オヤジの遺志継ぎ、日朝国交正常化めざす

共有(シェア)Share on Facebook
Facebook
Tweet about this on Twitter
Twitter
Share on LinkedIn
Linkedin
金丸信吾氏(故金丸信自民党副総裁秘書・ご子息)に聞く

「泥かぶる」政治家いでよ

1990年の3党共同宣言(日朝関係に関する日本の自由民主党、日本社会党、朝鮮労働党の共同宣言)は、「自主・平和・親善の理念にもとづき日朝両国間の関係を正常化し発展させることが両国国民の利益に合致し、新しいアジアと世界の平和と繁栄に寄与する」と宣言した。以後、30年近くたつが日朝関係は前進しないどころか敵対関係が深まっている。宣言の中心におられた金丸信自民党副総裁(当時)を秘書として支え、以後一貫して日朝関係前進のために奮闘されている金丸信吾さんにお話を伺った。文責・編集部

 板門店での米朝首脳会談は今までにない画期的なものでした。昨年6月のシンガポールでの首脳会談まで、米朝は一触即発の状態で大変危険な状況でした。それが米朝の首脳が何回もお互い顔を合わせることで、雰囲気は大きく変わりました。もちろんこれからにかかっていますが。

見えぬ「無条件の首脳会談」の中身

 あの板門店での米朝首脳会談以降、安倍さんの言動が若干変わってきたことも事実です。ただ、「無条件での日朝首脳会談」と言っていますが、その実現に向けた具体的なアクションが一つも見えません。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に首脳会談をやりたいという申し入れさえしていないわけですから、北朝鮮にしても返答のしようがありませんよね。首脳会談というものは、ただ「したい」と言えばできるものではありませんよ。
 安倍さんが言う「無条件」という意味もよく分かりません。「無条件」ということは、拉致問題についてはどういうふうに提起するんでしょうか。もし、首脳会談が実現した場合、安倍さんが拉致問題について一切口にしないということはできないでしょう。
 2002年の日朝平壌宣言をよく読むと、あの時点で拉致問題は基本的に解決しているということになっています。当時の小泉総理もサインしています。当然、拉致問題についての北朝鮮の回答が変わることは考えられません。

外交は信頼こそ基本

 やはり、外交というのは、信頼が基本です。しかし、安倍さんが今までやってきたことは「対話と制裁」と言いながら、実際は制裁しかありませんでした。これでは、信頼関係は生まれません。信頼関係をどうしたら築けるのかといえば、やはり対話しかないわけです。
 安倍さんは「拉致問題の解決なくして、国交正常化はなし」ということをずっと言い続けてきました。しかし私は、「国交正常化こそが、拉致問題を解決するいちばんの近道」ということをずっと言い続けています。
 私は1990年の「三党共同宣言」のときから、オヤジ(故金丸信・元自民党副総裁)が政治家を辞めてからの空白期間はありますが日朝問題に関わっています。一民間人ですが、オヤジの遺志を継いで一日も早い国交正常化ができるように頑張ってきたつもりです。
 当時オヤジは、死ぬ間際まで、「北朝鮮という国は、多くの日本人にとっては、理解しがたい国であることは確かだ」と言うと同時に、「そのような国だからこそ、常に国際社会の表舞台に引っ張り出しておくべきだ」と言っていました。そのためにも最初にやらなくてはいけないことが日朝の国交正常化です。オヤジである政治家・金丸信にとって、この日朝国交正常化の課題が最後の大きな仕事となり、また、残念ながらやり残してしまった仕事でもあります。
 だから、オヤジのやり残したこの仕事を少しでも前に進めようというのが、私がこの朝鮮問題に関わってきたいちばんの理由と思っています。しかし、一民間人の限界を日々感じているというのが偽らざる心境です。これからは政治家、国会議員が動かないと日朝関係は動かないなと思っています。

「北朝鮮の非核化」と言うなら、日韓米軍基地からの核撤去を

 核問題は、日本にとっても重要な問題であることは確かです。そして、日本は、世界で唯一の被爆国ということからも、いかなる核に対しても反対をしなければなりません。
 ですから、北朝鮮が核開発に進み始めたときも、私は北朝鮮を訪れた際に、「アメリカの核の脅威から自国、自国民を守るためにどうしても核保有しかないという気持ちは理解できる」と言いました。だが同時に、「唯一の被爆国の日本国民として核だけは絶対許すことができない」ということはしっかりと言いました。
 しかし、考えなくてはいけないのは、アメリカが何千発、何万発という核を保有しながら、北朝鮮に対して、「おまえらのような、小さな国が核を持つ必要があるのか」と言うのは誰にも理解できない「論理」であることは確かなんです。
 一連の米朝首脳会談において、「非核化」に向けて動いていることは確かです。ただ、アメリカの言う「非核化」と、北朝鮮が言う「非核化」の中身は大きく食い違っているのも確かです。ですから、私もこの非核化がすぐ実現するとは思っていません。日本のマスコミなどはすぐ、「北朝鮮の時間稼ぎ」などと言いますが、非核化に向けて時間が長くかかるのは当たり前です。
 「非核化」をめぐるアメリカと北朝鮮のいちばんの違いは、アメリカは「北朝鮮の非核化」であり、北朝鮮側は「朝鮮半島の非核化」なんです。「朝鮮半島の非核化」ということは、韓国にある核も一緒に撤廃するということです。
 これはやはり、北朝鮮の言っていることの方に正当性があるなと思います。在韓米軍基地に核がないなんてあり得ません。また、在日米軍基地に核があることもこれは周知の事実ですよね。また、沖縄に米軍基地があることは北朝鮮にとっては大変な脅威ですよ。そういうものはそのままにしておきながら、北朝鮮の核だけ放棄させようというのでは、話をまとめようとしても無理ですよ。
 最近アメリカからも、「核開発の凍結」という話が出てきました。「凍結」ということは、実際上は核保有を認めるということです。「今ある核はいい。そのまま『凍結』しておいて」と。「しかし、これ以上の開発・製造はしないでくれ」ということです。アメリカにとって最大の関心事である自国に届くICBM(大陸間弾道弾)の開発・製造もやめるというところでなんとか着地点を見いだそうとしているという報道があります。そうした報道がどこまで事実なのかは、よく分かりません。

