日朝国交正常化に尽力する金丸 信吾さんに聞く

安倍首相辞任、菅義偉新政権の成立

 私は、「日朝国交正常化」に最後まで政治生命をかけたオヤジである金丸信(元自民党副総裁)に秘書として仕え、その後もずっと「国交正常化」のために取り組んできました。そうした者として日朝問題を中心に日本の在り方、あるいは安倍政権がやってきたこと、さらに菅新政権に期待することといったことをお話ししてみたい。
 安倍政権の評価は、一言で言うと「うやむや」というのがふさわしいのではないでしょうか。すべてについて言えます。7年8カ月もやったわりには何もない。歴史上の長期政権にもかかわらずです。これをやりました、あれをやりましたと本人は言いますが実際は何もない。
 あの人の一番は、憲法改定でした。その方向性の善しあしは別に、結果として「うやむや」。北方領土問題も一歩も前進しないで「うやむや」。
 そして、日朝問題。これも「拉致」問題の解決を、政権の最優先課題などと言っておきながら、これも「うやむや」。
 その他の、負の遺産みたいな、森友、加計、桜を見る会問題等々も、これらも結局、「うやむや」。
 すべて、良いとか悪いとかの結論が出ていなくて、「うやむや」で終わってしまった。こんな政権が7年8カ月も続いたことが不思議でならない。

山梨県の中小企業には全く恩恵ないアベノミクス

 アベノミクスにしても、私たち山梨県の、中小企業を経営している経営者として考えると、アベノミクスの恩恵を受けたことは全くありません。うちに限らず、山梨県のすべての企業が、ほぼ全く恩恵を受けていない。安倍さんが就任して以来、地域の経済が上向いたことは一度もない。そこにもってきてこのコロナでしょう。うちはゴルフ場ですが、6、7、8月と昨年比6割程度です。9月になって少し上向いていますが、そもそも昨年がすでに落ち込んでいて、その6割とか8割ですからどうにもならない。多くの企業が、コロナが収束しても、立ち上がる地力、気力が残されているか、心配する状況です。それほど厳しい状況にあることは確かです。

米朝間の緊張を緩和した首脳会談

 そうした中で生まれた新政権ですが、菅首相は、安倍政権をほぼ踏襲すると言っている。外交、安全保障、コロナ対策等々含めて踏襲すると言うのですから、期待しろと言う方が無理ですね。
 しかも、主要閣僚は安倍内閣そのものです。この政権は、「あやふや」まで踏襲することになるのでしょうかね。
 特に日朝問題ですが、安倍政権を踏襲するということは、安倍首相と同じ態度でやるということでしょう。菅さんは、官房長官であると同時に、拉致問題担当大臣であったわけです。「担当大臣として何をやりましたか?」と言うと、何もしてないわけです。ですから、日朝問題に限って言っても、打開の方向は全く見えない。
 安倍首相は、昨年5月、「無条件に首脳会談、今度は私の番だ。あらゆるチャンネルを使ってやりたい」と明言した。にもかかわらず、何のアクションも起こしていない。
 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)とアメリカの、首脳会談は実現したわけです。本来ならば日本よりもずっと難しいはずです。戦争をしてきて、今も、お互いに核ミサイルを向け合って戦争をしようとしている国同士ですから。
 だけども、その困難を乗り越えて、すでに3回も首脳会談を実現している。評価はいろいろあるが、3回やっていることは事実。そして、その結果、明日にも戦争が始まるかといった危機感あふれる状況は首脳会談によって一気になくなったのは事実でしょう。
 いかに「対話」というものが重要かということです。朝米首脳会談が証明している。だけども、安倍さんは何もしていない。「圧力」しかない。
 「圧力」「経済制裁」で、拉致問題が少しでも解決する、前進するのであれば、私は必ずしも否定するものではない。しかし、実際は後退しているわけです。しかも、1、2年のことではなくて、前から、もう十何年になる。動いていないわけだから、「圧力」「経済制裁」という政策は誤った政策だと認めざるをえないでしょう。もっと早く対話をしなくては。安倍さんだって、「圧力と対話」と言っていたはずです。
 菅さんに、これから「対話」をする意欲が果たしてあるかどうか。私は、期待薄だと思います。
 北朝鮮との関係を進めていくことは「泥をかぶる」ことを覚悟しなくてはならない。政治家としては危険ですね。そんな危険なところに手をつけるとは考えられない。

18年前、両国は国交正常化を合意している

 「東京と平壌に連絡事務所を」という自民党総裁候補もいた。連絡事務所の構想は、そもそも1990年の3党共同宣言合意の時にもあった。しかし、アメリカによってつぶされた。あの時、強引にやっておれば状況はかなり違ってきたと思う。残念に思います。
 今の日朝の関係の中では日朝の連絡事務所は容易でない。朝米首脳会談も突然できたわけではない。その前に、ポンペオ国務長官が北に乗り込んで話をつけた。北は、トランプさんは本気だ、と判断したわけです。そのクラスが動かないと始まらない。
 日本もそうしたことで動かないと。私は、昨年、二階幹事長に超党派の訪朝団をお願いした。しかし難しかった。あまりにリスクが大きいということでしょうか。今の自民党政権には望めないでしょうかね。
 時あたかも、9月28日が、国交正常化を確認した3党共同宣言を調印した日で、30年になる。その前の17日が、2002年に、日朝平壌宣言を調印した日です。その17日が、オヤジ金丸信の誕生日。
 3党共同宣言から30年になるのに、いまだに国交正常化は実現していない。残念なことです。
 日朝間には、拉致問題を筆頭に、さまざまな懸案事項があります。それらの懸案解決の一番の近道は、国交正常化なのだ。国交正常化して初めて解決できる。
 それがひいては北東アジアの平和につながる。今、北朝鮮と国交を正常化してないのは、アジアでは韓国と日本だけです。南と北も国同士と認め合ってやればよいのだが、それは彼らが決めること。他国が、ましてや植民地支配したわが国があれこれ言える話ではない。
 日本と北朝鮮は18年前の平壌宣言で、国交正常化をめざすことで合意しているわけです。両国のトップ同士が、拉致問題の「解決」を認め合って、国交正常化交渉を早く進めましょうと合意した。
 この合意に基づいて進めるのが基本です。ですから、「無条件の首脳会談」などと言うことではなく、平壌宣言の原点に戻って、初心に戻って国交正常化交渉を進めましょう、と日本側から提案することが、まず必要だと思います。
 「制裁」「制裁」と日本政府は積み重ねてきた。最後が、「幼保無償化」の対象から「外国人学校」を外す通達を地方自治体宛てに出したこと。まさに「人権」に反するこうした通達を撤回するところからでも、日朝間の信頼関係を再構築していくような努力が重要だと思います。
 新政権に、国交正常化を粘り強く要求していく。そのための国民運動が重要です。

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