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主張 ■ 能登地震の警告を受け止める

「国のカタチ」を根本から変え「持続可能で自主の日本」へ

『日本の進路』編集部

 能登半島地震から2カ月、東日本大震災3・11から13年。二つの震災は原発問題も含めて、現代日本の深刻な課題を暴き出した。
 「復旧・復興」は緊急の課題だ。だが、「復興」には二つの考え方がある。政府やマスコミなどでは、「あんな所に財政をつぎ込んでも無駄だ」と「効率」「集住」との主張が中心だ。
 しかし、多くの被災者が「ここを離れたらいつ戻ってこられるか分からない」と2次避難についても拒否し、先祖伝来の地域の持続・復興を望む。
 地方切り捨て・「一極集中型」の日本は、確かに「効率」は良かった。だが大都市集中はいま矛盾を噴出させている。食料もなく、エネルギーは化石燃料輸入依存と原発で持続不可能。地方は衰退。人口減少が急テンポで進む。集中と効率化の日本は限界だ。
 地域の復興は地域が決める、自己決定の復興が必要だ。能登の復興、地方・農林漁業と地域の再生で「持続可能な日本」をめざそう。


「効率」で被災者切り捨て

 被災者の救援、生活・生業の回復と復興が求められている。東日本大震災や熊本震災の鮮烈な記憶をもつ地域を中心に全国から連帯と救援、復興支援の手が差し伸べられ被災者を激励している。
 ところが復興へ必死に生きようとする被災者を鞭打つ攻撃も強まる。
 政府の規制改革推進会議の議長代理で地域産業活性化の座長も務めるある有力者は、復興では「割り切る」判断も「せざるを得ない」と1月24日の政府審議会で公然と述べた。他の委員も、「ある程度の限界になったところは、人は集住していただくしかない」と言う。
 「効率化」「国主導」の復興で政府はすでに動き始めている。
 岸田首相は2月1日の復旧・復興支援本部の初会合で、「政府としては引き続き『できることは全てやる』という考え方で一丸となって復旧・復興を強力に推進する」と大見えを切った。熊本地震などではなかった復興本部を置いて「国が復興を主導」する姿勢を前面に出した。東日本大震災を受けて新設された復興庁も参画、国主導で復興事業を進めたノウハウを活用する狙いだという。
 高齢者が多い集落のあり方そのものを再設計、また、自治体単独では費用や人的資源も乏しく、自治体が管轄する港や河川の復旧を国が代行する。首相はその場で、能登空港や輪島港など21カ所の工事代行を指示したという。復興は経済効果を見極めながら適正な計画をつくるという。
 復興本部は同時に、住宅に被害が出た世帯への支給額の上乗せ(600万円)を決め、被災者を住み慣れた地域集落から引き離す「2次避難」への公費負担を日額1万円に引き上げた。被災者に優しい政治ではなく、国主導で「経済効率」に沿った「復興」を促進するためだ。自治体から権限を取り上げ、住民を黙らせるアメに過ぎない。

「効率よい都市集中」に展望はあるか

 中山間地をはじめ人口減少が進む地方は放棄し、都市に集中し効率よい国をめざすべきなのか。
 「一極集中型」の日本は、確かに効率は良かった。明治維新以来、殖産興業・富国強兵の集中型国づくりが進んだ。しかし、その行き着いた先は大陸侵略の戦争だった。さらに戦争に敗北して、米国に従属したまま今度は経済「戦争」だ。地方(農林漁業、農山漁村、農林漁民は犠牲となり都市に追いやられ)などの犠牲の上で、一時は輸出立国で栄えた。だが、その後、停滞の30年。
 今、首都直下型の大地震が首都圏を、南海トラフ地震と津波が中京地方や近畿地方を襲ったらどうなるか。超過密都市では、いったいどこへ避難するのか。食料自給ゼロの東京都、1%の大阪府はどうするのか。
 運転停止中だった志賀原発は辛うじて大事故は免れている。珠洲原発は反対運動で建設中止に追い込んだが、もし出来ていたら4メートル隆起の断層の上でどうなっていたか。重要なことは何よりも福島原発事故の教訓。安価と言われた原発依存政策の全面見直しは当然だ。
 これが能登半島地震の警告であり、東日本大震災の教訓であろう。農林漁業を再生し食料を自給し、森林や海洋など豊かなエネルギー資源を活用する、地方・地域を再興させる道こそ展望だ。

復興は地域の自己決定で

 東日本大震災の教訓は、復興は地域の自己決定で、である。体験者たちが語っている。
 宮城県石巻市の阿部晃成さん(35)は支援に駆けつけ、「東北の経験を正直に伝えて、少しでも能登の復興のお役に立ちたい」と語る。東日本の復興では、国が主導する高台集団移転と巨大防潮堤の建設が行われた。阿部さんの所でも数百億円の予算と7年の時を費やして住宅地が造成された。その間、震災前に4千人いた地区の人口は1千人まで減った。
 阿部さんは「いずれどんな復興を目指すのかというタイミングが来る。そのとき、町の将来を決めるのは皆さん自身です」「復興まちづくりは本来、住民側からのボトムアップであるべきもの。国や県が決めた、『上』から降ってきた住民の望まない復興は、失敗する。皆さんには私たちの轍を踏まないよう、よく考えてほしい」(以上、「産経新聞」2月12日)
 内閣府の「東日本大震災復興構想会議」に委員として参加した小説家で僧侶の玄侑宗久さん(福島県三春町)は、「『過疎地』を切り捨てない復興を望む」と次のように語る(「毎日新聞」2月14日)。
 会議で盛んに言われたのは「未来志向の創造的復興」。しかし内実は「この際、合理化しよう」ではなかったか。東北地方の暮らしに経済の物差しを当てれば「遅れている」と見えるのだろう。しかし私たちはこの地に生きることに積極的な価値を見いだしている。
 私は会議で「復旧ではいけないのですか」と申し上げた。しかし結局、土地に暮らす人々の考えは会議では尊重されなかった。
 能登半島にも同じことが起きないかを危惧する。高齢化も過疎化も深刻なのだから復興するならコンパクトシティーに、などというのはとんでもない。

破綻の先を走る岸田政権

 国会が自分たちの「裏金」問題を糾明するのは当然だが、それも満足に進まず国民はあきれている。
 だが、そもそもそれにとどまらずに天下国家の問題こそ取り上げるべきだ。開会中の通常国会は本来、能登半島地震復興特別国会でなくてはならない。それをできない岸田自公政権は総辞職し、国民の信を問うべきだ。
 それどころか岸田政権は、辺野古新基地建設埋め立て強制代執行など沖縄県民の民意と沖縄県の自治権を蔑ろに。本誌(14ページ)でオール沖縄会議福元事務局長が厳しく批判。さらに今通常国会に、地方自治体への国の指示権を一般化させ地方の自己決定権を蔑ろにする地方自治法改正案を提出する。反対意見書を日本弁護士連合会が発表した(本誌23ページ)。
 世界では二つの戦争と東アジアの緊張も高まる。米国に縛られた日本は、中国敵視・軍拡対応で進むか、アジアの共生をめざして平和自主外交に転換するかが問われている。気候危機、感染症、震災と水害など自然災害、停滞する国民経済、貧困化と極度の格差、そして人口減少の日本を変えなくてはならない。地方・地域が、国民自らが自らの生き方を決める自己決定の国が求められる。
 能登地震の警告、東日本大震災の教訓は、「持続可能で自主の日本」をめざす政治への転換を求めている。