「東アジア不戦」の提言 ■ 2022年2月22日を期して

一年前アピール

東アジア不戦推進機構 提言者一同

 来年2月22日までに東アジア各国首脳による「東アジア不戦」の宣言を求める「1年前アピール」が出された。提唱は、瀬戸内寂聴氏や西原春夫氏など18人の、第2次世界大戦を直接体験した「長老」たちである。政府を動かす世論形成が求められる。(一部要約)

 2022年2月22日、その22時22分22秒を期して、東アジア各国首脳が「少なくともまず東アジアを戦争の無い地域にする」という、歴史的な宣言を出す。そのことを、20世紀に起こった戦争の時代を自ら体験した最後の世代に当たる私たち18人が、万感の思いをこめて希望、提言する、これが私たちのこのたびの企画です。 提言に至った動機は、最近の世界情勢にあります。
 第二次世界大戦が1945年に終わったあと、世界情勢は長い間東西冷戦を特徴としていました。その構造が1990年前後に崩壊した後、確かに宗教や歴史のからんだ地域的な動乱が目につくようになりましたが、世界全体としては国際協調の流れが強まり、世界平和への希望が高まった時期がしばらく続きました。
 しかし東西冷戦終焉後、勝利した自由主義陣営内部でグローバリズムが進み、それが世界を同じ尺度で秩序づけようとする傾向を持つところから、個別国家がこれに抵抗して国としての独自性を強調するようになりました。
 時を同じくして、次第に力を付けてきた新興政治勢力が世界に強い影響を及ぼすようになると、旧政治勢力との間に主導権争いが生じるようになります。いずれも排他的な国家主義を強める結果を生み出しました。2010年代のことです。
 このような動向の中に戦争の危険を感ずるのは私たちばかりではないと思います。自分の国の利益のみを強調する偏狭な一国主義が強まると、相手の国との間に対立を生み、それがだんだんとせりあがって戦争に至る恐れがあることは、過去の歴史が物語っているからです。

 戦争がいかに悲惨で、残酷で、愚昧なものであるかを一番よく知っているのは、戦争そのもの、少なくとも戦争時代のことを直接体験した人ではないでしょうか。しかしその人たちの多くはすでにこの世を去って、声を挙げることができなくなっています。
 戦争の足音が近づいた今、「戦争は絶対にいけない」「戦争はやめよう」。亡くなった彼らは必ずそう叫びたいに違いありません。そうだとするならば、亡くなった彼らに代わって声を挙げることができるのは、その世代の最後に位置する、今生きている私たちしかないということになります。私たちの責務ではないのかとさえ考えられたのです。
 戦争がいけないのは世界全体の問題であるけれども、日本人が世界全体に呼びかけるのはおこがましいし、その資格があるとは言えない。しかし、東アジアに限ってみると、そこで戦争を始めたと思われているのが日本だし、東アジア全体に大変な損害をもたらしたのが日本であることは疑いない。その東アジアならば、そのような日本人だからこそ、「戦争はやめよう」と説き得る立場にあるのではないか、そう考えたのでした。
 さらに問題は、各国政府に求める提案の内容と時期です。本来時期は限る必要はないけれども、何らか意味のある期限がないと行動として具体化しにくいと思われるので、たまたま来年訪れる千年に一度の特異日を選んだのでした。

 東アジアにも、独特の世界戦略を持っている中国とか、核ミサイルの開発に熱心な北朝鮮のような国が含まれているのだから、このような企画は夢のようなもので、実現するはずはないと考えている人は多いようです。
 しかし固定観念にとらわれず、前向き闊達に考えをめぐらすと、道の開ける要因が見つかります。まさに来年の1、2月に予定されている北京冬季オリンピック・パラリンピックです。国際社会が喜んでこれを受け入れる雰囲気が作られた上でなければ、中国が国の威信をかけて実現しようとしている水準でそれを成功させることはできません。中国はそれを知っていると思います。さらにそれに堂々と参加したいのが北朝鮮であることも忘れてはなりません。今年の後半、東アジアの国際意識が変わっていく可能性は否定できないのです。まだ微妙なところがありますが、今年の東京オリンピック・パラリンピックも、もちろん同じく平和のきっかけになると思います。
 そのような中にあって、この企画をどのように進めていくべきか、私たちは支援者のお知恵をお借りしながらシナリオを作りつつあります。この企画は最終的には日本を含む東アジア各国政府の同意を必要としますが、それは今年のずっと後になるでしょう。それでいっこうに差し支えないのです。それまでどのような道を通って、それぞれに違う国情をも考慮して準備を進めていくか、次第に明らかになっていくと思います。
 それにしても、ぜひお願いしたいのは、私たちのやむにやまれぬ思いを、できるだけ多くの日本国民が理解し、これに賛同し、ご声援賜ることです。その声が大きくなったとき、東アジアが、世界が変わっていくかもしれません。
 突然襲いかかってきた新型コロナ・パンデミックは、一方において国境を閉ざし、個別国家ごとに対応せざるを得ないようにしながら、他方において人類全体が一致団結して共通の困難の克服に努力するよう促しています。それとまったく同じように、人類の歴史は正面では対立をあおる方向に流れながら、実は裏面で、対立を超克する流れを待ち望んでいるのではないかと思われてなりません。

提言者(俗称「長老」)1922年~34年生まれ 18人
瀬戸内寂聴、千 玄室、伊藤雅俊、大城立裕(故人)、岡田卓也、石原信雄、西原春夫、野村 萬、谷口 誠、澤地久枝、有馬朗人(故人)、明石 康、花柳壽應(故人)、平岩弓枝、三浦雄一郎、森田 実、有馬龍夫、海老沢勝二

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