第1部 沖縄平和ハブ構築に向けて 羽場 久美子

パワーとパワーの境界線にある美しい地域を、
戦争の最前線から平和と繁栄の最前線に!

「沖縄を平和のハブに」プロジェクト共同代表、青山学院大学名誉教授 羽場 久美子

 「沖縄を平和のハブに」というのは、沖縄がパワーとパワーの境界線にあるからです。
 ハワイや沖縄、台湾あるいはウクライナ西部、東部もそうですが、これらはいずれもとても美しい観光地であり、国と国のボーダーであり、歴史的に周りの多くの民族が移り住み、結果として多民族共存の地域をつくり出してきました。先ほどのエイサーも日本本土のわびさびとは少し違う、大変美しく壮大な芸術です。そうした歴史的な多民族共存の地域をミサイルや戦争の最前線基地にしていったのは近代以後、植民地以後です。そして、その結果ハワイのパールハーバーをはじめとして沖縄、台湾、朝鮮半島、クリミア、ウクライナ、「境界線」地域が全て戦争の最前線地域になっていきます。


 まず必要なことは国と国、パワーとパワーの境界線地域を、我部先生も言われたように、住民、市民の手に取り戻すことです。ただそれだけでは力にならず、ボーダー地域の特性を生かしてむしろ周りの地域と共存共栄するネットワークをつくっていくこと、それによってこそ平和のハブ、平和のセンターになるのだと思っています。
 今回、政治、経済、外交、安全保障だけでなく、歌や音楽、踊り、そして外では食など、文化の祭典としても「沖縄を平和のハブに!」が実現したことは、これが自治体や市民に根差し、加えて沖縄という素晴らしい地域が世界やアジア各地を結び付ける「ハブ」だということ、それを示した素晴らしい祭典となったことに感謝します。
 歌や踊りとともに政治・経済や安全保障が議論され、そしてこれから若者たちが自分たちの未来としてこの地域をどうつくっていくか、という話し合いがあり、そして最後に再び沖縄の歌と踊りで締められます。こうした政治・経済と文化芸術、そして食を結び付けた祭典を沖縄の他の地域でも宮古とか与那国島でも、あるいは今日たくさん来られている、福岡、長崎など日本各地の方がたも、「市民を中心とした自分たちの地域をハブとした催し」をぜひ実行してほしいと思います。市民ネットワークが平和をつくる、ということです。
 もう一つは、「ミサイルではなくて対話を」、という私たちがずっと発信してきたことです。境界線地域だからこそそこにミサイルが配備されます。戦争になれば最前線になり、多くの市民が犠牲になります。そんな歴史の繰り返しをもうやめよう、境界線で覇権をめぐって戦争をやり合うのはもうやめよう。これが「沖縄を平和のハブに」という理念でもあります。ミサイル基地でなく対話を、欧州の「全欧安保協力会議」と呼ばれたCSCEのように、話し合いで安全保障や環境問題や食や文化や生活を共同で考える、そうした「東アジアの国連」を新しい首里城にぜひ実現したい。今後も、政治の緊張の場だからこそ、歌や踊りなど、芸術と結びつつ、パワーの境界線地域の平和のあり方を考えていきたいと思います。

