全国全地域住民に標準的な行政サービスを

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トップランナー方式と地方交付税

自治体間競争をあおり、犠牲は地方住民に

東京大学法学部教授 金井利之

はじめに

 国は2016年度から地方交付税に、いわゆる「トップランナー方式」を導入している。トップランナー方式とは、民間委託などで業務を効率化している自治体を基準に単位費用を抑制する算定方式である。
 総務省が経済財政諮問会議「第7回 国と地方のシステムワーキング・グループ」に提出した資料によると、16年度の単年度の影響額は441億円で、21年度までの累積影響額は1637億円を想定しているという(『日経グローカル』18年1月1日)。つまり、トップランナー方式の導入によって基準財政需要額が抑制され、したがって、マイナスの影響を受ける個別の自治体の合計の地方交付税配分額が減少する。このような情勢を鑑みれば、個別自治体としては、さらなる経費節減・効率化の努力が求められるという。

トップランナー方式と効率化の関係

 もっとも、トップランナー方式の導入によって初めて自治体は効率化を求められたわけではない。地方交付税の配分額が、自治体の行動とは無関係に算定される限り、自治体には効率化へのインセンティブが働く。実際、トップランナー方式の導入前から、個別自治体は民間委託など行政改革への努力をしてきた。この限りでは、効率化への圧力には全く変化はない。したがって、トップランナー方式に過剰反応するのは適切ではない。
 理屈は簡単である。定額の交付税が配分されれば、個別自治体としては、効率化努力によって実際の歳出を抑制できれば、抑制分だけ得になる。例えば、交付税の基準財政需要額1000万円の費目について、実際の事業が800万円で済めば、200万円分だけ余裕が出る。したがって、全事業に関して、自治体は財政効率化を進める動機をもつ。しかし、もし1000万円の費目について実際に800万円しかかからなかったときに、国が事後的に基準財政需要額を実際にかかった800万円に圧縮するならば、自治体は効率化をしなくなるだろう。200万円の効率化努力の果実は、基準財政需要額・交付税の減額によって相殺されるからである。

トップランナー方式の広い圧力

 トップランナー方式は、効率化への圧力を広く及ぼす。基準財政需要額1000万円の費目について、団体Aは800万円、団体Bは1000万円、団体Cは1200万円の歳出とする。団体Bは基準財政需要の算定に想定される平均的な効率性で収めている。このとき、団体Bは、特にA並みの効率化をしないでも、平均的な運営をすれば損はしない。国の算定で想定される効率性を下回る団体Cのみ持ち出しが発生する。その意味では、団体Cにとっては平均水準までの効率化圧力はすでに作用している。しかし、団体Bには、特に効率化をしなくても持ち出しは生じない。
 さて、トップランナー方式は、基準財政需要額の算定を団体Aの効率性に合わせて、800万円に切り下げることを意味する。団体Aはこれまで享受していた行革の成果が消え去る。団体Bはこれまでの平均的な運営のままでは持ち出しが生じてしまうので、団体A並みへの効率化への圧力になる。団体Cにとってはさらなる圧力になる。その意味で言えば、基準財政需要額の切り下げは、幅広い団体に効率化への圧力を生じさせる。

トップランナー方式の不公平性

 要するに基準財政需要を下げていけば、自治体は効率化をせざるを得なくなるということである。極論すれば、基準財政需要額の算定を0にすれば、つまり地方交付税を廃止すれば、自治体は歳入の範囲内で歳出を賄うしかないのであり、今以上に効率化するだろう。
 しかし、この発想は、地方交付税の理念と相いれない。つまり、自治体は交付税がなければ今以上に努力するだろうが、その圧力は財政力の不均衡に合わせて不公平に作用する。地方交付税不交付団体・東京都は、地方交付税が廃止されても、効率化をする必要はない。しかし、交付税に依存する自治体ほど、効率化への圧力が大きくなる。一見すると全団体に一律に効率化を迫るトップランナー方式は、実は財政力の高い団体には効率化圧力を与えず、財政力の弱い団体に集中的に効率化圧力を及ぼす。
 こうした「強きを助け、弱きをくじく」仕組みは、財政調整制度の理念に反する。地方交付税は、財政力の弱い団体にも、財政力の強い団体と同様に、標準的なサービスを実現できる一般財源を公平に保障する制度である。そのためには、基準財政需要額の算定を不適切に切り下げてはならない。基準財政需要額は、最も有利な団体に合わせるのではなく、標準的・平均的な団体に合わせるのが理念なのである。トップランナー方式は、地方交付税の運用方向としては間違っている。
 なお、付言すれば、トップランナー方式は、財政需要の多い団体にも不公平な負担となる。トップランナー方式は単位費用の減額であるから、全団体に一律に影響する。しかし、金額ベースで見れば、測定単位数の大きな団体ほど、つまり財政需要の多い団体ほど、影響額が大きく作用する。例えば、道路橋りょう費の単位費用をトップランナー方式で引き下げれば、測定単位である道路橋りょう延長・面積の大きな団体が、金額ベースでは大きく不利を被る。これも財政調整制度の理念に反する不公平性である。

