「安保3文書」と「岸田軍拡」の危険性

日中平和友好条約締結45周年

「台湾有事」は米軍が想定する戦争計画

参議院議員(会派「沖縄の風」代表) 伊波 洋一

 米海兵隊普天間基地のある宜野湾市に住み、離発着する米軍機の爆音に悩まされる毎日ですが、今夏は例年以上にオスプレイやヘリ以外の外来の米軍ジェット戦闘機の離発着回数と爆音が激しいと感じます。沖縄近海で在日米軍の訓練や演習が行われており、米軍機騒音の激化は「台湾有事」に向けた米軍演習の増加と思われます。


 昨年12月16日の岸田内閣による「安保3文書と5年間43兆円の大軍拡」の閣議決定は、日本国憲法9条に基づく平和主義、すなわち「専守防衛」を否定するものです。GDP比2%をめざす5年間43兆円の防衛予算は、周辺国のミサイル発射基地や航空基地、ミサイル搭載艦船および中枢施設を攻撃する長射程ミサイルの開発と配備に多くの予算が充てられます。安保3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)の一つの「防衛力整備計画」では、2025年度までに地上発射型、26年度までに艦艇発射型、28年度までに航空機発射型のミサイル開発完了をめざし、量産体制を確立するとしています。10年後までには先進的な長距離射程ミサイル運用能力の獲得とミサイルの十分な数量の確保をめざすとしています。イージス艦には米国製巡航ミサイル「トマホーク」を早期に購入取得して配備する予定です。
 わが国は、これまで日本国憲法9条の「戦争の放棄」を根拠に、敵基地攻撃をする装備を持たないことを方針としてきました。岸田政権は、これを180度転換させて、周辺諸国を日本国内からいつでもミサイル攻撃できるようにするのです。
 今回の「安保3文書」の改定と「5年間43兆円の大軍拡防衛予算」の閣議決定は、国民に問うことなく、国会審議もないまま、昨年12月16日に行われました。
 岸田首相は、有識者会議や与党ワーキングチームなどでの1年以上の検討を経て、これらを閣議決定したとして、議院内閣制のもとでの進め方として問題はないとしています。しかし、私は、日本国憲法9条の根幹にかかわる「敵基地攻撃能力の保有」について、国会での議論や国民への説明もなく、限られた有識者の検討や与党協議による閣議決定だけで転換したことは、主権者・国民を無視し、その代表機関である国会の権能を否定して軽視するものであると考えます。

根本欠陥 「戦争を避ける」選択肢がない

 今回の「安保3文書」と「5年間43兆円大軍拡」の最大の欠陥は、「戦争をする準備」しかないことです。「戦争を避ける」という選択肢がないのです。
 敵国とされる相手との話し合いや外交交渉は排除されています。その大きな理由は、「安保3文書」がわが国を守るためのものではなく、米軍の対中国戦略に基づいて日米同盟の最前線で自衛隊が中国軍と戦うための準備に必要な取り組みになっているからです。安保3文書の一つに「国家安全保障戦略」があります。以前の、2013年の国家安全保障戦略では分け隔てのない「外交」との記述でした。しかし22年では軍事や防衛、国際秩序など安全保障を重視する同盟国や同志国との「外交」になっています。
 その上で、中国を、力による一方的な現状変更が拡大していると指摘し、国際秩序に挑戦する動きを加速させているとしています。そして、日米の戦略レベルで連携を図り、米国と共に、外交、防衛、経済等のあらゆる分野において日米同盟を強化していくとしています。
 23年1月23日に岸田首相が施政方針演説で述べた「極めて現実的なシミュレーションを行った上で、十分な守りを再構築していくための防衛力の抜本的強化を具体化しました」のくだりに関して、国会審議で「シミュレーションの概要」の図解資料3枚が明らかにされました。1枚目は、侵攻部隊の行動に対するわが国部隊の対応です。3枚目は、わが国への侵攻を抑止するためにスタンド・オフ防衛能力(長距離射程敵基地攻撃ミサイル)による阻止・排除の取り組み、および、抑止が破られた場合の日本国土内での対応、国内自衛隊基地・施設の持続性・強靭性を強化して粘り強く活動(戦闘)し続ける取り組みが示されています。

