日中平和友好条約締結45周年 鳩山 友紀夫

日中平和友好条約締結45周年

日中関係は今まさに岐路に

鳩山 友紀夫さん あいさつ 

東アジア共同体研究所理事長(元内閣総理大臣) 

 今から45年前の8月12日に日中両国が平和友好条約に署名したことを心からお祝いします。
 主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則を謳い、すべての紛争を平和的な手段により解決をすることを確認した平和友好条約の意義と有効性は、今日に至るまでいささかも失われておりません。

空洞化させる日本政府

 しかし、この条約が主として日本側から空洞化しつつあるという危機感を抱いているのもまた偽らざる事実であります。
 45年前と比べて、日中両国の力関係は絶対的にも相対的にも大きく逆転いたしました。中米関係をはじめ、両国を取り巻く国際環境も大きく変化しております。
 日中両国が細心の注意を払って二国間関係を制御しようとしない限り、日中関係がおかしな方向、悪い方向に向かってしまうのではないかととても心配しております。
 それでは日中関係をどうすれば良い方向に安定化させられるか。そのためには何が必要なのだろうか、考えたいと思います。国家関係は畢竟、人間関係の延長であることを考えれば、こじれた人間関係をほぐすために何が必要かを考えることに、日中関係改善のヒントがあると私は考えます。
 人間関係においても、国家間の関係においても、相手の立場を考えることが最も大切であります。価値観や制度が異なるから嫌いになるのではなく、お互いに違いを認めて相互尊重し、相互理解し、そして相互扶助する友愛精神が問題の解決を導いていくカギであると考えています。
 そのためには日中共同声明にあるように、日本は過去の戦争において、中国側に多大な損害を与えたことに対して責任を痛感し深く反省するとあります。傷つけられた側が赦すまで、いわゆる無限責任を持っていることを私たちは理解しないといけません。
 また、日本政府は中国の海警局の船が尖閣諸島の周辺に現れることを脅威として中国脅威論を国民に煽っています。けれども、そもそも棚上げしていた問題を日本政府が尖閣の国有化をして棚から降ろしたために中国政府としても何らかの行動を取らざるを得なくなった、それが実情です。尖閣問題は再び棚上げすることが、まず、解決への一番の道です。

台湾問題は共同声明の
立場に戻ること

 さらに、台湾有事は日本有事と危機感を煽っています。つい先日は自民党の麻生太郎副総裁が台北を訪れて、台湾有事阻止のために、日本、米国、台湾などが「戦う覚悟」を示す必要があると述べたのであります。
 日本は憲法で戦争を放棄しているはずです。平和友好条約の第一条には、紛争の解決には武力による威嚇に訴えないことを確認しております。そして、日本政府は日中共同声明で、「台湾は中国の一部である」とする中国の立場を理解して尊重するとしているのであって、台湾問題は中国のいわゆる内政問題なのであります。日中共同声明の立場に戻り、日本は、米国も同様ですが、台湾の独立を支持しないと表明することが肝要だと私は理解しております。
 半導体の輸出規制についても同様であります。西側諸国は中国が最近始めた半導体材料の輸出規制を経済的威圧として問題視しております。けれども中国の側からすれば、トランプ大統領以来、中国に対して経済的威圧を行っているのは米国であり、日本もそれに手を貸しているということになるわけであります。

友愛精神に立って
気候変動対策で協力を

 このようにお互いの認識の違いがしばしば紛争をもたらします。しかし、中国の論語の中にも、日本の聖徳太子の言葉の中にも、「和を以て貴しと為す」という言葉があるように、日本にも中国にも和を大事にする精神が宿っているはずであります。私に言わせると友愛精神であります。この精神を大切にすることによって日中間の諸問題を解決する糸口は必ず見つけられるのであります。
 もう一つ重要なことは、日中が協力の実績を積み重ねることです。今、日本では、日中で協力すると技術が盗まれたり、米国から睨まれたりする懸念が共有されているように見えます。しかし、技術研究において中国が急速に進んできている状況の中、地政学的競争を重視するあまり、日本側が広範な分野で日中協力に躊躇することは全くばかげています。
 特に喫緊の課題と思うのは、気候変動問題での日中協力であります。最近グテレス国連事務総長は「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と警告しました。日本でも中国でも熱波や大雨が常態化し、多くの人命が失われている現実がございます。
 日中が環境技術の開発と推進で直接協力をすることは、日中間で久しく忘れ去られた「Win-Winの関係」を再構築することにつながります。例えば電気自動車の開発・普及における協力や、低炭素・カーボンニュートラルに関する第三国市場での協力を推進させていくべきでありましょう。

米中関係打開に
日本の独自外交を

 最後に米中関係について触れておきます。もし中米が戦うようなことがあれば、中国の隣国の日本は致命的な損害を被ることになります。それは明らかです。
 だから中米を戦わせるような状況は絶対に避けなければならない。米国の重要な同盟国で、経済的にも戦略的にも中国と互恵関係にある日本は、米中の橋渡し役となることができるはずであります。岸田政権が米外交に滅私奉公する姿勢を改め、かつて西ドイツがソ連との間で独自外交を進めて米ソデタントの背中を押した事例を私たちは手本にすべきではないでしょうか。
 日本政府は中国政府との意思疎通を回復して、強化させなければなりません。日米韓首脳会談を行うのならば、日中韓首脳会談も急ぎ行うべきであります。
 日中平和友好条約45周年を迎えて、日中関係は今まさに岐路に立っております。パワーポリティクスとナショナリズムに身を任せれば、われわれを待っているのは負のスパイラルでありましょう。
 私たちは理性と希望を堅持して踏みとどまらなければなりません。お互いに頑張りましょう。