いま言うべきことは、アジアの時代が到来しつつあるということ

 アメリカが日本全国に絨毯爆撃をし、広島・長崎の市民の上に原爆を投下したことで、私は父が広島で被爆し、母は大空襲で家族を亡くしました。沖縄市民と同様、戦争2世であり、被爆2世であります。絶対に二度とこの地域で戦争を起こしてはならない、市民の命が犠牲になるから、というのは私のミッション(使命)でもあります。ロシアによるウクライナ侵攻を契機に経済競争の時代から一挙に政治と安全保障の時代になり、中国が台湾を攻撃する可能性という「台湾有事」の危機感が国内でも大変強まっています。
 その背景に何があるのか。東アジアで戦争を起こさせないためにどうしたらよいのか。
 いま言うべきことは、アジアの時代が到来しつつあるということです。
 アメリカが何を怖がっているのかというと、アジアの経済がアメリカの覇権を脅かしアメリカ経済を席巻する、特にものづくりだけでなくITやAIや教育、特許などの急激な成長が「台湾有事」の背景にあります。アジアで緊張が高まっているのは、中国の軍拡などではない、中国をはじめとするアジアの経済成長があるからです。これは逆に言えば欧米の時代が頭打ちになりゆっくりと終焉に向かい、アジアの世紀が到来しつつあるからです。
 一つが人口と豊かさです。100年後世界の人口は、アジアとアフリカで8割を超えるとされます。この新しい8割は、20世紀に「世界の半分が飢える」といわれた貧困のアジア・アフリカではない。ITやAI、世界経済を発展させて日本以上に教育熱心、研究熱心な中国やインド、ASEANが牽引する世界となるからです。
 二つ目は、これと連携しての経済です。2022年の名目国内総生産は1位が米国で2位が中国、3位が日本、そして中国は日本のなんと4倍になりました。中国は、たった13年間で日本の4倍に成長しています。あと50年後、皆さんの子どもが大人になる頃には世界経済の1位が中国、2位がインド、アメリカは3位に転落します。その後のトップ8はなんとインドネシア、ナイジェリア、パキスタン、エジプト、ブラジルです。今年4月、この統計を出したのは、ゴールドマン・サックス、アメリカの金融の総本山です。彼らの分析では50年後、日本はなんと12位に転落するという予想です。
 これを経産省の人に話したところ、「いやー50年後ではなくてあと10年もしないうちに転落しますよ」と言われて、彼らは知っているんだと思ったわけです。日本の成長の時代、G7の成長の時代は私たちの目の前で終わり、緩やかに転落していく時代が始まっているということです。だからこそ中国の封じ込めが始まっている。
 どうしたらよいのか。レジリエンスとコラボレーションということを、今年スイスで開かれた「世界経済フォーラム」(ダボス会議)が答えを出しています。
 いま私たちがやることは分断ではなく、レジリエンスつまり回復力、相互信頼、対話とコラボレーション(共同)とイノベーションであると、賢人会議は言っている。
 特に急速な人口減少で、あと40年で労働力が半分になる日本、労働力が半分ということは大ざっぱに言うとGDPが半分になります。しかしわれわれはアジアの一員でもあります。悲観ではなく、中国やインド、ASEANと結んで共に発展していく、アジアの移民も受け入れて共に成長していくということが、日本にとって最も必要なことでしょう。そして、それを実行できるのは、中国ともインドとも韓国ともアメリカとも台湾とも、歴史的にも現代でも、仲良くやってきた、ここ沖縄が中心・ハブになり平和をつくる、ということだと思います。
 アメリカのバイデン政権は「価値の同盟」を打ち出し、民主主義対専制主義ということで世界を二つに割ろうとしています。そうした中でQUADとかAUKUSとかファイブ・アイズなど、米英を中心とする軍事同盟が急激に強まっています。でも政学的にアメリカと結んでミサイルを中国やロシアに向けて配備することが、本当に日本列島や沖縄・南西諸島の人々の幸せにつながるのでしょうか。目と鼻の先にある中国や韓国やロシア、台湾と一緒に発展していくことこそ、私たちの本当の課題であると思います。(拍手)

東アジアで絶対に戦争はしない、始めさせない

 重要なことは、皆さんがおっしゃったように、「沖縄を経済と平和のハブとする」、「東アジアで絶対に戦争はしない、始めさせない」ということ。
 始めた戦争は終わりません。ウクライナを見ても明らかなことだと思います。
 停戦の重要性は、人の命を守ること、ということを一言述べます。
 日本の近衛内閣は、第2次世界大戦末期の1945年2月に、停戦の上奏文を天皇に出しました。2月というと終戦の半年前です。その時出した上奏文は天皇と軍部によって却下されました。そのあと何が起こったと思いますか? 3月に神風特攻隊が編成され、10代20代の若者たちが250キロの爆弾を抱えて米艦隊に突っ込んで無駄死にを強いられます。そして3月末には沖縄戦が始まり、ひめゆり部隊をはじめ多くの住民が自決、米軍や日本軍の他殺によって殺されていきます。全国への米軍絨毯爆撃も3月から始まり、最終的に8月の広島と長崎の原爆投下という世界最大の悲劇と犠牲が強いられます。住民の著しい戦争被害と犠牲は停戦を却下した半年間に集中しているんです。停戦を却下して戦争を続けるということは、非常に激しい戦争が、住民を犠牲にした戦争が始まるということです。
 いまウクライナは大反撃に出ようとして、イギリスの劣化ウラン弾でウクライナの東部に爆撃しています。ご存じのように劣化ウラン弾は、非常に強い放射線と破壊力をもつとともに持続的な放射線被害が報告されています。イラク戦争でも湾岸戦争でもコソボでも使われ、イタリア兵が被爆した時にEUは「欧州に劣化ウラン弾を使うのか」と怒って、これに対してだけアメリカは謝罪しました。米英は、またウクライナ政府も、ウクライナ東部とロシア人は欧州とみなしていない、戦後の住民被害も黙認しているということです。

沖縄を中心に周りの国々、地域、人たちと結び付く中で平和をつくっていく

 東アジアで戦争をさせないためにも、私たちは沖縄を中心に平和と経済と繁栄のハブを発展させていきたいと思います。
 EC/EUのベネルクスがまさにそうですが、ヨーロッパの中で一番小さな地域で戦争になったら常にやられていた国々が中心になって平和をつくる。それが「沖縄を平和のハブに」ということです。ヨーロッパにもう一つのモデルがあり、冷戦期1975年にフィンランドという小さな中立国で会合が開かれ、戦争ではなく対立ではなくて、話し合いで問題解決しようということで、若者とかバチカンとかモナコとか小さな国々も全て入って東西の安全保障に関する話し合いが始まりました。
 先ほど玉城知事がお話しされたように「地域外交室」をつくって相互に韓国や中国や台湾や周りの国々と交流を始められているということが、きわめて大切だということです。沖縄を中心にしながら周りの国々・人々と結び平和をつくっていくこと、日中韓ASEAN、インドとも結び、アジアで経済と平和をリードしていくことが、私たちに課せられた課題だと思います。
 ありがとうございました。