5万の在日米軍には「有事」で役割なしの不思議

 現実的なシミュレーションで明らかになったのは、5万人以上駐留している在日米軍に有事で役割がないことです。在日米軍は、有事の兆候を察知するとミサイル攻撃を避けるためにグアムより東に退避するのです。
 現時点で射程4000㎞の中国の地対艦ミサイルが実戦配備されており、グアムよりもっと東までミサイルは射程にして米空母も撃沈すると言われています。「国家防衛戦略」でも「万が一、抑止が破れ、我が国への侵攻が生起した場合には、我が国が主たる責任を持って対処し、これを阻止・排除する」となっており、自衛隊の役割とされ、在日米軍の役割はありません。15年の「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」により、米軍は打撃力の使用を伴う作戦はなくなり、自衛隊の作戦を支援しおよび補完するための作戦を実施する、に替わりました。
 「シミュレーションの概要」3枚目の、最初にあるスタンド・オフ防衛能力による侵攻の阻止・抑止とは、長距離射程敵基地攻撃ミサイルを戦闘の初期に使用することを示しています。岸田首相が「相手に攻撃を思いとどまらせるための反撃能力の保有」と述べたものですが、実際は、初期に相手を攻撃するために発射することが分かります。
 日本が敵基地攻撃を行えば、必ず報復攻撃を招きます。安保3文書が脅威と認識し、敵基地攻撃の対象としている国は、中国、ロシア、北朝鮮ですが、この3国は事実上の同盟国です。3国とも核兵器を持ち、大陸間弾道ミサイルを含め、さまざまな中短距離ミサイルを有するミサイル大国です。この周辺3国から日本が攻撃されても、アメリカが敵国を攻撃することはないことを肝に銘ずるべきです。
 「安保3文書」が土台にしているのは、アメリカ中心の国際秩序を守るために日本国土を戦場にするアメリカの戦争戦略なのです。「安保3文書」の「極めて現実的なシミュレーション」では、抑止が破れて、侵攻されても、自衛隊施設に準備している弾薬や誘導弾を使って戦闘を継続して、米軍など同盟国の戦力集中を待つことが、防衛研究所の「我が国の戦闘構想」で示されています。

日本はウクライナと同様の戦場と化す計画

 しかし、同盟国の援軍は期待できないと言うべきです。日本に来ればミサイルの標的になるからです。また、ウクライナでの戦争と同様に、同盟国の米軍や同志国が敵国を攻撃することもありません。
 この戦争計画の土台は「オフショア・コントロール戦略」と呼ばれる第1列島線を守る米軍戦略なのです。核戦争へのエスカレーションを理由に、アメリカは中国と直接には戦わず、周囲の同盟国に制限戦争を戦わせて、中国が「敵に教訓を与えた」と宣言して戦争を終わらせる戦略なのですが、日本が「安保3文書」で長距離射程ミサイルによる敵基地攻撃を行うことにしたので、「教訓」だけでは済まなくなっています。日本だけで、中国・北朝鮮・ロシアと戦争することを覚悟しなければならなくなっています。
 そのために、全国の自衛隊駐屯地・施設で戦闘の準備がされるのです。今回の防衛予算5年間43兆円の内訳は、長射程ミサイル関連予算が約9兆円ですが、「シミュレーションの概要」3枚目に示されている「⑦持続性・強靭性」には最大の15兆円が充てられます。抑止が破れて侵攻が起きることに向けて、継戦能力を備えるために全国約300の自衛隊施設では弾薬・装備品を確保し、全体で約2万3千棟の施設建物の化学・生物・放射性物質・核・爆発物(CBRNE)対策を含め、安全性を確保して継戦能力と強靭性を高めるために5年間で約15兆円の予算を充てる計画です。米軍戦略のために自衛隊が米軍に代わって戦争をして、日本を戦場にすることがあってはなりません。しかし、実際にそれが計画されているのです。
 「台湾有事」も米軍が想定する戦争計画であり、台湾防衛のために台湾に侵攻する中国軍を想定して自衛隊に攻撃させるものです。自民党の一部には、台湾防衛を声高に叫ぶ方もいますが、日本を戦争に巻き込む危険なものです。

危機感高めた県民の行動が始まった

 岸田政権の暴挙は、「沖縄がふたたび戦場になるのではないか」との大きな危機感を沖縄県民にもたらしています。岸田軍拡と安保3文書に抗議する動きが、労働団体や政党・民主団体の平和集会や平和行進だけでなく、県内の市民団体や有志の方々による取り組みとしても広がっています。2月26日に那覇市内の県民広場で約1600人が参加した集会とデモに続き、5月21日に北谷町で「島々を戦場にしないで!沖縄を平和発信の場にしよう5・21平和集会in北谷」とデモが行われ、2100人が参加しました。
 次回は、11月23日に那覇市内で1万人を超えて結集して沖縄県民の声を日米政府に届けようと実行委員会の結成が取り組まれています。
 沖縄から台湾や中国の人々との対話をつくり出す取り組みも始まっています。「『台湾有事』を起こさせない・沖縄対話プロジェクト」が、23年2月12日に第1回、4月29日に第2回の沖縄・台湾対話シンポジウムが開催され、台湾・香港のメディア関係者、沖縄の関係者、日本の研究者が登壇し交互に意見を述べました。9月9日に、第3回対話シンポジウム~大陸との対話~が予定され、基調講演に宮本雄二氏(元在中国大使)の他、上海の二人の研究者の講演があり、沖縄の研究者や関係者との対話セッションがあります。「沖縄を 台湾を 戦場にしてはならない」「保守も革新も 老いも若きも 国籍も関係ない」と呼びかけています。
 沖縄を東アジアの「平和のかけはし」にと呼びかける「沖縄を平和のハブとする東アジアの対話交流2023」も6月24日に開催されました。『日本の進路』8月号に特集されています。
 私たちは、沖縄や台湾、日本を戦場にしようとする米軍戦略にNO!を突きつけて、絶対に二度と戦争を起こさないために声を大きく上げていきましょう。

(見出しは編集部)