公務非正規女性全国ネットワーク(はむねっと)3年間の活動から

安定した雇用と見合う賃金を求めて

はむねっと共同代表・埼玉大学教員 瀬山 紀子

はむねっとの立ち上げ

 コロナ禍と地方自治体の非正規職員に関わる新たな制度、「会計年度任用職員制度」がスタートした2020年度末の21年3月、はむねっと立ち上げのきっかけとなった集会「官製ワーキングプアの女性たち コロナ後のリアル」を開催した。この集会は、19年9月に開催した集会「女性から考える公務非正規問題」と、その記録をまとめ20年秋に出版することができた『官製ワーキングプアの女性たち』(岩波ブックレット)に端を発した集まりだった。


 筆者は、20年3月まで、複数の公立の男女共同参画推進センターで非正規職員として19年ほど働いてきた。その間、関わりのあった行政の他部署や、関連する相談機関、社会教育機関などで、多くの非正規職員が、行政施策の重要な担い手として働いている現状を見てきた。そしてその担い手の多くは女性で、正規職員と比較すると圧倒的に低い給与で、多くの場合、昇給の仕組みもなく、単年度などの短い期間の任用を繰り返し更新しながら働いている不安定な働き手だった。
 自治体が、低賃金で不安定な働き手を生み出している。このことは、そうした働き手によって担われている職の軽視を表している。そして、その担い手が女性である背景には、女性を経済的な自立を必要としない存在と位置づけ、女性の自立を阻む、現在の社会の構造が横たわっている。
 集会開催に向けて集まったメッセージの一つをここで紹介したい。
 「行政サービスの根幹が、女性たちの労働力とやりがいを当然のように搾取する形で担われてきたことは、日本社会の大きな構造的欠陥だと思います。私も長年搾取されてきました。この黙殺されてきた矛盾をいま明るみに出し改善していかなければ、女性たち、そして日本も根こそぎ倒れていってしまうでしょう」
 集会にはこうした切実な声がたくさん集まった。そして集会後に、この先も問題提起を続けようと有志が集まり、公務非正規女性全国ネットワーク(はむねっと)として活動していくことになった。

1年目の活動

当事者の声を集め、つながりを求めて

 活動の初めに行ったのが、公務非正規当事者を対象とするインターネットでのアンケート調査だ。
 地方自治体の非正規公務員については、総務省による調査が2005年以降、公表されてきた。また、労働組合も、その処遇などを中心にした非正規公務員の実態調査を実施していた。しかし、当事者を対象とした全国的な調査は、これまでに実施されたことがなかった。非正規公務員は、全体で100万人を超える大きな集団だ。そのため、調査で、実態を明らかにすることは簡単ではない。しかし、そうしたなかで当事者の声を集め、つながりをつくっていきたいと、アンケートを実施した。
 スタート当初、少なくとも数として3桁は集めよう、とアンケートを始めた。実際には、アンケートを開始した日から約1カ月後の終了時間ぎりぎりまで、一日も欠けることなく回答が集まり、結果1305件のアンケート回答が全国から集まった。
 調査の回答者は、約9割が女性で、年齢は、40、50歳代が6割以上を占めた。勤務地は、大都市圏からの回答が多くを占めたが、全国47都道府県から回答があった。職種は、一般事務が23%と最も多く、そのほか図書館、博物館、公民館、女性関連施設、相談支援職、教員、保育士ほか、さまざまな職域からの回答があった。

はむねっと1年目調査より 年収200万円未満が全体の5割を超えている回答者の3人に一人は主たる生計維持者。主たる生計維持者の4割以上が、2020年の就労収入が200万円未満

