欧米中心からグローバルサウスの時代へ
沖縄、長崎、広島、全国市民を平和のハブに!
城西国際大学特別栄誉教授・青山学院大学名誉教授・広範な国民連合代表世話人 羽場 久美子
明治期とよく似た
日本の状況
昨年、日本被団協はノーベル平和賞を受賞されました。本当におめでとうございます。ここを出発点として平和をつくっていきたいと思っています。私たちは何を社会に求めていくか、そして若者たちに何を伝えるべきかということを考えていきたいと思います。
20世紀は戦争の時代でした。21世紀もここ四半世紀は戦争が続いています。奇しくも今年は戦後80年。また日本にとっては日清戦争から130年、日露戦争から120年、第1次世界大戦開戦から110年、昭和100年という節目の年でもあります。日本は明治期から80年前の1945年まで50年間にわたり、欧米に挑発されて対清国、対ロシア、対中国の戦争に突き進み、そして敗北しました。
その後も世界では、朝鮮、ベトナム、アフガニスタン、イラクでの戦争があり、今もウクライナ、ガザで戦争が続いています。ガザでは停戦交渉が始まっているにもかかわらず、連日70~100人の人々が殺され続けているのです。
明治期の日本と現在の日本は非常に似ています。フランスのビゴーという漫画家は、へっぴり腰の日本がイギリスとアメリカに焚きつけられて日露戦争を始めた図を描いています。日清戦争も日露戦争も背後に欧米が関わっていたということです。そしてこれは現在まで繫がってきています。私たちはこの130年を反省を込めてしっかりと考えなければなりません。
日本はアメリカやイギリスに従って第1次世界大戦までは勝利しました。満州に行き、シベリアに出兵し、そしてアジアの大陸の領土や土地を奪うことで列強の一員となりました。しかし、日英同盟、日米同盟は不平等条約の上に成り立っています。日本は欧米のアジア進出を助けることで、大国にのし上がりました。
今、台湾有事、朝鮮有事で同じことが起ころうとしています。アメリカは背後から武器を送りけしかけ、戦うのは台湾、中国、日本です。沖縄には数百発のミサイルが配備され、日本政府はそれを2000発にせよと言っています。
日本は、日米同盟あるいはG7としてアジアやアフリカの諸国に対して、先進国の一員として行動しています。しかしそれでいいのだろうかということを考えていかなければならないと思います。そして今も続いているロシア・ウクライナ、イスエル・ガザの戦争を何としても終わらせなければなりません。
本報告ではそうした観点から4つの問題提起をしたいと思います。
一、アメリカはなぜ戦争を続けるのか?
日本の明治から昭和までの50年間の戦争は、国民を豊かに幸せにしたでしょうか。たとえ一時的に勝利しても、大陸の国民、および日本の国民を犠牲にしただけではなかったでしょうか。「坂の上の雲」を目指したアジア大陸侵略はアジアの人びとに途方もない犠牲を強いるとともに、沖縄戦、全国都市絨毯爆撃、広島・長崎への原爆投下など多大な犠牲を国民に強いて終わりました。ここから何を学ぶかを考えなければなりません。
これらの戦争の主人公というのは帝国主義であり、それによる他国の植民地化であり、誰が今日本に基地を置いているのかという問題とも重なります。
アメリカは二つの世界大戦で、ほとんど自国では戦争せず欧州とアジアで戦争をして、その後の国際秩序づくりで前面に出て、覇権を握ってきました。CIAの元幹部は、「アメリカは20世紀から21世紀にかけて戦争をし続けて今の覇権の地位を築いた」と言っています。そして今もイスラエル、ウクライナに武器を送り続けています。
アメリカは戦争を続けたい。なぜならば武器を売って米経済が回復したからです。今アメリカは他に売るものがないんですね。誰もアメリカの電化製品を買いませんし、車だって買わない。だから武器を大量に売っているんです。日本も43兆円もの防衛予算を組んで武器を5年間も大量に購入します。このアメリカについていくことが本当に日本に幸せを招くのでしょうか。
二、トランプは戦争を
終わらせられるか?
