緊迫する朝鮮情勢 重大な岐路に立つ日本

危機打開へ、今こそ朝鮮との国交正常化を

佐々木 道博(広範な国民連合代表世話人)

 臨時国会が始まった。
 安倍首相は所信表明で、キーワードとした「未来」を18回も口にしたが、それは国民の未来ではない。2020年東京五輪を見据え長期政権の狙いを隠さなかった。演説の最後では「憲法はどうあるべきか」と「国会議員の責任」にも触れて衆参両院憲法調査会での議論を呼びかけ改憲への意思を明確にした。先だって自民党は、総裁任期を事実上無制限化することを決める党大会を来年3月5日に開催すると決めた。
 安倍は、意欲満々のようだが、その前途はバラ色ではなく、イバラの道である。そこをを見抜き、安倍政権を打倒する広範な国民的戦線を構築しなくてはならない。

 安倍首相は、「アベノミクス加速の国会だ」と位置つけて、課題は、補正予算と、アベノミクス加速、環太平洋経済連携協定(TPP)承認、北方領土、北朝鮮制裁だと宣言している。明らかに、解散総選挙を意識したものであろう。
 しかし、多くの国民は、あまりの馬鹿馬鹿しさに驚き、怒っている。
 デフレ脱却を目的とし2%のインフレ実現を目指したというアベノミクスだが、最初の1年は最大1・5%まで到達したが、すぐにインフレ率は低下し、現在またしてもデフレに逆戻り。「アベノミクスは元の木阿弥」とマスコミにも酷評されている。
 この間、日銀は国債を、発行総額の40%近くまで400兆円も買い込んだ。そうまでした円安誘導と年金基金まで総動員した株価維持も、一時の株高から相当に値下がりし、年金基金損失も10兆円を軽く超える水準になっている。
 それでも、一部の輸出大企業は、円安で輸出額に占める賃金コストを大幅に目減りさせて莫大な利益を上げ、内部留保を3年間で80兆円増やし、360兆円まで膨らませた。円安、株高で、米国など海外投資家は大儲けし、株式や不動産保有などの国内富裕層も潤った。この上層、富裕層の支持をつなぎとめられるか、瀬戸際である。
 一方、一般国民、勤労者は3年連続の賃金の低下に見舞われた。勤労国民の汗水流した富が奪われたのだ。まさに、「奪われた富を奪い返せ!」の闘いが必要だ。
 おこぼれにあずかっていた地方金融界からもマイナス金利による赤字拡大に悲鳴が聞こえている。デフレ脱却のアベノミクスは完全に破たんしたと断定せざるを得ない。今さら「アベノミクス加速国会」とは、どういう神経をしているのか。

 また、TPPについても本来これを推進してきたアメリカが、到底批准できそうもない状況であることは周知の事実である。大統領候補のクリントンもトランプも反対している。当初自民党は、「絶対反対」を選挙公約で謳い、その後それを破棄し、推進にまい進している。裏切り行為もはなはだしいが、今では「TPPは日本が主導する」と豪語している。経済的な中国包囲網形成を自分が「主導」したいという妄想か?
 沖縄の辺野古新基地建設問題にしても同様であり、到底実現不可能な基地建設になぜこれほどこだわっているのか。
 政治家としてはもう正常な判断もできなくなっているのか、崩壊寸前である。
 こうした安倍首相の存在を許しているのは、弱体野党である。今こそ野党も目覚めてほしい。

安倍政権、強気と無力感と

 さて、本稿主題の朝鮮問題である。9月9日の5回目の核実験の実施とそれに先立つSLBM(潜水艦発射ミサイル)と3本同時のミサイル発射(北海道沖)に対し、日本政府は異様な反応を見せている。安倍政権は、「かつてない異次元の脅威であり、日本の危機だ」と煽っている。
 一方で、「共同通信」をはじめマスコミ各社は、「政府内にはかつてない無力感が漂っている」と報道している。それもそのはずである。1兆5000億円もかけてミサイル防衛システムをアメリカから買わされた。ところが、今回のミサイル実験に対して察知もできず、もちろん警報も出せず、韓国やアメリカからの後情報でしか知りえなかったことに衝撃を受けているとのこと。イージス艦やPAC3などがまったくの無用の長物であったことが満天下に知られたのだ。この事実は「日刊ゲンダイ」などに詳しく報じられた。防衛省は、常時の破壊措置命令を出していたが、察知もできないものを破壊など到底できるものではない。
 そして9日の核実験に遭遇し、その衝撃は相当なものとなった。今回の国連総会で安倍首相は、その演説の3分の1以上を割いて「北朝鮮にかつてない強力な制裁を呼びかけた」と報じられた。「国際社会」で、日本主導の制裁を演じようとしている。そしてキューバ訪問の記者会見でもこの「北朝鮮制裁を呼びかけた」とのこと。キューバは、朝鮮との友好国で、キューバのミサイル防衛には多くの朝鮮人民軍が関わっていることは衆知のことである。安倍首相には、そうした常識もないのだろうか。それほど焦りが募っているのであろう。