 就業形態は地方自治体で公務非正規として働く「会計年度任用職員」がフルタイム、パートタイム合わせて76%を超え最も多く、国の期間業務職員や民間委託先で働く人からの回答もあった。そして、雇用契約期間は、1年が9割弱を占め、公務非正規の多くの人が、不安定な身分で働いている現状が明らかになった。
 就労収入についての回答では、約半数の53%が、2020年の就労収入が200万円未満、会計年度任用職員では、フルタイムでも200万円未満が約4割、250万円未満が約8割となった。一方で、回答者の3人に1人は、自らが主たる生計維持者と回答した。
 そして、ここ1カ月の体調を聞く設問では、3割を超える人が身体面での不調を、4割を超える人がメンタル面での不調を感じていると答え、将来への不安については、9割以上(93・5%)が、「不安を感じる」と答えていた。
 調査結果を受け、7月には、厚労省記者クラブで記者発表をした。この時、新聞をはじめとするマスメディアで取り上げられた。まだコロナ禍の緊急事態宣言が出されていた時期で、特にコロナ禍が女性に多くしわ寄せがあった「女性不況」として取り上げられていた流れもあり、一定の注目が集まったのだと振り返って感じている。
 はむねっとでは、調査を行ってから約半年後、21年11月に、要望書「会計年度任用職員制度を見直してください」を、内閣総理大臣、総務大臣、厚生労働大臣に、要望書「女性の非正規職問題の対象に、公務部門の非正規職も入れてください」を、男女共同参画・女性活躍大臣に提出した。要望書の中には、アンケートで集めた自由記述からの声を掲載した。回答は、国が現行制度を維持する理由が書かれたありきたりのものではあったが、国に直接、現場から寄せられた声を届けられたことは大きな意義があったと思う。
 また、21年12月には、要望書「令和3年度の職員の期末・勤勉手当に関する減額勧告について、会計年度任用職員を対象としないでください」を全国69の人事委員会に送り、多くは定型回答ではあったが、すべての人事委員会から文書回答を得ることができた。

2年目の活動

「3年目雇い止め/公募問題」に取り組む

 2022年は、会計年度任用職員制度が始まって早くも3年目の年となった。
 会計年度任用職員制度の開始時、総務省が作成したマニュアルには、国の非正規で適用されている「公募によらない更新は2回まで」という例示があった。そのため、22年度末には、全国で、現に働いている会計年度任用職員で、翌年以降も働くことを希望している人が、一般公募にかけられ、結果、不採用となる可能性がある、つまり雇い止めに遭う可能性があることが懸念された。はむねっとでは、これを「3年目雇い止め/公募問題」と位置づけ、HPやSNSで問題を発信していった。
 公務には、民間であれば適用される無期転換の制度が適用されない。そのため、公務で働く非正規の人たちは、民間以上に不安定で、恣意的な雇い止めが、公募の結果の不採用というかたちで可能となる。これは、今なお続く最も大きな課題の一つだと言える。
 そうした中、この年もインターネットによるアンケート調査を実施した。2年目の回答数は715件。この年も、全国47都道府県で働く人からの回答があった。

はむねっと2年目調査より
身体、メンタルの不調。
将来への不安を多くの人が感じている現状。

 調査では、まず、「公共サービスの担い手として働いている中で、あなたが伝えたいことを自由に書いてください」という設問をした。これに対して、「会計年度任用職員の制度が始まってから、また来年雇ってもらえるかどうかの不安が大きくなり毎年年度末には頭を悩まされています」、「雇い止めされるのが怖くて、職場で自由に意見を言うこともできません」といった雇用不安を抱えながら働く多くの声が集まった。また、最も伝えたい現状について選択式での回答を求めたところ、雇用が不安定(有期雇用)に最も多くの回答が集まり、続いて、給与が低い、正規職員との格差が大きいが続いた。
 回答者は、前年の調査に回答した人が2割で、8割は新規回答だったが、半数が、前年同様、年収200万円未満で、3割が身体不調、4割がメンタル不調を抱え、9割が将来への不安を抱えていると回答した。
 こうした声を国に直接伝えたいと、同様に官製ワーキングプアの問題に取り組む他の団体とも共同で、この年の7月には、国会議員を通じて、総務省・厚生労働省・内閣府男女共同参画局との懇談の場を設定してもらった。そして、年度末に予想される「3年目雇い止め/公募問題」を起こさないよう、何らかの方策を国としても考えてほしいと伝えた。また、11月には、「STOP!3年公募制!STOP!会計年度任用職員制度!STOP!女性差別!」を掲げ、衆議院第一議員会館大会議室で院内集会を開いた。
 その後、地方自治体にも声を届けようと、「1789プロジェクト」と銘打ち、全国の地方自治体1789団体の首長、議長、人事・公平委員会に、「会計年度任用職員の不安定雇用問題に対する緊急要望書」と、はむねっと調査報告を郵送した。結果、全国170自治体から、何らかの文書回答があったほか、要望書を基に、議会で国への意見書を採択したとの報告も8つの自治体(秋田県男鹿市、秋田県井川町、福島県川俣町、埼玉県杉戸町、長野県南相木村、高知県東洋町、高知県本山町、沖縄県伊平屋村)から送られてきた。地方自治体から国への意見書を出していく動きは現在も続いている。
 この年、22年12月23日には、3年目公募について記した総務省のマニュアルが改訂され、3年目公募は必須ではないことが明示された。ただ、筆者が知る限り、22年度末にかけて、会計年度任用職員制度導入以前にはなかった3年目公募が実施され、継続の希望があるにもかかわらず不採用となる雇い止めが起きた自治体も少なくなかった。