大統領選挙でのトランプの地滑り的勝利は、バイデン民主党の戦争政策、国民の福祉を犠牲にした国内政策の結果生まれたといえます。アメリカ国家は武器輸出によって豊かになりましたが、国民は経済インフレでものすごく疲弊しています。ガザ戦争で強い反発が起きたためにトランプは戦争終結を宣言し、さらに「アメリカ・ファースト」、またMake America Great Againを掲げて勝利しました。
しかし大統領になったトランプは何をしたでしょうか? 国際機関であるWHOやパリ条約からの脱退。メキシコとの国境を封鎖し移民を追い出す。メキシコやカナダに25%の関税をかけ、中国も関税で脅して取引しようとしています。さらに、グリーンランドの購入やパナマ運河の領有も狙っています。
戦争についてもロシア・ウクライナ戦争から米が撤退する代わりに、NATOの軍事費をGDP比5%に上げろと言っています。アメリカの武器を買って戦争を続けなさいということです。イスラエル・ガザ戦争はどうでしょう。トランプはガザの人たちを全部ヨルダンやエジプトに追い出して、この地域をリゾート地にすると言っています。
トランプの意図はどこにあるのでしょうか? アメリカはパナマ運河とスエズ運河と北極海、この三つの軍事上の要衝を押さえ損ないました。アジア(ユーラシア)がそこを押さえつつあります。パナマ運河は香港の企業が押さえているとトランプは批判していますね。スエズ運河脇にはイスラエルとガザがあります。イスラエルを勝たせなければアメリカはこの要衝を失うことになります。
北極海ですが、温暖化で氷が溶け始めています。北極海航路は21世紀の航路と言われています。ここを押さえているのはロシア、ノルウェー、カナダ、デンマークなど8カ国、オブザーバーの13カ国(中国:氷上のシルクロード)ですが、アメリカは唯一国連海洋法条約に加盟していません。故にグリーンランドを押さえて北極海に多大な影響力を及ぼしたいわけです。
トランプはロシア・ウクライナ戦争、イスラエル・ガザ戦争を終わらせられるでしょうか。台湾有事、朝鮮有事を止められるでしょうか? トランプの保護主義はアメリカを孤立化させる可能性があります。保護主義をやって国際機関から飛び出し、国際法に違反して、果たしてアメリカの黄金時代が築けるでしょうか。難しい。さらに疲弊する可能性があります。
日本は「勝ち馬に乗る」のではなく、国際政治経済とアメリカを冷静に分析し、日本の行く道を選択しなければならない時代に直面しています。
三、新しい国際秩序を
つくるのは誰か?
世界は大転換の時代に入っています。200年、300年に一度の国際秩序の転換点だといえます。欧米近代の植民地主義、軍事支配はゆっくりと衰退に向かいつつあります。
歴史を振り返れば、西暦1年から1800年代までは基本的には中国やインドなどアジアが文明の中心を担っていました。つまり中国やインドは豊かな大国でした。だから貧しい欧米が軍事力によってアジアの文明を壊して搾取して、新しい植民地時代を築いていったんですね。
しかし、第2次世界大戦後、植民地支配から解放されたインド、中国、アジアは再び成長してきました。2030年には中国がアメリカを抜く、2050年~60年にはインドもアメリカを抜くと言われています。アメリカは残念ながら200年もたないかもしれないということをアメリカの金融企業すら言っています。アメリカと欧州そして日本はこのままでは衰退していくでしょう。
それに代わる成長を中国やインドをはじめBRICS諸国、その諸国を中心にグローバルサウスが遂げると思います。
インドネシア、パキスタン、ナイジェリア、ブラジルは人口が2億人を超えています。中国・インドと共に、IT、AIを急成長させている教育国でもあります。先日インドで講演したとき、参加者4000人全てが20代30代の若者たちでした。インドをいかに周りの国と共に発展させていくかということを若者たちは目を輝かせて語っていました。
グローバルサウスは経済だけでなく地域共同の理念を推進しています。
中国の新疆ウイグルで見たのは急速な経済発展です。シルクロードのど真ん中、砂漠のど真ん中に投資とインフラで高速鉄道、高速道路、空港を造り、風力発電で電力を大量に作り、農業を活性化させ周辺国に富を配るといっています。カシュガルという国境の町にできた大学では、キルギスやカザフスタンやチベットの人たちを無料で呼んで学位を出し、共に発展していこうとしており、大変感動しました。それも中国の国家が投資しているのではなくて、深圳というIT都市が投資しています。地域対地域の協力関係が中国内部で進んでいるんですね。
インドもそうです。南アジア地域協力連合(SAARC)が大学をつくって、アフガニスタン、バングラデシュ、スリランカなど周辺の貧しい国々の若者に、IT、医療、物理学など、国家の発展、地域の発展に重要なことを無料で教えて帰しています。それらの国々の若者と一緒になって10年後、20年後には南アジアから新しい時代を、グローバルサウスの時代をつくろうとしています。
そのモデルはASEANです。ASEAN10カ国は領土問題、地域紛争問題をお互いに抱えていますが、共同して地域と地域で協力しながら、年1500回の対話を基礎に、高度な影響力と経済発展を実現しています。
またグローバルサウスの国々は平和の理念を推進しています。南アフリカとかカタールがイスラエルの戦争を国際司法裁判所や国際刑事裁判所に訴えています。それに応えて国際司法裁判所はイスラエルに「ジェノサイドをやめよ。ネタニヤフに逮捕状を」と判決を下しています。平和をつくっているのは今やグローバルサウスの人たちであり、戦争を続け人を殺し続けているのはアメリカ、イスラエルです。
アジアは米欧に代わり覇権を握るのではなく、平和的な発展を実現する国際秩序をつくり、G7とグローバルサウスを結ぶ地域的協力関係を実現していく必要があります。新しい国際秩序はアジアから生まれるのです。
四、国家ではなく市民・自治体からの平和を!