撤退せず威嚇する米軍こそ根源

 ここでこのミサイル実験や核実験に至る朝鮮半島の経過を検証しておこう。
1950年に始まった朝鮮戦争は、アメリカ側にも5万人近い死傷者を出し、日本では神の如く振る舞ったマッカーサー将軍が敗軍の将となり、アメリカをして「2度と戦いたくない相手」だと言わしめた。
 53年に停戦協定が締結された。参加国は、朝鮮と中国、それに「国連軍」を名乗ったアメリカの3者である。その協定では、5年以内にアメリカ軍も中国軍も撤退すると約束されていた。中国は約束通り撤退したが、アメリカ軍は協定を無視してそのまま韓国に居座り続けた。その後、60年以上経過した。そして現在も核とミサイルで朝鮮を威嚇し続けている。
 こうした威嚇と戦争危機に耐えながら自国の防衛に努めてきたのが朝鮮民主主義人民共和国の実像である。
 こうした事実を無視して核5大国(国連常任理事国)は、自らの権益を守るため朝鮮の核実験に制裁を決議してきた。どうやったら朝鮮は自国の存立と尊厳を守ることができるのか。

 オバマ米大統領が核廃絶を言うなら、自ら核廃絶すれば各国もそれに続くだろうことは誰でも想像がつくことである。他国に核廃棄を言い、自国は最大の核保有国。こうしたオバマが日本を訪問し、核廃絶を演説する姿は、誰が見ても滑稽そのものである。
 日本国民、とくに広島、長崎市民に原爆投下、大量殺人の謝罪もなく不遜極まる態度。ところが、オバマ広島訪問を絶賛した人が最大野党党首に選ばれるなど、もろ手を挙げて賛美する野党にも驚くばかりである。こうした事態を批判する常識ある人の声は、マスコミから完全に締め出されている。これは、異常な事態であり、対米従属の極みである。
 今回の核問題の本質は、戦後のアメリカを中心とした支配体制、核独占体制に対し朝鮮が自国の存立と尊厳をかけて異議を申し立てているのである。
 日本は、唯一の原爆水爆の被害国であり、あらゆる核実験に反対であるというのは当然理解できることである。しかし、ここ10年続く核実験反対、北朝鮮制裁の本質は核大国の権利保護のためである。自ら進んで核を放棄する核大国は1国もないのが現実である。
 こうした本質を無視して、いたずらに北朝鮮を攻撃をするのはアメリカやその他核大国を利する行為に他ならない。「左翼」を任ずる人の中にもこうした傾向が多々見られることは残念なことである。

米国は力の限界
安倍は代わって突出するのか

 朝鮮側の考えは、朝鮮戦争の停戦協定を平和協定に変え、南北の緩やかな統一を実現したいというものであり、至極当然な要求である。これをどうしても潰したいのがアメリカである。
しかし、アメリカを巡る情勢も大きく変化している。アフガン、イラク戦争に敗れ当初の目的は達成できず、また、イラク・スンニ派から派生したイスラム国(IS)に対し、どうにもならない状態に追い込まれている。シリアでもアメリカは主導権をロシアに奪われている。
 力の衰えたアメリカは2009年以来、朝鮮に対し「戦略的忍耐」と称しテロ支援国指定解除も実行した。オバマの8年間は、米韓合同軍事演習と国連制裁などに限定し、朝鮮の核とミサイルに具体的軍事行動を取らなかったし、取れもしなかった。
 朝鮮側は、今年を勝負の年と考えミサイル実験・核実験を続けていると見るべきである。ちょうどアメリカでは大統領選挙があり、外交問題の争点の一つとして浮上させ、朝鮮戦争以来の朝鮮とアメリカとの関係の最終的な決着をつけようとしているのであろう。
 先日訪朝した、アントニオ猪木参議院議員に、朝鮮のリスヨン副委員長は「核もミサイルも日本に向けたものではない」と明言した。ある意味で、日本は眼中になく、アメリカとの最終決着が基本方針である。ミサイルの照準は、米国であり、グアムであり、日本にある米軍基地ということである。
 ところが、安倍首相は「日本が主導して北朝鮮への国連制裁を決議する」と息巻いている。「主導」したいのであろう。しかし、それで火の粉を浴びるのは日本である。日本は中立であるべきである。
 本当に東アジアの平和を実現したいなら朝鮮との即時の国交正常化以外に道はない。02年9月の小泉純一郎首相と金正日総書記のトップ会談(ピョンヤン宣言)で国交正常化を約束した通りである。そうした決断こそ拉致をはじめとする諸問題の解決にも役立つであろう。幸いにも、拉致家族の会も従来の方針を転換し、核ミサイルと切り離し、拉致問題を優先してほしいと、安倍首相に強く要請している。安倍首相は、またも「朝鮮危機」と「拉致問題」を選挙に利用したいのかもしれない。
 しかし、このまま安倍首相が制裁一辺倒で突き進むなら、米朝戦争に先だって、日朝間の戦争が起こる可能性さえ想定しなくてはならない。情勢は極めて流動化している。朝鮮側も、核やミサイルでの対抗を明言している。戦争か、平和かの重大な岐路がやってきていることを肝に銘じなくてはならない。
 今こそ、東アジアの平和を願う人びとは、朝鮮制裁ではなく対話を要求し、即時の国交正常化をめざすべきである。野党各党は、積極的にこうした方向を進めるべきである。そうでなくては、「制裁」と「拉致解決」で世論を握る安倍政権に対抗できないだろう。
 安保法制や集団的自衛権行使の当面の最大目標が朝鮮有事である。だからこそ戦争の危機を除くためにも日朝国交正常化に力を注ぐべきではないか。この秋、国の進路が大いに問われている。

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