社会学者 大澤 真幸さんは語る [2]

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資本主義の限界露呈の下での米中激突
戦争の危険を遠ざける長期策と当面の策(下)

社会学者 大澤 真幸さんは語る

構成
(前文)
コロナが突きつけた資本主義の本当のこと
「2種類の資本主義」
基本的な仕組みを全体的に再構想する
(以下、本号)
米中戦争をさしあたって避ける
 どっちつかずの日本は不可能
 拒否できない日本でよいか

(21年10月号から続く)


 それを全面的に否定することができないというのは、われわれも当然のように前提にしてきたことですが。どのような形で私的所有を乗り越え、私的所有でなくいわばみんなで分有するというか、使われている言葉でいえばコモンズの方向へと転換していくか。これが課題です。
 そういう方向にどう持っていくかはこれから考えていかなければなりません。今のところ、明らかにコモンズであるべきものが私的所有されています。これは間違いないし、そこを変えなくてはいけない。コモンズは、以前、宇沢弘文さんが使った言葉でいえば、社会的共通資本です。コモンズや社会的共通資本の領域をどれだけ広く確保できるかが勝負だと思います。
 理論的なことと実際の制度としてやることとの間にはギャップがありますが、とりあえず理論だけの水準でいえば、僕は私的所有権をゼロにしてでもシステムは成り立つと思っています。所有権は二つの権利の複合です。使用権と排他権です。排他権とは、つまり俺だけの物ということ、他者の介入を許さないということです。この二重になっているわけです。使用権さえあれば排他権はなくてもいいわけですから、まず排他権と使用権の部分を分けて、厳密に言えばすべての物に排他性があるという意味での私的所有権をゼロにしてでも運営する方法はあると思います。実際はそうすることは大変で、まっすぐにそうすることはできないかもしれませんが、理論上は可能になると思います。理論的に可能ということは、原理的には可能ということです。そのへんから考え直すことが必要だと思います。

米中戦争をさしあたって避ける

 世界全体として見れば、米中関係が世界の構図の一番の基本をつくっていくという段階がしばらく、10年くらい続くと思います。日本はその中で小さな存在になっています。
 バイデン米政権下で起こり得る最も心配なことが、米中対立の中で日本はどうするかということです。トランプ前政権の最後の年くらいから米中関係はかなり悪くなり、バイデン氏もトランプ氏と同じようにか、それ以上に中国に厳しく対している。アフガニスタンからの撤兵を急いだのは大失態ですが、そうしたのは、軍事・外交面の基軸を米中関係に置こうとしたという面が大きい。もうアフガニスタンに構ってられませんよとなって、米軍はアフガニスタンから去ったわけです。それによって、アフガニスタンは大変なことになっていますが。
 アメリカが言うように台湾有事があれば、日本は軍事行動に出るかどうかという決断を迫られます。最悪に近いシナリオは、中国が台湾を統一するために軍事力を使うことになったときに、アメリカは台湾を防衛するために戦う。そのとき日本はどうするか。こういう決断の場面が、数年のうちにやってくる可能性はかなりあります。
 まずは、米中が軍事衝突する、その可能性は十分にあると思います。そのときに日本人としては戦争したくないとか、いろんなことを思うでしょう。戦争の可能性が大きいのは台湾問題です。中国が台湾の独立を阻止する、統一するために武力を使うような事態。台湾は国際法上、独立国家ではないわけですが、いずれにしても他国に「侵略」するに等しい状態になる。
 そうしたことをアメリカは批判し、中国はもともと人権を無視しているのはけしからん、われわれの普遍的価値と合わないとか、いろいろな理由で戦争をすることになるでしょう。

どっちつかずの日本は不可能

 実は、ご存じのように、日本人は中国を嫌っている人が多い。ある統計によれば、日本の嫌中の度合いは、世界一です。しかしそれなのに、日本人は中国の人権侵害などをアメリカ人ほどには怒っていないんです。だから、アメリカが戦争しても、戦争はしたくないという気持ちは強まるでしょう。しかし、そのとき日本は、これまでのようにどっちつかずの態度でいるのは無理だと思います。
 日本は安倍政権のときに、集団的自衛権を法制化し、それを合憲的であるかのようにしてしまった。そのような立場で、さまざまな法律をつくっていますので、本当に台湾で戦争が起きたときに、「日本は憲法九条があるから参加できません」と言うのは難しくなっています。日米安保条約があって、その中に(日本の)周辺で国家の存立を脅かすような事態が起きれば日本も戦うんだと。台湾有事になって日本は関係ないんだとは到底言えない。最悪の場合、日本の自衛隊が戦後初めて積極的に戦争に参加するということになりかねないですね。そういう大変やばいことになっているわけです。(「抑止力」強化と、敵基地攻撃能力とかミサイル防衛網とか、論外です)
 ただただアメリカがやっていることに後ろからついて行っていれば近い将来、戦争に参加することになってしまうわけです。ですから日本は、中国が軍事行動を起こす気にならないように、いろいろな方法を使って努力すべきです。
 客観的には、中国が台湾に軍事侵攻してもそんなに得することはないと思います。つまり、台湾の併合は、中国自身の国益にかなってはいない。まずは、そのことを中国によく理解させるのが、日本の役目です。それだけで足りない場合には、日本としては、アメリカを含む他国に協力を求め、経済的な手段をも使って圧力をかけてでも、「われわれは台湾への軍事侵攻を許さない」ということを表明すべきです。
 ですが、中国はすでにあまりにもスーパーパワーになりすぎて、ちょっとした経済圧力ではどうにもならない可能性も高い。例えばイランやイラクのような国であれば、経済制裁をすれば譲歩を引き出せる。しかし、中国はちょっとくらい経済的圧力をかけても、逆に圧力をかける側のダメージが大きくなる。例えば中国と貿易しないとか、関税を引き上げるという手段を取れば日本の方が音を上げてしまう。中国は経済的圧力をかけるにはすでに強過ぎるんですね。中国に圧力を加えるといっても同調する国は少ないと思います。自国がつぶれてしまいますから。しかし、繰り返しますが、戦争は最悪の事態ですから、多少の犠牲があっても、それを避けるために、最大限の努力をしなくてはならない。

