沖縄を戦場にさせない 布施 祐仁

米日韓「準同盟化」で東アジアは平和になるのか?

ASEANが示す「もう一つの道」

ジャーナリスト 布施 祐仁

ふせ ・ゆうじん
1976年、東京生まれ。フリージャーナリスト。2018年10月、『日報隠蔽―南スーダンで自衛隊は何を見たのか』で石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞。近著に『日米同盟・最後のリスク なぜ米軍のミサイルが日本に配備されるのか』(創元社、2022年5月)、他多数。

「準同盟」化で合意した米日韓首脳会談

 「私が幸せそうに見えるとしたら、それは私が幸せだからです。素晴らしい会談でした」
 8月18日にワシントン郊外のキャンプデービッド(大統領山荘)で開かれた米日韓首脳会談。会談後の記者会見で、米国のバイデン大統領は満面の笑みを浮かべながらこう切り出した。
 米国の呼びかけで行われたこの首脳会談で、バイデン大統領、岸田文雄首相、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は「米日同盟と米韓同盟の間の戦略的連携を強化し、米日韓の安全保障協力を新たな高みへと引き上げる」(共同声明)ことで合意した。

 「新たな高み」を象徴するのが、3カ国の「協議へのコミットメント」に関する合意文書である。これについてバイデン大統領は会見で次のように説明した。
 「決定的に重要なのは、私たち全員が、どのような脅威がどのような原因で発生したかにかかわらず、いずれかの国に対する脅威に対して迅速に協議することを約束したことです。つまり、この地域に危機が発生したり、いずれかの国に影響が及んだりした場合には、情報を共有し対応を調整するためのホットラインを設けるということです」
 合意文書は、「共通の利益及び安全保障に影響を及ぼす地域の挑戦、挑発及び脅威に対する3カ国の対応を連携させるため」に「迅速な形で協議する」と記している。まるで集団防衛条約の条文のような記述である。
 会談では、3カ国の首脳・外務担当閣僚・防衛担当閣僚・経済産業担当閣僚・国家安全保障局長が少なくとも年に一度は会合を行うことや、米軍・自衛隊・韓国軍の合同軍事演習を毎年実施することなども合意された。
 筆者が注目したのは、共同声明で、北朝鮮の核・ミサイル開発問題よりも中国が南シナ海などで攻撃的な行動を強めている問題が先に記述されている点である。
 これまでは、米日韓の安全保障協力が想定していたのは北朝鮮の核・ミサイルの脅威であったが、今回の首脳会談では中国の脅威が前面に押し出されたのである。共同声明には「台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認する」との一文も盛り込まれた。
 特にこれは、韓国にとって大きな変化である。韓米同盟は歴史的に北朝鮮を「仮想敵」としており、米国が中国に矛先を向けるようになっても、それに同調することにはこれまで慎重だった。ユン大統領は米国との同盟関係を強化するために、一歩踏み込んだ。
 韓国の革新系紙「ハンギョレ」は、社説で「地政学的な位置などを考慮すれば、韓国は韓米日の準同盟化による中国との緊張の高まりによって、最も高いコストを払わなければならない。台湾や南シナ海での紛争に意図せず関わることになるリスクも高まった」と指摘し、「国民にまともに説明することもないまま、性急に米国の戦略の内部に韓国を深く引きずり込んでいる」とユン政権を批判した(8月21日付)。

核心にあるのは米国の「中国封じ込め戦略」

 米日同盟と米韓同盟を連結させて「米日韓三国同盟」に近づけようとする動きの核心には、米国の世界戦略がある。
 米バイデン政権は昨年、国家安全保障に関する最上位の政策文書「国家安全保障戦略」(NSS)を改定した。
 最大のポイントは、中国を「国際秩序を再構築する意図と、それを実現する経済力、外交力、軍事力、技術力を併せ持つ唯一の競争相手」と位置付け、中国との「戦略的競争」に勝利することを米国の安全保障政策の最優先目標に設定したことだ。
 そして、その目標を達成するために、①米国の力の基盤への投資、②集団的な能力を拡大するための可能な限り強力な国家連合の構築、③米軍の近代化及び強化――という三つのアプローチを採るとした。
 特に②については、米国が世界中に張り巡らせる同盟国やパートナー国とのネットワークを「我々が持つ最も重要な戦略的アセット(資産)である」と強調し、「米国の国家安全保障の利益のためにこれを深化・近代化していく」と記した。
 具体的には、インド太平洋地域の同盟国・パートナー国を接近させて集団的能力を強化するとともに、欧州・北米の北大西洋条約機構(NATO)との連携強化を促進するとしている。
 米日韓の「準同盟化」は、まさにこの方針の実践である。米国は、これと同様のことを、米日豪(オーストラリア)や米日比(フィリピン)でも進めようとしている。
 NATOに「AP4」(アジア太平洋パートナー)という枠組みをつくり、7月にリトアニアで開かれた首脳会議に日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの首脳を招待したのにも、同じ狙いがある。
 米国は、中国を最大のターゲットにした対「専制主義国家」(ロシアや北朝鮮もこれに含まれる)の包囲網を構築し、力で封じ込めようとしているのである。
 当然ながら、こうした米国の戦略に中国は強く反発している。米日韓首脳会談について、中国国営の新華社通信は「米国主導で3カ国は排他的なグループを形成し、対立を激化させてアジア太平洋地域の平和、安定、繁栄を脅かしている」と批判した(8月19日付)。

