地方自治法改悪に反対 日本弁護士連合会

自治体・住民の「自己決定」を阻害する

 岸田政権は、開催中の通常国会に地方自治の根幹を揺るがす地方自治法の改悪法案の提出を準備している。これに対して日本弁護士連合会は今年1月18日、反対の意見書を発表した(第33次地方制度調査会の「ポストコロナの経済社会に対応する地方制度のあり方に関する答申」における大規模な災害等の事態への対応に関する制度の創設等に反対する意見書)。その要旨を紹介する。(文責編集部)

意見書全文
https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2024/240118_2.html

「答申」に基づく地方自治法改正案に反対する

 地方制度調査会「答申」は、「第1 基本的な認識」、「第2 デジタル・トランスフォーメーションの進展を踏まえた対応」、「第3 地方公共団体相互間の連携・協力及び公共私の連携」、「第4 大規模な災害、感染症のまん延等の国民の安全に重大な影響を及ぼす事態への対応」、「結び」という構成になっている。
 日弁連は、冒頭の意見の趣旨のところで、「(答申に基づく)地方自治法改正案の国会提出に反対する」と明確に主張する。
 答申の「第4」で示された「大規模な災害、感染症のまん延等の国民の安全に重大な影響を及ぼす事態への対応」に関する「国の補充的な指示」の制度の創設は、2000年地方分権一括法により国と地方公共団体が「対等協力」の関係とされたことを大きく変容させるものであるとともに、自治事務に対する国の不当な介入を誘発するおそれが高く、また、「第1」ないし「第3」もDXやAI技術の導入に当たって考慮すべき個人情報やプライバシー保護の視点が極めて不十分である――との理由である。

国の指示権拡大

 2000年から施行された地方分権一括法によって、それまで地方公共団体を国の下部機関と位置付ける機関委任事務が廃止され、国に地方公共団体に対する包括的指揮監督権を認める制度が廃止された。
 国と地方公共団体は「対等協力」の関係とされ、国が地方公共団体に対する関与に関しては以下の原則が確認された。
 第1に、法定主義の原則(国の地方公共団体に対する関与の根拠・態様は、法律又はこれに基づく政令で定めなければならない〈地方自治法第245条の2〉)。
 第2に、一般法主義の原則(地方自治法で自治事務及び法定受託事務に関する国の関与の基本類型が定められるとともに、個別法による国の関与に関する定めは、地方自治法の定める国の地方公共団体に対する関与に関する一般ルールに従わなければならない〈法第245条の3〉)。
 第3に、必要最小限の原則(国の関与は、目的を達成するために必要な最小限度のものとするとともに、地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならない〈同条〉)などが定められた。
 2000年の地方分権一括法により、「国による地方公共団体への関与」の規定は、それまでの「上下主従」から「対等協力」の関係へと抜本的に変えた最も根幹的なルールである。
 答申の「第4」は、この根幹的なルールを改変しようとするもので、地方分権を大きく後退させることから、到底認めることはできない。

団体自治を侵害する

 認めない理由は答申の「第4」で挙げている以下の点にある。
 第1に、個別法の根拠規定なしに、一般法たる地方自治法を改正して、国の自治事務に関する指示権を一般的に認めようとするもの、第2に、現在の地方自治法で、個別法で自治事務に対する指示権を認めるのは、「国民の生命、身体又は財産の保護のため緊急に自治事務の的確な処理を確保する必要がある場合等特に必要と認められる場合」(同法第245条の3第6項)とされているにもかかわらず、「緊急に」との用語を使用せず、指示権を認める要件を緩和しようとしている。なお、現行法では、「違法等の場合」に限定されている法定受託事務に関する指示権を「違法等以外の場合」にも、より広く国の指示権を認めようとしている点も問題である。
 以上の点は、国と地方公共団体の関係を大きく変容させるものと言わざるを得ない。第1次分権改革の貴重な成果をないがしろにするものであり、団体自治を侵害するものである。
 憲法の定める地方自治の本旨は、団体自治と住民自治を意味する。第1次分権改革によって定められた一般ルールは、これを具体的制度として規定したものである。
 「答申」では大規模災害及びコロナ禍の実証的な分析検証が行われておらず、自治事務に関する国の指示権が必要であることの根拠が示されていない。
 災害によって生じる被害は、その地域の特性に大きく影響されることから、日本の災害法制は基本的な災害対応自治体を市町村とした上で、その規模等に応じて、都道府県の関与、国の関与を可能とし、それぞれの責務や権限等を定めている。
 現実の事例からの教訓として、熊本地震の際、体育館の中に入らず車中生活を送っている人の窮状がマスコミで取り上げられたことを受けて、当時の防災担当大臣が、避難者を体育館に入れるようにと言ったのに対し、現場の実態に基づき危険性を十分に認識していた熊本県知事はこれを拒んだ。その数日後に、震度7の本震が起きて、避難所になっていた体育館の屋根が落下した。仮に、国の指示に従っていたら、多数の死傷者が発生していた。
 国より、被災地で現に被災している地方自治体の方が、少なくとも、その地域の被災状況等については多くの情報を把握している。限定された情報しか持っていない国と、より多くの情報を持っている自治体、それぞれが下す判断の、どちらがより正しい傾向にあるかをよく考える必要がある。
 予想される弊害として、国の不当な介入を誘発するおそれが高い。例えば、過疎地域だから行政能力が低いとして、大きな近隣の市に事務を委託するように指示することも可能となる。これは、全国市長会や全国町村会が強く反対した「中心市が周辺市町村を従属させる仕組み」につながりかねない。

市町村こそが住民に最も近い行政組織

 地方自治が憲法上重要な位置づけがなされているのは、地方自治体、特に市町村こそが住民に最も近い位置にいる行政組織として住民の生活を守る立ち位置にいるからである。これは自治体の自己決定という観点、住民の自己決定という観点からしても重要である。自己決定は他者から見れば常に正しく、合理性のある判断とは限らない。仮に間違ったとしても、自分たちで決め、自分たちでその結果を引き受けるという関係性こそが、地方自治の充実発展につながるのである。
 第33次地方制度調査会第20回専門小委員会が作成した答申のうち「第4」は、希薄な根拠に基づいて、国と地方公共団体の関係を大きく変容させるものであり、団体自治を侵害するものである。そして、自治体の現場に混乱と誤った対応を生じさせ、かえって国民を危険にさらすものである。また、答申における基本的な認識においても、DXやAI技術の導入にあたって考慮すべき個人情報やプライバシー保護の視点が極めて不十分である。
 第33次地方制度調査会の審議の進め方自体も、このような重大な事柄についての審議のあり方として不十分であり、地方自治の本旨の観点から大きな問題があると言わざるを得ない。
 よって、当連合会は、第33次地方制度調査会の答申に基づく地方自治法改正案の国会提出に反対する。以上――と意見書を結んでいる。