第1部 沖縄平和ハブ構築に向けて 山崎 拓

台湾問題はあくまで中国の内政問題
平和的解決を求め日本も外交努力を進めるべき

元自民党副総裁・防衛庁長官 山崎 拓

 昨日の玉城デニー沖縄県知事の慰霊の日式典での発言で、昨年暮れの政府、岸田政権が発表した、「国家安全保障戦略」など3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)、知事は防衛3文書という表現をお使いになりましたが、これについて心配される方向性があるとおっしゃったように受けとめました。この中で緊迫するアジア情勢ということがうたわれております。それは東アジアの中でいわゆる政治体制の違いと申しますか、自由民主主義体制の国と専制主義の国との基本的な対立があるという見方です。そのことから生まれてくる東アジアの緊迫する軍事情勢があるというのが、この国防3文書、なかんずく防衛戦略文書であると思います。


 その中で書かれている戦略環境の変化ですが、中国と北朝鮮とロシア、この三つの国について記述がございます。中国に関しましては、「軍事力の質、量を急速に強化し、東シナ海等(尖閣海域が入っていると思います)で活動を活発化させるなど、わが国と国際社会の深刻な懸念事項である。これまでにない最大の戦略的挑戦が行われている」と。中国についてはこのような記述がございます。
 北朝鮮に関しましては、「弾道ミサイルの関連技術、運用能力を急速に向上させるなど、従来よりもいっそう重大な差し迫った脅威がある」と。ロシアに関しましては「ウクライナ侵略は国際秩序の根幹を揺るがすもの。北方領土を含む極東地域でも軍事活動を活発化させている。中国との戦略的な連携とあいまって防衛上の強い懸念である」という記述がこの国防3文書にございます。
 要は、鳩山元総理もお話しになりましたが、「台湾有事」の問題でございます。ウクライナ戦争はいま進行中でございますが、これと同様の事態が台湾でも発生するのではないかとの見方です。これは中国と台湾の関係でございますが、ロシアとウクライナの関係と同じようなパターンの有事が発生するのではないかというようなことが、取り沙汰されているわけでございます。
 しかし、この台湾の問題については、わが国の立場ははっきりしております。
 1972年に日中共同声明が発せられまして日中間の国交が正常化されました。そのあと78年に日中平和友好条約が結ばれまして、条約上も共同声明の中身が確認されたわけでございます。その中で台湾に関しましては、中国側が「これは中国の核心的利益中の核心の問題である」と。つまり台湾は「一つの中国」の内部の問題であるということで、それをわが国日本としては「理解し、尊重する」ということ。そして「ポツダム宣言第8項を日本は守る」ということが、当時の共同声明ならびに平和条約で確認されているわけでございます。
 ですから条約を尊重する立場で申しますと、わが国は中国側の主張、いわゆる「台湾は中国の一部であって、これを統一することは中国の核心的利益中の核心である」について、わが国としては、これに異を唱えるものではないわけでございます。これがまず重要です。

台湾独立をそそのかさず
現状維持で

 しかしながら、現実問題といたしまして、台湾有事が心配されるように、もしいわゆる武力による統一が行われるということになれば、これは米中戦争に発展する可能性がございます。もしそうなれば、当然日本領土に所在する米軍基地から発進が行われるということになりますから、それは畢竟日本は巻き込まれるということです。
 とりわけ沖縄は、台湾海峡に最も近い地理的な位置条件ですし、また米軍基地の7割が集中している実情がございますから必ず巻き込まれる。沖縄が巻き込まれるということは日本が巻き込まれると同義でございます。
 そういうことで日本も台湾有事の際に戦争に巻き込まれてしまう可能性がございますから、ここは鳩山元総理も力説されましたように「対話による解決」が必要で、戦争は絶対にさせてはならないということです。
 日本の役割といたしましては、玉城知事もこの7月3日には訪中されるということになっておりますけれど、やはり中国側に対して台湾に武力行使を行わないよう説得するということを日本の外交といたしましては、これから精力的に行っていく必要がある。そう考えております。
 昨日の慰霊の日のスピーチで知事もおっしゃったように、「命どぅ宝」という、沖縄の戦争を体験されたところから出ている魂の叫びがあります。沖縄県民の命を守る、日本国民の命を守る、世界中の人民の命を守るためには、戦争をやってはいけない。戦争をどうやって防ぐかということが一番肝心なことであると思っているわけでございます。
 台湾問題に関しましては、現実には来年1月に台湾総統の選挙がございます。どなたがなられるかに関しましては、これは内政干渉でございますので言えません。台湾の人々が決めることであります。
 ただ、私が懸念していることは、台湾独立の運動というものが選挙の結果もしも強まって過激になれば、中国の習近平政権は必ず武力を行使しても抑えにかかるだろうということが懸念されるわけでございます。
 そういう事態にならないように、台湾の民主主義はこれは絶対的に守るべきものでありますけれども、台湾は極力現状維持でこの地域の平和を守っていく。また中国との関係も現状維持の政策で進めるよう台湾に対しても説得すべきではないかと、そのように考えているわけでございます。
 とにかく中国の武力行使が行われれば、必ず米国は介入いたします。米国が介入すれば日本は必ず巻き込まれる。その日本の巻き込まれる最前線が沖縄県になる。それは何としても対話の努力によって防いでいきたい。
 日中対話あるいは日米対話、あるいは日台対話も必要かもわかりませんが、対話の努力をこれからも続けていきたい。そのように思います。