民族差別を許さない 谷口 滋

植民地主義、同化政策によるアイヌ民族差別

元東京教組委員長、広範な国民連合・東京世話人 谷口 滋

 侵略と植民地主義によって差別が生まれることは周知のことですが、日本の植民地支配は、アイヌモシリ(北海道)に始まり、琉球、朝鮮、台湾に及びました。
 アイヌ民族に対して明治政府は、土地(アイヌモシリ)を奪い、生活の糧であったサケや鹿などの狩猟を奪い、名前や言語を含む文化を奪って、日本人への徹底した同化を迫りました。これらの侵略と植民地支配によって、アイヌ民族を蔑む差別を蔓延させたことは言うまでもありません。この植民地支配と同化政策は、琉球、朝鮮、台湾にも引き継がれました。
 アイヌ民族に限らず、琉球、朝鮮、中国への差別、偏見、敵対は日本の植民地支配と同化政策を歴史的事実として反省し、克服できていないことに起因すると思います。


先住民族の権利回復を
求めるアイヌ民族と国連

 1992年、国連の「国際先住民年」より、先住民族の権利回復の動きは国際的なうねりとなりました。その開幕式典でアイヌ民族を代表して野村義一ウタリ協会理事長が国連本部で演説し、同化政策を批判し、「民族の尊厳に満ちた社会」「諸民族の共存」を訴え、「国連が先住民族の権利を保障する国際基準を早急に設定するよう要請」しました。この要請が実を結び、2007年の先住民族国連宣言として日本政府も賛成票を投じて採択されました。
 1994年には萱野茂がアイヌ民族初の国会議員になり、参議院で質問に立ち、アイヌ語で旧土人保護法(アイヌ民族差別の名を冠した法律がまだあったのです!)を廃止してアイヌのための新しい法律の制定を求めました。
 司法においては、「二風谷ダム建設差し止め訴訟」が萱野茂、貝沢正によって提訴されました。札幌地裁は、アイヌ民族の文化保護などをなおざりにした土地収用は違法であるとし、アイヌ民族を先住民族と認める画期的な判決を下して確定しました(97年)。
 このような国際的な先住民族の権利確立の流れと、アイヌ新法制定の要求を受けて、政府は「アイヌ文化振興法」を国会に提出し、97年可決、公布されます。しかし、アイヌ文化振興法は、その名の通りアイヌ文化の振興に限られたものであり、「旧土人保護法」は廃止されたものの、アイヌ民族の自立の権利を保障するものでも先住民族と規定するものでもありませんでした。
 一方、中曽根康弘首相の「単一民族国家発言」(86年)に始まり、麻生太郎総務大臣は日本が「一国家、一文明、一言語、一文化、一民族。ほかの国を探してもない」(05年)と発言するなど、アイヌ民族を先住民族とする流れに逆行する政治家による発言が相次ぎました。これらが杉田水脈議員によるアイヌ民族、朝鮮民族に対する差別の底流であると考えられます。

アイヌ施策推進法と課題

 08年6月、衆参両院で「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が満場一致で採択され、「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」が発足、新たなアイヌ施策の立法化を求めた報告書を提出しました(09年7月)。
 報告書は、「アイヌの人々が『先住民族』として誇りを持って積極的に生きることのできる豊かな共生の社会を現実のもの」とすること、「そのことは、また、日本が国際社会において『名誉ある地位を占め』(憲法前文)ることに通ずると信じる」と締めくくっています。
 しかし、国連の人権委員会から先住民族アイヌの権利確立を促す勧告が何度出されても法律はできず、20年の東京オリンピック・パラリンピックを控え国際世論や国連の勧告への対応に迫られてやっと政府は「アイヌ施策推進法案」を国会に提案します。法案にさまざまな団体からアイヌ民族の自治を基本として、自己決定権、教育、土地や資源に対する権利、遺骨の返還などを法案に盛り込むよう要求が出されました。とりわけ、「先住民族国連宣言」に基づくアイヌ政策とアイヌ民族を中心とする審議会の設置、道外のアイヌ生活館建設を求める署名は、7万707が集約されて18年3月に内閣官房に提出され、内閣官房のアイヌ総合政策室、国会議員への要請が繰り返し行われました。
 アイヌ施策推進法は19年5月にきわめて不十分な内容の法制定でしたが、その付帯決議には、①「先住民族国連宣言」の趣旨を踏まえる、②近代化の過程でアイヌ民族が苦難を受けた歴史的事実を厳粛に受け止める、③アイヌ民族の自主性を尊重し、その意向が十分反映されるよう努める、などが盛り込まれました。
 一方で、「アイヌ民族はもういない」「アイヌ利権」などといったヘイトスピーチもネット上で展開される事態も多発し、今も続いています。杉田水脈議員がアイヌ民族、朝鮮民族の衣装をコスプレと揶揄し、「同じ空気を吸っているだけでも気分が悪くなる」と投稿したことが札幌法務局に人権侵害と認定された(23年9月)後も、杉田水脈を擁護し、差別でないと強弁するSNSは後を絶たず、その後ろ盾のように自民党は杉田水脈を環境部会長代理の要職に任命するありさまです。
 来年は、アイヌ施策推進法の制定5年目を迎えます。アイヌ民族の自立と自決権を保障する法改正に向けて「アイヌ政策見直しを求める請願署名」を開始しました。広範な国民連合の皆さんのご協力をお願いいたします。(署名用紙はホームページに)