拒否できない日本でよいか

 繰り返しますが、アメリカが本当に戦争を起こしてしまったら、日本は参戦を避けられなくなるでしょう。
 ですからその前の段階が重要です。その前の段階でやれることは大きく分けると二つです。一つは中国との政治的・外交的交渉です。本当のことを言えば、中国が今、台湾に侵攻して統一してしまうということは普通の国民国家の国益の論理からいえば、それほど利益のあることではないんです。中国にとって台湾がなければ困るような状況ではない。現状、台湾が他国のような状況でも何ら困っていない。台湾進攻すれば中国は国際的な非難を受けることは間違いないわけですから、中国にとって明らかに不利益なことです。そのことを中国指導部に納得させるということがあります。もっとも中国指導部はそれを分かっていて台湾を手に入れたいと考えているわけで、中国が普通の国民国家と若干違う論理で動いていることが分かるわけですが。いずれにしても一つはそういう政治的交渉です。
 もう一つは、中国と経済的関係を制限して、中国に圧力をかけることです。中国との経済的関係を完全に切ることは不可能ですが、中国に対して厳しい姿勢を示すことは可能だと思います。本当に台湾有事となればアメリカ以上に日本は危ないことになるわけですから、極論すれば日本がイニシアティブを取るくらい最大限の努力をしないといけない。経済的に圧力をかけるためには、日本だけで単独でやっても効果は薄いですから、他国に呼びかけ、できるだけ広い協力を取りつけることが必要です。
 経済的な手段としては、三つくらいのことが考えられます。第一は、中国からの輸入品に関税をかけることです。そうすると、中国側も報復として、関税をかけてくるでしょうが、それでもやるしかないでしょう。第二は、冷戦時代にCOCOM(対共産圏輸出統制委員会)というものがありましたが、それと同じように、いくつかの物に関して、中国への輸出を禁止したり、制限したりすることです。そして、第三は、中国に投資した資本を引き揚げることです。これは、われわれの側のダメージも最大になる手段ですが、中国にとってもダメージは大きい。
 こうしたことを通じて、中国に、台湾への軍事侵攻を思いとどまらせるということです。軍事侵攻しないこと、台湾と中国の統合は、台湾の人々の民主的な意思によってなされるべきだということ、こうしたことを中国に約束させるまで、外交と経済によって中国に圧力をかける。これが日本にさしあたってできることです。
 北朝鮮問題でも日本はトランプ大統領がどう動くかしか考えていなかった。日本の問題として考えていない。台湾有事になれば、遠いアメリカより目と鼻の先の衝突で日本が大きな影響を受ける。長期的に見ると、日本が日米安保条約に依存しているかのように、少なくともアメリカは思っているし、日本人も思っている。そのことが、アメリカが戦争を始めたら日本もそれに付き合わざるを得ない状況をつくっている。
 ですから今回の場合、日米安保条約の枠内ででもアメリカの行動にフォローしていると言うより、アメリカをリードするくらいの気持ちで、軍事衝突をいかに避けるか、そのための行動をする。
 そうすれば、ゆくゆくは日米安保条約に依存しなくても東アジアの安全や平和は保てるかもしれないという自信が、実質的な実績とともにつくられていく。そのためには一つのことをやり遂げる、それを積み重ねる。ただ待っているのでは平和や安全は守れない。アメリカに引っ張られるのではなく、軍事衝突を避けるための行動をすべき。そういう積み重ねがあれば、沖縄に米軍がいなくてもいいような状況が、やがてやってくると思います。
 その上で、長期的には先ほど言いました「二つの資本主義」を超える選択肢があり得るはずだということを考えていく。少なくとも思想的な営みを並行させていくことだと思います。

おおさわ・まさち
1958年長野県松本市生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。社会学博士。千葉大学文学部助教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を歴任。現在、月刊個人思想誌『大澤真幸THINKING「0」』刊行中。『日本の進路』2016年8月号 「『憲法9条とわれらが日本』――未来世代に手渡したい」、2020年5月号「苦境の今こそ、『国家を越えた連帯』への好機」

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