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[新春メッセージ]鳩山 友紀夫

2024年の世界に臨む

東アジア共同体研究所理事長(元内閣総理大臣) 鳩山 友紀夫

 2024年を迎えました。私は今、目の前の困難を見つめ、なおかつ将来に希望を失わないことの大切さに改めて思いを致しています。
 今日の世界を規定する最も重要な二国間関係は米中関係であり、その基調が対立であることは今年も変わりません。西側では、米中対立の根幹にあるのは「民主主義対権威主義」という価値観の対立だと捉えられています。
 しかし、その最も根源的な要因は、所謂「トゥキディデスの罠」です。人類の歴史を振り返ると、既存の大国と新興の大国の間では緊張が生じ、多くの場合は戦争に至っています。米中の力の接近は長期化するため、両国の対立も必然的に長期化することが避けられません。ただし、昨年11月に行われた米中首脳会談からも窺われるとおり、米中双方は当面、米中対立を今以上に激化させたくないと考えており、小康状態を見せているのが今日の姿です。今年は1月に台湾総統選挙があり、11月には米大統領選挙があるため、この小康状態がいつまで続くかは読めません。
 米中には、今のうちに意思疎通のチャンネルを確立し、具体的な協力の実績をあげてもらいたいものです。日中関係についても同様のことが言えます。しかし、近年の日本政府の対中アプローチは米国政府以上に硬直的であるため、残念ながらあまり多くは期待していません。
 近年、相争う当事者のうち、自分たちの支持する一方が100%正しく、他方が完全に間違っている、あるいは悪であるという見方が世界に蔓延しています。例えば、ロシア=ウクライナ戦争。ウクライナに侵攻したロシアの行為は決して正当化できません。しかし、冷戦後の欧米、特に米国は、核・軍事大国であるロシアの安全保障上の不安にあまりに無頓着でした。NATOの東方拡大はしないという約束は反故にされ、今日では14の東欧諸国がNATOに加盟しています。
 米国はウクライナのNATO加盟にも前向きだったため、ロシアが不安を募らせたことはある意味、当然でした。こうしたロシアの安全保障上の不安感がウクライナ戦争の背景に存在することは間違いありません。今日の中東においても、ハマスをテロリストと決めつけ、イスラエルを支持する欧米諸国が極めて多い。ハマスの行為も決して許されませんが、米国を筆頭に、欧米諸国や日本もパレスチナの人々の不安と絶望にやはり無頓着でした。正義か悪かという二元論に立ち、自分たちが悪と決めつけた側の不安を無視して「力による平和」を実現しようとしても、戦争がなくなることは決してありません。
 今日、世界中で「内政が外交を支配する」状況が強まっています。経済的困難や格差の拡大は国民の間に分断を生み、政治を不安定化させます。勢い、政権側は国外に敵を作り、「敵か味方か」という単純な色分けをすることで国民の支持を繫ぎとめようとします。ポピュリズム政治が強まる所以です。SNSを始めとしたネット社会化もポピュリズム政治を一層促進させました。杉田水脈議員が差別発言を繰り返すのを事実上黙認している岸田政権の姿勢を見ていると、ポピュリズムと右傾化の結合は日本でも極めて深刻と言わざるを得ません。
 以上を含め、今年も私たちの眼前には極めて厳しい挑戦が山積しています。でも、その挑戦から逃げることはできませんし、逃げてはなりません。「相互尊重、相互理解、相互扶助」を重んじ、「自立と共生」を追求する友愛思想に基づき、私は本年も活動してまいります。