経済制裁の段階的解除を始めるべき

 日本の立場としても、核については最重要問題だと思います。しかし、日本では、北朝鮮といえば、拉致問題がいちばん先にきます。当然、拉致はけしからんし、当たり前です。とんでもない犯罪です。だが拉致問題ばかりが前面に出れば、日朝関係は一歩も進まないことは、今までの経過が証明しています。
 安倍さんは「自分の首相任期中に拉致問題は必ず解決します」と大見えを切るのであれば、具体的な解決策は何なのか提起すべきですが、それが今なお出ていないのが非常に残念です。だから、北朝鮮の人たちは、「拉致問題が解決したら、いちばん困るのは安倍さんじゃない」という皮肉交じりのことをよく言っています。それはある意味、事実かなという感じもします。今までの安倍さんの行動を見ているとね。
 本当に「無条件の日朝首脳会談」を呼びかけるのであれば、今日本が独自で行っている北朝鮮に対する経済制裁の解除について、どこまで向こうに提示できるかがカギとなるでしょう。
 まず、北朝鮮が首脳会談に応じるのであれば、段階的にでも経済制裁は解除しますよと言い、首脳会談が実現して何らかの前進があれば、また段階的に経済制裁を緩めるとアプローチしたらどうでしょうか。国連による制裁決議と歩調を合わせつつも、日本は独自に経済制裁を段階的に解除していくということしか、カードがないですよ。ただ、そうしたことを安倍さんは言えないでしょうね。
 安倍さんは「無条件の日朝首脳会談」と言いながら、東京オリンピックへの参加準備のために来日する北朝鮮の体育省の次官に対しても、かなりの行動制限をつけています。そんなことをしながら、「無条件の首脳会談」なんて呼びかけてもダメですよ。
 オリンピックは平和の祭典なんですから、まして、日本は北朝鮮にも参加してほしいと要請をしている以上、温かく迎え入れるべきなんです。
 2002年の小泉・金正日会談の実現に向けて田中均さん(元外務審議官)という外務官僚がどのくらい苦労したのかというところを、もう少し考えなければいけないと思います。田中均さんのその後を見ると、彼は評価されていないですね。だから、積極的に北朝鮮問題に関わる外務官僚も出てきません。
 まして、政治家というのは選挙のことを考えると、泥をかぶるのはいやがります。本気で乗り出そうという政治家が見当たらないというのが今の日本の寂しい実情ですよね。私は昨年来、自民党の皆さん方に「超党派による国会議員の訪朝団をつくって、首脳会談に向けての環境づくりをしてほしい」というお願いをしていますが、実現は非常に望み薄に見えるのが実際です。これは野党にも責任があると思いますよ。

隣国との違い認め合い、共存の道へ

 よく私に、「おまえは北朝鮮に洗脳されている」と言う人がいますが、そんなことを言っている人こそ、日本のマスコミによって洗脳されていると思っています。
 私は今年も六十数人の団で北朝鮮に行く予定ですが、「自分の目で見て、それから批判をしなさい」、「北朝鮮は素晴らしい国だ」なんて無理に言わなくていいですよ、と言っています。私も「あの国は素晴らしい国だ」なんて一回も言ったことはありません。ただ、正当に評価すべきだということです。私だって北朝鮮について理解しがたいところはたくさんありますよ。しかし、それは体制が違うんだからしょうがない。受けている教育だって違うんだからしょうがない。それを私たちのような他国の人間が言うべきではないですよ。
 まして、アメリカが自分たちの「論理」に合わないということで、北朝鮮など小国を抑えつけようというのは、大国の傲慢です。
 北朝鮮のことは、あの国の国民が決めることです。今の北朝鮮の体制がおかしいと言っても、あの国の人たちが「いい」と思っていれば、私たちがとやかく言うことではないですよね。逆に北朝鮮の人たちから見れば、日本の方がおかしいだろうと思いますよ。
 お互い、歴史も、文化も、政治体制、あらゆることが違う別の国であるということを理解しつつ、対話しなければいけません。お互いに理解しつつ、隣国なんですから共存していくことです。
 そういう点から見ても、日本の外交は生ぬるいというか、戦略がありませんよ。とくに北朝鮮に対する外交戦略というのはまったく見えません。これは政治家に責任があり、マスコミの責任も大きい。マスコミがあまりにも拉致問題をあおってしまっている。本当のことを誰も言えなくなっているのが実際です。
 日朝国交正常化へ国の政治を動かさなくてはなりません。そのために全国がバラバラではなく、とくに私のような保守勢力、自民党の人びととももっと力を合わせられるようしなくてはなりません。

共有(シェア)Share on Facebook
Facebook
Tweet about this on Twitter
Twitter
Share on LinkedIn
Linkedin