つ中国を抑え込み覇権を維持しようと焦っている。台湾問題で日中両国を争わせようとしている。
 言うまでもなく台湾は中国の不可分の領土の一部であり、日本政府も、米国政府でさえもそれを再三確認している。台湾の「分離独立」をそそのかすような一切の言動は許されない。主権尊重、内政不干渉を貫かなくてはならない。
 米国は岸田首相を国賓待遇で迎え、連邦議会で演説の機会を与える。民主、共和の党派を超えて日本を対中国の前面に立てようとしている。フィリピンも加えた「3国首脳会談」も昨年の日米韓に続いてやられる。大統領選挙の結果がどうであれ、米国の対中国包囲を中心とする世界戦略を推進する体制を築こうとしている。
 防衛省はすでに1月18日、米国製巡航ミサイル「トマホーク」の購入を米政府と契約。約2540億円で最大400発を南西諸島や九州に配備する。対中国の日米軍事一体化はとどまるところがない。
 米国はウクライナ支援の強化も迫る。日本政府はすでに、国民の窮状をよそにウクライナ支援で1兆8000億円ほどつぎ込んだ。パトリオットミサイルを米国に輸出する。
 すでに次期戦闘機の輸出も閣議決定で解禁である。
 米国は岸田首相を待ち受けて、いっそうの負担、危険な役割を担わそうとしている。

歴史の教訓と未来

 米国の画策を拒否しなくてはならない。前回2015年に連邦議会で演説した安倍晋三首相は、日米両国で「力を合わせ、世界をはるかに良い場所にしていこうではないか」と「希望の同盟」なるものを呼びかけた。だがどうか。世界は「はるかに良い場所」になったどころではない。二つの戦争から核戦争を含む危険な世界となっている。
 かつて03年に小泉純一郎首相とブッシュ米大統領は、「世界の中の日米同盟」を確認した。そして米国はアフガニスタンやイラクでの戦争を進め、日本も後方支援に踏み切った。その時と比べてすらも大幅に力の衰えた米国だ。日米同盟に未来はない。
 だからこそホワイトハウスはこの1月、岸田首相の訪米は「世界での日本のリーダーシップの役割の拡大」を示すことになるとの声明を出した。窮地の岸田首相を持ち上げて日本に危険な役割を果たさせようとしている
 だが、日本にそんな力はない。
 世界は、抑圧され続けてきた途上国・グローバルサウスの国々が経済発展を背景に立ち上がり、中国を先頭に平和と平等の国際秩序めざす時代だ。
 日本が古い世界で米国の「属国」にとどまるか、新しい世界で自主平和の国になるか。選択の時だ。

独立国らしく

 とりわけ沖縄県民の「再び戦場にさせない」との声に応えなくてはならない。「抑止」という中国挑発の南西諸島軍事強化を取りやめ、すべての米軍基地を撤去することこそ東アジアの平和と安定の道だ。
 そのためにも対中国外交を進め、日中の平和友好関係を前進させることが肝心だ。少なくとも昨年11月の日中首脳会談合意に沿って汚染水問題協議やハイレベル経済対話を促進しなくてはならない。
 日中関係の正常化とさらなる前進は難しいことではない。
 問題の発端は、2021年4月16日の日米首脳声明で「台湾海峡の平和と安定」と明記、中国の内政である台湾問題に乱暴に介入する態度を日米が取り決めたところからだ。日米の共同声明で「台湾海峡」が明記されたのは、実に1972年の日中国交正常化前の69年11月の日米共同声明以来なのである。
 この間に中国は強国化したが、平和と友好の対日政策の基本を変えたわけではない。変わったのは日本であり、米国だ。米国が衰退し、覇権が危うくなったのは事実だ。その米国が、自国を凌ぐ勢いの中国を抑え込もうとしている。
 だが、日本が協力する筋はまったくない。日本は日本である。
 内政でも外交でも、持続可能で自主の日本へ、舵を切り替えるときである。