第3次世界大戦の勃発を警告

 米国政府は、ロシアがウクライナに対して行っているような専制主義国家による侵略を抑止するには、こうした力による封じ込め政策が必要だと主張する。日本政府もこれに同調し、米国と一体になって中国に対する「抑止力強化」の政策を進めようとしている。
 岸田内閣が昨年12月に閣議決定した「安保3文書」(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)が打ち出した「防衛力の抜本的強化」(「反撃能力」の保有や南西地域の防衛態勢のさらなる強化など)も、この文脈で捉えることができる。
 国家安全保障戦略が、中国を「これまでにない最大の戦略的挑戦」と位置付け、「我が国の総合的な国力と同盟国・同志国等との連携により対応すべきもの」と記しているところなどは、まさに米国の国家安全保障戦略の引き写しである。
 しかし、「抑止力強化」の政策には、「安全保障のジレンマ」という大きな落とし穴があることを忘れてはならない。
 こちら側が軍事力強化の目的を「防衛のため」「侵略抑止のため」と言ったところで相手はそれを脅威と捉え、やはり「防衛のため」「侵略抑止のため」と言って軍事力を強化しようとする。そうなると軍拡競争が際限なく続き、緊張が高まり、結果的に軍事衝突の危険性がかえって増大してしまう。それが「安全保障のジレンマ」だ。
 この危険性に最も強い危惧を抱いているのが、ASEAN(東南アジア諸国連合)である。
 インドネシアのルトノ外相は昨年9月に開かれた国連総会で、大国間の対立と世界の分断が進む現在の状況は第2次世界大戦前と似ていると指摘し、「このまま同じ道を歩めば(人類は再び)大惨事に向かうだろう」と第3次世界大戦の勃発を警告した。
 その上で、破局を回避するためには、世界のパラダイムを「ゼロサムではなくウィン・ウィン。封じ込めではなく包摂。競争ではなく協調」という方向に変革し、「憎悪と恐怖を生む相互不信を戦略的信頼に変えなければならない」と訴えた。
 「ASEANはまさにこの目的のためにつくられた」と強調したルトノ氏は、「私たちは新たな冷戦の駒になることを拒否する」と力を込めた。

米中対立の克服を目指すASEAN

 実際にASEANは、米中どちらの側につくことも拒否し、仲介者として米中の緊張緩和と紛争予防を図る外交を積極的に展開している。
 その指針となっているのが、2019年に策定した「インド太平洋に関するASEANのアウトルック」(AOIP)という構想だ。
 米中対立の激化を念頭に「(インド太平洋地域では)不信や誤算、ゼロサムゲームに基づく行動パターンの回避を必要としている」と指摘し、ASEANが「誠実な仲介者」となって「対立ではなく対話と協力のインド太平洋地域」を目指すと宣言。策定を主導したインドネシアのルトノ外相は、「大国間の競争を克服することが目的だ」と強調した。
 東南アジアは冷戦期、域外大国の代理戦争の草刈り場とされ、多大な犠牲を払った。米国が南ベトナムを支援し、ソ連と中国が北ベトナムを支援したベトナム戦争では、戦死者は南北合わせて300万人以上に達した。
 こうした経験を経て、ASEANはベトナム戦争終結後に「平和共存」を基本理念とする東南アジア友好協力条約(TAC)を制定し、域外大国の代理戦争の駒とされない地域づくりを進めてきた。
 冷戦終結後は、「ASEAN地域フォーラム」(ARF)や「東アジア首脳会議」(EAS)の開催など、東南アジアだけでなくアジア太平洋地域全体で対話と協力を通じた信頼醸成と紛争予防を図る外交努力を行ってきた。
 これらの枠組みには、米国、中国、ロシアなどの域外大国も参加している。大国間の対立に巻き込まれないようにするだけでなく、逆に対話と協力を通じて信頼醸成と紛争予防を図るASEAN中心の枠組みに大国を巻き込むことで地域の安全保障を強化しようとしてきたのである。
 米中対立の克服を目指すAOIPも、こうした努力の延長線上にある。