地方交付税総額問題

 トップランナー方式によって圧縮された基準財政需要額が、そのまま交付税の総額の削減につながるわけではない。地方財政計画・地方交付税の運用では、地方財政計画で地方交付税の総額が決まってから、基準財政需要額・収入額の算定によって個別団体への配分額を決める。基準財政需要額の算定方式とは、一定総額を自治体間で切り分ける問題でしかない。
 地方交付税の総額が同一ならば、トップランナー方式で浮いた総額は、別の費目の基準財政需要額に積み増しして、自治体間で配分される。その配分が、どの団体に有利になるかは、トップランナー方式からは明らかにならない。
 自治体にとって危険なことは、トップランナー方式によって、地方財政計画の財出総額、ひいては、交付税総額が圧縮されることである。しかし、地方財政計画は膨大なので(18年度:86兆9000億円)、トップランナー方式の影響(18年度:473億円)など無視し得る。むしろ、地方税収見積もりのブレや地方財政対策の度合いなどによって、変動する部分が大きい。トップランナー方式で500億円程度が圧縮されたとしても、別の費目の形で基準財政需要額に潜り込まされ、自治体に配分されている。

おわりに

 トップランナー方式に限らないが、実態に即さない低水準の基準財政需要額の算定は、結果的には不公平な作用をもつ。総額が確保されていれば、自治体間では配分されているので、地方財政全体・総務省的には問題はない。しかし、個別自治体にとっても、地方交付税の理念にとっても問題はある。
 地方交付税の理念に立ち返る必要がある。それは、財政力・財政需要の多寡に関わりなく、全自治体に標準的な財政運営を可能とし、全国全地域の住民に標準的な行政サービスの享受を可能とすることである。自治体が効率化に努めることは望ましい。しかし、それはトップランナー方式を導入するまでもなく、従前の地方交付税制度にも埋め込まれていた。あえてトップ水準の効率化に個別自治体が踏み切れないとすれば、自治体にはそれぞれの事情に応じた限界や制約があるということである。
 トップランナーの自治体は、単に条件が有利なだけにすぎないのかもしれない。地方交付税は、条件の有利・不利によって自治体間を差別的に取り扱わないように、平均的または標準的な水準に合わせて、基準財政需要額を算定してきた。その意味で、トップランナー方式は、制度の理念に反するものであろう。

 (本論は、本誌「地方議員版」18年2月、77号に掲載。本誌掲載に際しタイトルに変更を加えた。なお、「地方議員版」78号は6月1日に発行する予定。編集部)

【編集部注】 地方交付税について総務省は「地方交付税は、本来地方の税収入とすべきであるが、団体間の財源の不均衡を調整し、すべての地方団体が一定の水準を維持しうるよう財源を保障する見地から、国税として国が代わって徴収し、一定の合理的な基準によって再配分する、いわば『国が地方に代わって徴収する地方税』 (固有財源)という性格をもっています」と説明している。「地方の固有財源」と総務省もはっきり確認している。
 なお、「基準財政需要額」は「各地方団体の支出の実績(決算額)でもなければ、実際に支出しようとする額(予算額)でもない。地方団体における個々具体的な財政支出の実態を捨象して、その地方団体の自然的・地理的・社会的諸条件に対応する合理的でかつ妥当な水準における財政需要として算定される」と説明している。具体的には、算定項目ごとに次の算式により算出されるとして、「単位費用」(測定単位1当たり費用)×「測定単位」(警察官数とか65歳以上人口とか)×「補正係数」(段階補正、寒冷地補正など)という算式を示している。

 

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