菅新政権の危険な1カ月

反中国同盟と国民抑圧体制

『日本の進路』編集部

 10月17日、菅義偉新政権が成立して1カ月となった。
 わずか1カ月だが、菅新政権の政治が狙うところは浮き彫りに。多国籍大企業のためのイノベーションとデジタル化促進の「改革」、中国敵視の「米日豪印同盟」推進、国内支配抑圧体制の強化。要するに、米中対立と競争激化の世界で、日米同盟で中国を敵視しアジアの覇を狙う、財界のための「強力な国家」である。携帯電話料金引き下げなど、有権者に実利がすぐ及ぶ選挙対策は抜け目ない。
 通常国会から4カ月余、所信表明もないまま1カ月。新基地建設反対の沖縄県民をはじめ国民の声は徹底して無視された。自民党員ですら自分たちの総裁選びの権利を奪われた。菅首相の「ブレーン」というお友達が「成長戦略会議」などと称して方向を決める。
 これが民主主義なのか? 「野党協力」もよいが、野党も国民に直接依拠しなくては闘えない。広範な勢力は共同して国民運動の強化で対抗する必要がある。

国民の命と暮らしを放置

 コロナウイルスの感染爆発は続き、死者は、アメリカの22万人超を筆頭に、全世界で110万人を超す。限界を迎えていた世界経済は、米中対立にコロナ禍が重なって分断、失墜。超金融緩和でごく一部富裕層だけは限りなく豊かになったが、貧困は急拡大。世界銀行は、1日を1・9ドル(約200円)未満で過ごす「極度の貧困層」が7億人を超し、世界人口の9・4%と推計。
 西欧では感染第2波が襲っている。わが国でもインフルエンザとの同時流行が懸念される。だが、菅政権の基本方針は、「感染対策と社会経済活動との両⽴」。実際は、「経済活動」推進で、感染症対策には関心がない。一部企業への支援策だけが進んでいる。
 国民の暮らしへの対策はまったくない。労働者の雇用が失われ、とくにパートや学生アルバイトなどの非正規雇用が激減。
 労働者の賃金は毎月減少し続ける。零細事業者、中小企業の多くは売り上げがなくなって、緊急融資などで命をつないでいる。「家賃支援」給付すら滞ったままで、実績は申請の半分である。
 政府に、感染症対策を強め、貧困にあえぐ国民を即座に支援するよう要求する。

反中国の「アジア版NATO」へ突き進む

 米中対立、覇権争奪は新技術や経済面などいちだんと激化している。米軍は、南シナ海でも、東シナ海でも「演習」で一触即発の挑発を繰り返す。とくに、「台湾独立」の策動を強め、中国を窮地に立たせようと画策を強めている。
 こうした中で米ポンペオ国務長官が6日来日、「第2回日米豪印外相会合」(通称「QUAD=クアッド」)を開催、中国を対象とする「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の拡大を確認した。会議を踏まえて、菅首相は18日、初の外遊でベトナム、インドネシアへ。「FOIPの拡大に向けた協力を確認」した。
 日本はこの米豪印3カ国とはすでに「2+2」と呼ばれる外務・防衛閣僚会合をもち、共同軍事演習も実施。自衛隊は物品役務相互提供協定(ACSA)を9月、残されていたインド軍とも締結。4カ国と軍事実務面でも連携が進んでいる。QUADを踏まえて4カ国海軍は、軍事演習を初めて合同で11月にもインド洋で実施する。
 また、防衛省は来年度予算概算要求で約5兆5千億円と過去最大、電磁波戦部隊の南西諸島配備なども新たに進められる。年末までには、敵基地攻撃能力獲得も結論を出し予算手当てされる。
 米国務副長官が8月提案した、「北大西洋条約機構(NATO)のような戦略的同盟」の具体化が進んでいる。菅新政権は、いちだんと危険なところに踏み込んだ。
 当然のように中国は反発を強めている。王毅外相はマレーシアで、「4カ国はインド太平洋版の新『NATO』を作ろうとしている」と批判した。
 だが矛盾も大きい。オーストラリアは、「準同盟」といっても、経済を中国に大きく依存している。インドも、領土紛争も激化しているが経済関係は中国と深く、歴史的にも非同盟路線で日米と一様ではない。
 わが国も、経済を中国に深く依存し、経済界にも自民党の中にも異論が広く存在する。中国を敵視し軍事的対抗を進めながら経済は中国と、といった政経分離でやれるはずがない。政権の動揺は避けがたい。
 とくに、日中韓の近隣3カ国の連携は重要で、第9回「日中韓首脳会談」が年内に韓国で開催予定だった。ところが菅首相は日韓関係を理由に拒否して、開催のめどが立たない。習近平中国国家主席の国賓来日も宙に浮いている。
 中国や韓国敵視に反対し、東アジアの不戦、共生へ国民世論を盛り上げなくてはならない。

イノベーションで激化する国際競争に対処

 世界は、コロナ禍が加速してイノベーション、デジタル化の激しい競争となっている。わが国の、イノベーション、とくにデジタル化の立ち遅れをコロナ禍に暴かれた政権は、「国民の知力と国家の政治力を総動員」して打開をたくらむ。学術会議問題の背景はそうしたことであろう。
 そして、デジタル化を政策の「一丁目一番地」として意気込んでいる。大企業はデジタル化で競争力強化を急ぐ。
 成長戦略会議を創設し、首相ブレーンと言われる名うての政商たちを集め、中小企業と地方銀行に狙いを定めて、統廃合、再編を促し、「生産性の向上」で企業競争力強化をめざす。大企業も含めて、労働力移動・首切り「自由化」のための労働の規制緩和を進める。
 労働者にとって大失業時代、中小企業にとって大廃業、倒産時代となる。

支配と統制、国内管理抑圧体制の強化

 文字通り反抗なしに国民は生きてゆけない時代となっている。
 菅政権は、統制と支配の強化、強権的抑圧国家体制づくりを露骨に進めている。外への敵基地攻撃力とセットである。
 「弱体な国家」は国を亡ぼすと、「強力な国家」が持論の菅首相は総裁選の最中、「政府の決めた政策に反対の官僚は異動してもらう」と公然と言い放った。有無を言わせぬ官僚の統制、国家支配強化である。マスコミに対しても、露骨な選別と、マスコミ人を首相補佐官に任命するなどして、統制と支配強化を画策。学術会議への介入とともに、中曽根元首相の内閣・自民党合同葬では、国立大学に弔意を求めた。
 デジタル庁構想では、まずは、マイナンバーカードと運転免許証や健康保険証などのデータを統合する計画である。国民の管理、統制と支配が極めて容易になるのは間違いない。
 しかし強権手法は、政権の弱さの表れにほかならない。

対抗するグランドデザインを明確に

 菅政権がどんなに管理抑圧体制強化を画策しようが、貧困化の進む国民の反発は避けられない。財界、大企業の支配層も含めて、日米同盟路線での中国敵視の戦争の危険への危惧と動揺、反発も避けられない。中小企業や地方銀行整理は自民党の基盤を掘り崩す。国家官僚たちも陰に陽に抵抗を繰り返すだろう。
 国民が闘う環境は菅政権が準備し、菅政権の破綻も見えている。しっかりとした対抗軸をもった広範な政治勢力を形成し追い詰めなくてはならない。(10月23日記)

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