フィリピンと日本の違い

 「ゾウが互いに争えば、敗者になるのは草だけ、とのアフリカのことわざを学んだ」――こう語るのはフィリピンのマルコス大統領だ。米中というゾウにとってフィリピンは「草のようなもの」とし、「踏みつぶされたくない」と強調した(米紙ウォール・ストリート・ジャーナル、2023年1月20日付)。
 フィリピンはASEANの一員であると同時に、米国の同盟国でもある。そして、南シナ海では海洋権益確保のために強硬な行動を強める中国の脅威にさらされている。しかし、マルコス大統領は、南シナ海の問題を解決するのは軍事力ではなくASEANを中心とした外交だと強調している。
 前大統領に比べると米国寄りの安全保障政策を採っているが、米中対立で片方の側につくことはないとも繰り返し述べている。米国の力に頼り過ぎると、米中対立に巻き込まれ、自国が戦場になることも含めて国益が損なわれる危険があることを自覚しているのだろう。
 米中が軍事衝突した場合、真っ先に踏みつぶされる危険があるという点では日本も同じである。ならば、日本もASEANのように米中対立を克服する外交、対話と協力を通じて緊張緩和と紛争予防を図る外交を積極的に展開すべきではないか。米国の力に頼り過ぎた、現在の岸田内閣の「軍事力による抑止」一辺倒の政策は危険である。
 米国と一体化することで自らも「ゾウ」になったと錯覚するのが一番危ない。どこまで米国に追随しても、日本は「草」なのだ。フィリピンのようにそれを自覚することが、真のリアリズムである。今の日本政府にはそのリアリズムが最も欠けている。

ASEANの努力が実を結ぶ可能性

 筆者が希望を持っているのは、米国も中国もASEANなどグローバルサウスの声を無視できなくなっている点である。
 米国の国家安全保障戦略(NSS)には、次の一節がある。
 「世界の一部には、米国と世界最大の独裁国家との競争に不安を抱く国々がある。我々はこうした懸念を理解している。我々は、競争がエスカレートして硬直したブロック対立の世界になることを避けたい。私たちは戦争や新たな冷戦を望んでいるわけではない」
 こう述べて、気候変動や食料危機、感染症などの共通の課題については「常に中国と協力することを厭わない」と強調している。これは明らかに、ASEANなどグローバルサウスの主張を意識したものである。
 8月の米日韓首脳会談の共同声明も、「AOIPの力強い実施及び主流化を支援するため、ASEANのパートナーと緊密に協力する」と明記した。5月に広島で開催されたG7サミットの首脳コミュニケも、「AOIPに沿った協力を促進するとの我々のコミットメントを再確認する」と記している。
 現在世界で起きていることは、米国の国力が相対的に低下し、中国が急速に台頭しているだけではない。ASEANなどグローバルサウスの国々も経済成長し、世界は多極化している。だから、米国も中国も、グローバルサウスの国々の支持を得ることなしに自らが望む国際秩序を形成することはできなくなっている。
 つまり、大国間の地政学的競争(パワーゲーム)だけで国際秩序が形成される時代ではもはやないということだ。筆者は、ここに希望があると考えている。

問われる日本の選択
米中の「架け橋」に

 そこで重要になってくるのは、日本の選択である。
 東アジアのミドルパワーである日本が米国追随の外交安全保障から脱却し、ASEANと協力して米中対立を克服する外交を行うようになれば、AOIPが目指す「対話と協力のインド太平洋地域」の実現に向けた大きな後押しになるだろう。そこに韓国も加われば、なおさらだ。
 このところ、日本では台湾有事の脅威がさかんに煽り立てられているが、台湾有事を起こさないようにするには米中関係を安定させることが最も重要である。また、米中関係の安定は朝鮮半島の平和にとっても決定的に重要である。米中対立を克服することができれば、その先に「東アジア共同体」実現に向けた展望も見えてくる。
 1970年代、日本は米国に先駆けて中国との国交を正常化し、米国と中国の「架け橋」の役割も果たした。
 国交正常化から6年後の1978年8月、日中両国は平和友好条約を締結する。こうした日本の対中外交は米国の外交にも影響を与え、この4カ月後、ついに米国も中国と国交正常化で合意。米国が台湾と断交して駐留米軍の撤退を約束すると、中国も台湾に対する攻撃の停止と「平和的統一」の基本方針を発表した。これによって今日まで続く台湾海峡の平和が実現したのである。
 日本は米中の間を取り持ち、結果的に台湾海峡の平和の実現にも大きく貢献した。今こそ、再びこの役割を果たす時だ。
 しかし、そのためにはそれを望む強力な世論が必要である。72年に田中角栄内閣が中国と国交を正常化しようとした時、米国は快く思わなかったが、それを阻止しようとしたり表立って反対したりすることはなかった。中国との国交正常化を望む日本の世論が田中内閣を強力に支持していたからだ。
 これから日本が米国追随の外交安全保障から脱却するためには、世論形成が最大の課題である。