3年目の活動

再びアンケートに取り組んで

 3年目は、前年の2022年度末に何が起きたのかを明らかにしたいと、アンケートを実施することにした。
 回答者は、この年は地方自治体で働く「会計年度任用職員」に限定し、全国から523件の回答があった。23年調査も、全国47都道府県で働く人からの回答を得た。

はむねっとアンケート2023~会計年度任用職員制度3年目に何が起きたのか!

 結果、育休中の雇い止めを含む、理不尽な雇い止めがあったことが確認できた。選択肢を設けた回答では、「仕事を続けたかったが雇い止めとなった」人が4割、また、自身ではなく周囲で雇い止めがあったとする記述も複数見られた。また、雇用は3年限りで公募に応募することもできないとする自治体があることがわかった。一方で、回答者のなかには、すでに10年を超えて働いている人も複数みられ、正職員は異動が多く、結果、長く働いている非正規が担う仕事が増えるといった回答もあった。
 また、年度末ぎりぎりの公募・選考・発表がなされている実態も明らかになった。回答では、1月に公募の実施、2月に選考、3月に発表(36・5%)が最も多く、なかには3月になってから募集(5・9%)・選考(11・7%)が行われた例もあった。アンケートには、「再度の任用が分かるのが年度ギリギリであり、再任用されなかった場合の再就職が難しい」、「とにかく採用結果が遅く、3月半ばに採用結果、後半に勤務校決定と、もし不採用だった場合の就職活動や、異動の際の後処理に配慮がない」、「4月から失業する可能性がありながら3月中旬を迎えるというのが恐怖だった」といった声が寄せられた。
 公募・選考については、在籍者への配慮があったとする回答が6割あった一方で、「公募は建前だと感じている。現職者が契約更新を希望する場合は公募しないでほしい。出来レースに応募する方に申し訳ない」、「『公平性』という論理自体が破綻している」といった声があった。同時に、自身の採用の可否がかかった中では、職場で意見が言いづらいこと、アンケートにも、「正規職員からの差別やハラスメントがまかり通り、雇い止めをちらつかされて声を上げられない」といった記述も見られた。
 調査結果を基にした記者発表の際には、22年間、地方自治体の図書館で働き、組合活動で待遇改善を勝ち取る経験も重ねてこられた方が、22年度に行われた公募で「不採用」とされ、雇い止めとなった経験を語られた。
 はむねっとでは、この年、相談したくても相談先につながれていない人がいるというアンケート結果を受け、相談先リストを作成し、公表した。

この先に向けて

 3年間、非正規公務員問題を、その担い手の多くが女性であることにこだわり発信してきた。幸いなことに、この間、関心は広がってきたと感じる。国や自治体が不安定雇用を是認し、「公平性」という名の下で、恣意的な運用が可能な公募制度を是認することを許してしまえば、労働の場は今以上に疲弊していくだろう。
 安定した雇用と未来を見据えることができる持続可能な働き方、そしてそれに見合う給与を得ることができる社会像を見いだしていくことが急務だ。

 (見出しはすべて編集部)