基本的な対立関係に変化した中日関係
中国清華大学国際関係研究院教授 劉 江永氏
今日は、ここで中日関係の現状と沖縄の将来という話題に自分なりの見方を申し上げたいと思います。
中国と日本との関係は今、「政冷経熱」という形から「政冷経冷」という形に変わりつつあります。本質的には、互恵関係からお互いに対抗し合うような段階に入りつつあります。
「政冷経熱」という言葉は、1996年に私が中日関係について最初に使った言葉です。そのころ、中日経済関係はよく発展していたけれども、当時首相の橋本龍太郎氏が靖国神社を参拝することによって、中日政治関係を悪化させては、両国関係全体として「政冷経熱」となるだろと予測したわけです。そして、冷たい政治関係が長期化となれば、経済関係も必ずそれに影響されます。つまり、日本首相の靖国神社参拝などによって、中国における日本のイメージがダウンします。そうすると、中国消費者の日本製品を買う意欲も減りますので、中日貿易関係も影響されてしまい、いわゆる「政冷経冷」状態となるとの見解です。
これまで、中日関係は以上のような「政冷経冷」と言われる状況が何度かありましたが、しかし今回はそう簡単ではなくて構造的な矛盾となって、前よりもっと深刻な状態になっていると私は思います。
特に日本政府が去年12月16日に決定した新たな「国家安全保障戦略」が注目されます。その中での中国の位置付けは互恵関係ではなくて、今までなかった「最大の戦略的挑戦」というように表現をしている。実際には、中国を海洋安全保障上の脅威と見なしているんです。そして、今後10年間大幅な軍備増強を始め、防衛費をGDPの2%に増やし、また「反撃力」のミサイルを1千発くらい保有しようとする。おそらく沖縄・南西諸島あたりに配置することになるでしょう。
そうすると、台湾問題と絡んで中日関係に危機状態を招くかもしれないわけです。ただ、「台湾問題」は山崎先生のおっしゃったように中国の内政問題ですね。いかに戦争でなくて、平和的に統一を実現し、持続可能な安全保障を維持していけるかは、一番大事なことです。そのために私はやはり台湾独立、分裂活動をやめることが一番効果的な、そしてコストの低い、皆を安心させてくれるような道ではないかと思います。特に来年、台湾島内の選挙の年となり、新しい指導者が決まります。その時にも、「台湾独立」のような中国を分裂させる言論、行為をさせないことが、持続可能な安全保障につながります。
実は、いわゆる「台湾問題」は新しい問題ではありません。51年前の中日国交正常化の時には、中国としては、「必ず台湾を解放する」と強調し、「平和統一」というスローガンもなかったが、それでも中国と日本は国交正常化を実現できました。その後、1979年1月に、アメリカも中国と握手して中米国交正常化も実現しました。
しかし、いま中国は「必ず台湾を解放する」と言わなくなっているのに、なぜ日米が台湾危機を煽っているのでしょうか。それは別のところに目的があるはずです。要するに中日関係にとって「台湾問題」は常数であり、この10年来、中日政治関係を悪化させた新しい変数のひとつは釣魚島列島(尖閣諸島)の領有権を巡る認識の食い違いです。それについて、双方は対話を通じて真相を究明することがとても重要ですけれども、それが非常に不十分ではないかと私は思います。このような変数と常数を重ね、いわゆる「台湾有事はすなわち日本有事」と言われるような間違った考え方が出てきます。そのため、これから沖縄で米軍基地に反対する若者が減り、自衛隊が宮古島、石垣島、与那国島などに基地をつくることに賛成する人も増えると、問題はますます深刻になります。
平和・開放・平等・ウィンウィンの原則を重視する「平和的多国間主義」を提唱
これから沖縄、琉球はどうなるでしょうか。歴史から見れば中国と琉球王国は、500年以上の友好的な歴史をもちました。中国と日本とも遣唐使の時代、仲良くしました。琉球として500年の歴史と「万国津梁」という理念をもつ素晴らしい美しい国でした。
しかし明治維新の後、日本は列強各国と共に侵略というか領土拡張をしました。そのなかで、まずやられたのは武力による琉球の併合でした。その次は台湾。日本帝国は、日清戦争と「下関条約」によって、台湾全体とその付属の全ての島々を自分の植民地にしていったのです。その次、日本は朝鮮半島を奪い取り、さらに中国大陸を侵略し、最後に太平洋戦争に突っ込んで、日本は民族存亡の危機に直面させられてしまいました。
今、この歴史と比較して、一体どういうところに問題があるのか。われわれの平和の決意、そしてこれから歩んでいく道は一体どうあるべきなのか。やはり歴史の真実を知っておかないといけない。その真実を踏まえてさらに対話をして、いかに平和な道を探り、さらにそれを協力して推進していくことこそ重要ではないかと思います。
今、歴史はそのまま繰り返すことはないんですが、似たような戦争のリスクがあります。ですから、われわれはきょう国境を越えて、平和のためのこのような集まりになったのではないでしょうか。私は今回、さらに沖縄の平和な声を聴きたいという気持ちでこちらに参りました。(拍手)
ぜひ共に考え、共にがんばりましょう。
沖縄の方がたは、平和を愛しアメリカの軍事基地にずっと反対してきました。しかし基地が依然として残るどころか、自衛隊の駐屯地も台湾近くの与那国にまでつくっているんですね。
中国の内政問題である台湾危機に米軍や自衛隊が介入したら、それは沖縄が再び戦場になりかねません。いま歴史の岐路に立っているのは中国、そして日本、アメリカです。日本政府はNATOという欧米の軍事ブロックのアジア関与、いわゆる「自由開放のインド太平洋」という計画を推進し歓迎しています。自国の軍事力を強めるとともに日米同盟を強化し、それでも力が足りなければ、NATOも含む同盟国、同志国による軍事連携で、中国を抑止するという政策をとっています。
そういう発想は中国にとってどういうことなのかと申しますと、かつて1900年ごろの日本も含む帝国主義列強のつくった「八国連合軍」のことを連想してしまいます。それは非常に危険な「暴力的な多国間主義」と言えます。
世界において、平和的な多国間主義、つまり平和・開放・平等・ウィンウィンの原則を重視する「平和的多国間主義」が正しい。しかし、暴力・強権・閉鎖・排他的な多国間主義、すなわち「暴力的な多国間主義」はいけないです。今、日本の指導者がどちらのことを選択して、国を引っ張っていこうかということは、やはり重要ではないかと思います。そして、日本国民も沖縄の方がたも、当然自分の将来の子々孫々の命をいかに守るかを考えるべきです。
そのために、沖縄の将来としてまた中国との間で500年以上の友好歴史をもつような、さらにそれを超えるような素晴らしい関係を共につくったらどうかと。それこそ、持続可能な安全保障、持続可能な経済発展、持続可能な文明を創造的につくり出す道であり、そのために力を合わせてがんばっていったらいかがでしょうか。これは私がここで申し上げたい最後の言葉です。ご清聴ありがとうございました。