誰が戦争をつくり、誰が平和をつくるのでしょうか。昨年ノーベル平和賞を受賞した広島・長崎の被団協の人たちは「原爆投下は人道的罪である。世界の住民の地域に二度と爆弾を落とさせない。アメリカの罪を問う」と言い始めています。それは21世紀にも核が使われるかもしれないという危機感からです。そしてそれはロシア、ウクライナ、ガザではありません。なぜかというとどちらも欧州に近いからです。ヨーロッパ、アメリカから遠い東アジアで核が使われる可能性が高い。アメリカのAI兵器のCEOが「東アジアの戦争はガザよりもひどいものになる」とも言っています。
私たちは戦争準備をすべきでしょうか? 日本がミサイルを向けている中国、香港などは全て私たちの貿易相手です。中国は日本の輸出入総額の23︱24%、つまり4分の1を中国が担っているにもかかわらず、その国にミサイルを向けて日本経済の発展はあるでしょうか? その他の貿易も1位から10位までほぼアジアの国で占められているのです。
今こそ日本は米国との軍事同盟から離れ、中国・ASEANなどの国々との貿易関係、共存関係を強化するべきです。日中不再戦のみならず日中韓の共同、日中韓ASEANの共同を実現し、それによってアジアで自立した経済発展と経済協力の一員となって、世界経済を共同でリードしていく道を選択していくべきです。
戦争ではなく平和的に経済発展ができるでしょうか。その答えはすでに沖縄が出しています。沖縄は20億人の経済圏の真ん中に位置しています。中国、台湾、韓国と結び、そして東南アジアと結びながら、沖縄は日本の最貧地域ではなく東アジアの豊かな平和のセンター、経済のセンターになることができます。
平和と繁栄を独占するのではなく、共存して平和をつくることができるのは国家ではなく地域、市民・自治体です。最も戦争の被害を受けた沖縄から、原爆を落とされた広島・長崎から、そして米軍の絨毯爆撃を受けた地域から「私たちは二度と戦争を受け入れない」ということを言っていくべきだと思います。日本全国、世界全地域の戦争被害地域を平和のハブにしていくことで、戦争を止めることができると思います。
今「沖縄に東アジアの国連」をつくることを国連大学や国連に訴えかけています。その原型のようなものが東北アジア地域自治体連合(NEAR)です。日中韓、モンゴル、ロシア、北朝鮮の6カ国に加え今やベトナム、キルギスの計90自治体が入っています。北朝鮮が入っていることで躊躇する人もいるかもしれませんが、韓国では「同胞と統一したい」ということを多くの方々が考えています。韓国の慶州という日本の京都のような美しい町に事務局があり、モンゴルは100%参加、韓国はソウル市以外全て、中国も東北部80%、ロシアも極東が80%以上参加。
日本も環日本海の11県に加え沖縄、山口、宮城が昨年オブザーバー参加しました。そこで話し合われていることは何だと思いますか。平和、地域の発展、自治体の発展、青年の育成、地方の活性化など自治体が抱える課題をお互いに持ち寄って話し合っています。
日本の多くの都道府県がこの自治体連合に参加して、そして日本もリーダーシップをとって、新しい平和な東アジアをつくっていこうではありませんか。
日本はグローバルサウス、BRICSと結び、そしてG7との間にも橋を架けて、新しい時代をつくっていきましょう。先日台湾に行きましたが、台湾でもグローバルサウスとも結び、BRICSと結んで台湾を平和と経済の発展のセンターにしようということを言われておりました。
国家ではなく地域が動く。日本全国の地域から、日中不再戦、二度とアジアに侵略しない、そして二度と日本の国土に原爆を落とさせないということを誓って、私たちの新しい時代、アジアの時代、グローバルサウスの平和の時代をつくっていこうではありませんか。
それは国がやるのではなく、地方自治体、そして議員さん、若者たち、市民がやる作業になります。皆さん一人ひとりから平和と命を守る未来をつくっていっていただきたい。
共に頑張りたいと思います。ありがとうございました。
(本稿は1月末沖縄で開催の第20回全国地方議員交流研修会での問題提起である)